それではどうぞ。
【イリヤ視点】
「まったく、やれやれだね。一番驚いてるのは僕だよ? 間違いなくさ。それにしてもこれ、本当にまいったなぁ。まさかこんな風になるとは思ってもいなかった。軽はずみな事をしてくれたものだよね。どう責任取ってくれるのさ? ねぇ?」
あまりの事(男の子のアレを触ってしまった事)に混乱している私に、どこか呆れたような声で、そう言ってくる全裸の男の子。その態度はあまりにも堂々としていて、恥ずかしがる様子はない。
「いっ……やあああ!!!」
「わわっ!? またこのパターン!?」
でも今の私には、男の子の全然意味が分からない言葉に対するまともな対応はできなかった。完全に全裸だから、当然ソレを見てしまう。さっきの衝撃的な出来事を嫌でも思い出してしまうんだ。
「待ってイリヤ! 無闇に攻撃しちゃダメ!」
「はうう……!」
混乱して男の子に魔力砲を乱射する私を、美遊が必死に止めた。それで私はなんとか正気に戻る。
「だっ、だってだって! なにか、女の子として凄く大切なものを汚された気がするんだもん!」
「よ、良く分からないけど、落ち着いて!」
正気には戻ったけど、この胸に沸き上がる感情を全然処理できない。泣きながら美遊に詰め寄り、私は魂の悲鳴を上げる。でもそんな私の悲鳴は、美遊には伝わらなかったみたい。とても悲しい。
『いやー……しかし、なにがなにやらー……一体どういう事なんですか、これは……?』
「それはこっちが聞きたいねー。僕だって、突然の事で混乱してるんだ。まったく。おかしいよ、この場。こんな『
『混じり方……?』
「あっ、渦が……! ドーム状に!?」
ルビーと男の子の会話は、全然噛み合ってない。だけどその間に、後ろにあったあの渦がその形を変えてた。さっきより大きく、激しくなってる。その様子は、とても不安を掻き立てられる……
「どんどん広がってきてる!」
「あらら。あっちは、なんだか順調だなぁ。気を付けてね? あの泥に触れると、多分死ぬよ?」
「はい!?」
さらっと怖い事を言う全裸の男の子。私の魔力砲から逃れて、今は岩の影にいてこっちを見てる。
「イリヤ、この場はまずい! ドームの膨張速度が速い! どこまで膨れるか分からない……! 今は一刻も早くここから離れよう! 急いで!」
「う……うん!」
美遊の言葉通り、ここは危険だ。そう思った私は美遊と一緒に上空に避難しようとした。でも……
「あ、ちょっと!? 待ってよー!? 君ら二人だけ空を飛んで逃げるなんて、ズルくない!?」
「は!?」
「僕も助けてよー!」
逃げようとした私達の耳にそんな声が聞こえた。下を見てみると、あの全裸の男の子が走ってる。その様子はとても必死そうで、結構シュールだ。助けてって言われても、貴方は一体なんなの?
「なにあれ。自分で逃げる事もできないの!?」
『まるっきり、ただの子供っぽいですねぇ』
「どうするの、イリヤ……!?」
「ど、どうするって……」
早く逃げないといけないのに、あんな正体も不明な男の子を助けても良いんだろうか。凛さんなら見捨てるような気もする。でも、今ここに凛さんはいない。全部私の判断でやらないといけない。
「あーん、もー!」
私は少し自棄になりながら、下に降りた。そして男の子の右手を掴んで、再び空に舞い上がった。途中で美遊と合流すると、美遊は男の子の左手を掴んで一緒に飛んでくれた。ありがとう、美遊。
「ひゃー……危なかった! あそこで死んじゃうのかと思ったよ。ありがとう、お姉さん達」
「……助けて良かったのかな」
「で、でもあのまま見殺しってのは……」
美遊の確認に私は下を見ないようにして答えた。男の子は未だに全裸だから、まともに見れない。
『いやー。あれはこの子の演技かもしれないのによくやりますね。ある意味凄いですイリヤさん』
「ううっ……!」
それは確かに、そうかもしれないけどさ。ルビーの言葉を否定できずに、私は言葉に詰まった。
「じゃあ。いっそ今、手を離してみれば、あれが演技かどうかが分かるかもしれないよ……?」
「え!? ちょっと、やめてよね!? 冗談でもそういう事言うの。シャレにならないからさ」
いや、多分美遊は本気だ。そう思ったけど、言うのはやめておいた。口に出すと、私も怖いし……
「ああ……綺麗な街だね」
そんな風に考えていると、男の子が突然そんな事を言い出した。どうしたんだろう? その様子が気になって、私は薄目を開けて、男の子の様子を伺う。すると彼は、静かに冬木の街を眺めてた。
一体、この不思議な男の子はなんなんだろう? もう何度も思っている事を、私は再び思った。
「イリヤ! 美遊!」
その時、下から私達を呼ぶ声が聞こえた。最近はすっかり耳に馴染んだその声。そう、それは……
「「クロ!」」
もう一人の私……ううん、私の新しい家族。クロが私と美遊の二人に向かって、手を振っていた。
…………………………………………………………
【士郎視点】
「―――ッ!? かッ……!」
「ちょっ!? どうしたのよ、いきなり!」
円蔵山に着いた俺達が、走って大空洞を目指していた時、突然華憐先生が倒れた。その様子に俺達は足を止めて、華憐先生を振り向いた。そして、華憐先生の姿に絶句する。何故なら、彼女は……
「術式が……起動しました……」
「術式……聖杯戦争の!?」
「その血は……!?」
目と口から、血を流していたからだ。華憐先生はバゼットの手を借りて、手近な木に凭れ掛かる。
「これは
心配する俺達を遮って華憐先生は語る。今なにが起きているのかを……アインツベルンの術式とは異なる術式が起動したという事は、やはりクロとルヴィアの推測は正しかったって事になるのか。
「やはり、別の何者かが……?」
「疑問なのは……誰がどうやってアインツベルンの術式と今の術式を入れ替えたのか。私の仕事はあくまで監視。この先の事には立ち入りません。だから、私の知っている情報を伝えておきます」
「「「……」」」
「事実から真実を結ぶのは、貴女達の仕事です」
そう前置きしてから、先生は静かに語り始めた。
「異変があったのは、おおよそ3ヶ月前。大空洞のほぼ真上……約180メートル四方の木々が、なんの前触れもなく完全に消失しました……」
「消失……!?」
「その部分だけぽっかりと荒地になったのです。そしてその直後……いえ、恐らくはそれと同時に冬木市にカードが出現したと、私は見ています。そして、ここからが重要なのですが……」
少しずつ明かされていく事実。華憐先生は言葉を一度切り、俺達を見上げる。そして、続けた。
「……私は、大空洞に出入りした全ての人間を、監視していました。するとある日、入った人数と出てきた人数が合わない日があったのです」
「それって……!」
「クロの事だな?」
あの日の事は、良く覚えている。注入した魔力の逆流による大爆発が起きて、イリヤがランサーのカードを
「あの時は驚いたわ。5人の人間が中に入ったと思ったら、英霊なのか人間なのか良く分からない者が一人増えて出てきたんだから。でも、増えたのはあの日焼け少女だけではなかったのよ……」
「え……?」
なんだよ、それ……どういう事なんだ……?
「3ヶ月前、木々が消失したあの日。
「「「っ!?」」」
「その人物は―――」
華憐先生が口にした名前に、俺は固まる。そして居ても立ってもいられなくなり、身を翻した。
「ちょっと衛宮君!」
「お待ちなさい!」
「先に行く!」
「だから待ちなさいって……速っ!?」
「アーチャーのカードは使ってない筈では……」
考えている暇はなかった。頭に浮かぶのは、彼女の儚げな笑みだ。そして、俺にとっても始まりとなった、3ヶ月前に見た不思議な夢の光景。何故それが浮かぶのか。今の俺にはまだ分からない。
だけど、確実になにか繋がりがある。それだけは確信があった。あれは、単なる夢じゃないと……
「美遊! 今行くぞ!」
俺は、最後にそう叫んだ。
…………………………………………………………
【???視点】
「はあ、はあ、はあ……」
一体どうしてこんな所を歩いてるんだろう。もう何度目になるか分からない事を考える。目指す先からは、ずっと大きな音と揺れを感じる。とても怖い。でも、何故か足を止める気にはなれない。
「あんな夢を……見てしまったから……?」
泣いている自分自身。その自分が、こちらを見て言った。『円蔵山に急いで』、と……そんな夢で本当にこんな所に来てしまった自分に驚くけど、今明らかに、なにかがこの円蔵山で起こってる。
それだけは間違いなかった。ここに来る途中でも異変があった。街の明かりが消えていて、通りには誰もいなかった。魔術的な事が起きてるんだ。魔術の事は詳しくないけど、それくらい分かる。
だったら、もしかしたらあの人が関わってるかもしれないんだ。そう思うと、音が聞こえる場所を目指す足が、自然と速くなる。あの夢はもしかしたら、なにかの予知夢だったのかもしれない。
「急がないと……!」
だから、こうして必死で前に進むんだ。そうした結果どうなるのか、今はまだ知る術はなかった。
…………………………………………………………
【イリヤ視点】
「どうやら、結界の膨張は止まったみたいだね。結構な大きさだけど……なるほど、あそこが境界な訳だ。まったくハタ迷惑な事してくれるなぁ。このままじゃ……今度は君らが隠れるのかい?」
「あっ……あなたねぇっ……!」
「ちょっと。なんなのよ、あの変態。やっと到着したと思ったら、あんなのがいるなんて……」
「私達にも、良く分からないの……」
クロと合流した私達は、安全そうな位置まで移動していた。でも、あの全裸の男の子は相変わらずなにも着ずに堂々と立って、訳の分からない事を言ってる。とてもじゃないけど、直視できない。
だから私達は木の影に隠れていた。彼の姿を見たクロが顔を歪めて美遊に聞いているけど、あの子の正体は私達だって知りたい。でも取り敢えず、今私が言いたい事は、たった一つしかなかった。
「誰だか知らないけど、取り敢えず、その格好をなんとかしてよ! これじゃ話もできないわ! ちょっとは恥ずかしいとか思わないのーッ!?」
そう。いつまで全裸でいるつもりなのか。そんな私の魂の叫びに、男の子は軽く笑って答えた。
「なんだそんな事か。安心してよ。僕の身体に、恥ずかしい所なんて一つもないからね」
《ワッ……ワールドワイド!》
全然恥ずかしがる様子もなく、むしろ誇らしげな様子でその裸体を私達に晒す男の子。その様子に私達は絶句した。次の瞬間、私の視界に、股間のアレが入ってきてしまい、再び私は正気を失う。
「―――ッ!?」
「あーはいはい、ここで連射ね。なんだか段々、君の行動パターンが分かってきたよ……」
また男の子に向かって魔力砲を乱射すると、彼は木の影に隠れてなにかをし始めた。一体なにを?
「これでいい?」
「いい訳ないでしょーッ!?」
笑顔で現れた彼の姿に私は即座に駄目出しする。何故なら、彼は股間に葉っぱを張り付けただけの状態だったからだ。最低威力に弱めた魔力砲を、彼の頭に向かって発射した。ふざけてるの!?
「分かったよもう……服を着ろって事でしょ? でも今の僕じゃ……ちゃんと繋がってるかどうか怪しいんだから、あんまり期待しないでよね?」
「えっ!?」
「嘘ッ!?」
「あれって……」
私の言葉に、ようやく服を着てくれる気になったらしい男の子だったけど、彼がやった事に私達は驚愕する。彼は突然、なにもない空中に、左手を突っ込んだ。そしてその左手が、空中に消えた。
「あー、やっぱりロクな物がないなぁ。えーと、服服っと……うーん……あった! よっと」
「なにあれ!?」
「空中から服を取り出した!? あれ、まさか」
「同じだ……無数の宝具を出現させていたのと、恐らく同じ能力! やっぱり、あの子は……」
『どうやらそのようですね。姿こそ変われど……あの子は9枚目のカード……その英霊です!』
信じられないけど、そういう事なんだろう。私達がその事実に驚愕して固まる一方、彼は軽やかに服を着て、どこか楽しそうに次の言葉を発した。
「さてと、これでお話できるよね?」
確かにその通りだ。でも、彼とゆっくり話す事はできなかった。何故なら、ドーム状に変化してた渦が突然光り出したからだ。さらに、それと同時に持っているクラスカードが、脈打ち始めた。
「なっ……!?」
「突然なんなの!?」
どうやら、クロも体内にあるランサーのカードが反応しているらしい。という事は、お兄ちゃんが持ってるアーチャーのカードも同じ事になってるんだろうか。一体、なにが起きているの……!?
「へぇ、君達カード持ってたんだ。他のカードもここに近付いているみたいだし、やっぱり惹かれ合うものなのかな。ねぇ―――美遊ちゃん?」
「えっ……?」
「なんで、美遊の名前を……」
「まさか……記憶があるの?」
「そこらの英霊とは違うさ。ごめんね、僕の半身はどうしても聖杯が欲しいみたいだ。聖杯戦争の続きをするにしても君がいなくちゃ始まらない」
「やめて……」
なんだろう。この二人は、なにを言ってるの? 9枚目のカードの英霊と美遊は、さっきから訳の分からない事を言ってる。クロはどうかと思って見てみると、クロも分かっていないみたいだ。
「なにせ君は……」
「それ以上口を―――開くな!」
「美遊!?」
「待ちなさい!」
カードの英霊の言葉を遮るように、美遊が英霊に向かって突撃していく。その様子はいつも冷静な美遊らしくなくて、私とクロは動けない。美遊はサファイアを、英霊に向かって振り下ろした。
でも、魔力の壁のような物が英霊の前に出現してその攻撃を防いだ。美遊は、さらに魔力砲を乱射する。でも、
色んな事が起こりすぎて、私には状況を把握する事はできない。でも、二つだけ確かな事がある。あの英霊は、美遊の秘密と繋がってる。そして、美遊の秘密はカードと聖杯戦争が関係している。
目の前の光景を呆然と見つめながら、私はそんな事を考えていた。美遊……貴女は、一体……?
…………………………………………………………
【凛視点】
カレン・オルテンシアの話と状況証拠を合わせて考えてみて、分かった事がある。それは、なにも知らなかったあの時には、分からなかった事だ。9枚目のカードの調査の為に地脈を転写した時。
違和感があった。龍穴……大空洞を中心に、半径400メートル程度の所に地脈のズレがあった。ほんの僅かなズレだったから、私はそれがなにかの間違いだと思ってた。だってあり得ないから。
あんなズレ方はあり得ない。でも、さっき聞いた話と合わせてみると、一つの可能性が浮かんだ。大空洞上部の木々の消失と、地脈のズレ……この二つを立体で考えてみる。これって、やっぱり。
状況証拠でしかない。けど、これで全ての辻褄が合ってしまう……! つまり、大空洞周辺の空間が丸ごと、別の世界と入れ替わってる! なら、そこから出てきた美遊は、もしかすると……!
「……ルヴィア」
「……なんですの?」
「知ってたの?」
「いいえ、ただ―――覚悟はしていましたわ」
ルヴィアの返答に、私は唇を噛む。衛宮君、美遊の事をお願いね。アンタの事だから、きっと私が祈るまでもないでしょうけど。先に行ったバカにお願いするだなんて、私も焼きが回ったわね。
そんな事を考えて、私は口元を緩めた……
…………………………………………………………
【イリヤ視点】
「うああああ!」
「……美遊」
我を忘れたように魔力砲を乱射する美遊。その顔は苦しそうに歪んでいて、とても見てられない。
「ずっと眠ってばかりだった君が、随分とお転婆になったものだね。もしかして秘密だったの?」
「お願いだから、黙って!」
一体なにが美遊をあそこまで激昂させてるのか、私には分からない。あの英霊をそれを知っているみたいだけど、美遊は言わせたくないみたいだ。でもそんな美遊を無視して、英霊は告げた……
「平行世界のお姫様」
「っ!?」
「平行……」
「世界……?」
私とクロの、呆然とした声が響く。だけど、その意味を私達が理解するより早く、ある人がこの場に乱入する。それは私達が世界で一番好きな人。
「……なんだよ、それ……」
「「えっ!?」」
「士郎、さん……」
確かめるまでもない。その人の声を、私達が聞き間違える筈がない……後ろを振り向いてみると、そこには呆然とした表情のお兄ちゃんがいた……アーチャーのカードで変身してる様子もない。
「……
「……お前は……?」
お兄ちゃんの登場で固まってた私達の耳に、少し機嫌が悪そうな英霊の声が聞こえた。その表情は私達に向けるものとは全然雰囲気が違っていて、背筋が寒くなった。なんて冷たい表情だろう。
「さて、妙な乱入者がいたけど、話の続きだよ。まずは謝っておこうか。ごめんね。人の隠し事を暴くのは趣味じゃないんだけど。だけど、状況がこうなってしまったんだから、しょうがない」
「……」
「許してね。運が悪かったと思って。諦めてね。これが君の―――【
「おい待てよ! 一体なんの話をしてるんだ!」
「わ、私達にも分からないの!」
美遊を追い詰めるように言葉を吐き出す英霊に、ついにお兄ちゃんは我慢できなくなったらしい。勿論私だって言いたい事があるけど、状況が全然分からない現状では、どうすればいいのか……
『なるほど。やはりそういう事でしたか』
「ルビー……!?」
「どういう事なんだ?」
そんな時、突然ルビーがそんな事を言い出した。ルビーはなにかを知っているんだろうか? 私達が聞くと、ルビーは神妙な様子で語り始めた。
『仮説の一つとしてあった物です。用途・製作者不明のクラスカードが発見された空間、鏡面界。虚数域のあの場所は……この世界と、平行世界の鏡面界ですからね。つまり、あのカードは……』
「ああ。君達には、お礼を言わなきゃね。境目で迷子になってた僕を、『実数域の方から見つけてくれたんだから』ね……本当に、ありがとう」
ルビーがなにかを説明しようとしたけど、それをあの英霊は遮ってしまう。でも、その言葉で彼の正体に、お兄ちゃんは気付いたみたいだった。
「なっ……あいつ、まさか9枚目の……!」
「見た目は違うけど、間違いないわ」
「うん……」
「なにがあったって言うんだ……」
さっき来たばかりのお兄ちゃんには、今の状況は分からない事だらけなんだろう。最初からここにいた私にも分からないんだから当然だ。そんな風に混乱する私達を置き去りにして、事態は動く。
「おっ」
「なっ!?」
「なによ、あれ!?」
「美遊!」
ドーム状に変化していた渦の中から、巨大な腕が飛び出してきて美遊を捕まえた。あまりにも突然な事態に、私達は一歩も動く事ができなかった。美遊がとても苦しそうな呻き声を漏らしている。
「やれやれ、乱暴だなぁ。もう術式の乗っ取りは終わったのかい? 思ったより早かったね」
「美遊!」
「私が助ける! 任せて!」
なにが起きてるかは分からないけど、今は美遊を助けなくちゃ。そう思った私は、掴まれてる美遊の元に向かった。美遊を掴んでいる巨大な腕に、渾身の【
「えっ!?」
「あー、やっぱり。受肉が半端で終わっちゃったせいなのかなぁ。どうやら僕の財宝の内、武具の大半は―――あっち持ちになってるみたいだね」
私の渾身の攻撃は、巨大な腕の表面にびっしりと出現した無数の盾によって防がれてしまった。
「し……士郎さん……イリヤ、クロ……」
「美遊!」
「あっ!?」
「させない!」
美遊が巨大な腕によって、ドーム状の渦の中へと引きずり込まれていく。私は慌ててそれを追う。
「……最初から、ダメだったんだ……拒んでも、抗っても、逃げても無駄だったんだ……」
「諦めないで! 手を!」
「これが私の運命……士郎さん、イリヤ、クロ。お願い……壊して。私ごと、この
届かない。あと一歩なのに。私の手は、美遊には届かなかった。私はただ、目の前で絶望の表情を浮かべる美遊を、見ている事しかできない……
「ごめんなさい……関係ない貴方達を巻き込んでしまって。ごめんなさい……今までずっと……」
なにを謝ってるのかは分からない。でも、美遊の悲痛に歪んだ顔が、全てを物語っていたと思う。美遊はずっと、この事で苦しんでいたんだって。そんな美遊を助けたくて、必死に手を伸ばす。
でも、世の中は残酷なもので……
「……言えなくて……」
「美遊!」
「さよなら」
ついに美遊は私のすぐ目の前で、渦の中へと引きずり込まれてしまった……その光景を見て絶望に打ちひしがれる私の耳には、美遊の最後のお別れの言葉が、何度も何度も鳴り響いていた……
謎の視点は一体誰なのか。
明かす時をお待ちください。
それと、今回の話を書いてる途中で気付いた前話のミスを修正しておきました。
詳しくは前話の後書きをご覧ください。
それから、一つネタバレします。
この作品ではツヴァイフォームはありません。
今回を見れば分かると思いますが、イリヤは美遊からサファイアを受け取っていません。
何故かというと、ツヴァイフォームは強すぎて、士郎とクロの出番がなくなるからです。
この二人の活躍とオリジナル展開をお楽しみに。
それではまた次回。
早ければ今日中に投稿します。
感想待ってます。