錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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今回は、シリアスとギャグの融合です(笑)
イリヤと美遊による妹大戦。
お兄ちゃんをめぐるブラコン妹達の絶対に負けられない戦いの火蓋が、今ここに切って落とされたのだった……


真妹大戦 シスターウォーズ

【イリヤ視点】

 

「ーーーっ! お兄ちゃん!」

 

「……は?」

 

「ハアアアアアアアッ!?」

 

なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子なに言ってるのあの子!!!

 

「あれは……サファイア!?」

 

『あ、ほんとですね~。サファイアちゃんですね。あの子も、随分と良い感じのマスターに出会えたようで、お姉ちゃんは嬉しいですよ。あれこそ魔法少女ですよね』

 

「魔法少女らしくなくて悪かったわね! それにしても、お兄ちゃんって一体どういう事? まさかあの子も衛宮くんの妹?」

 

「……」

 

凛さんは、何を言ってるの? ナニヲイッテルノ、リンサン……お兄ちゃんの妹は、この世界で私だけだ。なら、あの子は? 私はしばらく考える……結論。私の敵だ!

 

「……ルビー……」

 

『はいはい、何ですかイリヤさ……うわ、怖い顔ですね~、イリヤさん!』

 

「うわっ、本当だ! イリヤ、ちょっと落ち着きなさい! 何するつもり!?」

 

「何をする? あはは、そんなの決まってるよ凛さん……行くよルビー!」

 

『おお! これは予想外に面白そうな展開になりましたね! 了解ですイリヤさん! これこそ魔法少女的展開ですよ!』

 

「待ちなさいイリヤ! それにルビー! あんた本当にいい加減にしなさいよね!」

 

凛さんが私を止めるけど、もう私は止まらなかった。止められる筈がなかった。私はルビーを手にしてお兄ちゃん達の所に突っ込んでいく。だってこれは、妹という立場を賭けた戦いなんだから!

 

「私のお兄ちゃんから離れて!」

 

「なっ、イリヤ!?」

 

「っ!?」

 

『いけ、イリヤさん! 本家の妹として、この戦いは絶対に負けられませんよ!』

 

『ルビー姉さん!?』

 

私は、お兄ちゃんに抱き付いてる女の子にルビーで殴りかかる。謎の女の子、いや、『偽妹(ぎまい)』はルビーによく似たステッキで、私の一撃を受け止めた。お兄ちゃんを遠くに突き飛ばして。中々手強いらしい。

 

偽妹は、私の攻撃を受け止めた時に、苦い表情を浮かべた。何かを後悔したような、そんな表情を。でも私は、そんなのはどうでも良かった。問題は、この偽妹が私からお兄ちゃんを奪おうとしている事だけだ。

 

「ま、待って、少し話を……」

 

「する気はない! お兄ちゃんは、絶対に渡さないんだから! お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから! この偽妹!」

 

「……サファイア……」

 

『美遊様?』

 

「まずは叩き潰そう」

 

『美遊様!?』

 

『こ、これはさらに面白い展開!』

 

『姉さん、待ってください!』

 

やっぱり! 私は確信した。この偽妹は、私の敵だって。女の子なら誰でも持ってる勘が教えてくれる。この子の正体とか理由とかはどうでもいい。そんな事、私はまったく興味ない。私は偽妹を睨み付ける。

 

偽妹も、私を睨む。その視線が、何よりも雄弁に気持ちを伝えてくる。この子は私と同じ気持ちをお兄ちゃんに抱いてるって。目を合わせるだけで伝わる事がある。偽妹にも、私の気持ちが伝わったんだと思う。

 

「っ!?」

 

私を睨む視線が鋭さを増した。私も、視線の鋭さを強める。お互いに、至近距離で睨み合いながら鍔迫り合いをする。ギリギリという音が鳴り響いて、私達の周囲の空気が震える。絶対に負けられない戦い。

 

そう、これはまさに【真妹(しんまい)大戦】なんだ!

 

「やあっ!」

 

「っ!」

 

「そこっ! 【砲射(フォイア)】!」

 

私が力を込めると、偽妹は後ろに下がる。私はその隙に、全力の砲射を撃った。偽妹は一瞬だけ怯んだけど、すぐに同じくらいの大きさの砲射を撃ち返してきた。どうやらあのステッキは、ルビーと同じらしい。

 

「私は偽妹じゃない……!」

 

「偽妹だよ! お兄ちゃんの妹は、世界で私だけなんだから! 【速射(シュート)】!」

 

「っ!? それは……だけど!」

 

『その調子ですよイリヤさん! 今の貴女は最高に輝いてます! もっとですよ!』

 

『何を言ってるんですか姉さん! 美遊様もやめてください! これでは、凛さん達と同じではないですか!』

 

『サファイアちゃんこそ、何を言っているんですか? これは、恋する乙女の聖戦なんです! あんな年増達の醜い争いとは、まったく次元が違うんですよ!』

 

ルビーと偽妹のステッキが、何か言ってるけど関係ない! 私は一刻も早くこの偽妹を倒そうと速射し続ける。偽妹も、速射を連発して私の攻撃を相殺し続ける。駄目、このままじゃ埒が明かない。

 

どうやってこの均衡を破ろうかと、私達はお互いに考えていた。そして、私達は奇しくも同じ結論に至った。それは……

 

「ルビー!」

 

「サファイア!」

 

同時に叫ぶ私達。私達は、限界まで魔力を高めた全力砲射を放つ事にしたんだ……

 

…………………………………………………

【美遊視点】

 

しまった。私は心の中でそう呟いた。この世界に来た私は、一つだけルールを決めていた筈だった。それは、元の世界の人間関係をこの世界に持ち込まない事。私にとっては知ってる人でも、この世界では他人。

 

だから、私はこの世界で一からスタートをするつもりだった。例え、どんな人が相手でもそのルールは破らないようにしようと決めていた。だけど、そんな私にも我慢できない人がいた。たった一人だけ。

 

まさか、その人と初期に、しかもこんな所で会うとは思ってなかった。私の、世界で一番大切な人。我慢できなかったのは、心の準備ができてなかった事が原因だった。私の大好きなお兄ちゃんと同じ人。

 

しかもその人は、お兄ちゃんと同じような雰囲気を纏っていた。この私が我を忘れて錯覚してしまうほどに。お兄ちゃんと同じ顔で、お兄ちゃんと同じ雰囲気で見つめられて、お兄ちゃんと同じ声で喋った。

 

理屈では分かっていたつもりだったのに。当たり前の事だし予想もできた。この世界のこの人は私のお兄ちゃんじゃないって。存在が同じなだけで、私の事も知らない。頭と理屈では分かっていた筈だった。

 

それなのに、実際に目の前に現れたら理屈なんて消し飛んでしまった。お兄ちゃんが私を見ている。私に話し掛けてくれてる。二度と会えないと諦めてたお兄ちゃんが! その瞬間、理性なんて消し飛んだ。

 

どうしようもないほど涙が溢れて、その人に抱き付いていた。私の為に全てを懸けて戦い、私に未来をくれたお兄ちゃん。その人と同じ存在と言える人。真っ白になった頭で、その温もりに身を委ねていた時……

 

「……『美遊』……?」

 

「っ!?」

 

……え? 頭上から聞こえてきた声に、私は理性を取り戻した。今、この人は、何て言ったの? 美遊と言ったの? どうしてこの人が私の名前を知っているの? この世界の人が私の名前を知っている筈は……

 

驚いて顔を上げる私の頭を、戸惑いながらも優しく撫でてくれる、この世界の士郎さん。こんな事はあり得ない。きっと何かの間違いに決まってる。冷静な私が頭の中でそう言うけれど、私はもう我慢できない。

 

「お兄ちゃ……」

 

「私のお兄ちゃんから離れて!」

 

「なっ、イリヤ!?」

 

「っ!?」

 

感極まった私が再び強く抱き付こうとしたその時、横から、怒りに満ちた声がした。私は咄嗟に士郎さんを突き飛ばして、この場から遠ざけた。そんな私に、カレイドステッキを振り下ろす銀髪の女の子がいた。

 

私もサファイアでその一撃を受け止めた。鍔迫り合いになる。そして至近距離から、私を睨み付ける女の子。『私の』お兄ちゃん。その言葉から、恐らくこの世界の士郎さんの妹であるという事が伺える。

 

しまった。これは完全に私が悪い。罪悪感と自己嫌悪が私を襲う。この世界の士郎さんは私のお兄ちゃんじゃない。改めて、その事を見せ付けられる。この子のお兄ちゃんなんだ。鋭い痛みが私の胸を襲った。

 

「ま、待って、少し話を……」

 

だから謝ろうとした。話をしようとした。でも、彼女は聞く耳を持たなかった。怒りの声で彼女は叫ぶ。禁断の言葉を。

 

「する気はない! お兄ちゃんは、絶対に渡さないんだから! お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから! この偽妹!」

 

「……」

 

その言葉に、私の中の何かが切れた。頭の中で、プツリと音が聞こえた。偽妹という単語が、私から冷静さを奪ったのだった。

 

「……サファイア……」

 

『美遊様?』

 

「まずは叩き潰そう」

 

『美遊様!?』

 

こうして、私達はお互いのお兄ちゃんへの想いをぶつけ合う事になったのだった。

 

そう、これはまさに【真妹大戦】だった。

 

「私は偽妹じゃない……!」

 

「偽妹だよ! お兄ちゃんの妹は、世界で私だけなんだから! 【速射】!」

 

「っ!? それは……だけど!」

 

ぶつかる内に、この子も、私と同じ気持ちをお兄ちゃんに抱いている事が分かった。もしかして、この子も血が繋がっていないのかな。私達は、戦いながらお互いの気持ちをぶつけ合う。どちらも引かない。

 

その中でも、偽妹という単語が私の神経を逆撫でする。確かに、私とお兄ちゃんは本当の兄妹じゃない。でも、最後にお兄ちゃんは、私に言ってくれた。自分は私のお兄ちゃんだから、妹を守るのは当たり前と。

 

彼女はそんなつもりで言っている訳じゃない事は分かってる。でも、それでも私は否定させる訳にはいかない。彼女が正しい事も十分に理解している。それでも駄目だ。これはもう、理屈じゃないんだ。

 

「ルビー!」

 

「サファイア!」

 

だから私は、この子に負ける訳にはいかない。理屈を超えた感情が、私から冷静な判断を失わせる。私達は、お互いに全力砲射を放つ為に限界まで魔力を高めた。

 

…………………………………………………

【士郎視点】

 

「……」

 

謎の女の子に抱き付かれている俺は、困惑しながら女の子を見下ろした。この子には見覚えがある。だけどそれは、俺の夢の中の話だ。こんな話を誰かにしても、きっと妄言だと笑われてしまうだろう。

 

だけど俺には、ただの夢だと片付ける事はできなかった。何故なら、俺の心が叫んでいるからだ。長年、イリヤのお兄ちゃんをやっている俺には分かる。この少女の悲しみが。この子は今、助けを求めている。

 

それに……この子が妹のような気もする。あの夢が原因だった。そんな事を考える俺の頭に、再び鋭い痛みが走った。そして、また浮かんでくるビジョン。魔法陣の中心に寝かされてるこの子と、それを見る俺。

 

『美遊……俺の妹を、頼むよ……』

 

『任せろ』

 

「……『美遊』……?」

 

そう、この子の名前は、美遊だ。もう一人の俺が教えてくれる。その名前を呟くと、女の子は驚いて顔を上げた。その表情は、信じられない、と言っているようだった。見開かれた瞳には、涙が浮かんでいた。

 

戸惑いながらも、俺は、美遊の頭を撫でていた。いつもイリヤにしてやっているように。体が勝手に動いていた。美遊は、しばらく呆然としていたけど、くしゃっと顔を歪めてまた俺に抱き付いてこようとした。

 

「私のお兄ちゃんから離れて!」

 

だけど、突然横から、そんなイリヤの怒りの声が聞こえた。美遊が、咄嗟に俺を突き飛ばして離れさせた。その次の瞬間、イリヤと美遊のステッキが激突した。俺は強化された美遊の力で、遠くまで吹き飛ぶ。

 

「くっ! やめろイリヤ!」

 

俺は、遠坂の近くまで飛ばされた。するとそこには、遠坂だけではなく、ルヴィアもいた。遠坂がいた時点で予想していたが、やはりルヴィアも、非日常側の人間だったらしい。そして美遊は、ルヴィアの協力者という事も同時に分かった。

 

「ちょっと遠坂凛、あれは一体どういう事なんですの! わたくしの協力者の子に、いきなり攻撃を仕掛けるなんて! やはりペットが飼い主に似るというのは、本当の事の様ですわね! 実に貴女にそっくりなお猿さんっぷりですわ!」

 

「うっさい! 誰が猿よ!」

 

「おいルヴィア、俺の妹をそんな風に悪く言うのはやめてくれ。確かに今回はイリヤが悪いけど、本当は凄く良い子なんだ」

 

「あ、あら。衛宮士郎? あの子は、貴方の妹さんですの? それは、大変失礼を。……って、どうして貴方がここにいるんですの!? しかも、その姿は一体どういう事ですの!? 説明しなさい遠坂凛!」

 

「分かんないわよ私にも! 衛宮くん! 私にも後で説明してもらうわよ!」

 

「わ、分かった。だけど、俺だってお前に説明してもらいたい事があるぞ。俺の妹の事とかをな。だけど今は、イリヤ達を何とかする方が先決だろ。違うか?」

 

「うっ、それもそうね……」

 

「あら、それならご心配なく」

 

「え?」

 

俺達は、それぞれに疑問を持った事を言い合ったりしながら、取り敢えず、まずイリヤ達を何とかする方が先だと結論付けた。するとルヴィアが、俺達に心配はするなと言ってきた。それはどういう意味だ?

 

「あの美遊は、このわたくしが自らカレイドステッキを託したほどの逸材。常に冷静沈着。頭脳明晰。そして、思いやりに溢れた素晴らしい子ですの。飼い主に似る、というのは悪い意味だけではないという一例と言えるでしょう。オーッホッホッホ!」

 

「……言い方が気に入らないけど、まあ、そういう事なら任せてみましょう」

 

「オーッホッホッホ! とくと見るが良いですわ遠坂凛! あの美遊ならば、きっと冷静に事態を収めてくれる筈……」

 

まあ、そういう事なら大丈夫かな。俺も、ルヴィアの言葉を信じて事態を見守る事にしたのだった。だが……

 

「ま、待って、少し話を……」

 

「する気はない! お兄ちゃんは、絶対に渡さないんだから! お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだから! この偽妹!」

 

「……サファイア……」

 

『美遊様?』

 

「まずは叩き潰そう」

 

『美遊様!?』

 

「み、美遊!?」

 

「ちょっと! 全然駄目じゃない! 本当に飼い主にそっくりね! あ~あ、さっきの台詞は、特大のブーメランになったみたいね! 格好悪いったらありゃしない!」

 

「なっ!? も、元はと言えば、貴女が連れてきた子が先に美遊に攻撃を仕掛けたのでしょうに! それを棚に上げて!」

 

「何でそんな日本語知ってるのよ!」

 

「通信教育ですわ!」

 

「落ち着け! お前らまで喧嘩するな!」

 

もう滅茶苦茶だ。イリヤ達の喧嘩? は、さらに激しさを増し、遠坂達まで本格的に喧嘩を始めた。俺はどうすればいいんだ? イリヤ達を攻撃する訳にはいかないし。狼狽える俺の耳に、不吉な音が……

 

「お、おい遠坂、ルヴィア! 何か、物が割れたみたいな音が聞こえなかったか? 物凄く不吉な音だったんだが!」

 

「っ!? まさか!?」

 

「ま、まずいですわよ遠坂凛! 鏡面界が崩壊していきますわ! 黒化英霊が倒された事で、維持できなくなったようです!」

 

「げっ!? しまった、そういう事ね! 早く出ないと私達も空間の崩壊に巻き込まれちゃうわ! でも鏡面界から出るには、あの子達のカレイドステッキがいるわ!」

 

「それってまずいのか!?」

 

「超まずいわよ! 時空間の狭間に、永遠に取り残される事になるわ!」

 

「それはまずい!」

 

「だからそう言ってるでしょうが!」

 

思った以上にやばかった! 俺達はイリヤ達の方を見る。するとイリヤ達は、とんでもなく巨大な光の球を作ってお互いを睨み合っていた。それを見た俺達は、全員が顔を真っ青にした。おいおい、それは!

 

「や、やめなさいあんた達! そんなもんぶっぱなしたら、本気でこの空間が消し飛びかねないわ! イリヤ!」

 

「美遊! やめなさい!」

 

「くっ! イリヤ! 美遊ーッ!」

 

俺達は必死に叫んだ。そんな俺達の叫びも空しく、イリヤ達は特大の光弾をお互いに向かってぶっぱなしたのだった。

 

あ、終わった……心の中で、俺はそう呟くのだった。俺達の視界が、白く染まった。




以上です。
それでは、感想を待ってます。

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