錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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いよいよ、クロが登場します。

そして、キャンプの時の士郎の記憶が……?

それではどうぞ。


黒が生まれた日

【士郎視点】

 

「ご、ごめんなさい士郎さん」

 

「いや、もういいよ。殴られるのはいつもの事だから。美遊だけでも分かってくれれば……」

 

セラに殴られて、イリヤの部屋から追い出された俺は、誤解が解けた(ルビーの証言で)美遊と、イリヤの部屋の前で話していた。セラの方はどうしようもない。ルビーの事は話せないしな。

 

そのセラはというと、俺にはイリヤを任せられないと言って、イリヤを起こしている最中だった。その間に美遊の誤解を解けたのは僥倖だった。美遊のあの視線は、心に深いダメージがあるし。

 

「それで、美遊は何をしに来たんだ? いつもは外で待ってるのに」

 

「いえ、たまには迎えに行くのもいいかと思いまして。迷惑、でしたか?」

 

「いや、全然そんな事はないよ。いつでも来てくれて構わない」

 

「良かった」

 

そんなやり取りをしていると、後ろのドアが開いて、冷たい視線のセラが出てきた。そしてその後ろには、キョトンとした顔のイリヤがいた。きっと、今の事態が理解できないのだろう。

 

「……シスコンの上に、ロリコンですか?」

 

「ちょっ、やめろセラ! イリヤに聞こえるだろ!」

 

セラは、とんでもない事を言い出した。俺がイリヤの友達である美遊にまで手を出そうとしてたと誤解を重ねたのだろう。冤罪もいいところだ。セラの中で、俺のイメージがとんでもない事に。

 

「あれ、美遊がいる。お兄ちゃん、美遊、おはよう」

 

「おはようイリヤ。今日は迎えに来たよ」

 

セラと修羅場を演じている俺の横で、平和なやり取りをする妹達。この家は今日も平和だ……

 

…………………………………………………

 

「おはよう、一成」

 

「ああ、おはよう衛宮」

 

あれから、なんとかセラを宥めた俺は、いつものようにイリヤと美遊と共に学校に到着した。自分のクラスに着いた俺は、これまたいつものように自分の席に鞄を置いて、一成と挨拶を交わす。

 

「遠坂とルヴィアも、おはよう」

 

「え、ええ。おはよう衛宮君」

 

「おはようございますわ、士郎(シェロ)

 

あの一件から二週間。この二人とも色々とあって、以前より親しくなった。まあ、その色々は俺にとって、波乱の連続ではあったけど。最初は、経緯のせいで学校に来ない二人を説得して……

 

そして普通の学校生活を共に過ごす事になったが、何故かこの二人と肉体的接触を繰り返して……そのせいで遠坂は少しぎこちなくなり、ルヴィアは何故か俺をシェロと呼ぶようになったりして。

 

その他色々のせいで、クラス内での俺の評判が落ちたりもしたが、まあこの二人が普通の学園生活を満喫できるようになったのだからいいだろう。不本意な学園生活に不機嫌だった頃よりはいい。

 

俺がこの二人と話してると、微妙な雰囲気になる奴らもいるんだが。一成とか、この二人とあまり相性が良くないから、不機嫌そうに睨んでるし、隣の席の森山なんかは、涙目になってるし。

 

「えっと、おはよう森山」

 

「あ、えっと……お、おはよう衛宮君」

 

遠坂達が正式にクラスの一員になって、一番影響を受けたのはこの森山奈菜巳だろう。二人の喧嘩に巻き込まれて気を失ったり、蛙まみれにされて気を失ったりして……一番の被害者と言える。

 

そのせいで、森山は遠坂達を見ると怯えるようになってしまった。可哀想に。俺が二人を止められなかったばかりに。だからせめて、俺にできる事なら何でもしてあげたいと思うんだが……

 

「大丈夫か森山? 何か欲しい物とか、して欲しい事とかないのか?」

 

「ふえっ!? え、衛宮君が何でもしてくれるの……?」

 

「ああ。俺にできる事なら」

 

「え、えっと……じゃあ、今度お買い物に付き合って欲しいな、とか思ったり……」

 

「それくらいなら、いつでもいいぞ。荷物持ちか? それなら、妹で慣れてるからさ」

 

「そ、そうじゃなくて……一緒にお買い物したいっていうか……その……」

 

「「チッ……」」

 

して欲しい事を森山に聞いてみると、森山は言い難そうに顔を赤くしてもじもじしながら、そんな要望を言ってきた。すると、何故かそんな森山を見ていた遠坂とルヴィアが小さく舌打ちした。

 

なんでさ。今の会話のどこに、そんな不機嫌そうな顔になる理由があったんだ? 訳が分からない反応をする二人に首を傾げながら、森山と買い物の日程を決めていく。やっぱり、日曜日かな?

 

「今週の日曜日でいいか?」

 

「う、うん! 楽しみにしてるね、衛宮君」

 

「はは、そんな面白い事は提供できないと思うぞ?」

 

「そんな事ないよ。凄く楽しみ……」

 

「「……この女……」」

 

そこまで期待されるとこっちとしても気合が入る。森山の行きたい所に付き合うだけじゃなくて、俺の方でも何かを考えたり持っていったりした方がいいかもしれないな。例えば、お弁当とか。

 

イリヤとかに相談して、女の子が好きそうな所を探してみたりとかもしてみるかな。いや、年齢的にイリヤは森山とは好みが違うかもしれないから、ここは歳が近い桜の方がいいかもしれないな。

 

そんな事を考える俺は、隣で遠坂達が噴き出す不機嫌のオーラに気付かなかった。

 

…………………………………………………

 

「なあ。遠坂、ルヴィア」

 

「なっ、何かしら衛宮君?」

 

「ど、どうかなさいまして?」

 

朝から時は流れ、今は昼休みの終わりに近付いている。さっきまで教室からいなくなっていた遠坂とルヴィアの様子が、何だか変だった。この二人が一緒に行動していたという事が、もう変だ。

 

しかも、戻ってきた二人は喧嘩をする気配もなく、挙動不審という様子で、自分達の席に座った。怪しい。俺を露骨に避けるような様子だったのも気になる。声をかけると、案の定この反応だ。

 

「何かあったのか?」

 

「うっ……そ、そんな事はないわよ?」

 

「そうですわ。どうかお気になさらずに……」

 

明らかに何かあったという感じだ。しかも隠さなければならない事。この二人の正体を考えると、恐らく魔術関係の事だ。そして、特に俺に知られてはまずい事となると……まさか、イリヤか?

 

「……イリヤが関係してるのか?」

 

「ギクッ! そ、そ~んな事ある訳ないじゃない! 何を言ってるのかしら?」

 

「お、おほほほ。士郎(シェロ)もおかしな事を言いますわね!」

 

確定だ。魔術関係の事で何かがあって、イリヤが関わっているんだろう。いや、良く考えろ、俺。この二人は、一応良識がある魔術師だ。喧嘩をする時は、それが時空の彼方に吹き飛ぶけどな。

 

そんな二人が、魔術関連の事にイリヤを積極的に巻き込む事はあり得ない。という事は、この場合関わってきてるのはイリヤが持っている特別な何か。それを必要としてると考えるのが自然だ。

 

この二人が必要とするような物で、イリヤが持っている物といえば……あ、そうか!

 

「ルビーか?」

 

「な、何で分かったのよ!」

 

「こらっ、遠坂凛(トオサカ リン)! それでは肯定しているようなものですわ」

 

「あ、やば……」

 

ビンゴだ。それにしても、遠坂って変な所で抜けてるよな。隠し事は苦手なタイプだ。ルヴィアも得意な方ではないけど、遠坂のそれはもっと顕著だ。まあそれさておき、詳しい事情を聞こう。

 

「詳しく話して貰うぞ。放課後に、屋上でな」

 

「はあ、分かったわよ……」

 

「仕方ないですわね」

 

また何か厄介事が始まるかもしれないという予感を感じながら、俺は午後の授業を受けた。

 

…………………………………………………

 

「で、こんな事になっていると……」

 

「つまりこの先で問題が起きていて、それを何とかするのにルビーが必要って事なんだね?」

 

「そうらしい」

 

あれからさらに時間は流れて、俺は今、森の中を歩いていた。下校しようとしていた所を車で拉致されたイリヤに、俺が聞いた事情を話してやっている。俺も詳しく理解してる訳じゃないが。

 

「ルビーというか、大量の魔力が必要なのよ。カレイドステッキは、無限の魔力があるから」

 

「それを使って、大規模な儀式を行うのです。地脈を安定させる為に」

 

「へえ」

 

「衛宮君にはもう簡単に話したんだけどね。実は、クラスカードを回収したのに、この町の地脈が元に戻ってないのよ。大師父が言うには、龍穴が詰まってるかもしれないって。だから……」

 

「それを儀式によって拡張するのです。しかし、その儀式には高圧縮した魔力が必要なんですの」

 

魔術的専門用語ばかりで、正直理解が難しい講釈を二人がしてくれた。まあ、言っている事の意味は簡単にだが理解できた。以前、カードのせいでこの町が危険になっていた事は聞いている。

 

それらを全て回収したのに、その異常が直らない(遠坂は、本来なら勝手に戻ると言っていた)。その異常が直らないなら、何か問題が起きてる可能性が高い。それを何とかしようとしてると。

 

そして、その何とかする為に大量の魔力が必要で、その為にイリヤと美遊の持つカレイドステッキが必要だという事だろう。事情は分かった。俺達にとっても他人事ではないし、仕方ないよな。

 

「……もうイリヤ達を巻き込みたくなかったんだけどね」

 

「本来なら大量の応援を呼んでわたくし達だけで解決したかったのですけど。応援を要求したら、わたくし達にはカレイドステッキを貸し与えてあるから問題ないだろうと言われてしまい……」

 

「ルビー達に契約解除された事は大師父には内緒にしてるから、仕方ないのよ!」

 

『やれやれ、本当にこの人達は無能ですねえ』

 

「うっさい! アンタが私と再契約すれば全部解決すんのよ!」

 

「あはは……」

 

そういう事らしい。まあ、言えないよな。ルヴィアと派手に喧嘩した挙句、それが原因でステッキに愛想を尽かされ、ステッキが新しくマスターに選んだ無関係な小学生を巻き込みましたなんて。

 

だから昼休みに帰ってきた時、あんなに気まずそうな顔をしていた訳だ。そしてイリヤの兄である俺に、妹を再び巻き込む事を申し訳なく思っていたと。事情を聞いてみると、納得できてしまう。

 

「美遊はそれでいいのか?」

 

「私は、まったく問題ありません」

 

遠坂達の少し後ろを歩く美遊に、意思の確認をするとそんな事を言ってきた。美遊らしいといえば美遊らしいが、もう少し小学生らしい対応を求めてしまうのは駄目かな。聞き分けが良すぎる。

 

「もっと駄々をこねたり、文句を言ってもいいんだぞ? イリヤみたいにさ」

 

「お、お兄ちゃん! それじゃ私が、聞き分けがない子供みたいじゃない!」

 

イリヤはどう見ても子供だろ、と思ったけど、口には出さない。それを言うとどうなるかは、経験で知っているからだ。俺としては、実際に子供なんだからそうしていいと思うんだけどな。

 

「まあ、イリヤがどうとかはこの際置いておいてだな。我侭を言ってくれるのも、俺としては嬉しいって事なんだよ。こっちとしても、頑張り甲斐があるし。その方が可愛げもあると思うんだ」

 

「……可愛げ、ですか……なら、私海を見てみたいです」

 

「へえ。美遊って、海見た事ないのか。なら、一ヶ月後は夏休みだし、連れてってやろうか?」

 

「本当、ですか?」

 

「ああ。イリヤも行くだろ?」

 

「うん、勿論!」

 

「という事だ。遠慮するな」

 

「……はい。嬉しいです、本当に……」

 

そう言って、美遊は本当に嬉しそうに微笑んだ。目に薄っすらと涙まで浮かべながら。いやいや、喜んでくれるのは嬉しいけど、ちょっと大袈裟すぎないか? 美遊の気持ちは、本当に時々重い。

 

それからはしばらく無言で歩いた。先頭を遠坂とルヴィアが歩き、その後ろを美遊が歩いている。そして俺とイリヤが、最後尾を並んで歩いているという状態だ。あ、そういえば、今朝の夢……

 

「なあ、イリヤ」

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

「いや、ちょっと聞きたい事があってさ。7年くらい前に、キャンプに行った事覚えてるか?」

 

「ああ、あったね。それがどうかしたの?」

 

よし、やっぱりイリヤも覚えてるらしい。あの時の事をイリヤに聞いてみようと思っていたのに、朝のドタバタのせいで忘れていた。ただの夢ではあるんだが、記憶の齟齬が気になるからな。

 

「あのキャンプ、まだぎこちなかった俺達を仲良くさせようと、親父とアイリさんが連れて行ってくれたんだよな。セラとリズを抜きにして、できるだけ俺達が二人になれるようにしてさ」

 

「そうだったねー。それで、あのキャンプが切っ掛けでお兄ちゃんと打ち解けられて……」

 

「そうなんだよな。それでなんだけど、その詳しい切っ掛けって覚えてるか?」

 

「え? ……う~ん……詳しくはちょっと。私、その時4歳くらいだし。一緒に遊んでるうちに、何となく仲良くなったんじゃなかったっけ? 元々、仲良くなろうとは思ってたんだし……」

 

「……そうだったか、な?」

 

そうか。イリヤは、まだ本当に小さかったし、はっきりとは覚えてないか。イリヤにそう言われると、そうだったのかもしれないと思えてきた。でも、じゃああの映像は何だったんだろうか。

 

「……なあ、あの時、何かなかったか?」

 

「何かって?」

 

「えっと、例えばさ。俺が怪我をしたり、イリヤが泣いたりしてなかったっけ?」

 

「ああ。それって、あれじゃない?」

 

あの謎の映像のヒントを得ようとすると、イリヤが何かを思い出したらしい。おお、つまりあれは本当にあった事だったのか? 俺が忘れていただけなんだろうか。俺は、イリヤの言葉を待つ。

 

「川からの帰り道で、3メートルくらいの崖から私が落ちそうになって。お兄ちゃんが私を庇って落ちちゃって頭を打って気絶したでしょ? その時に、私泣いちゃったんだよ。覚えてない?」

 

「……そんな事あったか?」

 

「あったよ。私、その時悲しくて。でも、お兄ちゃんが私を守ってくれた事が嬉しくて。思えば、それが切っ掛けだったのかもしれないな。この人は、私を守ってくれる人なんだって思って……」

 

「……そう、か……」

 

つまり、頭を打った事で俺はその切っ掛けを覚えてなかっただけって事なのかな。つまり、あれはその時の事だったと。そうか。そうだったのか。うん、納得した。でも、それにしてはあれは……

 

「……3メートルくらい、か?」

 

「うん。4歳くらいだった私にとっては、もっと高かったイメージがあるけどね」

 

そうか。俺も当時は10歳くらいだったからな。イメージでもっと高かったように思ったのかな。それに、あれは夢だ。事実ではない。夢で大袈裟になっていただけなんだろう。きっとそうだ。

 

その後の時系列の矛盾も、夢だったからだと思えばそれほどおかしくはない。あの夢では、川から帰った後も俺達のぎこちなさはまったく変わらず、親父とアイリさんが散歩に出かけていた。

 

でも、イリヤの話が本当なら気絶した俺はその後の記憶がある筈もない。俺の記憶は、その混乱のせいで曖昧になっている可能性があるから、ここはイリヤの記憶の方を信用するべきだろう。

 

「でも、どうしてあの時の事を聞いてきたの?」

 

「いや、実は今朝、その時の事を夢で見てさ。記憶の齟齬が気になって……」

 

「「底なし沼だー!」」

 

「ル、ルヴィアさん! 凛さん!」

 

「……え?」

 

イリヤと話していると、前方からコントのような声が聞こえてきた。見てみると、遠坂とルヴィアが底なし沼にはまっていて、美遊がそれを引き上げようと、ルヴィアの髪を引っ張っていた。

 

「な、何故髪を引っ張るんですの美遊ーッ!」

 

「え、衛宮君、イリヤ! 話してないで助けっ……(ぶくぶく)」

 

「……はあ」

 

「こ、この人達は……」

 

『ぷくくく。面白芸人みたいな方達ですね』

 

この後、めちゃくちゃ引き上げた。その騒動のせいで、イリヤとの話は中断してしまった。

 

…………………………………………………

【イリヤ視点】

 

「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせるわよ。イリヤ、美遊。頼んだわよ」

 

「は、はい」

 

「分かりました」

 

すったもんだの騒動の後、私達は目的地に辿り着いていた。洞穴の中に入り、巨大な空洞になっている場所。どうやら、ここで例の儀式を行うらしい。凛さんが、枯れ枝のような物を地面に刺す。

 

その瞬間、枯れ枝が突き刺さってる地面に魔方陣が浮かび上がる。これで準備は完了したらしい。凛さんの合図で、私と美遊は魔力注入を開始した。難しい事は考えずに、とにかく全力で。

 

そうしろと凛さんに言われたからだ。どこで詰まってるか分からないので、とにかく目一杯魔力を込めろと言われた。その辺の加減は、凛さんとルヴィアさんに任せておけばいい。専門家だし。

 

「魔力充填率、60%―――75―――90―――100―――110―――115―――」

 

凛さんが、充填率をカウントしていく。そして―――

 

「120! Offnen(解放)!」

 

満タンになったらしい。凛さんの叫びと同時に、魔方陣の光が周囲を包み込んでいく。そして地面が揺れ始め、足元がふらつく。けれど、別に何かが起こる訳でもなく、それらは収まっていく。

 

「……これでお終い?」

 

「一応はね。効果のほどは改めて観測しなきゃいけないけど、それはまた今度ね」

 

「はいはい、作業は完了。早く帰りますわよ。こんな地の底、長居する所では……」

 

あまりにも拍子抜けした私だけど、まあ終わりだというならそれでいいだろう。凛さんとルヴィアさんの言葉に、全員が安堵した時だった。地面が再び揺れ始め、その揺れは次第に大きくなる。

 

「ちょ、ちょっと待って。これは!?」

 

「きゃあっ!」

 

さっきより揺れてない? そう思った時、私の足元に亀裂が入り、そこから大量の魔力が溢れ出してきた。思わずその場から飛び退く私達。私と凛さん、そしてお兄ちゃんが近くに退避する。

 

そして、反対側にはルヴィアさんと美遊。亀裂を中心に分断された私達。そして、事態は動く。

 

「魔力のノックバック!? 嘘……出力は十分だった筈よ!」

 

「まずいっ、来ますわ!」

 

凛さんとルヴィアさんの叫びのすぐ後に、流し込んだ魔力が逆流して、空洞内部を破壊していく。その破壊は私達の頭上の天井にも及んで、私達の上に巨大な岩を降り注がせる。あ、これは死ぬ。

 

そう思った瞬間、私は動いていた。もう三度目だ。考える前に体が動く。私が目指す先は、凛さんの所だ。そこに、この状況を覆せるモノがある。前に一度使っているそれに、私は手を伸ばした。

 

「クラスカード・【ランサー】……」

 

そう、私は知っている。美遊も、使い方を見せてくれた。すでに一度使っているから、手順を省略できる事も知っている。他のカードでは、あの召喚の呪文を唱えないといけないけど、これなら。

 

「【夢幻召喚(インストール)】!」

 

「なっ、イリヤ!?」

 

凛さんのポケットに入っているランサーのカードを使って、私は英霊に変身した。そして、すぐに槍を構えて上に飛ぶ。この瓦礫を全て跡形もなく吹き飛ばして、皆を守る為にはあれしかない。

 

「【突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)】!」

 

敢えて狙いを定めず、因果の逆転も行わず、破壊力のみ追求して、私は呪いの朱槍を投げ放った。それは落ちてくる瓦礫全てを跡形もなく消し飛ばして、分厚い天井を貫いて空へと消えていく。

 

それを見ていた瞬間、どくん、と体の中で何かが鼓動を打ち、私の中の何かが抜けて行った。

 

…………………………………………………

【士郎視点】

 

「くっ、一体何が……」

 

あまりにも突然の事で、何が起きたか分からなかった。イリヤが、あの時みたいにカードを使って英霊に変身して、槍を上空に投げ放った所までは認識できた。その槍のあまりの威力で、目が……

 

強烈な光に目が眩んだ俺達は、やっと視力が戻ってきた。遠坂達にあのイリヤの行動を見られてしまって、さてどうするかと考えながら目を開いた時だった。その光景に、全員が動きを止めた。

 

「「「「……は?」」」」

 

俺、美遊、遠坂、ルヴィアの声が重なる。その視線は、全員が同じ物を見ていた。そこには……

 

「「いたたた……」」

 

あれ、目がおかしくなったか? そこには、イリヤがいた。だけど、『一人』ではない。

 

「「……ん? あれ?」」

 

イ、イリヤが……俺の妹が、『二人に』なっている! そこには、まるで鏡に映したように同じ顔でキョトンとするイリヤ『達』がいた。そう、達。複数形。魔法少女姿の、白いイリヤと……

 

そして、露出度が激しい黒のボディスーツに身を包み、髪を後ろで纏めた『黒いイリヤ』が。

 

この時から、俺の妹は二人になってしまったのだった―――




やっとクロが登場です。予告通り、ランサーのカードです。

今回使った投げボルクは、小聖杯の力で無理をして使っています。
なので、相手の心臓を穿つという因果の逆転を省略し、威力だけ追及してます。
ルーン魔術とかを利用すれば、こんな使い方もできるのではと思ってます。
威力は、ランクで表すとAクラスかA+くらいですかね。

私の作品の設定なので、本家ではできない使い方かもしれません。
ですが、元々プリヤ自体二次創作ですし、細かい設定は違う場合があります。
エクスカリバーの完全投影も、イリヤが使ってますしね。
なので、細かいツッコミはなしの方向でお願いします。

それでは、感想待ってます。

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