錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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中々時間が取れない。

さて、やっと主人公が登場した前回。
士郎の戦いをご覧ください。


決着

【士郎視点】

 

「……俺の妹から、手を離せ」

 

俺は、爆発しそうな怒りを抑えてそう告げる。俺が放った矢を躱して、イリヤの首から手を離した女魔術師は、俺の方を振り向いて鋭い視線を向けてきた。そしてその顔を見た俺は、唇を噛んだ。

 

「……貴方は、今朝の……」

 

「……やっぱり、そうか……」

 

イリヤ達が俺の顔を見て笑顔になってるけど、俺はそんな妹達に応えてあげる事ができなかった。今の俺の心には、どうしようもない後悔と、自分への怒りが渦巻いていたからだ。その理由は……

 

「……俺が気付いていれば、こんな事には……」

 

イリヤ達の様子を見て、俺の口からそんな言葉がこぼれ出る。俺の目の前にいる女魔術師は、どう見ても俺が今朝出会って道を教えた女性だった。あの時、俺が彼女が魔術師だと気付いていれば。

 

そうすれば、イリヤ達がこんなに酷い怪我をする事はなかった。魔術協会からの刺客が来るかもしれないと分かってたのに、俺は無警戒に外国から来たっぽいこの女性に道を教えてしまったんだ。

 

地図を見た時に、目的地がルヴィアの屋敷の場所だと気付いていれば、すぐに魔術協会に関わりがある人間だと推測できた筈だ。ヒントはあった。気付けるチャンスは、絶対にあった筈なんだ。

 

「なのに……」

 

ギリッ、と奥歯を強く噛み締める。自分の見通しの甘さに反吐が出る。イリヤ達を守る? こんな様で一体何を守れるって言うんだ。目の前の敵も許せないが、俺が何よりも許せないのは自分だ。

 

「まさか、貴方までこの件に関わっていたとは。それにその姿と先程の攻撃。アーチャーのカードの力を使っていますね? 先程の少女達といい、相当に複雑な事態になっているようです」

 

「……」

 

「しかし、どうであれ私の任務は変わりません。アーチャーのカードも回収させてもらいます」

 

女魔術師が、驚いていた表情を消して静かに拳を構える。それを見た俺もまた、心に渦巻く後悔と自分への怒りを消して、双剣を作り出して握る。弓も消して、両手を垂らして自然体に構えた。

 

「お兄ちゃん、気を付けて! その人……」

 

「バーサーカーよりバーサーカーよ!」

 

「凄く強いです。それに、【宝具】が……」

 

「分かってる。だから心配するな」

 

「「「え?」」」

 

イリヤ達が、この女魔術師の恐ろしさを忠告してくる。それに俺は、静かに答えた。どうして俺が知っているのか分からないイリヤ達が一斉に疑問の声をあげるけど、説明する時間はなかった。

 

「ふっ!」

 

「っ!」

 

女魔術師、バゼットが俺に物凄い速さで接近してきたからだ。凄まじいスピードで繰り出される拳に双剣を合わせて逸らしながら、俺は10分前の出来事を思い出していた。彼女との電話を……

 

…………………………………………………………

―――10分前―――

 

「じゃあ、よろしく頼む」

 

「はいッ。任せてください!」

 

朝練が終わった俺は、早速桜にイリヤ達の誕生日プレゼント選びを手伝ってもらえるように頼んでいた。桜は、休日を潰す事になるこの頼みを快く引き受けてくれた。本当に良い娘だなぁ、桜は。

 

「さてと……」

 

桜に引き受けてもらえた俺は、この機会にある事を思い付いた。それは、桜と遠坂の二人を仲良くさせようという事だった。この二人が、なにやら訳ありだという事は最近分かった。だから……

 

嬉しそうに帰っていく桜の姿を見送りながら、俺は遠坂の携帯に電話を掛けた。プランとしては、遠坂にもイリヤ達の誕生日プレゼント選びに付き合ってもらうという単純なものなんだけど……

 

「……出ないな……っと、繋がった。遠坂か?」

 

「……う……衛宮……くん……?」

 

しばらくコール音が鳴り、やっと出た遠坂は最初ぼんやりとした様子だったが、やがて掠れた声で俺の名前を呼んだ。画面に俺の名前が出ていた筈なのにどうして疑問系なんだ? 見てないのか?

 

「どうしたんだ? 辛そうだけど……」

 

「……早く来て! 今すぐに! イリヤ達が!」

 

「っ!?」

 

…………………………………………………………

―――現在に戻る―――

 

後になってこれは、気絶していて電話の音で目を覚まし、画面を見る事なく電話に出た結果だったと遠坂から聞くのだが、この時の俺には分かる筈もなく……ただ、遠坂の必死な声に耳を傾けた。

 

そして遠坂に聞かされた事態に、俺はアーチャーのカードで変身して、全速力でルヴィアの屋敷を目指した。その途中で、やって来た敵についての情報を遠坂から聞きながら。敵の名はバゼット。

 

その戦闘力や戦法、注意すべき切り札まで。遠坂は正確な情報を教えてくれた。そのお陰で、今俺はバゼットの戦闘力に驚かずに対応できていた。知らなかったら、この拳を防げたかどうか……

 

バゼットの重い一撃を冷静に双剣で逸らしながら考える。このままでは、いずれやられる。なら、どう戦うのか。本当は今にも爆発しそうな怒りを抑えて、自分に言い聞かせる。冷静になれと。

 

迂闊だった自分への怒りも、イリヤ達をあんな目に遭わせたバゼットへの怒りも、今は考えるな。冷静さを失ったら終わりだ。強敵を相手に怒りは禁物だ。遠坂にも、繰り返しそう言われただろ。

 

「……やりますね。しかし!」

 

「っ!」

 

自己暗示のように心の中で繰り返している内に、バゼットが一際速く重い一撃を放ってきた。その一撃の威力は凄まじく、左手の干将が砕け散る。バゼットはそれを好機と見たか、二撃目を放つ。

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

「ちっ!」

 

だけど俺は、すぐさま砕けた干将を投影してその攻撃をガードした。ガードを崩せなかった事で、バゼットが鋭い舌打ちをして視線を細める。今の攻撃で、勝負を決めるつもりだったのだろう。

 

「……宝具を自在に作り出す能力。やはりそれがアーチャーの英霊の力のようですね。ならば!」

 

「っ……! ―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

再び繰り出された拳はさっきと同じくらいの威力を持っていて、今度は右手の莫耶が砕け散った。そして、間髪入れずに繰り出される拳。それを、俺は再び砕かれた莫耶を投影してガードする。

 

「まだまだ」

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

しかしバゼットは、攻撃の手を緩めない。表情をまったく変えず、重い拳を繰り出し続ける。投影する度に砕かれて、また投影して。その繰り返しだった。バゼットの考えは、すぐに分かった。

 

このままでは、いずれ投影が追い付かなくなる。バゼットはそれまで、この攻撃をするつもりだ。少しずつ押され始めて、一歩ずつ後ろに下がる。なるほど、クロが言っていた言葉通りだな……

 

バーサーカーよりバーサーカー、か。遠坂も電話で脳筋とか言ってたし、バゼットは基本的に力で押していくタイプなんだろう。ならば、こっちもそれに負けない戦法で対抗する必要があるな。

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

「っ!? こんなもの……!」

 

右手の莫耶がまた砕けた瞬間に、俺は大きく後ろに下がりながらバゼットの前方に大量の剣を投影して接近を阻む。それを見たバゼットは一瞬動きを止めたが、地面に刺さる剣を砕いて再び迫る。

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

「!?」

 

「あれって、もしかして!」

 

だけど、そうやって僅かに稼いだ時間で、俺は次の投影を終えていた。俺の両手には、さっきまで持っていた双剣とは全然違う剣が握られていた。その二本の剣を見たイリヤが驚きの声を上げる。

 

「ウオオオオオッ!」

 

「くっ……!」

 

俺は獣のような雄叫びを上げながら、バゼットにその剣を叩き付けた。力任せに。そう……かつてこの剣の持ち主がそうしていたように。俺が投影したその剣は、岩を削ったような形の巨大な剣。

 

バーサーカーの斧剣だった。それに加えて、剣に宿った奴の筋力と技量の一部までも投影。自分に上書きしてバゼットの攻撃に対抗する。バゼットは急に鋭さと重さを増した俺の攻撃に驚愕する。

 

「何故、アーチャーにこんな力が……!」

 

バゼットが驚くのは当然だ。今まで、アーチャーの力を使って戦ってきた俺にはそれが分かった。アーチャーは、力も速さも他の英霊よりも劣る。そしてバゼットは、アーチャーを倒したという。

 

だからこそ、アーチャーの力の弱さも知っていたのだろう。それなのに、人外の力を持つ自分と、同等以上の威力の攻撃を急に放ってきたというのだからバゼットの驚愕はどれ程のものだったか。

 

「貴方は一体……」

 

「黒化英霊と戦ったからといっても、その英霊の強さと力を知ったと思わない方がいいって事さ」

 

「くっ」

 

黒化英霊は、現象に近い。ただ本能のままにその強大な力を振るうだけ。だが、カードの力で変身した俺は違う。確たる意思と理性を持ち、強大な英霊が持つ技術や戦術を自在に使う事ができる。

 

カードに宿る英霊の力を理解し、それを利用して戦術を組み立てる事ができる。まあそんな俺も、まだアーチャーの力の本質を完全には理解できていないが。それでも、入口くらいになら立てる。

 

さっきとは一転し、俺がバゼットを押し始める。バーサーカーが持っていた強大な力と、卓越した技量が嵐のようにバゼットに牙を剥く。これでも一部だけの投影だというのだから、恐ろしいな。

 

「っ……」

 

しかし、バゼットはこれでも倒せない。確かに、押してはいる。バゼットの腕や足にも、少しずつ裂傷ができ始めた。それでもバゼットはその鳶色の瞳に確たる意思を宿して俺を睨み付けている。

 

俺が一瞬でも気を緩めて隙を見せれば、その瞬間にその強い意思を宿した拳を俺に叩き込んでくるつもりだろう。そして、その瞬間は確実に近付いていた。斧剣を手にした両腕が、悲鳴を上げる。

 

以前にも、このバーサーカーの斧剣を振るった事がある。バーサーカーと戦ったその時にも、同じ事が起こった。投影しているバーサーカーの筋力と技量に俺の腕が耐えきれなくなってきたんだ。

 

「攻撃の威力と精度が落ちてきている。どうやらその力を長時間振るう事はできないようですね」

 

やっぱり気付いたか。バゼット程の手練れになると一発でばれてしまうらしい。俺がバーサーカーの力を振るえる時間は、30秒程度のようだな。だけど、これだけ使えれば十分だ。次の手は……

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

「今度は何を……」

 

頭の中で戦術を組み立てながら、俺は次の投影に取り掛かった。右手はバーサーカーの巨大な斧剣を握ったまま、バゼットの攻撃を防ぐ盾にする。巨大な斧剣はバゼットの視界を遮る効果もある。

 

バゼットからは見えないようにした左手は、斧剣を捨てて莫耶を投影する。そして、斧剣の影から左斜め上に投擲。バゼットが、それを目で追った気配がしたその瞬間、俺は再び後ろに下がった。

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

右手の斧剣をその場に残して、両手に干将と莫耶を投影し、斧剣の裏側にいるバゼットに向かってブーメランのような軌道を描く形で、投擲する。少ししてバゼットがそれを弾く音が辺りに響く。

 

「今さらこんなものが通じると……!」

 

「―――【投影、開始(トレース・オン)】」

 

思っていないさ。心の中でそう返しながら、俺は再び干将と莫耶を投影する。そして斧剣の影からこっちに回り込んで向かってくるバゼットを正面から迎え撃つ。バゼットが、訝しげな顔になる。

 

「何故正面から……」

 

「―――引き合え、【干将・莫耶】」

 

斧剣ではなく、双剣で迎え撃つ俺が何をするのかが分からなかったらしいバゼット。狙い通りだ。俺は斧剣を投影した時に捨てていた干将と、先程投影して左斜め上に投擲していた莫耶、さらにはバゼットに弾かれた干将と莫耶に呼び掛けた。

 

「!?」

 

「取って置きだ」

 

互いの剣が引かれ合い、バゼットを取り囲むように飛来する。そして俺は、バゼットの前方を塞ぐようにして正面から突撃する。全方向を剣の檻に囲まれたバゼットは、俺を鋭く睨み付けてきた。

 

「っ!」

 

「ぐっ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「まさか、そんな……!」

 

「……ほんと、怪物ね……」

 

それは一瞬の出来事だった。攻撃を避けられないと悟ったバゼットは、なんと避けなかったのだ。全ての斬撃を食らう覚悟を決めて、俺に反撃してきた。俺の腹に、バゼットの拳が突き刺さった。

 

干将と莫耶が砕かれ、俺は吹き飛ばされる。その姿を見ていたイリヤ達の悲鳴を聞きながら、俺は地面に落下した。凄まじい痛みが頭を突き抜け、俺は口から大量の血を吐き出す。だが、俺は……

 

ニヤリと笑いながらバゼットを見た。バゼットはそんな俺に訝しげな顔を向けたが、すぐに……

 

「ぐっ? ……何をしたのですか?」

 

バゼットは、僅かに顔を歪めて()()()()()()()()俺にそう尋ねる。俺に斬られた傷から血を流しながらも、まったく余裕を崩さなかったバゼットが初めて冷や汗を流している。それを見て俺は……

 

「お前は、遠坂を甘く見すぎた」

 

「何を……」

 

「ご苦労様、衛宮君。上手くやってくれたわね」

 

「っ!?」

 

「凛さん!」

 

「無事だったんですね!」

 

「心配させるんじゃないわよ」

 

ピリピリと緊迫していたこの場に、遠坂の明るい声が響いた。元気な遠坂の姿を見て、イリヤ達が安堵の息を漏らす。特に、イリヤは安心の度合いが強かったようで、おうおうと泣きながら喜ぶ。

 

「よがっだ……生ぎでたんだ……」

 

「そりゃこっちの台詞。ルヴィアも無事よ」

 

遠坂はそんなイリヤの様子に苦笑しながら、その頭を撫でる。そして、イリヤ達の様子を確認するように辺りを見回してから、バゼットの顔を鋭く射抜く。バゼットは首の後ろを手で押さえて……

 

「首筋になんらかの魔術の発動を感知。それ以降腹部の鈍痛が止まない……一体、何を……?」

 

「それは衛宮君が今感じている痛み―――」

 

「っ!?」

 

「【死痛(しつう)隷属(れいぞく)】。主人(マスター)の受けた痛みを奴隷(スレイブ)にも共有させ、主人(マスター)が死ねば奴隷(スレイブ)もまた命を落とす。とある貴族が用いていた、古い旧い呪いよ」

 

「呪術……! 協会の魔術師ともあろう者が!」

 

「私の背中のと一緒のやつじゃない……」

 

そう。俺はあの時、バゼットに殴られた時にその首の後ろに手を触れていたのだ。剣を砕かれて、腹を殴られながらも。自分を囮にして、バゼットの決定的な隙をついた。相手を仕留める瞬間……

 

まさにその瞬間にこそ、致命的な隙が生まれる。いざという時にバゼットは、防御より攻撃を選ぶと遠坂から電話で聞いていたからな。勿論、俺にその呪いの存在を教えてくれたのも遠坂だった。

 

呪いを掛ける為の俺の血は、クロの魔力供給用に遠坂がストックしてくれていた。注射器で抜いて保存してあるその血を使って、遠坂はバゼットに死痛の隷属の呪いを仕込んだ。最初の戦いで。

 

これは全て、遠坂が仕掛けた作戦だったのだ。俺はそれを発動させる為にバゼットと戦ったんだ。発動の条件は、バゼットの首の後ろの呪印に俺が手を触れる事だ。その方法は俺に任されていた。

 

何故こんな作戦を取ったのかというと……

 

「……痛みと、死の共有と言いましたか」

 

「そう、これで……フラガラックは使えない!」

 

バゼットの切り札、【斬り抉る戦神の剣(フラガラック)】。その宝具の存在も、遠坂から聞いていた。それは最高の迎撃宝具。相手の切り札の発動の前に使用者は死んでいるという事実を後付けで作って、発動の事象そのものをキャンセルしてしまう魔剣だと。

 

「だけど、もしも相手の死と同時に、バゼットも死ぬとしたらどうなるかしら? 『フラガラックを撃つ事によりフラガラックを撃つ前にバゼットが死ぬ』という矛盾! 因果の葛藤(コンフリクト)が発生する」

 

「そうか……あの時に―――」

 

「だからさっき言っただろ? お前は遠坂を甘く見すぎた。遠坂は、勝つ為なら手段を選ばない」

 

「誉め言葉として受け取っておくわ」

 

バゼットの切り札を封じる。それさえできれば、勝機はある。遠坂は、そう言っていた。以前にもこの方法でクロの動きを封じる事に成功しているからこそ、遠坂のその言葉には説得力があった。

 

だけど、勝利の期待を抱く俺達にバゼットは……

 

「―――50点ですね」

 

と答えた。その言葉に、再び俺達に緊張が走る。そんな俺達を見回して、バゼットは静かに語る。

 

「なるほど……確かにこれでフラガは封じられたのかもしれません。ですが、ただそれだけです。そんなもの……死なない程度に殴ればいい。その気になれば、自分の痛覚など無視できますから」

 

なんという脳筋思考。女性に抱く感想ではないがそう思ってしまう。本当に、バーサーカーよりもバーサーカーというクロの評価は的を射ていると言えるかもな。ここまでくるといっそ清々しい。

 

「―――ああそう。なら、加点をお願いするわ」

 

遠坂も、もうお手上げという表情をしてから何かを取り出した。何だ、あれ? 遠坂が取り出した物を見た俺は、内心で首を傾げる。それは、一枚の紙のようだった。その紙には、黒い模様が……

 

「……それは?」

 

「この町の地脈図よ。少し前に、地脈の正常化を行ってね。その経過観察の為に撮ったレントゲン写真みたいなものよ。分かる? 左下の方……」

 

「……! 地脈の収縮点に、正方形の場……?」

 

俺にはさっぱり分からないんだけど、バゼットはその地脈図とやらを見て何かに気付いたような顔をして、まさか、と呟く。その表情はあまりにも緊迫していて、こっちまで嫌な予感がしてきた。

 

「前任者なら分かるわよね。正確には正方形ではなく立方体。虚数域からの魔力吸収。そう……」

 

そんな俺の嫌な予感を肯定するかのように、遠坂は静かにその驚愕の事実を告げるのだった―――

 

「九枚目のカードよ」

 

その言葉に、この場にいる全員が息を飲んだ。

 

「九枚目―――」

 

「地脈の本幹のど真ん中よ。だから、協会も探知できなかったんでしょうね。カードの正確な場所を知っているのは私だけ。地脈を探る事ができるのも、冬木の管理者たる遠坂の者だけよ―――」

 

遠坂はバゼットと交渉しているんだろう。戦えばこっちもただでは済まない。今度こそイリヤ達が殺されてしまうかもしれない。だからこそ何とか戦わずに済むように必死になっているんだろう。

 

「さて、貴女の任務が、『全カードの回収』だとするなら……これも数に入ってるんじゃない?」

 

―――結局、これが決定打となった。バゼットは現場判断を超えた事態だと判断したらしく、一時休戦として協会の指示を仰ぐ事になった。そして遠坂の交渉により、バゼットに奪われていた六枚のカードのうち、二枚を取り返す事に成功した。

 

イリヤは悔しそうに泣いていたけど、俺は遠坂が言った『バゼット相手にこの結果なら十分勝ち』という言葉に賛同した。悔し泣きしているイリヤの頭を撫でながら、俺は改めて決意していた。

 

もう二度とイリヤ達をあんな目に遭わせないと。九枚目のカードがどんな化物だとしても、絶対に守ってみせると。そんな俺の耳に、すぐ隣にいた美遊の呆然とした呟きが聞こえてきたのだった。

 

「……九枚目のカード……? ……そんなもの、ある筈がない……一体、どういう事なの……?」

 

「美遊?」

 

焦点が定まらない瞳でそう呟く美遊は、俺の呼び掛けにも気付いてない様子だ。どういう事だ? 美遊は何か知ってるのだろうか。そう思ったが、何故かそれを聞くのは躊躇われてしまった。

 

結局、俺は聞けなかった。新たな敵が現れ、何かが動き出している。そんな感覚を感じながら……




最後のハロウィンイベントがもうすぐ始まる。
楽しみですね。

パールヴァティーも引けて、イシュタルと並べてニヤニヤしているgurennです。
遠坂姉妹が、揃って女神の器になるとはね。
マイルームで専用会話が聞けて嬉しい。

FGOの話はここまでにしまして……
いよいよツヴァイ編も佳境に入ってきました。
私がツヴァイ編で一番書きたかった、ギルガメッシュ戦が近づいてきましたね。
士郎もイリヤもクロも活躍させたい。
士郎は言わずもがなですけどね。
いよいよあれをお披露目できる訳ですし。
プリヤ士郎のあれを、お楽しみに。

それでは、感想待ってます。

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