それではどうぞ。
【士郎視点】
「いやああああぁぁぁぁっ! 何でこうなってるのおおおぉぉぉっ!」
「完璧ね」
「……え~っと……なあ遠坂、何だこれ?」
目の前に広がっている光景に、俺はそう言うしかない。俺達の視線の先には、体をぐるぐる巻きにされて木の枝から吊るされているイリヤが、涙目で叫んでいた。それを見て、満足げに呟く遠坂。
俺達は今、ある目的の為に森に来ていた。その目的というのは、他でもない。黒イリヤを捕まえるというものだったのだが、何故かイリヤがこんな状態になっているという訳だ。というのも……
俺は、こうなった経緯を思い出す。そう、それは数時間前の事だった―――
…………………………………………………
「まあ、よく来てくださいましたわ
「えっと、うん。それはそうさせて貰うけどさ……」
黒イリヤ対策の作戦会議の為に、家の前にある屋敷を訪れた俺とイリヤ。出迎えてくれたルヴィアは満面の笑みで、そう言ってくれた。それはありがたいが……俺は、ルヴィアの背後を見る。
「どうかしまして?」
「いや、その……遠坂は何をやってるんだ? それ、ルヴィアの家のメイド服だろ?」
「くっ……」
そう、ルヴィアの後ろには、メイド服姿の遠坂と美遊がいた。美遊の事は知ってたけど、どうして遠坂まで? 俺の素朴な疑問に、遠坂は悔しくて仕方ないという風な顔をして、歯軋りをする。
「オーッホッホッホ! どうかお気になさらずに。見ての通り、当家のメイドですわ」
「……お願いだから、詳しい事情は聞かないで衛宮君……」
「えっと……うん、ごめん」
聞かない方が良さそうだ。勝ち誇ったような高笑いを続けるルヴィアと、悔しそうにしながらも、反論しない遠坂の姿を見て、俺はこれ以上詮索するのはやめる事にした。遠坂が可哀想だしな。
『ぷくくく、凛さんの面白おかしいそのエピソードは、あとで私が見せてあげますよ。映像で』
「やめなさい!」
と思っていたら、ルビーが遠坂の恥を広めようとしてきた。お前は鬼か。どうやら、イリヤもその事は知っているみたいだが、イリヤは苦笑いを浮かべるだけで、何も言おうとはしなかった。
まあ、その話はいい。本題を話そうという事になって、俺達はルヴィアの屋敷に入ったのだった。そしてメイド服姿の遠坂がホワイトボードの前に立ち、今の状況をボードに書き込んでいった。
「という訳で、作戦会議よ」
ボードには、黒イリヤ出現。ランサーのクラスカードが消滅? 等の文字が書かれている。さらに黒イリヤの顔(絵)からイリヤの顔に矢印が引かれていて、命を狙っている? と書かれていた。
遠坂がそれらを書いている内に暇になった皆は談笑をしたり、紅茶を飲んだりと、思い思いに時間を潰していた。俺は一応、遠坂の動向を見ていたが。っていうか、遠坂って絵が上手いんだな。
「……アンタ達、ちゃんと聞けえええええ!」
そんな皆を見た遠坂が、怒りを爆発させた。おっと、やばい。どうも仕切り屋だったらしい遠坂が爆発したので、俺達は姿勢を正して遠坂を見た……メイド服姿の遠坂を。……ぷっ、やばい……
「オーッホッホッホ! 何度見ても愉快ですわ!」
『ほんとですねえ! シリアスな顔で怒っているところなんかが、特に!』
「ぷっ、や、やめてルビー……笑っちゃうから」
「くくく……」
「……アンタらねえ……ちゃんと聞けって言ってんのよ! あと、アンタは笑いすぎなのよ!」
遠坂の手元で、ナイフとフォークが光った。ひいっ!? 遠坂、それはメイドじゃなくて、執事がやる技だぞ! 遠坂が投擲したそれらが、ルヴィアの眉間に突き刺さった。うわあ、痛そうだ……
「ぬおおおおっ! 何をするんですのメイドの分際で!」
『お、おう……凛さんの怒りが有頂天に……』
ルビーにも大量に突き刺さり、壁に縫い止めている。ちなみに、イリヤと俺の顔の間にもフォークが刺さり、俺達兄妹の髪を風で揺らした。こ、こええ! お、俺とイリヤは笑いを堪えただろ!
眉間に刺さったナイフとフォークの痛みに、のた打ち回るルヴィア。遠坂は、それを冷たい視線で見下ろしながら、『申し訳ありませんでしたお嬢様』と白々しい声で謝り、それらを引き抜いた。
「ったく。ルヴィア、アンタにもこの状況のまずさは理解できてる筈よ。
「……ふん、そんな事、貴女に言われるまでもありませんわ」
「分かってるんだったら、真面目に聞きなさいよ」
ナイフとフォークが刺さっていた眉間から血を流しながら、ルヴィアもやっと真面目な顔になる。遠坂の言葉に納得したのだろう。それはいいんだが、その眉間から流れる血をなんとかしろよ。
「ほら、絆創膏貼っとけよ。それから、悪かった遠坂。話を進めてくれ」
「あ、ありがとうございますわ
「わ、分かればいいのよ分かれば」
ルヴィアに大きめの絆創膏を渡し、遠坂に謝って話の続きを促す。すると二人は、少し顔を赤くしながら元の位置に戻っていく。恥ずかしいなら、もう子供みたいな喧嘩はやめて欲しいんだが。
「……お兄ちゃん、いつからそんなに凛さんと仲良くなったの?」
「……それに、どうしてルヴィアさんは士郎さんの事を『
「あれ? どうしたんだ、イリヤに美遊。視線が怖いんだが……そんな事は別にいいだろ」
「「良くないよ(です)」」
ところが、遠坂達の喧嘩が収まったと思ったら、何故かそれを見ていた妹達が、機嫌を悪くした。なんでさ。あれからの二週間の事はイリヤ達とは関係ない状態だったから、気になるって事か?
「はいはい、話を続けるわよ。黒イリヤの目的は、どうやらイリヤの命らしいんだけど……」
そんな俺達を、手を叩いて止めた遠坂が説明を再開させる。一番の懸念事項だったあの黒いイリヤの目的は、昨日判明した。イリヤの命。遠坂はその事を確認しつつ、イリヤの顔を見てきた。
「そのイリヤは、何故か弱体化している、と……」
「はい……」
そう言いながら、ホワイトボードを見る遠坂。ホワイトボードには、イリヤの顔の絵の上に弱体化している? 何故? と書かれている。それを聞いたイリヤは、がっくりと項垂れてしまった。
魔術専門家組は、う~んと悩み始める。ルビーによれば今のイリヤは身体的には何の異常もなく、魔力容量と出力だけが大幅に下がってしまっているのだそうだ。一体、どういう事なんだろう。
『今のイリヤさんの魔力は、最大時の三分の一くらいになってしまっています』
「で、黒イリヤによれば、それは彼女の出現と関係があるっていうのね?」
「そう言ってたな。今のイリヤの状態に、何か心当たりがあるみたいな感じだったぞ」
「ふ~ん。となれば、私達の方針は決まったわね」
俺達の話を聞き終えて、遠坂はそう言った。確かに、これら全てを解決する方法は一つしかない。黒イリヤの正体。イリヤの異常。そして、命を狙われているという現状。この問題の解決策は……
「私達の目的は一つ。黒イリヤを捕獲するわよ!」
…………………………………………………
そう、こんな結論が出たんだったな。遠坂の宣言に、全員が頷いた所までは良かったんだ。それがどうして、こうなってしまったんだ。具体的な作戦を決めた時は、こんな作戦はなかった筈だ。
「ふっ、どこにいるか分からない相手を誘き出すには、どうすればいいと思う?」
「えっと……まあ、確かにそれは問題だよな。で?」
「その答えが、これなのよ!」
「おろしてええええぇぇぇぇ!」
俺の質問に、遠坂は自信満々に作戦を語る。そして、これだと示された先には、相変わらず縛られて木の枝に吊るされている俺の妹がいる。いや、これと言われても。どう解釈すればいいんだ?
「分からない? エサよ、エサ」
「エサ……ねえ」
「黒イリヤの目的は、本物のイリヤの命なんでしょう? だったら、これは無視できない筈よ! 例え罠だと分かっていてもね。万が一の保険として、ああして豪華な料理も用意してるし!」
まあ、言いたい事は理解できる。だが、果たしてこれで上手くいくのだろうか。遠坂が自信満々に語る保険とやらに目をやる。吊るされているイリヤの下に、見るからに豪華な料理があった。
「完璧な作戦よ」
『そうでしょうか』
サファイアの意見に同意だ。遠坂は、どうしてこの作戦にこんなに自信を持っているのだろうか。その根拠とやらを、是非とも聞いてみたい。美遊も俺と同じ考えらしく、冷や汗をかいていた。
ルヴィアも何とか言ってくれと思ってルヴィアの方を見てみると、ルヴィアは笑っていた。それを見て、ああ、これは遠坂のこの作戦を馬鹿にして、またいつもの喧嘩が始まるのかと思っていた。
だが……
「フッ、貴女の案に乗るのは癪ですけど、完璧な作戦ですわ」
何故かルヴィアは、遠坂の作戦を絶賛した。いや、なんでさ。俺と美遊は、ルヴィアの言葉を聞いて肩を落とした。ひょっとして、この二人の魔術師の頭はかなり残念なのではないだろうか。
「……凛さんを信じた私が馬鹿だった……」
そんな俺の耳に、イリヤのそんな呟きが聞こえてきた。抵抗してもがくのを諦め、大人しくなったイリヤの魂の呟きだった。その姿は、もはや哀愁すら漂わせている。兄として助けるべきかな。
そう思った時。何かが枝を踏む音が聞こえてきて、俺達は一斉にその方向に顔を向ける。すると、そこには白けた表情で吊るされているイリヤを見上げている人影がいた。そう、今回の目的。
『『『ほ、本当に来た……!』』』
「「計算通りね(ですわ)」」
心の中で同時に呟く俺とイリヤと美遊(表情で分かった)と、自信満々の表情でニヤリと笑う遠坂とルヴィア。本当に現れた黒イリヤは、胡散臭い物を見る目で吊るされているイリヤを見上げる。
そして、その下をグルグルと回りながら、様々な角度で見つめる。一方、見られているイリヤは、ダラダラと冷や汗を流してその視線に耐えている。そんな目で見ないでと思っているんだろうな。
縛られているだけで何もできないイリヤは、その視線から逃れる事もできないし。気の毒に……
「ちょっとイリヤ……! もっとエサっぽく、もがいて誘いなさいよ……!」
動かないイリヤに、遠坂が小声で指示を出す。いや、そんな小声じゃイリヤには聞こえないぞ。
「ん~……何か、あからさまに罠すぎて、リアクション取りづらいわ~……」
「「ちいぃぃっ……! バレたか……!」」
当たり前だ。黒イリヤの言葉に、同時に小声で悔しがる遠坂とルヴィア。むしろ、どうしてあれでバレないと思っていたのか本気で聞きたい。遠坂の考えた作戦は当然の如く失敗と思われたが……
「まあ、良いか。いじらしく台本考えたみたいだし、乗ってあげるわ!」
イリヤを殺す絶好のチャンスである事は間違いないと判断したらしい黒イリヤは、吊るされているイリヤに向かって槍を構えてジャンプした。まさか上手くいくとは。驚いたが、俺も準備する。
「
遠坂は、叫びと共に拘束帯を引く。すると捕縛術式が発動し、イリヤを縛っていた拘束帯が解けて黒イリヤを縛り上げる。それと同時に、拘束帯の中に仕込んであったルビーで変身するイリヤ。
俺もアーチャーのカードで変身し、美遊も魔法少女の姿に変身する。しかし、黒イリヤも簡単には捕まってくれない。槍の穂先で拘束帯を切り刻み、あっさりと脱出した。だけどこっちだって!
「
ルヴィアが仕掛けておいた捕縛魔術を起動させた。黒イリヤの足元に魔方陣が浮かび上がり、その体を押し潰すようにして地面に縫い止めた。見た感じ、重力で対象を動けなくさせる魔術かな。
「ふうん……中々厄介な捕縛魔術ね。でも……」
黒イリヤは、重力魔術で動けなくさせられているのに冷静だった。額には冷や汗が流れているが、すぐに右手に魔力を集中させて、地面に何かを描いた。何だ、文字か? Fみたいな文字だ。
「バーサーカーを捕えた時に比べれば、だいぶ
「なっ、これはまさか、ルーン魔術!?」
黒イリヤが叫んだ瞬間に、足元の魔方陣が爆発して掻き消されてしまった。遠坂がそれに驚いて、黒イリヤの力を分析する。ランサーのカードの力を使っているのに、魔術まで使えるのか!?
「これで終わり? 魔術戦なら、私もそれなりにやり合えるわよ?」
「クッ、そういえばクー・フーリンはルーン魔術にも長けてるんだったわね。まさか、ランサーのクラスでもここまでの威力の物を使えるだなんて。英霊化って、ほんっと厄介だわね……」
「まあ、私自身の魔術知識があればこその技だけどね」
遠坂が、悔しそうに歯噛みする。ルヴィアもだ。魔術師としてのプライドだろうか。それにしても黒イリヤの言葉はどういう事だろうか。彼女自身にも、魔術の知識があるっていう事なのか?
「魔術では分が悪いわ。イリヤ、衛宮君!」
「取り敢えず、今全力の、【散弾】!」
「仕方ないな……!」
今ので捕まえられれば良かったんだが。遠坂の指示に、俺とイリヤは黒イリヤの目を眩ませる為に牽制の攻撃を仕掛けた。直接狙えば躱されるだろうけど、今回の攻撃は当てるつもりはない。
黒イリヤの周囲の地面に、可能な限り矢を連射する。イリヤの散弾と合わせて、土煙が派手に舞い上がった。これで黒イリヤの視界を奪う事は成功した。あとは、本命の攻撃に全てを託すだけ。
「そうくるか。散弾と矢の連射攻撃での煙幕。となれば、次は当然……」
だが、黒イリヤの呟きを聞いた俺は戦慄する。攻撃を読まれている!? 黒イリヤの背後から迫る本命の一撃。煙幕に身を隠した美遊が、ある物を手に飛び掛かった。しかし、読まれている。
「
「クッ……!」
身を捻って美遊の奇襲を躱し、その手を掴む黒イリヤ。美遊の手に握られていたそれは、一振りの短剣だった。稲妻のように曲がった刃を持つそれは、キャスターのカードの
その短剣の効果は、魔力で構成された物、契約、全てを破壊、無効化する事ができるというもの。黒イリヤにそれが有効だと美遊は判断したらしかったが、その刃を届かせる事はできなかった。
「この対応力、普通じゃないわよ」
「ああ。まるで、こっちの手を全て読まれてるみたいだ」
俺達は、歯噛みした。5対1だというのに、黒イリヤを抑える事ができない。黒イリヤは俺達の攻撃に即座に対応してくる。遠坂達は魔術を封じられ、イリヤと美遊も魔力砲を躱されてしまう。
そして俺は、妹と同じ顔をしている黒イリヤに全力で攻撃し辛い。どうしても躊躇してしまう。
「どうすればいいんだ……」
俺は、そう呟く事しかできなかった。
…………………………………………………
【イリヤ視点】
「うぅ~……」
私は、私と同じ顔をした敵を見て唸った。敵は、そんな私達を楽しそうに見ている。私はこの状況の中で、違和感のような物を感じていた。自分と同じ姿をした敵。何とも言えない感覚だった。
まるで、鏡の中の自分と戦っているような感じ。その状況に対して、私はやっと自分の中で明確に言葉にする事ができた。鏡の自分が、容赦なく襲い掛かってくる。うん、これはすっごい……
「すっごい、キモい! うひゃあっ!?」
「キモいとは何だぁ!」
「ヒイィィ!?」
率直に感想を言ったら、敵が槍を突き出してきた。私は、それを何とか躱して逃げる。すると、敵は私の後を追ってきた。物凄いスピードで。物凄い形相で! 私は、必死に走って逃げる。
「やっぱ、アンタすっごくムカつくわッ! ここで死んでください!」
「ヒィ!? 敬語で死んでとか言わないでよッ! 言っちゃダメなんだよそんな事!」
「知るか! 大人しく死になさい!」
「わあぁぁ、理不尽ッ!」
恥も外聞もない。はたから見たらかなり面白いやり取りになってる気がするけど、当事者の私は必死だ。後ろから繰り出される槍の連撃を、とにかく避け続ける。すると、ようやく助けが……
「そこまでよ!」
「お待ちなさい!」
「凛さん、ルヴィアさん!」
救いの神に見えた。最初に私をエサにした人達とは思えない。私と敵の間に凛さん達が割り込んで立ち塞がった。敵の背後からは、お兄ちゃんと美遊が追い掛けてきている。よし、挟み撃ちだ。
「おっと。邪魔よ。魔術なら、私もそれなりだって言った筈よ!」
「「なっ!?」」
そう思っていたら、敵はさっき切り裂いた拘束帯に魔力を通して利用してきた。凛さん達がそれにあっさりと拘束される。わああん、役立たず! さっきまでの頼もしさは、どこにもなかった。
「こ、この……」
「こっ、拘束帯を逆利用されるなんて!」
『役に立たない人達ですね~』
あっさりと戦線離脱した凛さん達に、ルビーが容赦ない言葉を浴びせる。今回は同意見だけどね。
「だったら、私が。【
「美遊、それは下策よ。私にそれが通じない事は、昨日見せたでしょう?」
「くっ、でも、足止めくらいになら!」
「成程。そういう考え方もできるわね。なら……」
それを見た美遊が、魔力砲を連続で撃ち込むけど、敵は昨日と同じように躱してしまう。美遊は、それでも敵の足止めの為に魔力砲を撃ち続けた。すると、敵は反転して美遊の方に近付いていく。
「なっ!?」
正面から撃ち込まれる魔力砲を悉く躱しながら、美遊に接近する敵。それ見た美遊が、驚きの声を出す。当たり前だ。攻撃を躱しながら接近してくるなんて。しかも、至近距離の攻撃も躱される。
「美遊!」
「遅いわよお兄ちゃん。もう勝負はついてる。カレイドの魔法少女の弱点その一、接近戦」
お兄ちゃんが美遊を助けようとするけど、遅い。弓矢は躱されちゃうから、お兄ちゃんも接近しないと攻撃できないからだ。敵は、美遊に接近してサファイアを奪い取ってしまった。まずい。
「そして弱点その二。ステッキが手から離れて30秒経つか、マスターから50メートル離れると変身解除。ちゃんと持ってなきゃダメじゃない、美遊。という訳で、バイバイ、サファイア!」
『美遊様ああああああああああああ!』
「サファイアァァァァァァァァァァ!」
奪い取ったサファイアを、敵は槍をフルスイングして遥か彼方にかっ飛ばした。サファイアが遠くに離れてしまった事で、美遊の転身は解除されてしまう。美遊までが、こんなにあっさりと……
「待つんだ、こら」
「うふふ。捕まえてご覧なさいってね♪ アーチャーのスピードじゃ無理よお兄ちゃん」
お兄ちゃんが捕まえようとするけど、ランサーのスピードでひらりと躱されてしまう。この敵は、どうもお兄ちゃんを攻撃するつもりはないみたいだ。そんな様子も、私の神経を逆撫でする。
お兄ちゃんが、この子を傷付けるつもりがない様子なのも。敵は、そのままひらりと宙に跳んだ。お兄ちゃんの手から逃れて、私の目の前に着地した。ひッ!? 慌てて逃げようと反転する私。
「流石に、イリヤに手を出させる訳にはいかない!」
「邪魔しないでお兄ちゃん。【
双剣を握り締めて迫るお兄ちゃん。敵は、それを見て足で地面に何かを描いた。すると、私と敵の周りに魔方陣が浮かび上がって、お兄ちゃんの接近を邪魔した。こんな事までできるの!?
「進めないッ……」
「決闘用のルーンよ。さあ、これでアンタももう逃げられないわよ。邪魔も入らないし」
「うぅ……」
『これは流石に、打つ手がありませんね……』
私も外に出られない。私は、もう打つ手がなくなって座り込んだ。まさか、ここまで手強いなんて思っていなかった。用意していた作戦が破られて、凛さん達の魔術も、美遊の攻撃も通じない。
「諦めた?」
「もう……これで……これで……」
お兄ちゃんの動きも読まれてる。ランサーのスピードには対応しきれない。本当に、もう打つ手がない。私は、ただ座り込んだまま敵の接近を受け入れた。凛さん達の叫びが聞こえる。でも……
「これで終わり……」
「さよなら、イリヤ♪」
「……と、思ったでしょ?」
「……は?」
敵が私に槍を突き付け、突き出そうとしたその瞬間。一歩近付いた敵は、私に攻撃を繰り出す事ができなかった。敵の体が、地面に半分沈んでいる。まさか、これを使う事になるなんてね……
「「よっしゃァァァァァァァァァァァァ!」」
それを見て、勝利の雄叫びを上げながら拘束帯を引きちぎる凛さん達。どうでもいいけど、女の人が上げる叫び声じゃなかった。私達の周りにあった四つの魔方陣も、いつの間にか消えている。
そう、私が逃げていたのは、この場所に敵を誘き出す為だったのだ。ここにあったのは……
「そ、底なし沼ァァァァァァァァァァァァ!?」
敵の叫び通り、底なし沼だった。そう、以前凛さん達がはまったあの底なし沼。これは、本当に打つ手がなくなった時の為の最後のトラップ。でも、上手くいくかどうかも分からない罠だった。
「地面に擬態させていたのね! クッ、でもこんな物、すぐに……」
敵も諦めない。底なし沼なんて、どうとでもできると思っているんだろう。敵は右手に魔力を集中して、沼の外の地面に何かを描こうとする。魔術を使うつもりだろう。槍は地面に落ちてるし。
「……あれ!? このっ、何で……」
でも、地面に描かれた文字は何も起こさない。初めて敵が慌て始めた。凛さん達が近付いてくる。
「うふふ。魔術を使おうとしても無駄よ」
「何故なら、その沼は五大元素全てを不活性状態で練り込んだ
「ッ!?」
それを聞いた敵が歯噛みする。私には何の事だか分からないけど、この子には分かるんだ。脱出も抵抗もできなくなった敵は、凛さん達を睨み付ける。それを見た凛さん達は、実に楽しそうだ。
「間抜けな罠だと思ってるでしょうけど、それにはまった時点で貴女の負けは確定したのですわ」
「そう、間抜け……ふっ……ふふふ……」
勝ち誇った二人が、最後にそう締めくくった。どこまでも得意げな様子だった。そして……
「オーッホッホッホ! 間抜け! 間抜けですわー!」
「底なし沼にはまるなんて、こっちこそリアクションに困るわー!」
大爆笑。目に涙を浮かべながら、大笑いする。どうやら、先日自分達が同じ醜態を晒していた事は綺麗さっぱり忘れ去っているらしい。なんて都合のいい頭をしているんだろうと、私は思った。
「ほらほら、どうするのー? こうしている間にもどんどん沈んでいくわよー?」
「うぅうぅうぅうぅうぅうぅ……ッ!」
「あらあら、この子ったら泣いていますわ。可哀想に」
こ、この人達は……何もできなくなって、沼に沈んでいく子供に対してこの言いよう。この人達は本当にダメな人達だと思いました。お兄ちゃんと美遊も、この二人を見て心底呆れ返っている。
「うわ~~~~~~~~~~~~ん!」
敵は、とうとう大泣きしてしまった。そして、もう私に手出しをしないと約束させて沼から救出。ついに黒い私を捕まえる事に成功したのでした。最後は、こっちの方が悪者みたいだったけど……
クロは、兄貴が使わなかったルーンも積極的に使います。
ですが、必殺のゲイ・ボルクはあまり使いません。
魔力の消費が少し多いからです。単独行動のスキルがありませんからね。
そして、コメントでオルタニキは白い肌だと指摘されました。
立ち絵が完全に褐色肌だったので、知りませんでした。
まあ、少し設定を変えればいいだけなんですけどね。
という訳で、このクロが反映させたオルタニキはFGOとは違う存在です。
似て非なる可能性。そもそも、FGOのオルタニキはバーサーカーですが、これはランサーです。
分かりやすい例えを出すと、アポクリファのヴラドとFGOのヴラドみたいな感じです。
なので、ランサー・オルタニキという可能性をクロが反映させたという事にします。
FGOのオルタニキは、そもそも真っ当な存在ではありません。
この辺はFGOのネタバレになるので書きませんがね。
クロが反映させたクー・フーリン・オルタは、兄貴のオルタの可能性の存在です。
FGOのオルタニキと同じような姿をしていますが、褐色の肌という事にします。
その存在の可能性を、クロの暗い感情が反映させたので褐色の肌という感じです。
ステータスも、普通のランサー兄貴と同じで、矢避けの加護のランクもBのまま。
こういう事にしてください。勘違いをして申し訳ありませんでした。
それでは、感想待ってます。