錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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それでは、いよいよ2wei!編開始します。
今回は、プロローグになります。再び不可思議な夢を見る士郎です。

それでは、どうぞ。


2wei!編
新しい朝 夢幻の中で


【士郎視点】

 

『……これから行くキャンプ場って、一体どんな所なんだろうね?』

 

『……さあ、聞いてないから……』

 

また夢だ。最近、自分が夢を見てると自覚できる夢をよく見る。こういうのって、確か明晰夢っていうんだっけ? どうしてこれが夢と分かるかというと、イリヤが少しよそよそしいからだ。

 

それに対する俺の返答も、少し暗くて硬かった。これは俺が養子になって間もない頃の出来事だ。この頃の俺達はまだ互いに距離を測れずにいた。嫌いな訳ではなく、接し方が分からなかった。

 

そんな俺達を見かねた親父とアイリさんが、俺達を仲良くさせようと、キャンプに連れ出した事があった。これは、その時の夢だろう。実際、俺とイリヤは、このキャンプで大分打ち解けた。

 

最近見てきた奇妙な夢ではなく、昔の事を夢に見ている。そういう意味では、これは真っ当な夢と言えるかもしれない。別の俺ではなく、アーチャーの英霊でもなく、この俺、衛宮士郎の夢だ。

 

新しい家族として、兄として、何とかイリヤに優しくしようと四苦八苦する俺。そんな、懐かしい光景を思い返しているみたいだ。イリヤも、こうして冷静に見てみると、緊張してるのが分かる。

 

そして、頑張って俺と打ち解けようと、話しかけてきてくれている。甘えたいけど、甘えられないといった様子で、そわそわしている。チラチラと、隣に座る俺を見上げてくる昔のイリヤ。

 

ああ、こんなに可愛かったんだな。いや、今でも俺の妹は可愛いがな。なんて、セラに聞かれたらまたシスコンと言われてしまいそうだな。後部座席に座る俺達は、そんなやり取りを繰り返す。

 

そして運転席と助手席には、それぞれ親父とアイリさんが座っている。運転しているのは親父で、助手席のアイリさんはそれを不満そうに見ながら運転を代われと言っている。代わるなよ親父。

 

アイリさんの運転を思い出して、夢の中なのに俺は恐怖しながら親父に懇願する。それはトラウマになっているからだ。アイリさんの運転は事故は起こさないが、ジェットコースターより怖い。

 

なにしろ、この人にとって赤信号は『止まれ』ではなく、『減速』だからな。それだけじゃない。曲がりくねった山道を、時速百キロ以上で爆走させたりもしたからな。あれは怖すぎるだろ。

 

親父もそれが分かっているようで、顔を引きつらせながら妻の懇願を聞かなかった事にしている。いいぞ、親父。ただでさえ、本当の両親の事故の一件で俺は車に対して恐怖感があるからな。

 

夢らしく、場面は一気に切り替わる。気が付いたらキャンプ場にいた。そうそう、確か、こんな所だったよな。高原のキャンプ場で、遠くに崖が見える。その崖には、落下防止の柵があった。

 

綺麗なコテージがあって、親父とアイリさんが車から荷物を下ろしている。俺とイリヤは、二人で暇そうにそれを見ていた。子供の力では、さすがに手伝う事はまだできそうもなかったからだ。

 

まだイリヤとのぎこちなさも取れていない俺は、イリヤと二人で遊びに行く勇気も出せず、結果として並んで立ってるだけといった感じだ。そう、こんな感じだったよな。最初の頃の俺達って。

 

それが、このキャンプが切っ掛けで今みたいな関係に……あれ……? どうやってだったっけ? おかしいな。これが切っ掛けで仲良くなれたのは覚えてるのに、その具体的な事が思い出せない。

 

こんな関係だったのに、どうやって俺達仲良くなったんだっけ? ただ普通に、キャンプしただけで話せるようになった? いや、そんな馬鹿な。そんな筈はない。何か切っ掛けがあった筈だ。

 

それが思い出せない。どうして、今まで疑問に思わなかったんだ? 俺は混乱する。改めて、隣のイリヤを見下ろしてみる。すると、イリヤは俺を見ていたらしく、目が合うと視線を逸らす。

 

興味はあるが、どう話せばいいか分からないという反応だ。こんな状態から、普通に話せるようになる切っ掛け。それは、強烈に記憶に残ってもおかしくない筈だ。それなのに、思い出せない。

 

おかしい。確かに昔の事だが6,7年前だぞ? 俺は、10歳くらいだ。その歳なら、もう記憶はしっかりと残る筈だ。印象深い出来事なら、余計に。現に、このキャンプの事は覚えている。

 

気持ち悪い。何か不自然な事態だった。そんな風に混乱する俺を置いて、夢は進んでいく。いつの間にか、バーベキューが始まっている。そうだ、この事は覚えている。しっかりと思い出せる。

 

そして、俺とイリヤは相変わらず。距離を縮めたいと思っているのに、中々それができない状態。親父とアイリさんは、そんな俺達を困ったような表情で見ている。それからも、場面は転換する。

 

釣りをしたり、川遊びをしたり。刻々と時間は過ぎていき、俺達の距離は縮まらないまま。親父とアイリさんはとうとう、俺達を二人きりにして仲良くさせる作戦に出て、二人で散歩に行った。

 

そう、そうだよ。こんな事があった。コテージに二人で残された俺達は、どうしようかと悩んで、二人であの崖から景色を見ようという事になって……それで、広い草原を二人で歩いたんだ。

 

ぎくしゃくしながらも少しずつ会話をして、何とか打ち解けようと頑張った。精一杯、優しい声を出そうと頑張っている俺がいる。イリヤはそれに笑顔を見せようとしていて、それから……

 

それから、何があったんだっけ? この先が思い出せない。視界が歪み、世界が歪んでいく。一体何が起きているんだろう。ついに、目の前が真っ暗になった。そして、体も動かせなくなった。

 

何だこれ? イリヤの声が聞こえる。涙声で、必死に俺の事を呼んでいる。体は動かせないので、視界だけでも取り戻そうとしてみる。薄目が開いて、目を閉じていた事を今更ながらに悟った。

 

『お兄ちゃん、お兄ちゃん!』

 

『……』

 

ぼろぼろと涙を流すイリヤが見える。俺はどうも倒れてるらしく、イリヤは覆い被さるようにして俺の顔を覗き込んでいる。あれ、こんな事あったっけ? 何で、イリヤは泣いているんだ?

 

泣くな、と声を出そうとしたけど、声は出なかった。イリヤが、ごめんね、ごめんねと泣きながら謝ってくる。どうしたんだよ、イリヤ。泣くなよ。イリヤには、いつでも笑っていて欲しい。

 

イリヤの涙が、俺の顔に落ちてくる。体を動かせない俺は、その涙を拭ってやる事も、頭を撫でて泣き止ませてやる事もできなかった。その事に俺は、悔しさと無力感が湧き上がってきた。

 

その時、イリヤの悲しみに空が連動したかのように、さっきまで晴れていた空からポツリポツリと水滴が落ちてきた。黒い雲に覆われ、雨が降ってきたのだ。その雨は、その勢いを増していく。

 

イリヤの髪が雨を吸って、顔に張り付いている。ざああ、という雨音が、イリヤの泣き声を包んで流していく。まずいな。早く雨宿りさせないと、イリヤが風邪を引いてしまうかもしれない。

 

呑気にそう思った俺は、動かない体と口を必死に動かした。せめて、せめて一言だけでも。

 

『……イリ……大丈夫……か……?』

 

あれ、どうして俺、こんな事を言っているんだ? 動かない手を必死に動かしてイリヤの頬に手を当てながら、やっと言った言葉は意味不明だった。それを聞いたイリヤは、泣きながら頷く。

 

『……私は、ひっく、大丈夫、だから……』

 

泣きながら、しゃくり上げながらそう口にするイリヤ。それに俺は、良かったと呟いて、頬に当てていた手を下ろした。いや、下ろしたというよりは、力尽きて落としたといった感じだったけど。

 

訳が分からなかった。でも、イリヤは何ともないと分かった俺は、心の底から安堵した。自分でも何が何だか分からないけど、本当に安心した。そんな時、頭上から親父の叫び声が聞こえてきた。

 

『お父さん、助けて!』

 

イリヤの悲痛な叫びが、闇に沈んでいく意識の中で響いた……

 

…………………………………………………

 

「……何だったんだ、今の夢は?」

 

気が付けば自分のベッドの上でそう呟いていた。今の夢は、一体どういう事だったんだろうか? なんてな。ただの昔の夢だろう? 少しおかしな部分はあったけど、単なる夢に過ぎない。

 

記憶の祖語は気になるけど、別にそれで今まで実害があった訳でもないし。そうは思うのだが、俺は少しイリヤに聞いてみようと思っていた。イリヤは、覚えているだろうか。あの時の事を。

 

「親父とアイリさんがいればな……あの二人なら、確実に覚えてるだろうし」

 

だけど、今この家にその二人はいない。外国に仕事に行っているんだ。なんか、あのバーサーカーの一件の時にアイリさんは帰ってきてたらしいけど、またすぐに仕事に戻っていったらしいし。

 

「セラとリズは、あのキャンプには同行してなかったし、聞いても無駄かな……」

 

そうは思いつつも、一応聞いてみるかと思いながら、ベッドから起き上がった。ベッドの脇の時計を確認してみると、現在時刻は午前6時。う~ん、随分と半端な時間に目覚めてしまったな。

 

今日の朝食作りの当番はセラだし。手伝ってもいいんだが、セラは嫌がるしな。どうするかと少し悩んだが、朝のジョギングでもするのも気持ちいいかもしれない。町内を軽く一周すれば……

 

「そうしよう。ちょっと夢見が悪くて気持ち悪かったし。気持ちよく走ってシャワーを浴びれば、この気分もスッキリするだろう。部活の鍛錬にもなるし、一石二鳥だ。そうと決まれば……」

 

パジャマを脱いで、ジャージに着替える。自分の部屋を出て下の階に降りると、セラが作る朝食のいい匂いが漂ってきた。この匂いは、味噌汁の匂いだ。つまり、今日の朝食は和食だな。

 

セラは最初洋食しか作れなかったが、俺が和食や中華を食べたいと自分で料理をするようになってからは、それに対抗して和・洋・中の料理を完璧に作れるようになった。万能家政婦だな。

 

「おや、シロウ。早いですね。今日は部活の朝練はないと言っていた筈では?」

 

「ああ、ちょっと早く目が覚めちゃってさ。だから、ちょっとジョギングしてくるよ」

 

「そうですか。いってらっしゃい」

 

台所から顔を出したセラとそんなやり取りをして、玄関に向かう。靴を履いて外に出ると、朝日に照らされた冬木の空気と街並みが、俺を出迎えてくれた。俺はその空気を深呼吸で吸い込む。

 

いい朝だな……玄関の前で軽い屈伸運動をして、俺は走り出した。その時にはもう、朝起きた時に感じた焦燥感や気持ち悪さは、俺の中から消えていた。まるで意図的に印象を薄くされたように。

 

…………………………………………………

 

「ふう」

 

ジョギングを終えて、シャワーを浴び終わった俺は、髪を拭きながら息を吐き出す。よし。大分、気分がスッキリしたぞ。やっと、気持ちがいい朝を始められたような気がする。さて、出るか……

 

制服を着て、洗面所を後にする。リビングに入ると、セラが朝食をテーブルに運んでいた。手伝いたいんだが、手を出すと怒るよな、絶対に。そうなったら、今の爽やかな気分は消えてしまう。

 

「イリヤを起こしてくるよ」

 

「はい、よろしくお願いしますシロウ。ですが、寝ているイリヤさんにくれぐれも変な事は……」

 

「しない! しないから、それ以上言うなよ」

 

「そうですか。それならいいです」

 

セラは俺の事をなんだと思っているんだろうか。そんなに信用ないのか。まあ、今までの出来事で誤解を生んでいるというのは分かるけどさ。セラのジト目に見られながら、妹の部屋に向かう。

 

現在時刻は、午前7時。朝食を食べて準備をすれば、丁度学校に登校する時間になるだろう。妹の部屋に辿り着いた俺は、いつものようにドアをノックする。これで起きてくれれば楽なんだがな。

 

「イリヤ、朝だぞ。起きろ」

 

『……』

 

やっぱり駄目か。反応がない妹の様子に嘆息し、声をかけてから部屋の中に入る。寝ぼすけな妹は起こさないと自力では起きてこないから、嫌がられても起こすしかない。遅刻させない為にも。

 

「ほら、起きろって」

 

「う~ん……」

 

『毎朝毎朝、イリヤさんは進歩がありませんね』

 

「まったくだ」

 

イリヤの体を揺すっていると、隣からエコーがかかった女性の声が聞こえてきた。もう慣れているので、俺は驚かずにその声に応えた。そこには、いつの間にか丸い物体が宙に浮かんでいた。

 

羽のような飾りが付いており、丸の中央には星の形をした飾りがある。そんな物体が宙に浮いてる光景は非常にファンタジーだが、もう見慣れた。こいつは、マジカルステッキのルビーだ。

 

こいつが関わっていた一件は、非常にファンタジーでヘビーだったが、それはもう片付いていた。今から二週間くらい前に。命懸けの戦いに巻き込まれたが、何とか日常を取り戻す事ができた。

 

そして、その一件が終わってもこいつはこうしてここに留まっている。他に関わった面々も、何だかんだとそのまま俺の日常に入り込んできて、俺は毎日騒がしくも楽しい日々を送っている。

 

やっと戻ってきた日常と平穏。それに愛しさを感じながら、俺は今日も寝ぼすけな妹を起こそうとカーテンを開け、声をかけ続ける。すると、イリヤはなにやら寝言らしきものを言い始めた。

 

「……お兄ちゃん……」

 

「またこのパターンか……はいはい、今日は何だイリヤ? また、あと5分とか言うつもりか?」

 

「……おはよー……」

 

「おお、珍しく起きたか……って、ん?」

 

イリヤの寝言を聞こうと、イリヤの口元に顔を近付けていた俺。寝ぼけてるイリヤの朝の挨拶に、喜んだ瞬間だった。イリヤの手が、俺の首に回されたのだ。え、おいイリヤ。何だよこれ?

 

「イ、イリヤ……?」

 

「……えへへへ、お兄ちゃ~ん……おはようの、チュー……」

 

『おお!』

 

「なっ!?」

 

事態をやっと把握した時には、イリヤの顔が目の前にきていた。その唇は、艶やかに輝きながら俺のそれへと迫ってきている。ま、待てイリヤ! 慌てて止めようと、イリヤの顔を掴んだ時……

 

「……シロウ?」

 

「……士郎さん?」

 

「ひっ!?」

 

後ろから、この世のものとは思えないような低い声が二つ聞こえてきた。恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこには絶対零度という言葉すら生温い程の、極寒の視線を向けてくるセラがいた。

 

そして、その隣には、イリヤと同い年くらいの黒髪の女の子、美遊がいた。美遊の視線も、非常に冷たかった。待て、二人とも待ってくれ。これは誤解だ。とにかく、落ち着いて話を聞いてくれ。

 

「……寝ているイリヤさんに、変な事はしないようにと言った筈ですよね?」

 

「だから、待つんだセラ。君達は誤解をしてる」

 

「……イリヤの顔を掴んで、キスをしているようにしか見えませんでした……」

 

「違うんだ、そうじゃない……! 美遊、セラ。お願いだから、ちょっとだけ俺の話を……」

 

まずい。非常にまずい。この状況、誤魔化せるものじゃない。部屋の入り口から見たら、俺とイリヤの唇が触れていなかったという所は見えない。つまり、誤解だと二人に信じて貰うしかない。

 

だけど、この二人のあの目。とてもじゃないが、信じてくれるとは思えなかった。肝心のイリヤはまだ夢の中。つまり、無実を証明してくれる人は誰もいなかった。ルビーは役に立たないし!

 

「こ、この……!」

 

「士郎さんの……!」

 

ああ、もう駄目だ。息を吸い込んだ二人に、俺はついに言い訳を諦めた。どうしてこうなった。

 

「「シスコン!」」

 

「ぐああっ!」

 

セラに殴られ、美遊にビンタされた。セラはいつもの事だけど、美遊にそう言われるのは俺の心に深いダメージを負わせた。こうして、俺の騒がしく新しい日常が今日も始まっていくのだった……




はい、2wei!の内容とも少し違う始まり方でした。

この夢は果たして、何を意味するのか……
なんて、意味深な言い方をしてみたり。

それでは、感想を待ってます。
早くクロを出したいですね。

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