錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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いよいよ最後の日常回。
それでは、どうぞ。


聖妹戦争(祭?)

【士郎視点】

 

「わあ~!」

 

「まさか、自分の体で来られるとはね~♪」

 

イリヤとクロの嬉しそうな声が、俺の鼓膜を震わせる。今日は、8月5日。時刻は夕方。俺達は、多くの人達で賑わう夏祭りの会場へと来ていた。全員が、セラに着付けてもらった浴衣姿で。

 

「皆、もう居るかな~♪」

 

「ちょっとイリヤ。あなた、今日の目的を忘れてないでしょうね? 普通に皆で楽しむつもり?」

 

「あ、そうだった……」

 

「なんの話だ?」

 

海に行った時のイリヤの友達との待ち合わせ場所に向かう途中、イリヤとクロが良く分からない話をし始めた。イリヤとクロには今日の夏祭りでなにか目的があるみたいだけど、一体なんだろう。

 

「こっちの話よ」

 

「あ、あはは。そうそう」

 

「なんなんだよ、一体……」

 

どうやら、教えてくれるつもりはないらしいな。あからさまに誤魔化して笑うイリヤと、すました顔で流すクロ。なんだか仲間外れにされたような気分になってしまうが、俺は諦める事にした。

 

「あ、皆居た」

 

「どうやら、私達が最後だったみたいね」

 

「皆~!」

 

「おお、来たかイリヤズ」

 

「それと、イリヤの兄貴も」

 

「こ、こんばんは」

 

「ああ、こんばんは」

 

待ち合わせ場所に居たのは、いつもの3人と美遊だった。あれ? 確かあと1人、凄く元気がいい子がいたと思うんだけど。その子だけ居ないな。でもさっき、イリヤ達は全員居ると言ってた筈。

 

「なあ、あと1人居るんじゃないか?」

 

「ああ、タッツンの事ですね」

 

「タッツンなら、もう1人で突撃してます」

 

「タツコちゃんが、我慢できる筈ないですし」

 

「だよね……」

 

「目に浮かぶわ。あのタツコの事だから、どうせテンションマックスで祭りに突撃してるだろうと思ったわ。だから私達も数に入れてなかったの」

 

「そ、そうか……」

 

そういえばあの子、海の時も車道に飛び出して車に轢かれてたっけな。イリヤ達の達観したような顔に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。その件に納得したところで皆の姿を改めて見てみる。

 

「皆も浴衣なんだな。良く似合ってるよ」

 

「えっ……と……」

 

「さ、さすがイリヤ兄。さらっと褒めてきたな」

 

「意外に嬉しかったりして……」

 

「む~……お兄ちゃんってば、また……」

 

「ホント、呼吸するようにフラグ建てるわね」

 

「油断も隙もない」

 

「なんなんだよ、その反応は……」

 

3人が顔を赤くして、イリヤとクロと美遊が頬を膨らませて睨んでくる。なんでさ? イリヤ達の不満そうな顔にため息をつく。ただ浴衣を褒めただけだろ。一体なにが不満なんだよ、3人とも。

 

「それより、早く会場に入ろうか」

 

「そうだね。じゃあ皆、行くよ~!」

 

「「「おう(うん)!」」」

 

いつまでもここにいても、意味がない。先に突撃していった子とも合流しないといけないし。そう思った俺の提案に全員が同意し、いよいよ夏祭りの会場に入ろうとした時、俺の右手が掴まれた。

 

「えっ?」

 

「ちょっと待ってお兄ちゃん」

 

「クロ?」

 

一体誰が、と思って振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたクロがいた。そうやって俺達が足を止めている内に、イリヤ達の姿が人込みの中に消えていってしまった。まずいぞ、はぐれる。

 

「どうしたんだクロ。早くしないと、イリヤ達とはぐれちまうぞ。イリヤは、携帯持ってないし」

 

「大丈夫よ。ちゃんと合流場所決めてあるから。私とイリヤと、美遊の3人でね。だからちょっと付き合って。実はね、今日は交代でお兄ちゃんと夏祭りを楽しむっていう協定を結んだのよ♪」

 

慌てる俺とは違って、楽しそうに笑いながらそう言ってくるクロ。おいおい。いつの間にそんな事を決めたんだ。でも待てよ? それって、イリヤとクロと美遊の、3人だけで決めたんだよな? 

 

「え? だけど、友達はどうするんだよ?」

 

「だから大丈夫だってば。1人くらい抜けても、他の皆で楽しく遊べるから。それとも、なに? 私達とお祭りを回るのは嫌なの、お兄ちゃん?」

 

どうやら、最初から計画していただけあって全て計算ずくだったらしい。俺の反応も含めてな。

 

「いや、そんな事はないけどさ」

 

可愛い妹にそんな言い方されてしまっては、俺は断る事ができない。そして、そんな妹達をさらに可愛いと思ってしまう自分がいる。これは、セラにシスコンと言われても仕方ないかもしれない。

 

友達と遊ぶよりも、俺と祭りを回る事を優先してくれる妹達に、嬉しいと感じてしまうんだから。これが娘を持つ父の気持ちというやつだろうか。いや、俺は父じゃなくて、兄なんだけどさ……

 

「それじゃ行きましょ。ふふふ、これから30分は私だけの時間よ。誰にも邪魔はさせないわ」

 

こうして、妹達との夏祭りが始まったのだった。

 

…………………………………………………………

 

「で、どうするんだ?」

 

「う~ん……どれも面白そうなのよね。イリヤの中からずっと見てきたけど、自分で体験するのは初めてだから。あ、あれやってみたかったのよ」

 

クロと二人で祭り会場を歩きながら話す。クロはずっとイリヤの中から世界を見てきた。その事はクロから聞いてたから、今のクロのはしゃぎようを見て嬉しくなる。念願叶って、という感じか。

 

「射的か。確かに、祭りの定番だな」

 

「お兄ちゃん、あれ取ってよ」

 

「え、俺がやるのか……? ついさっき、自分でやりたかったって言ってたじゃないか。それに、あんな小さいのは取れないぞ。無茶を言うなよ」

 

クロが興味を示したのは射的。コルク銃で景品を狙い、撃ち落とすあれだ。ところが、クロは何故か俺に景品を取ってくれと言い出した。さっきと言ってる事が違う。それに、その景品は小さい。

 

簡単には取れそうにない。しかし、困惑する俺を無視してクロは、屋台のおじさんにお金を払ってしまう。そして、おじさんから渡されたコルク銃を満面の笑みで俺の手に渡してきた。えっと……

 

「大丈夫だってば。お兄ちゃん、標的を狙うのは得意でしょ? 弓道部だし、アーチャーだし♪」

 

「いや、アーチャーは違うだろ……」

 

それ、俺が使うクラスカードじゃないか。それに銃と弓じゃ全然違うし。と言っても、クロは無視するんだろうな。はあ、仕方ない。外しても文句言うなよ? そうクロに忠告して、銃を構える。

 

「……っ!」

 

「あ、横にずれた」

 

良く狙って撃ったけど、クロの言う通り僅かに横に外した。だが、今のでこの銃の感覚は掴んだ。再びコルクを装填して、狙いを微調整する。意識を集中して、静かに引き金を引いた。すると……

 

「今度は当たった! でも、落ちないわね」

 

「当たった場所が悪かったな。だけど……」

 

景品は動いたが台からは落ちない。だけど、狙う場所は分かった。次で落とせる。さっきはクロにああ言ったけど、いざやってみると自分でも驚くほどに集中している自分がいた。今度こそ……

 

最後のコルクを装填し、三度狙いをつける。意識をさらに集中して、引き金を引こうとした時……

 

「取れなかったら、キスしちゃうから♪」

 

「なっ!? あ……」

 

集中している俺の耳元で、クロがとんでもない事を言ってきた。それに驚いた俺は、つい引き金を引いてしまった。その結果、狙っていた景品から外れたコルク弾はその隣の景品を撃ち落とした。

 

「クロ、お前……」

 

「あははは、冗談だってば♪」

 

「はいよ兄ちゃん、持ってきな」

 

慌てる俺をからかって心底楽しそうに笑うクロ。そんなクロを見ていると、口から出掛かっていた文句が出てこなくなってしまう。そんな俺に苦笑しながら、屋台のおじさんが景品を渡してくる。

 

「ほら。欲しがってたやつじゃないけど」

 

「良いよ。私、別に本気であれが欲しかったって訳じゃないからね。お兄ちゃんと楽しく遊べれば私はそれでいいのよ。それに、これも良い物よ。お兄ちゃんが取ってくれた物だしね。嬉しいわ」

 

そう言ってクロが見せてきた景品は、シャボン玉セットだ。シャボン液と専用のストローがついたあれだ。それらが入った箱に、ピンク色のリボンが巻かれている。クロは嬉しそうにそれを見た。

 

「それに、これをこうして……」

 

箱に巻かれたリボンを外したクロは、そのリボンを自分の髪に結んだ。そして、その場でクルリと回って、花が咲いたような笑顔を浮かべた。その笑顔は見てるこっちが嬉しくなるような笑顔で。

 

「どう?」

 

「ああ、良く似合ってる」

 

「でしょ?」

 

そうやって笑うクロは、どこにでもいる子供だ。だけど、クロの秘密を知る俺にとっては、まるで奇跡のような光景だった。あの時、体が消えかけて泣いていたクロを、俺は知っているから……

 

「次はどうする?」

 

「これ、やりたいな」

 

射的を終えた俺がクロに次にやりたい事を聞いてみると、クロはシャボン玉セットを掲げた。クロの言葉に頷いて、人が少ない場所へと移動する。それから少し歩いて、丁度良い場所を見つけた。

 

「ここならいいだろ」

 

「そうだね」

 

クロは箱を開けてシャボン液を片手で持ち、専用のストローをその液につけて咥える。そして静かに息を吹き込むと、ストローの先から、幾つものシャボン玉が空を舞う。懐かしい光景だった。

 

「……」

 

それからしばらくの間、無言の時が流れる。クロは最初、楽しそうにシャボン玉を吹いていたが、やがてどこか寂しそうな表情に変わる。その表情の変化に、俺はどこか不安感を抱いてしまう。

 

「どうしたんだ?」

 

「……別に。つまらない考えが浮かんだだけ」

 

「つまらない考え?」

 

「うん。なんか、空中で弾けて消えるシャボン玉を見てたらね、私に似てるなぁって思ったの」

 

「っ!?」

 

クロの言葉を聞いた俺は、目を見開く。まるで雷に打たれたように身動きできなくなってしまう。

 

「私もさ、いつフッと消えちゃうか分からない、泡沫のような存在だから。ね、似てるでしょ?」

 

「クロ!」

 

「……お兄ちゃん」

 

「そんな事は、二度と言うなよ。クロは、俺の妹なんだ。なにがあっても、絶対に消させない」

 

「……ありがとう」

 

俺の言葉を聞いたクロは、儚げな笑みを浮かべてお礼を言った。その笑みは、どこか諦めを含んでいるような色をしていて、俺は唇を噛んだ。クロはまだ、そんな不安を胸に抱えているんだな……

 

…………………………………………………………

 

「じゃあ美遊、バトンタッチよ」

 

「うん」

 

クロとのそんな時間は、シャボン玉で遊んでいる内に終わりを告げた。それから合流場所とやらに行ってみると、そこに美遊が1人で待っていた。どうもこうやって順番に交代するつもりらしい。

 

クロとさっきの話を続けたかったけど、今は無理らしい。美遊の事も大事だしな。クロとはまた家で話せばいいし。そうやって気分を切り替えた俺の目の前に、美遊が立っていて見上げてきた。

 

「あの、よろしくお願いします」

 

「ああ、こっちこそな」

 

離れていくクロの背中を見送ってから、美遊と共に会場を歩く。クロは嬉しそうに屋台を見て歩いていたが、美遊はどこか不思議そうな表情で歩いている。もしかして、美遊も祭りは初めてか?

 

「はい、不思議な光景です」

 

そう思って確認してみると、やはり美遊はそれを肯定してきた。海といい祭りといい、美遊は他の子供が当たり前のように見た事がある物を見た事がない事が多いようだ。どんな生活してたんだ?

 

「じゃあ、綿飴でも食べるか?」

 

「綿飴……聞いた事があります」

 

そんな美遊に色々教えてやろうと、祭りの定番のお菓子の名前を出してみる。すると案の定、実物を見た事はないようだな。綿飴屋の屋台は、少し探せば簡単に見つかる筈だ。定番のお菓子だし。

 

「あ、あった」

 

少し歩いた所で、無事に綿飴の屋台を見つけた。だが、俺は忘れていた。美遊という娘の性格を。

 

「……おかしいです、士郎さん」

 

「いや、あのな美遊……」

 

「確か綿飴というものは、砂糖を溶かして綿状に加工しただけの単純な食べ物の筈です。原価は、砂糖のみでは数円、包装の袋を考慮しても数十円程度。なのに、どうして500円なんですか?」

 

「だからな、それは……」

 

「飲食店の原価率を25%と仮定しても200円程度が妥当で、値段設定が明らかに高すぎます。つまりあの店は明らかに、酷いボッタク……」

 

「わー、わー、わー!」

 

な、なんて事を言うんだ、美遊。しかも、お店の目の前で言うんじゃない。店主のお姉さん、凄い目で睨んでくるし。俺は慌てて美遊の口を塞いで店から離れる。そういえば、こういう娘だっけ。

 

店から離れてため息をつき、ゆっくりと美遊の口から手を離す。美遊は何故俺が口を塞いで店から離れたのかが分からないようで、不思議そうな顔で俺の顔を見上げてくる。なんと言うべきかな。

 

「あのな美遊。祭りっていうのは、そういう風に考えるものじゃなくてだな……え~っと……」

 

「よく分かりません。そういえばさっき、イリヤにも同じような事を言われました。一体どういう事なんでしょうか? 詳しく教えてください」

 

「どう言えばいいかな……あまり深く考えずに、楽しめばいいんだけど。美遊には難しいかな?」

 

「深く考えずに……」

 

イリヤも同じ苦労をしていたか。美遊の言葉に、俺は冷や汗を流す。美遊が色々と考えてしまう娘だと理解してるけど、祭りは理屈で考えて楽しむものじゃない。俺はしばらく頭を悩ませるが……

 

「……美遊はさ、イリヤとかクロとか友達とかと一緒に遊ぶ事が、理屈抜きで楽しくないか?」

 

「……楽しい、です。とても」

 

「俺とも?」

 

「勿論です」

 

「じゃあ、それでいいんだよ。大切なのは、大事な人と一緒に過ごして、目一杯楽しむ事なんだ」

 

「……」

 

そう。結局のところ、祭りはそういう風に過ごすイベントの筈だろう。こうして一緒に過ごして、楽しいと思えればそれで十分だ。難しく考えて、なにも楽しめなくなってしまっては本末転倒だ。

 

「極端な話、なにも買わないのも手だ」

 

「成る程。分かりました」

 

「いや、あくまで極端な話だからな?」

 

「はい」

 

本当に分かってるのか? あの美遊だけに、絶対分かってるとは言い難い。そんな不安感を感じたけど、取り敢えず次に行こう。そう判断した俺は美遊と共に再び歩き出す。なにが良いかな……

 

「あ、あの……」

 

「ん? どうした美遊?」

 

周囲の屋台を見ながら歩いていると、美遊が遠慮がちに声を発した。その声に振り返ってみると、美遊がモジモジしながら俺の顔を見上げていた。

 

「その……」

 

「なにかやりたい物でも見つけたか?」

 

「いえ、そうではなくて……」

 

「?」

 

「手を……繋いでも良いですか?」

 

「なんだ、そんな事か。勿論良いぞ」

 

そうか。美遊は大人っぽいから、これを言うのが恥ずかしかったんだろう。美遊の可愛らしいお願いに顔を綻ばせながら、俺は美遊の手を握った。すると美遊は顔を赤くしながらも柔らかく笑う。

 

それから俺と美遊はリンゴ飴を食べたり、うちわを買ったり、ヨーヨー釣りをしたりした。一緒に屋台を回ってみて、改めて美遊の凄さを見たりもした訳だが。何個取るつもりなんだ、ヨーヨー。

 

そうやっている内に、あっという間に時は過ぎ。次のイリヤの番になったので、お開きになった。

 

…………………………………………………………

 

「やっと私の番だー!」

 

「それはイリヤがじゃんけんに弱いから……」

 

「うぅ……それを言わないでよ」

 

イリヤとの合流場所に行ってみると、そこにいたイリヤが満面の笑みでこっちに走ってきた。二人の会話から察すると、じゃんけんで順番を決めたらしい。確かにイリヤはじゃんけん弱いからな。

 

「よーし。待たされた分、思いっきり楽しむよ」

 

「はは、じゃあ行くか」

 

「うん!」

 

イリヤと一緒に祭りを回るのは、一番気心が知れてる分楽だった。クロと美遊は手探りだったが、イリヤが喜ぶものは良く知っているからな。前の二人と一緒に回るのが、嫌だった訳ではないが。

 

自然と手も繋いで、クロ達と行っていないエリアを目指して歩き出した。そうして歩いていると、イリヤが好きそうなものがあった。隣のイリヤを見てみると、案の定目を輝かせてそれを見た。

 

「あの輪投げの景品って、マジカル武士道ムサシのやつだ! ねえお兄ちゃん、あれやろう!」

 

「はいはい」

 

おじさんにお金を払って、イリヤが欲しがってる景品を狙う。本物の魔法少女になったのに、まだイリヤは魔法少女もののアニメが好きらしいな。俺が放った輪は、見事にその景品をゲットした。

 

「ほら、イリヤ」

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

やれやれ。大はしゃぎするイリヤに苦笑しながらイリヤの頭を撫でる。するとイリヤは、えへへ、ととても嬉しそうに笑った。あまりにも幸せそうなイリヤのその笑顔に、こっちまで嬉しくなる。

 

「なんか、お兄ちゃんにこうされるの久しぶり」

 

「そうだっけか? ……そうかもな」

 

イリヤの言葉に、最近の出来事を思い出して俺は頷いた。そういえば、イリヤとこうして二人だけで遊ぶ時間がなかったような気がする。最近は、クロと美遊がいるし。それも楽しいんだけど……

 

「たまには、二人だけで遊ぶのも悪くないな」

 

「うん。最後のカードが回収できたら、また二人でどこかに行きたいな。たまにで良いから……」

 

「そうだな」

 

クロ達が邪魔な訳ではなくて、こうしてイリヤと二人でいる時間も大切なんだ。久しぶりにそんな気分を味わいながら、俺達は再び歩き出す。そうして歩いていると、またイリヤが立ち止まる。

 

「あ、あれは、マジカル武士道ムサシのお面!」

 

「欲しいのか?」

 

「うん!」

 

本当に好きなんだな、あれ。キラキラと目を輝かせてはしゃぐイリヤに苦笑しながら、俺はお面を買って、イリヤに渡してやる。少し甘やかせすぎかもしれないが、イリヤに頼まれると断れない。

 

「ホント、衛宮君ってシスコンよね」

 

「ふふふ、それが先輩ですから」

 

「え? その声は……」

 

「凛さん! と……桜さん?」

 

その時、後ろから知ってる声が聞こえた。驚いて振り返ってみると、やっぱり想像通りの人達が並んで立っていた。遠坂と桜だ。二人とも浴衣で、どうやら二人で夏祭りに来ているようだった。

 

二人の様子はまだぎこちなさが残っているという感じだったけど、こうして二人で夏祭りに来る事はできるようになったようだ。その事に安堵する俺だが、イリヤは少し機嫌を悪くしたみたいだ。

 

「むう……せっかく二人きりだったのに」

 

「別に邪魔するつもりはないから安心しなさい」

 

「……ホントに?」

 

「ええ。私達も私達で忙しいから」

 

「それでは先輩、また今度……」

 

「ああ、じゃあな」

 

そう言って遠坂と桜は人混みの中に消えていく。その後ろ姿をイリヤは不思議そうに眺めて、俺の顔を見上げてきた。なんであの二人が一緒にいるのかと言いたいらしい。だが、それは言えない。

 

「知り合いなんだろ。それよりも、そろそろ花火が始まる時間になるぞ。どうするんだイリヤ?」

 

「え、もうそんな時間? う~……まだまだ全然遊び足りないのに。やっぱり、凛さんのせいだ」

 

「別に、今日が最後じゃないだろ。夏休みはまだまだあるんだ。最後のクラスカードを回収したらどこかに遊びにいくってさっき約束しただろ?」

 

「ホント? 絶対だよお兄ちゃん!」

 

「ああ、約束だ」

 

このあと俺達は、クロ達と合流して花火を見た。この約束をした時には、まさかあんな事になるだなんてまったく思っていなかった。そう、この時の俺達はまだ自分達の運命を知らなかったんだ。

 

そう、これが最後の平穏になるだなんて。この時の俺達には、分かる筈もなかったのだった……




1話にまとめるのが大変な回でした。
しかし、2話に分ける訳にもいかなくて。
少し不完全燃焼だった回でした(私の中で)。
書いてみると思ったより文字数を取られてね。
本当は1人1人をじっくりやりたい。
凛と桜の出番ももう少しある予定でした。
しかし、まあこんなものかとも思います。
本番は次回からのギル戦ですから。

それと、前回の話のコメントで指摘された事について、野暮かもしれませんが言っておきます。
蟲に襲われてないのに、桜の見た目が原作と同じなのは何故なのか、という理由です。
それはしつこく言っていますが、この作品の独自設定が理由になります。
この作品では、桜は元からああいう見た目だという事になっています。

それではまた次回。
感想待ってます。

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