人を一つにするのに最適なのは? 答えは、共通の敵です(笑)。
【士郎視点】
「どーゆー事ッ!?」
俺は、イリヤと美遊の二人と共にある場所に来ていた。放課後に部活に向かおうとしていた所を、一緒に来て欲しいと連れ出された。どこに行くのかと思えば、その場所はルヴィアの屋敷だった。
部活もやっておらず、車で帰宅したルヴィアは先に帰っていた。突然やってきて物凄い剣幕で迫るイリヤに、ルヴィアは怪訝そうな目を向けてきた。イリヤは、ルヴィアの前にある机を叩いた。
「あら、どうしたんですのイリヤスフィール。
「どうしたもこうしたもないよッ!? なんで、
「はあ?」
「い、イリヤ。落ち着いて……」
「何があったんだよ? 俺もまだ詳しい事情は聞いてないんだから、説明してくれよ」
一気に捲し立てるイリヤに、ルヴィアは訳が分からないという顔で疑問符を浮かべる。いきり立つイリヤを美遊が何とか落ち着かせようとしてるが、正直俺も何があったのかを教えて欲しい。
ここに来る道中に何度も聞こうとしたんだが、イリヤの迫力に何も聞けなかったんだ。今の言葉で何となくそれを察する事はできたけど。またしても脱走したクロが、何かやらかしたんだろう。
「実は……」
興奮してまともに話す事ができそうにないイリヤに代わり、美遊が学校であった事を話し始める。イリヤ達のクラスにクロが現れて、人間関係を散々引っ掻き回したと。具体的に何をしたんだ?
「そっ、それは……えと……私の友達に片っ端から……その、ちゅ……チューを……うあーっ!」
「聞かないであげてください……」
「えっと、その……ごめん、イリヤ」
「ううぅぅ~~~……」
イリヤは、もじもじと言い難そうに口ごもり、顔を真っ赤にして体を震わせた後に、堪え切れなくなったという感じに雄叫びを上げた。小声で口ごもっていたから詳しくは聞こえなかったが……
美遊の言葉に、俺は詳しくは聞かずにイリヤの頭を撫でてやる。どうやら、相当に恥ずかしい事をされたらしいな。さっきまでの怒りはそれが理由か。その話を聞いたルヴィアは、ため息をつく。
「地下倉庫の物理的、魔術的施錠は完璧でしたわ。それこそ、アリ一匹通る隙も無いくらいに」
「なら、どうして!?」
「そんな事、わたくしが知りたいですわ。どれほど厳重に閉じ込めても、あの子はそれをたやすく破るんですの。一体、どんな手を使っているのか……まるで、狐につままれたような気分ですわ」
どうやら、ルヴィアの方でもクロの事は頭が痛い問題らしい。そういえば、昨日俺達の家に来た時もクロは言っていたっけ。あの程度の拘禁、私には意味がないって。いつでも抜け出せるのか。
「そもそも監禁なんて、する必要ないんじゃない?」
「「「「!?」」」」
突然聞こえてきた声に、俺達は一斉にそちらを見た。すると、いつの間にそこにいたのか。クロが後ろにあったテーブルに座って優雅に紅茶を飲んでいた。傍らには、クッキーまで置かれている。
な、何という完全くつろぎスタイル……それを見たルヴィアも頭を押さえてため息をついている。曰く、昨日の夜からこんな事ばかりなんだそうだ。確かに、これでは手の打ちようがないな。
つい数時間前に学校生活を滅茶苦茶にされたばかりのイリヤは、クロを見るなり頬を膨らませて、クロを睨んでいる。完全に臨戦態勢だ。美遊までもが、警戒心を最大にしている様子だった。
一方で、昨日から何度もこんな状況になってるらしいルヴィアは諦めて嘆息している。無駄に警戒するだけ馬鹿らしいとでも言っているようだ。そんな俺達の反応に、クロは落ち着いた声を出す。
「そもそも、どうしてわざわざ閉じ込めようとするのかしら? だって、もう私は、呪いのせいでイリヤには手出しできないし、誰かに害意がある訳ではないわ。閉じ込める必要はないでしょ?」
確かに。今まで、クロがイリヤ以外を傷付けた事はないし、傷付けようとした事もない。だから、俺はクロを厳しく尋問する事を反対した。遠坂が施した呪いによって、イリヤの安全も保障済み。
俺としてはもうクロを閉じ込めておく理由はなかった。もっと普通に話してみたいし、クロの話も聞いてやりたいと思っているくらいだ。そう思ってルヴィアの様子を見てみる。複雑そうな顔だ。
「私はただ、普通の生活がしてみたいだけ。10歳の女の子として普通に学校に通う。それくらいの望みは、叶えてくれても良いんじゃない? 誰かを傷付けるような事はしないって誓うから」
「……誓い、ときましたか」
「そう、誓い。私は、自分で言うのもなんだけど誓いは必ず守るわよ? 余程の事がない限りね」
誓いと口にする時、クロはいつもの軽い感じを捨てて真剣な顔になる。その言葉の重さは、小学生の見た目にはミスマッチの筈なのに、何故か違和感がなかった。英霊の格とでもいうべき感じか。
「うぬぬ……おのれこやつめ、戯言を弄するか!」
「イリヤ、何その変な口調!?」
「あ~、昨日の夜、時代劇見たからな……」
ところが、そんな厳かな雰囲気をぶち壊す我が妹。気持ちは分かるんだが、今は空気を読んで欲しいと思ってしまった。イリヤからしてみたら、クロはどこまでも気に入らない存在なんだろう。
「落ち着くんだイリヤ。えっとさ、ルヴィア……俺からもお願いできないかな?」
「分かりましたわ
「「「ええっ!?」」」
自分で言っておいてなんだけど、それでいいのかルヴィア。ダメ元で頼んだら、即OKされて俺達は驚いた。ルヴィアはルヴィアで、シリアスな雰囲気をぶち壊す天才だと思う。何で即答なんだ?
「えっと、その……本当にいいのか? そんなに簡単に決めて。許可してくれるなら嬉しいけど」
「勿論ですわ、
「ちょっ、ちょっと待ってよルヴィアさん!」
何かの間違いかと思って確認してみるが、ルヴィアは全然大丈夫と言ってきた。というか、大抵の事は押し通すって……その言葉に冷や汗を流す俺だったが、当然イリヤは黙っていなかった。
「ただし、先ほどの貴女の誓いに追加で条件を出します。これを飲むなら、ですわ。許可なく屋敷を出ない事、あくまでイリヤスフィールの従妹として振る舞う事。これを誓ってくださいな」
だが、ルヴィアはイリヤを無視して話を進めていく。イリヤは事態についていけず、呆然とする。この辺は、後で俺がフォローをしてやらないといけないな。俺の頼みでこうなってるんだし。
「勿論誓うわ。それで学校に行けるなら」
ルヴィアの出した条件に、クロは大人しく従った。イリヤは納得がいってないようだけど、ここは我慢して貰うしかない。ここでクロの提案を拒否して、クロの機嫌を損ねるのはまずいしな。
ルヴィアも、きっとその辺の事も考えてくれていると信じたい。クロに出した条件も真っ当なものだったし。こちらで制限を付けて、クロを上手く制御するとか。うん、きっとそうに違いない。
「良かったな、クロ」
「うん。お兄ちゃんのお陰だよ」
「大げさだな。きっと、ルヴィアなら俺が言わなくても許可をくれた筈だぞ?」
ルヴィアが、執事さんを呼んで何やら命令しているのを横目で見ながら、俺はクロと話す。クロは本当に嬉しいらしく、ご機嫌な様子だった。そんなに学校に行きたかったのか。良かったな。
「戸籍、身分証のでっち上げと転入手続きを。美遊の時と同じですわ」
「承知しました。14時間で終わらせましょう」
ちょっと待てルヴィア。今、何か聞き捨てならない事を言わなかったか!? 一気に、犯罪じみた気配を感じてしまった。だけど、美遊の時と同じってどういう事だ? そっちも気になるぞ。
俺の横で、憤慨しているイリヤを宥めている美遊を見る。美遊は、一体どんな存在なんだろうか。クロと同じくらい美遊の事を何も知らないという事に、俺はこの時改めて気が付いたのだった。
…………………………………………………
そんな事があってから、二日が経った。今日は日曜日だ。クロは、明日から穂群原学園の小等部に通う事になっている。あれからイリヤを宥めるのは本当に大変だったが、何とか納得してくれた。
そんな事を考えながら、俺は今朝の朝食とお弁当を作っていた。本当は、今日の朝食を作る当番はセラだったのだが、こっちも必死に説得して俺が作る許可を頂いていた。その理由は、お弁当だ。
今日はとある理由でお弁当を作らなければならず、そのついでに朝食も作らせてくれと頼み込んだんだ。セラと一緒に厨房に入る事になって、非常に効率が悪いと説得し、何とか許可を頂いた。
渋々といった感じで、どう見ても不満たっぷりの様子だったけどな。今だって、厨房の入り口から恨めしそうに睨んできてるし。セラらしいけど、たまにくらい任せてくれたっていいじゃないか。
「え~っと、セラ……」
「……何ですか?」
「ついでだから聞きたいんだけどさ。セラだったら、俺とどこに行きたい?」
「はあっ!? 何ですかその質問は!」
「え、何でそんなに驚くんだよ?」
「な、何でって……ああ、もう! 知りません!」
ええ~? 何だよその反応は。せめて質問の答えくらい教えてくれよ。セラの訳が分からない反応に困惑しながらも、俺はまあいいかと判断して朝食作りを続ける。出来上がったのは8時半。
「いい時間だな。さて、イリヤを起こすべきかどうか……」
「セラが起こしに行ったよ? だから、もうすぐ下りてくると思う」
「そうか」
出来上がった朝食をテーブルに並べながら呟くと、リズがそう教えてくれた。日曜日の朝くらい、ゆっくり寝かせてやりたいけど、やっぱり一緒にご飯は食べたい訳で。はは、我ながら勝手だな。
「おはようお兄ちゃん」
「ああ、おはようイリヤ」
「あれ、今日の当番はお兄ちゃんじゃなかった筈じゃ?」
「ちょっとな。その話は後でしてやるから、今は食べよう」
起きてきたイリヤは俺が朝食を作った事に疑問を持ったようだが、俺は適当に流して食事を促す。それからはいつもの朝食風景が繰り広げられた。全員が食べ終わり、片付けを終えると9時半。
「よし、そろそろ行くか」
「お兄ちゃん、どこか行くの? お弁当も作ったって言ってたし……」
「ああ。ちょっと、友達の買い物に付き合う約束があってな」
「へえ。二人分のお弁当って事は、二人で行くんだよね。一成さん?」
片付けをしながら軽く事情を話しておいたイリヤが、俺が手にするお弁当を見ながら聞いてくる。俺は、それに笑みを浮かべながら答える。俺の友達は一成だけじゃないぞ、と。そして……
「【森山奈菜巳】っていう名前の女の子だよ」
そう付け加えた。その結果どうなるのかを、まったく知る由もなく。
「はあああああああああああああっ!?」
イリヤの絶叫が、衛宮家のリビングに響き渡ったのだった……
…………………………………………………
【イリヤ視点】
「美遊! って、
「イリヤ……ルヴィアさんから聞いたんだけど、今日……」
「お兄ちゃんが、女の子とデートするらしいのよね」
「知ってる。私も、今朝お兄ちゃんから直接聞いた」
とんでもない事実を聞いた私は、美遊に相談する為に、向かいの屋敷を訪ねようとした。けれど、屋敷の門の前にはすでに私を待っていたらしい二人の人影がいた。それは、美遊とクロだった。
「ルヴィアさんから、士郎さんの後をつけて様子を報告しなさいって言われたの」
「まあ、そんな命令なくても私と美遊は後をつけたけどね」
「……そっか」
クロに対して思う事は色々ある。それこそ、山ほどある。だけど、今はそんな事すらどうでもいいと思えた。美遊とクロの目には、私と同じ炎が灯っていたからだ。それだけで、仲間だと思った。
「あなたに言いたい事は山ほどある」
「それは私も同じよ」
「でも……」
私達は、三人で顔を見合わせる。思いは一つだ。確かめるまでもなかった。私達は、同時に頷く。そして全員で右手を前に出して重ねた。今だけは、全てのしがらみを捨てると、そう誓った。
「いい雰囲気にならせないようにしよう」
「言われるまでもないわ」
「うん……」
『おお、敵味方の枠を超えた友情パワーですね!』
『……そんなに綺麗な同盟には見えませんが……』
『何を言っているんですかサファイアちゃん。これは乙女の聖戦なんですよ?』
『知りませんよ』
こうして、私達は共通の目的の為に一時休戦をして、団結したのだった。ルビーの機能を使って、お兄ちゃんの居場所はすでにトレースしている。だから、すぐにその後を追いかける事にした。
…………………………………………………
「相手の女の子は、まだ来てないみたいだね」
「そうみたいね……ああ、お兄ちゃんの私服姿もかっこいいな。いつもより気を使ってるかも」
そうしてやってきたのは、駅前だった。ここらでは定番の待ち合わせ場所に、お兄ちゃんが立っていた。クロの言葉通り、お兄ちゃんはいつもより服装に気を使っている気がする。一体どうして?
「……つまり、相手の人は士郎さんにとって特別な人なの……?」
その理由を考えたくないと思っていると、美遊がそれを口にしてしまった。それを聞いた私達は、三人で身悶えしそうになってしまった。それを口にした美遊自身まで。何してるんだろ、私達。
『あ、相手の女性が来ましたよイリヤさん』
「うそっ!」
「……あれか」
「……可愛い人」
ルビーの言葉に顔を上げると、お兄ちゃんの前に女の人がいた。美遊の言葉通り、とても可愛い人だった。ふわふわの柔らかそうな髪に、おっとりとした雰囲気。そして、何より胸が大きかった。
「何を話してるんだろう……」
「こうなったら、ルーン魔術で……」
『ここは私にお任せあれ! ルビーちゃん24の
『まったく、姉さんは……』
お兄ちゃんと女の人が何かを話している。それを何とかして聞けないかと悩んでいると、髪の中にいるルビーがいつものように形態を変化させた。スピーカーとイヤホンを組み合わせたような形。
『ささ、皆さん。これを耳に付けてみてください』
ルビーは、そう言ってイヤホンのような部分を差し出してきた。言われた通りにそれを耳に付けてみると、お兄ちゃんの声が聞こえてきた。いつも思うけど、無駄に多機能だよね、ルビーって。
《さて、まずはどこに行くんだ森山?》
《え、えっと……その、まずはお洋服を買いたいなって思うんだけど……》
《洋服か》
《う、うん。それでね、えっと……できれば、衛宮君に選んでもらいたいんだけど……》
《俺に? でも、俺って女の子の好きそうな服のセンスはないぞ?》
《だ、大丈夫! 衛宮君が気に入ってくれればそれでいいから!》
《え?》
《あっ、その……そうじゃなくて、あの……》
《? 良く分からないけど、俺が森山の似合うと思った服を選べばいいんだな?》
《うん。お願いできる……かな?》
《お安い御用だよ》
《やった。嬉しいな、えへへ》
……なに、この女! 私達の心が、一つに重なったのが分かった。確認するまでもない。この女は私達の敵だ。私達は視線を交し合って一斉に頷く。そして、歩き出した二人の後を追うのだった。
私達の戦いは、これからだ!
という訳で、次回は士郎と森山姉のデートを邪魔する妹達です。
果たしてどうなるのか、お楽しみに。
それでは、感想待ってます。