錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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さあ、クロがイリヤの日常を引っ掻き回し始めます。
原作通りですね。

それではどうぞ。


クロの侵略

【イリヤ視点】

 

「な、何でいるの!? 地下室に厳重に監禁されてる筈じゃ……もう脱走? 警備ゆるすぎ!」

 

「クロエ、お前どうやって……」

 

「あの程度の拘禁、私には意味がないの。お兄ちゃんに会いたいから抜け出してきちゃった♪」

 

ルヴィアさんのお屋敷から、色々とあって疲れた私とお兄ちゃんは家に帰ってきた。もう夕方で、今日の晩御飯は何だろうなんて考えながら玄関のドアを開けたら、その先にある存在がいた。

 

そう、その存在とは黒い私、クロだ。そして、お兄ちゃんに抱き着いた。ほんと、お兄ちゃんの事好きすぎでしょ、この子。そして私の方を、一瞬だけ得意気にチラ見してきたのが本当に腹立つ!

 

「待て、セラに見つかったら……」

 

「セラもリズもいないから大丈夫だよお兄ちゃん」

 

「そ、そうなのか……セラは買い物だとして、リズは何で……」

 

「ちょっと待って。それよりも、どうしてあなたがセラとリズの事を知ってるの?」

 

おかしいでしょ。どうして、当たり前のようにその二人の名前が出てくるの? この子って、本当に何なんだろう。お兄ちゃんの事も知ってたし、なんか私の知らない思い出があるみたいな事も。

 

「知ってて当たり前でしょ? 私はアンタなんだから。家族の事くらい知ってるわよ」

 

「なっ……」

 

なんだか、この子を見てると本当にムカつく。私と同じ顔で、同じ記憶を持っている。そんなの、気持ち悪い。まるで、私の方がよそ者みたいじゃない。イリヤは私だし、セラ達は私の家族。

 

何よりも……私は、お兄ちゃんに甘えるクロを見て心がざわつく。お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんなんだ。あなたのお兄ちゃんじゃない! 私はお兄ちゃんの腕を掴んで、クロから引き剥がした。

 

「お兄ちゃんから離れてってば!」

 

「お、おいイリヤ。ちょっと落ち着け」

 

「ふ~ん、私とお兄ちゃんを取り合おうって訳?」

 

「取り合うも何も、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから!」

 

『おお、これは面白い展開になってきましたね』

 

私がお兄ちゃんの腕を掴んで引き寄せると、クロは面白そうに笑って私を見てきた。私は、それに真っ向から対立した。これ以上、クロに好き勝手にはさせない。そう思っていると、クロは……

 

「ふふふ、面白いじゃない。私の気持ちに勝てるっていうなら、見せて貰おうかしら」

 

「な、何を……」

 

「い、イリヤ。クロエ? 二人とも、頼むから落ち着いてくれ」

 

「ふふっ、クロでいいよお兄ちゃん。さあ、私とお話ししましょ♪」

 

「なっ、この……」

 

クロは、私に挑発的な視線を向けた後、満面の笑みでお兄ちゃんの腕に抱き着いた。私とは反対側を掴んで、体を摺り寄せる。そして、お兄ちゃんの体を引っ張ってリビングのソファに移動する。

 

私も一緒に引っ張られて、三人でソファに座った。そしてクロは、さらに過激な行為に出る。体を密着させて、お兄ちゃんの首に腕を巻きつけて抱き着いた。なっ、なんて事をしてくれるの!?

 

「おっ、おいクロエ……」

 

「クロでいいってば♪ な~に?」

 

「いっ、いや、ちょっとくっ付きすぎじゃないか?」

 

「え~? お兄ちゃんは、こうされるのはイヤ?」

 

「い、嫌って訳じゃないけどさ……」

 

「じゃあいいじゃない♪ 兄妹の可愛いスキンシップでしょ?」

 

《やっ、や~め~て~!》

 

クロの暴挙を隣で見せられている私は、心の中でそう叫ぶ事しかできない。お兄ちゃんの首元に顔を埋めて、耳元で囁くクロ。そして、そんなクロに押し切られて何も言えないでいるお兄ちゃん。

 

クロは、私をチラ見して笑みを浮かべる。できるものなら同じ事をやってみろ。クロの視線はそう言っている。さっきの言葉は、こういう事だったのか。私は遅まきながら、それを理解した。

 

「ん~♪ お兄ちゃんっていい匂いがするね」

 

「こ、こら、匂いを嗅ぐんじゃない」

 

「ふふふ、お兄ちゃんってばそんなに狼狽えちゃって。妹を意識して興奮してるの?」

 

「馬鹿を言うんじゃない! また誤解されるだろ!」

 

「お兄ちゃんのシスコン♪」

 

《いっ、いやぁ~~~~~!》

 

もう見ていられない。私と同じ顔で、なんて事してくれるの! こんなの、もうテロだよ! 兄妹の関係をやばい感じに破壊する、テロ行為だわ! 隣で悶絶する私を、クロは完全に無視する。

 

『ははぁ、成る程。クロさんの真の目的は、こういう事ですか』

 

「な、なんの事?」

 

隣で繰り広げられる恥ずかしいやり取りに悶絶していると、髪の中からルビーが出てきてそんな事を言い始めた。クロの真の目的ってどういう事? クロは私を殺す事が目的だったんじゃないの?

 

『クロさんがイリヤさんを殺そうとしてたのは、その先にある真の目的の為だったんです』

 

「……その先にある?」

 

『はい。イリヤさんももう分ったでしょう。クロさんは、士郎さんの事が好きなんです。しかも、恐らくイリヤさんと同じ意味で。つまり、兄としてではなく、一人の男性としてって意味で……』

 

「なっ!? わ、私はそんなんじゃ……!」

 

『おやおや、いまさら隠そうとしたって無駄無駄の無駄です。イリヤさんが士郎さんに特別な想いを抱いている事なんて、見れば誰でも分かりますよ。そして、クロさんの想いも同じなんです』

 

「……」

 

ルビーの言葉に、私は何も言えなくなる。恥ずかしすぎるから! 誰かに指摘されると、この想いが明確になってしまって頭が沸騰してしまう。まともにものが考えられなくなって混乱する。

 

『さて、本題に入りますが、にゃろうの目的はズバリ士郎さんです。その為に、本物のイリヤさんが邪魔だったのですねー。けど、手出しできなくなったから、今度は直接接触している、と……』

 

《さっ……最悪! 最悪の敵だわッ!》

 

そういう事だったのかッ! 今までいまいちクロの目的が見えてこなかったけど、ルビーの推測で間違いないだろう。つまりクロは、私からお兄ちゃんを奪うつもりなんだ。最悪の敵だった。

 

『ん~、ですがイリヤさん。これって、心の中でイリヤさんが望んでいた事では?』

 

「なっ……」

 

『だって、そうでしょう? イリヤさんだって、本当は「兄弟の枠を壊したい。それ以上の関係になりたい」と思っていたでしょう? クロさんは、それを実行しているように見えるんですよ』

 

「ッ!?」

 

確かに、心の奥底ではそう思っていた。恥ずかしくていつも実行はできなかったけど、私の本音はそうだった。認めるのは非常に腹立たしいけど、今クロがやってる事は、私の本当の望みだった。

 

想いの強さでは、絶対に負けてない自信がある。でも、クロは私とは違って恥ずかしがったり、躊躇したりはしない。ストレートにお兄ちゃんに好意を示し、思いっきり甘えている。それは……

 

それは、ある意味で私の理想そのものと言えるかもしれない。だけど、だけどそれじゃあ、まるで私の方が偽物で、クロの方が本物みたいじゃない! そんな事は、絶対に認められないんだ。

 

「……そう。だからって……」

 

クロの目的も、行動も理解した。同じ気持ちを抱く者として、分からなくもない。でも、理解したからと言って、納得できるものじゃない。だから私は、右手を高く高く振り上げた。そして……

 

「黙って見過ごせるほど、私も消極的じゃないッ!」

 

そう叫びながら、思いっきり振り下ろした。クロにじゃなくて、私自身の頬に。バチーン、という音が我が家のリビングに響き渡った。そして、あまりの痛みに蹲る者が二名。それは当然……

 

「うぐぅ……!」

 

「こっ、この……アンタ……!」

 

「なっ、イリヤ。お前何を……」

 

『だ、大丈夫ですかイリヤさん! 自分で自分にマジビンタを……』

 

私とクロだった。そう。クロを止めるにはこうするしかなかった。だってクロは英霊の力を使う。その強さは、もうすでに嫌というほど思い知らされた。例え変身しても、クロを止められない。

 

そんな私がクロの邪魔をするには、凛さんが掛けてくれた、痛覚共有の呪いを利用するしかない。涙目で私を睨んでくるクロを、私も目に涙を浮かべながら見返す。痛みを堪えて、私は笑った。

 

「あなたの好きにはさせない。絶対に」

 

「クッ……」

 

「あのさ二人とも、もう少し仲良く……」

 

お兄ちゃんを無視して、私とクロは睨み合った。さっきの視線のお返しだよ。また同じ事ができるものならやってみなさい。私は、例えこの頬が真っ赤に腫れ上がろうとも全力で止めてみせる!

 

「ふっ、面白いじゃない……! どこまで我慢できるか、見せて貰うわ!」

 

「させない!」

 

『ああ、これは……』

 

そこからは、私とクロの意地の張り合いが展開された。頑なにお兄ちゃんに抱き着こうとするクロと、それを止める為に全力で自分にビンタする私。二人とも、痛みに涙を浮かべてのた打ち回る。

 

「うぅ~~~~……いだぃぃぃぃ~~~~」

 

「中々……やるじゃない……!」

 

「ふ、二人とも、もうやめないか? それと大丈夫か?」

 

『ああ~~~、イリヤさん。なんて面白健気なんでしょう……!』

 

両頬がじんじんと痛む。きっと真っ赤に腫れ上がっているだろう。クロも同じ顔になってるから、それを見れば分かる。笑っているルビーを睨みつけ、私は勝利を確信する。これで私の勝ちだ。

 

「クッ、でも、この程度で私を止められるとでも……」

 

『むむむ、クロさんもめげない!』

 

「お兄ちゃん!」

 

「うわっ、今度はなんだ!?」

 

「なっ!?」

 

でも、クロはまだ諦めなかった。お兄ちゃんの首に正面から抱き着いて、唇を突き出し……って、ちょっと待って! クロが何をするつもりなのかを悟った私は、驚愕で少しの間だけ固まった。

 

「お兄ちゃんッ、キスを……」

 

「ええっ!?」

 

「させるかァァァァァァァァァ!」

 

もうなりふり構っていられない。自分へのダメージも無視して、私は右足を振り上げる。そして、そのまま振り切った。ゴッ、という音が響き渡り、私はあまりの痛みで足を押さえて悶絶した。

 

「イッ、イリヤ!? お前、今凄い音がしたぞ!」

 

「「くうぅぅぅぅぅぅぅ……」」

 

「衛宮君っ、イリヤ! 無事!?」

 

「クロが脱走しまして……」

 

「……イリヤ、どうしたの?」

 

「角にッ……小指をッ……!」

 

右足の小指を壁の角にぶつけたのだ。そうしてクロを止める事に成功した私の耳に、凛さん達の声が聞こえてきた。そして最後の美遊の質問にまともに答えるだけの元気は、今の私にはなかった。

 

「え~っと、とにかく、クロはそこだ。今なら簡単に捕まえられると思うぞ?」

 

「そうみたい、ね……」

 

「何があったかは何となく察しますけれど……」

 

私と同じように痛みに悶絶しているクロを、凛さん達が捕まえてくれた。次からは、是非とも警備を厳重にして欲しい。痛みでまだ動けない私に凛さんが近付いてきて、ある物を渡してきた。

 

「はい。美遊にも渡したんだけど、イリヤにも渡しておくわ」

 

渡されたのは、キャスター、アサシン、そしてシールダーのカードだった。これは……

 

「クロ対策よ。いざとなったら、キャスターのカードを使いなさい。アサシンは敵の攻撃を躱すのに役に立つし、シールダーは盾で防御もできるでしょ。美遊には残りの三枚を持たせてあるわ」

 

「……いいの?」

 

「緊急事態だしね。私が持ってても使えないし」

 

確かに、これらのカードがあれば、役に立ちそうだ。美遊にはセイバーのカードがあるし、いざとなれば【夢幻召喚(インストール)】も使える。あ、そうか。美遊が使っていた方法を使えば、私も英霊に……

 

凛さん達の前では使うなって言われたけど、逆に言えばそれ以外の状況ならこのカードを使って、私も英霊の力を使えるかもしれない。そうなれば、きっとクロにだって十分に対抗できる筈だ。

 

美遊に目配せすると、美遊が小さく頷いた。きっと、美遊が凛さんに頼んでくれたんだろう。このカードを私達に持たせるべきだって。ありがとう、美遊。痛みに堪えながら、視線でお礼を言う。

 

クロを連れて凛さん達は帰っていき、ようやく私の平穏が戻ってきたのだった。

 

「はあ、あいつのせいで本当に疲れた……どこまで私の日常を侵略するつもりなんだろう……」

 

「ま、まあまあ。クロだって、そこまで無茶はしないさ。多分……」

 

だといいんだけど。ドッと疲れた私は、ソファに沈み込むようにして座ったのだった……

 

…………………………………………………

 

そんな事があった翌日、私はいつものように家の前で美遊と合流して、学校に向かっていた。今日はお兄ちゃんは一緒じゃない。部活の朝練で朝早くに家を出たからだ。だから美遊と二人だった。

 

クロ(あいつ)はどうしてる?」

 

「大人しく地下室にいる筈だよ。ただ、もう何も話す気はないみたい」

 

「どういう事?」

 

「実は、あの後ルヴィアさんが聞いてみたの。士郎さん達はいないから、正体を教えなさいって。そしたら、『もう話せないわね。あの時はお兄ちゃんの顔を立てたけど、もう終わり』って」

 

「なにそれ。あの時が最後のチャンスだったって事?」

 

「そうみたい。嘘を付かないって誓いを立てたのはあの時だけって言ってたから」

 

あの時はお兄ちゃんがクロを庇って誠意を見せたから話すと誓ったけど、それは終わったという事だろう。美遊によれば、クロはもう二度と話す気はないと言ったらしい。理屈は分かるけど……

 

「屁理屈だよね」

 

「うん。でも、間違った事は言ってないよ」

 

『一応、言い分に筋は通っていると私も思いますが……』

 

美遊とサファイアは、納得しているという事らしい。むう……頭がいい二人がそう言うと、私じゃ何も言えなくなる。仕方ないからこの話題は終わりにして、私は昨日のルビーの推測を教える。

 

「……つまり、クロの本当の目的は士郎さん?」

 

「まだ分からないけど、その可能性は高いと思う」

 

「……へえ」

 

クロの目的。それを話すと、美遊も穏やかな気分ではいられなくなったらしい。二人して黒い感情を発しながら、私達は学校に着いた。そして、取り敢えず今はその事を忘れて教室に向かった。

 

その先に何が待ち受けているのかを、知る筈もなく……

 

…………………………………………………

 

「「「イィィィィィィリィィィィィィヤァァァァァァアアア!」」」

 

「はい?」

 

「これは何?」

 

自分のクラスの教室に足を踏み入れた私達を、嶽間沢龍子、森山那奈亀、栗原雀花の友達3人組が出迎えてきた。鬼の形相で。突然の歓迎に訳が分からない私達は、揃って首を傾げた。なんなの?

 

「てめこらイリヤッ、どういうアレだオアーッ!」

 

「アンタって、兄貴ラブのブラコンだけじゃなかったの!」

 

「アンタの性癖は自由だけど、人を巻き込まないでくれる!?」

 

状況が掴めない私に、タツコ達はぎゃあぎゃあと喚き立てる。なんだか、謂れのない罪を着せられているような気がする。特にナナキとスズカ。私を変態か何かだと思っているような口ぶりだ。

 

「な、なにッ!? なんの話!? 私なにかしたっけ!?」

 

物凄い形相で迫ってくる3人に、私はそう聞いた。すると、3人はピクリと体を震わせて固まる。なんだか嫌な予感がする。3人は、おばけみたいにゆらりと体を揺らして、私を睨みつけてきた。

 

「「「……なにか……だと……?」」」

 

あれ、もしかして私、地雷踏んだ? 3人の体から、変なオーラが立ち上っているように見える。私はそんな3人に気圧されて、一歩後ろに下がった。すると、3人はその距離を一気に縮める。

 

「「「人に無理やりチューしといて、すっとぼけんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」」」

 

「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」

 

なにそれ!? 私、そんな事した覚えないよ!? というか、ファーストキスもまだなんだけど! その相手はお兄ちゃんだって決めてるし、この3人にキスしたいとも思わない。どういう事?

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ皆! なんの事だか、私さっぱり分かんないんだけど!」

 

「分かんない訳ないだろ! ついさっきの事だぞ!」

 

私が心当たりがない事を話すと、タツコが胸倉を掴んできた。怖い。教室の入り口で、そんな風にわいわいやってると、後ろから肩を叩かれた。今度はなに!? 慌てて振り向くと、そこには……

 

「……先生?」

 

私達のクラスの担任の先生である、藤村大河先生がいた。先生は、静かに涙を流しながら私の目を見つめてくる。な、なんだかまた嫌な予感が……内心でドン引きしている私に、先生は告げる。

 

「イリヤちゃん……私、ファーストキスだったの。責任、取ってくれる?」

 

「せんせえぇぇぇぇぇぇ!?」

 

とんでもない事を言い出した。身に覚えがなさすぎるよ! 隣の美遊を見ると、顔を赤くして唇を押さえている。いや、美遊? その反応はなに? もしかして、美遊も私がそんな事をしたと?

 

「あの、イリヤ……私は、友達としてはイリヤが好きだけど、そういう事はちょっと……」

 

「待って美遊! お願いだから逃げないで! 私もそんな事をする気ないから!」

 

「節操なしにもほどがあるぞイリヤ!」

 

喪女(もじょ)のファーストチューまで奪うとは、なんたるキス魔!」

 

「喪女言うな!」

 

もう滅茶苦茶だった。なんだか、お兄ちゃんの苦労が少しだけ分かった気がする。収拾が付かなくなってきた事態に目を回しながら、私はそんな事を考えていた。お兄ちゃん、いつもお疲れ様。

 

そう思いながらも、私の体は動いていた。条件反射的に、この事態に対する手段を取る為に。私が行動すると同時に、後ろから雄叫びのような叫びがいくつも上がった。そう。この時、私は……

 

「こらーっ! チューだけしておいて逃げるなイリヤーっ!」

 

「責任取れーっ!」

 

「追いかけるぞ、皆!」

 

「「「おうっ!」」」

 

全速力で逃げ出していた。だって、あんなの私に処理できる限界を超えてるよ! 訳も分からないまま、とにかく追っ手から逃げる。後ろを振り向くと、全員物凄い形相で追いかけてきていた。

 

「ひいぃぃ!?」

 

「イリヤは逃げて! 私が時間を稼ぐ!」

 

「美遊!?」

 

その時、私と追っ手の間に立ち塞がった人影。美遊だった。親友の笑みを向けられた私は、思わず涙を零した。信じてくれたんだね、美遊。ごめん、後でなにか埋め合わせはするから。任せるね。

 

「上等だッ!」

 

「お前にもチューしてやる!」

 

「私達の苦しみを思い知れッ!」

 

「ひっ!? ま、負けない! 私の唇は、ある人に捧げるって決めてるんだから!」

 

美遊、その発言も少し危ないよ? 相手はお兄ちゃんだと思うけど、言葉が重い。気を付けてね。美遊の犠牲を無駄にしない為にも、絶対逃げ切って見せる。そう決めた私は、屋上に駆け上がる。

 

「でも、どういう事だろうね、これ?」

 

『う~ん、これはやはり……』

 

ルビーに聞きながらも、実は私にも心当たりがあった。そう、これは多分……頭の中で推論を立てながら、私は屋上の扉を開け放った。するとそこには先客がいた。二人の人間が寄り添うように。

 

「い、イリヤちゃん……これはどういう事?」

 

「ふふ、大人しくしてねミミ。すぐに終わるから……」

 

やっぱり、クロ(こいつ)かーっ! その光景に、私は走ってきた勢いそのままに、床の上を滑ってこけた。クロは私のもう一人の友達である桂美々を壁に押し付けて、今にもキスする寸前の状態だった。

 

「んむっ!?」

 

「ミッ、ミミーッ!」

 

遅かった。クロはそのままミミの唇を奪い、気絶させてしまった。な、なんて事をしてくれる!

 

「なにやってるのよッ!」

 

「魔力の補給よ。一般人からじゃ大して補給できないけどね」

 

『ははあ、そういう事でしたか。二連戦で消費した魔力を補給してたんですね?』

 

「そういう事。これ(キス)が一番効率がいいし、一般人からでも手軽に補給できるから」

 

ルビーとクロが、訳が分からない会話をするけど、私はもう、我慢の限界だった。魔法少女の姿に変身して、昨日の夜に凛さんから渡されたキャスターのカードを取り出す。これを使えば……

 

『ま、待ってくださいイリヤさん! これは、クロさんに使うのはまずい宝具ですよ!』

 

「……へえ。やる気なのね?」

 

「……これ以上私の日常を侵略する気なら……」

 

この場の空気が一触即発になりかけた時だった。私達の横の屋上の扉が、向こう側から押し開けられた。その方向に目を向けると、そこにはタツコ達が倒れていた。私は、またしても固まった。

 

「ご、ごめんイリヤ……抑えられなかった……」

 

「なっ、これはどういう事?」

 

「イリヤが二人いるぞ!?」

 

「しかも、なんだイリヤその恰好は!」

 

「学校でコスプレ?」

 

「うあうぉぅああああああ……」

 

【ああ、ついにイリヤさんの処理限界を超えましたね……】

 

もう駄目だ。色んな意味で駄目だ。クロを見られた。魔法少女姿を見られた。言い訳不能……

 

「くすっ、初めまして皆さん。私、イリヤの従妹で、名前はクロエ・フォン・アインツベルンって言います。実は来週から転校してくる予定だったんですけど、今日はその下見にきたんです♪」

 

なっ、この上、なにを言い出すのこの子!? 私の驚きを無視して、事態はどんどん進んでいく。クロは、あっという間に既成事実を築き上げていく。私が口を挟む隙は、微塵もなかった。

 

「という事だから、皆よろしくね♪」

 

もう、こうなったらこうするしかない。この格好について聞かれる事だけはなんとか回避しようと思った私は、再び全速力で、この場から逃げ出したのだった。そして、最後にこう思った。

 

ああ、こいつ……ついに私の学校生活まで侵略してきやがった、と……




原作と同じなようで、少し違う部分も出す感じでやってます。
前回のクロの語りは、あの時だけの限定サービスでした。
あの時に士郎とイリヤを退席させてれば話したんですけどね。
一度決めた誓いは守りますが、それから外れたら守らない。
そんな感じです。

それでは、感想待ってます。
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