錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

4 / 53
前回は、ギャグ調のラストにする為にあんな終わり方でしたが、今回はそれとは少し違う流れの続きになります。
それでは、どうぞ。


衛宮士郎の奮闘

【士郎視点】

 

「くっ!」

 

イリヤと美遊が、とんでもなく巨大な光の球をぶっぱなそうとした瞬間、俺の体は、勝手に動いていた。弓と矢を作り出して、イリヤと美遊が持っているステッキを狙って速射した。タイミングはかなり際どい。

 

「【赤原猟犬(フルンディング)】!」

 

矢を放つと同時に、イリヤ達の元に走る。間に合うか? 間に合わなかったらかなりヤバイな。そんな事を考えながら、俺は迷う事なく光の中に飛び込む。辛うじて間に合ったらしい赤原猟犬が、軌道を逸らす。

 

イリヤ達が持っているステッキに命中し、その先端を逸らした事で、放たれた光の球がお互いを掠めていく。その衝撃が空間を軋ませ、俺の体を打ち据える。一瞬だけ息が止まり、俺は倒れそうになった。

 

「衛宮くん!? 何て無茶を!」

 

「死んでしまいますわよ!」

 

遠坂達がそう怒鳴る声が聞こえるけど、俺は構わずにイリヤの元に向かう。イリヤは呆然とした顔で佇んでいる。急がなければならない。お互いにぶつかり合う事は避けられたが、まだあの光の球は生きている。

 

「イリヤ!」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

イリヤの手を掴んで、そのまま俺は美遊の元へと向かう。イリヤと同じような顔で佇む美遊の手も掴んで、遠坂達の元に戻る。その時、遠くで何かが壊れる音が響いた。全てを破壊する、この世の終わりの音が。

 

この空間の果てに、あの光の球が当たったのだろう。空にヒビが入り、崩れていく。この空間が壊れるんだ。間に合うのか? 体中が軋む。ちょっと無茶をしすぎたようだ。元の俺の体が普通だからな。

 

「衛宮くん!」

 

「大丈夫ですの!?」

 

「遠坂、ルヴィア! 早く脱出を!」

 

「くっ、そうね。イリヤ! っていうか、ルビー! 早く【離界(ジャンプ)】しなさい離界!」

 

「サファイアもですわ!」

 

『はいはい、分かりましたよ』

 

『了解です。皆様、私達の側に。一ヶ所に集まって下さい。離界します』

 

イリヤ達のステッキにこの空間からの離脱を指示する遠坂達。その指示に、イリヤのステッキはどこか投げやりにやる気なく、そして美遊のステッキは冷静に礼儀正しく応じた。正反対の性格なんだな……

 

イリヤ達の足元に魔法陣が浮かび上がり、俺達の体を光が包み込む。その間にもこの空間の崩壊は続いていた。ヒビ割れていた空が砕け、空間の欠片が地面に降り注ぐ。その光景はまさに、世界の終焉のようだ。

 

「間に合うのか!?」

 

「ギリギリよ!」

 

「賭けですわ!」

 

「不安になる返答をどうも!」

 

『行きますよ~』

 

『離界します!』

 

その光景の中で、不安に叫ぶ俺達という、何とも緊張感のないやり取りが行われた。内心はビビりまくりだが。そんな俺達をよそに、ステッキ達が脱出を告げる。それと同時に響く、世界の終焉の音が聞こえた。

 

視界が真っ白に染まる。そんな極限の状態の中で、俺はイリヤと美遊の手をしっかりと握り締めていた。決して離さないと伝えるように。イリヤだけじゃなく、何故か美遊の事も妹のように思っている事に不思議な気分になりながら。この気持ちは一体?

 

…………………………………………………

 

「……脱出、できたのか?」

 

「そうみたい……ね……」

 

「……死ぬかと思いましたわ……」

 

『あははは、ヤバかったですね~』

 

『姉さん、笑い事ではありません。ちゃんと反省して下さい。後で説教ですからね』

 

『え~、相変わらず、サファイアちゃんは厳しいですね。楽しければ良いんです♪』

 

次の瞬間、俺達は普通の空間にいた。安堵して、夜の学校の校庭に座り込む俺達を、とてつもない疲労感が襲う。喋るステッキ達が交わす、そんな緊張感のない会話を聞きながら、自分達の無事を確認する。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「あ、あの……」

 

「……ふっ、大丈夫だったか二人とも?」

 

「う、うん……」

 

「はい……」

 

「そうか。なら良かった」

 

「「あ……」」

 

ばつが悪そうに、叱られる子供のような顔で見上げてくる妹達の頭を、俺は優しく撫でてやる。我ながら甘いなぁ、と思うが、俺は昔からイリヤを叱れた事がない。その事でセラに怒られたんだが、無理なんだ。

 

ついつい甘やかして、イリヤの味方をしてしまう。セラが厳しい分、俺が優しくしてやらないと、という気持ちが湧いてしまうんだ……いや、それも言い訳かもな。俺はただ、イリヤが可愛いだけなんだろう。

 

「もう、甘いわよ衛宮くん!」

 

「そんな事言われてもさ……」

 

「まったく。美遊、後でたっぷりと説教をして差し上げますから、覚悟しなさい」

 

「は、はい、ルヴィアさん……」

 

案の定、遠坂に怒られた。そしてルヴィアも呆れたような顔をして、美遊を叱った。叱られてしゅんとする美遊を見ていると、やはり不思議な気分になる。どうして俺は美遊の事も妹のように感じるのだろうか。

 

『俺の妹を、頼むよ……』

 

あの言葉が、ずっと頭に残っている。ただの夢だと切り捨てる事ができない。実際に美遊の名前は合っていたし。もしかしたらあれは本当にあった事なのかもしれない。だとしたら、俺はどうするべきなのか。

 

まだ整理はつかない。だけど俺は、あの声に答えたんだ。『任せろ』って。だったら俺は、美遊の事も気にかけてやりたい。夢を本気にするなんて、我ながら馬鹿げた事だと思う。だけど、これだけ非常識な事が幾つも起きているんだ。だったら……

 

今さら一つ増えても、そんなに変わらないんじゃないか? それに、あの時の美遊の涙も放っておけないし。取り敢えずイリヤとの仲を取り持つ事から始めてみようか。やっぱり、良い友達になって欲しいしな。

 

「衛宮くん。できれば、お互いの事を説明したいけど、今日はもう疲れたし、時間も遅いから。だから、明日にしましょうか」

 

「ですわね。貴方も無理をしているようですし。立っているだけでやっとでしょう」

 

「……すまない。実を言うと、キツい」

 

「ええっ!? 大丈夫お兄ちゃん!」

 

「当たり前よ。あんな無茶をして。貴方、死ぬかもしれなかったのよ? 確かに私達はお陰で助かった。でもね衛宮くん。自分の命も守れない行動はやめなさい」

 

「……」

 

遠坂の言う事は正しい。だけど、それでも俺は自分よりもイリヤの方が大事なんだ。また同じ事があっても、俺はきっと同じ事をするだろう。大体、もう今さらだ。俺はこの力を手に入れる為に、俺の全てを差し出した。イリヤを守れる力が欲しくてな。

 

俺の体が、変わってしまったのが分かる。もう元の俺には戻れないだろう。それだけの代償を払わなければ、この力を手に入れる事はできなかった。俺自身、詳しい事は分からないが、それだけは分かるんだ。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「大丈夫だよ、イリヤ。帰ろうか」

 

「うん……」

 

不安そうな顔で見上げてくるイリヤに、俺は笑いかけて頭を撫でてやる。帰っていく遠坂達を見送って、俺達は変身を解いた。俺と融合していたカードが、俺の手の上に落ちる。それを見たイリヤのステッキが、面白そうだというような声を出した。

 

『やっぱり、アーチャーのカードを使って変身していたんですね。大変興味深い使い方です。どうやったんですか士郎さん?』

 

「どうって……分からないよ。何となく、としか言えないな。このカードって、こうやって使う物じゃないのか?」

 

『う~ん、クラスカードの事は、はっきりと分かっていないんですよ。少なくとも、士郎さんみたいな使い方をできた人は一人もいません。英霊の宝具を使うのがやっとですよ。英霊そのものになるなんて……』

 

「……英霊って何だ?」

 

『ほう。英霊すら知らないんですか。益々興味深いです。ちなみに士郎さん、貴方は【魔術】という物を知っていますか?』

 

「いや……知らない」

 

『士郎さん、貴方はとんでもない人物かもしれませんよ。時計搭の魔術師達が知ったら、卒倒しかねませんね。魔術すら知らない一般人が、世界最高峰の魔術師達が束になっても解明できなかったクラスカードの秘密を解いたのかもしれないんですから』

 

家に帰る道すがら、俺はイリヤのステッキに様々な話を聞かされた。魔術師という、非日常の存在について。遠坂とルヴィアも魔術師だという。この世界には、俺の知らない不思議が溢れているんだと知った。

 

英霊について。魔法について。そんな話を聞かされたけど、正直俺には、遠い世界の事のように聞こえた。どうやらイリヤも同じらしく、途中から話を聞いてなかった。

 

『それで、私が世界最高峰の魔術礼装で、愛と正義のマジカルステッキ! 名前は、【マジカルルビー】ちゃんです! どうぞお気軽に【ルビー】と呼んでください!』

 

「「……うん」」

 

『わお、さすがは兄妹! リアクションが一緒ですね! そのローテンションな反応は何です? もっと楽しくいきましょう』

 

「ルビーが無駄にハイテンションなだけだと思うよ……今日は疲れたし……」

 

「……右に同じだ……」

 

ルビーの無駄にハイテンションな声を聞きながら、俺達は家に帰る。これから一体何が始まるのかと、不安を抱えながら……

 

…………………………………………………

 

「……朝か」

 

翌朝、俺は全身のだるさを感じながら目を覚ました。軋むような痛みも酷い。昨日の無茶が原因だという事はすぐに分かった。だけどやはり、一番の無茶はあのカードを使って変身した事だろうな……

 

それに比べたら、その後のイリヤ達の魔力弾の衝撃に突っ込んだのは軽い事だろう。今の痛みの原因だが、これはその内治る。だけどあれは、もう取り返しがつかない。分かるんだ。どうしてかは分からない。

 

理屈じゃない。俺の中の何かがそう言っているんだ。もう後戻りはできない、とな。そして俺は、後戻りする気はない。イリヤを守らないといけないからな。俺の変化は遠坂達に気付かれないようにしないと。

 

まあ、当人である俺しか気付かないと思うけどな。当人の俺も、漠然と感じるだけだし大丈夫だろう。魔術だの英霊だの、正直良く分からないけど、この世界にイリヤが首を突っ込むなら、俺も行かないとな。

 

「い、いてて……駄目だ、動けない……」

 

そう決めて起き上がろうとしたが、全身が軋むように痛んで、身動きができない。俺が思っているよりも深刻なダメージになっているようだ。学校、行けるかな。遠坂達と話したかったから、行きたいんだが。

 

だから俺は、何とか体を動かして起きようとした。そんな風にベッドの上で格闘する事一時間近く。結局、ベッドから起き上がる事はできなかった。弓道部の朝練もあるんだが。休むしかないかな、これは……

 

『シロウ、どうかしたのですか?』

 

そんな事を考えていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。セラだった。セラは珍しく起きてこない俺を心配して起こしに来てくれたらしい。いつもなら、とっくに起きている時間だからな。すまないセラ。

 

「いや、ちょっと筋肉痛で……」

 

『筋肉痛? 起きられないほどですか?』

 

「うん、まあ……」

 

『……失礼します』

 

苦しい言い訳だが、他に言い様がないからそんな言い訳をした。するとセラは、扉を開けて部屋の中に入ってきた。その表情はやはりというか、疑っているようだった。当然だよな。どう言い訳するかな……

 

「昨日、何かあったのですか?」

 

「えっと……ちょっと体育でな……」

 

「……シロウがですか? 剣道や、弓道を習っているシロウが動けないとは……」

 

「いや、その……ちょっと調子に乗って、暴れちゃってさ。あははは……」

 

「……そうですか。分かりました。それでシロウ、学校はどうするのですか?」

 

「うん、それなんだけどさ。ちょっと今日は行けそうもないんだ。痛みが引いたら、ちゃんと登校するからさ……」

 

「では、学校にそう連絡しておきますね」

 

「うん……本当にごめん……」

 

嘘をついて。セラは、俺が嘘をついている事を分かっている。家族だからな。こんな嘘が通じる筈はないんだ。だけどセラは、何も聞かないでいてくれている。本当に良くできた家政婦さんだよ。

 

「謝らないで下さい。けれど、シロウ……話せるようになったら、きちんと話して下さいね? 今は何も聞きませんから……」

 

「……分かった」

 

やはり、セラは俺の嘘を見抜いてる。その上で俺を心配してくれている。本当に、俺には過ぎた家族だよ。微かに微笑むセラの笑顔に癒されながらも、俺は改めて誓う。俺は家族の味方として皆を守ろうと。

 

「ありがとう、セラ。愛してるよ」

 

「なっ!? な、なななな何を!?」

 

「? どうしたんだ、セラ?」

 

「あ、貴方は! まさかイリヤさんにまでそんな言葉を言っているんじゃ!」

 

「いや、言ってはいないけど、イリヤの事も勿論愛してるよ。リズの事もな」

 

「なっ!?」

 

どうしたんだ、セラは? 突然、真っ赤になって狼狽え出したぞ? そんなセラは、プルプルと全身を震わせ始めた。あれ? これは、まずい兆候だぞ? 俺の経験上、セラがこうなった時は酷い目に遭う。

 

「こ、この……」

 

「ま、待てセラ! 落ち着け!」

 

「変態色情狂の節操なしのシスコンが!」

 

「なんでさっ!? ぐはっ!」

 

俺は、何故か逆上したセラの拳を食らって意識が遠退いていく。闇に沈んでいく意識の中で、イリヤの悲鳴と、リズの呆れたような声が聞こえた。おはよう、二人とも。そして、お休みなさい。ちゃんとした挨拶ができなくて、本当にすまないな……

 

…………………………………………………

 

「……」

 

再び目を覚ますと、もう夕方だった。俺は何時間気絶していたんだ? 体の痛みは、もう大分引いていた。まだ結構痛むが、体を起こすくらいはできそうだ。そう判断して体を起こすと、傍らにおにぎりがある。

 

「……セラが作ってくれたのか? いや、形が不揃いな物が混じってるな。イリヤとリズも手伝ってくれたってところかな」

 

朝飯も食べてないから、かなり腹が減っている。イリヤ達に感謝しながら、ラップを外しておにぎりを食べる。おにぎりの形でどれが誰の物か一目で分かった。形が悪いのは、イリヤが作ってくれた物だろう。

 

やたらと大きく、丸いのがリズ。そして、一番綺麗なのがセラだろう。ちょっと量が多いが、ちゃんと全部食べきった。現在時刻は、午後の4時。そろそろイリヤが帰ってくる時間になろうとしていた。

 

そこで俺は、全身に湿布が貼られている事に気付いた。セラだな。これのお陰で、全身の痛みが引いたらしい。後で、ちゃんとお礼をしないとな。細かい所に気が付く、家政婦の鑑のようなセラに感謝する。

 

そんな事を考えていた時だった。バタバタと階段を登ってくる音が聞こえてきた。俺はそれに苦笑する。イリヤだ。恐らくセラに学校に行かされただろうイリヤが、俺を心配して、急いで帰ってきたのだろう。

 

そんな俺の考えは、半分当たっていて半分外れていた。俺の部屋の扉を蹴破るような勢いで突撃してきたのは、イリヤだけではなかったのだ。そう、それは……

 

「「お兄ちゃん!」」

 

「イリヤ……と美遊?」

 

我先に、お互いを押し退け合いながら俺の元にやってくる、二人の妹だった。

 

「美遊さん、退いて!」

 

「貴女こそ……!」

 

「ま、待て、落ち着け二人とも!」

 

お前ら、まだいがみ合ってたのか。俺は、二人を仲良くさせるという目標を思って、頭を抱えてしまった。どうすればいい? 魔術とかよりも、こっちの方が問題だな。俺は改めてそう思ったのだった……




美遊とセラにフラグが立ちました。
いつもの士郎ですね♪

そして、この作品では士郎が切嗣に引き取られた時期が違います。
原作だと10年前ですが、この作品では7年前になります。

それでは、感想を待っています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。