錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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さあ、いよいよこの時が来ました。
タイトルの世界は、『こたえ』と読みます。

プリヤ士郎格好いい。
そう思って頂ければ満足です。
それではどうぞ。


士郎の『世界』

【士郎視点】

 

ある男は夢見た。この世全ての救いを。

 

ある男は願った。たった一人の幸せを。

 

ある男は最後まで、自分の理想を貫いた。

 

そして、俺は望んだ。大切な人達の笑顔を……

 

…………………………………………………………

 

「美遊ーッ!」

 

「こんなのって……」

 

「どう……して……」

 

イリヤの目の前で美遊が、奇妙なドーム状の渦の中に引きずり込まれた。ここに辿り着いてから、訳の分からない事が起こりすぎている。9枚目のカードの英霊が小さな子供の姿になっていたり、その英霊と美遊が意味不明な事を言っていたり。

 

美遊が、平行世界の人間だと判明したりもした。これについては、なんとなく分かっていたけど。あの日に見たあの夢は、その様子を見た物だったんだろう。今の俺にはそれが分かっていた……

 

『……これが、運命なんですか……? これが、美遊さんの世界の聖杯戦争だと……?』

 

「そう。イレギュラーが多すぎるけどね」

 

「っ!?」

 

「万能の願望器たる聖杯を降霊させる為の儀式、『聖杯戦争』。その為に僕ら英霊まで利用しようって言うんだから、本当に迷惑な話さ……」

 

ルビーの言葉に答えたのは9枚目のカードの英霊だった。どうやってるのかは分からないが、空中を歩いている。もしかしたら、美遊と同じで魔力を板状にして踏み台にしてるのかもしれない。

 

「……美遊も、聖杯戦争の為に生まれたの?」

 

「『美遊も』? ああ……君も聖杯戦争の関係者なのか。まあ、別に珍しくもない。色んな世界で繰り返されてきた儀式()だものね。けどね、彼女は特別だ。聖杯戦争の為に生まれたって? 逆だ(・・)

 

「えっ……?」

 

カードの英霊の返答にクロが驚きの声を漏らす。そして、カードの英霊は語る。驚愕の真実を……

 

彼女の為に聖杯戦争が作られたんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「「「っ!?」」」

 

彼女は生まれながらに完成された聖杯だった

 

『聖杯……美遊さんが……!?』

 

「天然物で、『しかも中身入り』。オリジナルに極めて近い飛びきりのレアリティさ。人間が聖杯という機能を持ってしまった……というよりは、聖杯に人間めいた人格がついてしまったのかな」

 

「……黙れ……」

 

美遊の事を、まるで物であるように語るカードの英霊に、俺は心の中で沸々と怒りを滾らせる。

 

「いずれにせよ……あれは世界が生んでしまったバグだよ。この世にあってはならない存在だ」

 

黙れ!

 

そして次に放たれた言葉に俺の怒りは爆発した。上空の英霊を睨み付け、怒りをぶつける。奴は俺の声に顔を向けて、冷たい表情で見てきた。剣呑な俺達の視線が、中空で激しくぶつかり合った。

 

「ふん……僕に怒りをぶつけるのは筋違いというものだよ、贋作者(フェイカー)のお兄さん? 怒りなら、僕にじゃなくて……彼女の運命か、それを利用しようとした大人達か……もしくは―――理性(ぼく)を失って肥大化した、哀れな『この僕(・・・)』にぶつけてよ」

 

奴がそう言った時、美遊が引きずり込まれた渦が割れて、中から巨大な怪物が出現した。なっ……なんだあれは? その姿に、俺達は絶句した。

 

「……ッ!?」

 

「……なによ、あれ……?」

 

「これは……」

 

『こんなものが……英霊……!?』

 

「ああ……とても醜いね。受肉して切り離された僕は正直な所、どちらの味方でもないんだけど。それでも、こうするのが一番自然なのかな……」

 

「あっ……!」

 

そう言った英霊は……静かにその怪物に向かって飛び降りた。それを見たイリヤが声を上げるが、今からではどうしようもない。その英霊が落ちていく様子を、俺達はただ呆然と見ていた……

 

「もうこの戦争は止まらない。死にたくなければカードを全て置いて、ここから逃げなよ」

 

そう言った奴は、怪物の黒い体に落ちた。そしてすぐにその体内に姿を消す。だけど、まだなにも終わっていない事は明白だった。奴が落ちた場所が蠢いて、中からなにかが出ようとしている。

 

だが、俺は……

 

「カードを置いて、逃げろだって……?」

 

「お兄ちゃん……?」

 

「そんな事、できる筈がない……」

 

正直、奴がなにを考えているのかは分からない。だけど、一つだけはっきりしている事がある。

 

「私を壊して? ふざけるなよ美遊……」

 

「お兄ちゃん……」

 

美遊の最後の言葉を思い出した。全てを諦めて、絶望に染まった顔も……ふざけるな! なんで、最後に言う言葉がそれなんだよ! 違うだろ! お前が言わなきゃいけない言葉はそれじゃない!

 

「そういう時は、『助けて』って言うんだよ!」

 

「「お兄ちゃん!」」

 

『あはは、なんとまあ……実に士郎さんらしい。この状況で言う言葉が、それですか♪』

 

「行くぞ、イリヤ、クロ! 美遊を助ける!」

 

「「うん!」」

 

そうだ。美遊にどんな事情があるかなんて、全然関係ないんだ。美遊が平行世界の人間だろうと、完成された聖杯という物だろうと。俺達にとって美遊は大切な存在だ。だから、絶対に助ける!

 

そう決意する俺達の眼前では、怪物の黒い体の中に消えていったカードの英霊が再び現れていた。

 

「……まだ逃げていなかったのか」

 

「当たり前だ。美遊を返して貰うぞ!」

 

アーチャーのカードを取り出して、俺はそいつを睨み付けた。頼む、お前の力を貸してくれ……!

 

…………………………………………………………

【イリヤ視点】

 

「取り敢えず、美遊の居場所を確かめないと!」

 

「そうね。私が道を開くから、イリヤはアイツに突っ込んで、美遊の居場所を聞き出すのよ!」

 

「うん!」

 

クロと二人で作戦を決めて、私達は巨大な怪物に突撃する。お兄ちゃんはさっきから一言も喋らずにアーチャーのカードを握り締めている。なんでなのかは分からないけど、私達は信じている。

 

お兄ちゃんの事を。きっとお兄ちゃんは、なにか理由があって動かないんだ。だから私達はそんな事はまったく気にしなかった。真っ直ぐ突っ込んでいく私達を、カードの英霊は静かに見ている。

 

「……死んでも知らないよ?」

 

敵はそう言って、巨大なボーガンみたいな宝具を出して接近していく私達に狙いを定めた。でも、それを見たクロはアイコンタクトで、『構わずに突っ込んで』と指示を出してきた。信じてるよ。

 

「【真・射殺す百頭(ナインライブズ)】!」

 

敵の宝具から光の矢が放たれた。その瞬間、クロは地面に手を付いてなにかを書く。ルーン魔術を使うんだろうと思った時、私はクロに手を引かれて上空にジャンプしていた。えっ、なんなの?

 

「へえ……」

 

「ふん、この程度で感心してんじゃないわよ!」

 

あまりにも一瞬の事で、私はなにが起きたのかを正確に認識する事はできなかった。下を見てみるとそこには土の人形のような物があって、さっきの光の矢はその土人形のような物を貫いていた。

 

「生命のルーンで作成した土塊(つちくれ)の人形に、錯覚のルーンを使って身代わりにしたのか。器用だね」

 

「人形だけじゃ、さっきの追尾能力がある光の矢を躱せなかったもの。これくらい簡単な事よ!」

 

そんなやり取りをしながらも、クロは次々と射出される宝具の雨を槍で弾いて道を開いてくれる。敵の宝具の射出方法は前と変わっていて、巨大な怪物の体から直接無数の宝具が射出されている。

 

「……次の攻撃の直後に接近するわよ。準備して」

 

「うん」

 

私達は、小声でそんなやり取りをする。敵の攻撃は絶え間なく続いてる訳じゃない。攻撃と攻撃の間に少しの空白時間がある。クロはその空白時間を利用して一気に接近しようと言ってるんだ。

 

「良く防ぐね。なるほど、光の御子のスキルか。だけど、君は防げても、これならどうかな?」

 

「「っ!?」」

 

そう言った敵がやってきたのは、私の方を狙った全方位攻撃だった。怪物の体から射出された無数の宝具は、一端上空に打ち上がった後に、私達を囲むようにして空から降ってきた。私に向けて。

 

「だったら!」

 

「わっ!」

 

「舌噛むんじゃないわよ、イリヤ!」

 

それを見たクロは、足に加速のルーンを使って、私の手を引いて走る。無数に降ってくる宝具の雨を躱しながら。急に凄いスピードで手を引かれているから、クロの言う通り舌を噛んでしまう。

 

「あうう……じだがんだ(舌噛んだ)よ~!」

 

「もう、ふざけてる場合!?」

 

「だ、だっで~!」

 

「やれやれ。緊張感がないね、君達」

 

うう、だってクロが、宝具を躱す為にジグザグに走るんだもん。右に左に、上に下に振り回されてシェイクされている。そんな私達の様子を見て、敵すら呆れてる。うう、私のせいじゃないもん。

 

「って油断させておいて……!」

 

「え?」

 

「行くわよイリヤ!」

 

「え? え? え?」

 

あれ? なにこれ? クロは敵の攻撃が少し弱くなった瞬間に、私を掴んでる右手を振り上げた。そんな私達に向けて再び射出される無数の宝具。次の瞬間、クロは私を振りかぶって前に飛んだ。

 

「これって、まさか……」

 

「行きなさい! 【突き穿つ死翔のイリヤ(イリヤ・ボルク)】!」

 

「いやあああ~! やっぱりいぃぃ~!」

 

この人でなし! 敵に向かって、私はクロに投げ飛ばされた。そのスピードは敵の射出宝具を遥かに上回るスピードで、射出されている宝具の横を一気に抜けて、私は怪物の上の英霊に突っ込む。

 

「ぎゃうっ!」

 

「ぐっ!」

 

『いやぁ、さすがはクロさん。まさかこんな方法で敵に接近させるとはね。そして、イリヤさんも相変わらず面白……いえ、なんでもないです』

 

クロのバカ! 後で絶対文句言ってやるから! そして、ルビーもいい加減にしてよね! 頭から敵に激突したので、かなり痛い……ルビーの物理保護があるからって、無茶苦茶すぎるでしょ。

 

「イリヤ、ボサッとしない! 早くソイツから、美遊がどこにいるのかを聞きなさい!」

 

「わ、分かってるよ!」

 

「本当に面白いね、君達は」

 

「放っておいてよ!」

 

なんだかいつもの感じになったけど、今はそんな場合じゃない。クロの言う通り、この英霊に美遊の居場所を聞き出さないといけない。そう思った私は気を取り直して目の前の英霊を睨み付けた。

 

「……美遊はどこ!?」

 

「……()の中さ。丁度、中心部くらいかな。まだちゃんと生きてるよ。でも……気を付けて。君は今ここで、死んじゃうかもしれないからね」

 

「くっ……!?」

 

美遊の居場所は聞けた。でも、ここは怪物の上。つまり、私の足元から宝具が飛び出してくる場所という事になる。足元から無数の宝具が出てきて私を取り囲む。そしてその矛先が、私に向いた。

 

「うまく避けてね」

 

「イリヤ! 早く逃げなさい!」

 

クロは遠くにいる。つまり、自分で脱出しないといけないという事だ。だけどこの状態じゃ。そう思って動けない私に向かって、ついに宝具が射出された。避けられない、と思った次の瞬間……

 

「あっ!?」

 

「へえ……」

 

「えっ……?」

 

私は誰かに抱きかかえられて、宝具の檻から脱出していた。誰かと思って、その人を見てみると。

 

「バゼットさん!」

 

「これで、鏡面界での借りは返しましたよ」

 

淡々とそう言ったバゼットさんは、怪物の体の上から地面に飛び降りた。えっと、バゼットさんが言った借りってもしかして、あの敵の動きを障壁で止めたやつ? 気にしなくても良いのに……

 

「しかし、あれはどういう事ですか? 攻撃方法から見てあれは、9枚目のカードでしょう?」

 

「私にも良く分からないんだけど……」

 

「足を止めちゃダメよ、二人とも!」

 

「「っ!?」」

 

クロの鋭い指摘に、私達は咄嗟に動いた。するとさっきまで私達がいた場所に、無数の宝具が降り注いでいく。危なかった。もしクロが声を掛けてくれてなければ、私達は串刺しになっていた。

 

「一端距離を取るのよ! お兄ちゃんの所に!」

 

「う、うん!」

 

「……分かりました」

 

美遊の居場所はもう聞けたから、お兄ちゃんにもそれを教えてあげないといけないしね。その事に気付いた私は、お兄ちゃんの所に急いだ……

 

…………………………………………………………

【士郎視点】

 

美遊を助ける。そう決めたはいいが、アーチャーのカードが反応しない。その理由に気付いた俺はしばらく動かず、アーチャーに呼び掛け続けた。少しの間なら、イリヤ達に任せておけるから。

 

『アーチャー……』

 

今なら、俺の方から接触できるようになっている筈だ。だから、俺は意識を沈めていく。目の前の現実が段々遠ざかり、アーチャーがいる場所へと近付いていく。その為の鍵は、このカードだ。

 

やがて俺は、あの荒野に立っていた。前までは、夢を通じてしかいけなかったのに。さてと、早くアーチャーと話さなければ……そう思った俺は、遠くに見えているあの丘を目指して走り出した。

 

そこに向かう途中で、地面に突き立つ無数の剣とすれ違った。その一つ一つの剣に込められているアーチャーの想いを心に刻み付けながら、俺は剣の荒野を駆け抜けていく。ここ(・・)は、理想の果て。

 

世界から自分を切り離し、誰かを救う度になにかを失い、ついには伽藍洞(がらんどう)になった―――

 

『……お前の心象世界(しんしょうせかい)

 

『……』

 

俺は剣の丘で、再びアーチャーと向かい合った。彼は俺の顔を見て、非常に苦い顔をしている。

 

『……分かっているのか?』

 

『分かってるよ』

 

たった一言のやり取り。だけど、俺達にはそれで十分だった。俺達はたったこれだけで、お互いの事が分かってしまう。何故なら、彼の正体は……

 

『俺さ、もしかしたら最初から分かってたのかもしれない。お前が、一体どこの誰なのかを……』

 

『……』

 

そう。もしかしたら、俺は魂の直感で分かってたのかもしれない……最初にアーチャーのカードで変身した時、俺は彼の正体に気付いていたんだ。何故なら俺はあの時、できると確信していた。

 

当たり前のようにカードを握り締めて、英霊の座にアクセスしていた。勿論あれは、彼が俺の声に応えてくれたからだけど、その前からあのカードを使えば誰かが力を貸してくれると分かってた。

 

それにあの時、俺は彼の名前を呼んでいたんだ。そう、俺に力を貸してくれていた彼の名は……

 

『今までありがとう―――英霊【エミヤ】』

 

『……』

 

彼の名前を呼んで、今までの助力の礼を言うと、彼―――英霊エミヤは静かに目を閉じた。彼は、平行世界の『俺の可能性』の一つ。もしかしたらあり得るかもしれない、そんなIFの姿だ……

 

世界と契約して人類の守護者になった、遠い未来の英霊だ。正義の味方という理想を貫き通して、その到達点に至った……本来なら人類の為に振るわれるべきその力を、俺に貸してくれていた。

 

『もう一度変身すれば、確実に戻れんぞ?』

 

『ははは……』

 

『……? 何故笑う?』

 

『いや、ちょっとな』

 

この期に及んで、まだ俺の心配か。なるほどな、確かに正義の味方の到達点だ。本当に凄い奴だ。

 

『なあ、英霊エミヤ』

 

『なんだ、衛宮士郎?』

 

『俺はさ、別に良いんだよ。戻れなくても』

 

『……なに?』

 

『怒るなよ。自分がいらないって意味じゃない。確かに最初は、俺の全てを差し出すなんて思ってたけど、今はそうじゃないんだよ……』

 

『……では、なんだ?』

 

『これは妹の、イリヤの受け売りなんだけどさ。出会った人も起こった事も、無かった事には絶対にしない。だから俺は違う自分に変わる事も否定しないし、恐れない。後悔だって絶対にしない』

 

『っ!?』

 

そうだ。全部、俺が選んだ事だ。だから俺はその変化を受け入れる。例えそれでなにかが変わってしまったとしてもそれが俺だ。衛宮士郎なんだ。それ以外の存在になんか、絶対にならない!

 

『ふっ……ふふふ……ははははは!』

 

『力を、貸してくれるよな?』

 

『……良いだろう。もう好きにするがいい』

 

『俺の【世界】を、お前に見せてやるよ』

 

『ふ、言ったな。ならば見せてみろ、衛宮士郎』

 

『ああ、良く見ておけよ』

 

俺はアーチャーと笑い合い、意識を現実に戻す。

 

…………………………………………………………

 

「……ちゃん……おに……ん……」

 

意識が浮上していく感覚。そして、それと同時に聞こえてくる声。この声は、間違いなくイリヤ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「……ああ、聞こえてるよ」

 

「良かった。ずっと目を瞑ってるから、どうしたのかと思ったよ。それでお兄ちゃん、聞いて」

 

目を開けると、そこにはイリヤとクロ。そして、バゼットがいた。イリヤは、俺のすぐ側に立っていて、俺の顔を見上げている。クロとバゼットは敵から射出されている宝具を二人で防いでいた。

 

「美遊がね、あの怪物の中心部にいるらしいの」

 

「……そうか」

 

「でも、あの英霊が私達を攻撃してて……」

 

「分かった。俺に任せろ」

 

「お兄ちゃん!」

 

イリヤにそう答えて、俺はアーチャーのカードを目の前に掲げた。今まで何度もやってきた事だが今回は違う。本当の意味で、このカードの全ての力を引き出す。さあ、行くぞ……衛宮士郎!

 

「【夢幻召喚(インストール)】!」

 

俺と英霊エミヤの力が、一つになっていく。徐々に力を馴染ませていた事で、違和感なく俺の体に馴染んでいるようだ。次の瞬間、俺の中でカードが脈打つのを感じた。そうか、こうなったか。

 

「お、お兄ちゃん? 髪が白く……」

 

「……大丈夫、俺は俺だ。衛宮士郎だよ」

 

そう言って俺は不安そうなイリヤの頭を撫でる。そう、俺は俺だ。なにも変わっていない。イリヤも俺の顔を見て安心したような表情になる。俺はそんなイリヤに笑い掛けてから、足を踏み出す。

 

「俺が道を開く」

 

いつものように干将と莫耶を投影して、イリヤ達の前に立つ。そんな俺の姿を見て、敵の英霊は顔を歪めた。どうやら、俺が気に入らないらしい。

 

「……来るのかい、贋作者(フェイカー)のお兄さん」

 

「ああ、俺が相手だ」

 

「……分かったよ。お兄さんにはちょっと手加減できないと思うけど、それでもいいなら来なよ」

 

「……」

 

「この攻撃を、どこまで防げるかな?」

 

俺が走り出すと同時に無数の宝具が飛んでくる。俺はそれを、干将と莫耶で弾きながら接近する。1本宝具を弾く度に干将と莫耶が悲鳴を上げる。分かってるよ。こんなもんじゃ防げない事は。

 

だから、俺は……

 

「―――体は(つるぎ)で出来ている」

 

干将と莫耶が砕け散る。だけど、俺はすぐに投影し直して、次の宝具を弾いた。敵は、俺が呪文を唱え始めたのを見て、少し顔色を変える。体から射出する宝具の数も、さっきより多くなってる。

 

「血潮は鉄で、心は硝子」

 

だけど、俺は止まらない。射出される敵の宝具を投影して、それをぶつける。ぶつかり合った武器は弾かれて、俺の体には届かない。それを見た敵はさらに物量を増してきた。これは危ないな。

 

「幾たびの戦場を越えて不敗」

 

俺は足を止めて、右手を突き出す。そしてあの盾を投影した。その名は【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】。俺の前に七つの花弁が咲き、敵の宝具を防いだ。この盾は、投擲武器に対する絶対の守りを持つ。

 

「たった一度も敗走はなく―――」

 

その守りを頼りにして、俺は呪文を唱える。それを見た敵は攻撃を緩める事をせず、間断なく無数の宝具を射出し続ける。やっぱり分かってるか。この盾がいつまでも持つ訳ではないと。だが……

 

たった一つの勝利を望む

 

一枚、また一枚と花弁が砕けていく。それでも、俺は呪文を唱え続ける。奴に勝つには、この魔術しかないと確信してるから。それに、アーチャーに約束したからな。俺の世界を見せてやると。

 

義子(ぎし)はまた独り、陽光(ひかり)の前で鉄を鍛つ

 

ここまで唱えた時、とうとう花弁はあと一つまで減っていた。だけど、この最後の一つは他の花弁よりも防御力が高いんだ。まだ持ってくれる筈。今の内に、一気に残りの呪文を唱えてしまおう。

 

きっと、この生涯はこの先も続く

 

あと少し。あと少しで完了する。でも、そのあと少しが果てしなく遠かった。ついに最後の花弁が砕けてしまう。くっ! 俺が心の中で歯噛みした次の瞬間、俺の前に躍り出てくる二つの人影。

 

借り物の体は、いつしか―――

 

イリヤ、クロ! 二人は俺の前に立ちはだかり、敵の宝具を弾く。その姿に、思わず口元が緩む。ありがとう二人とも。お陰で、どうにか間に合いそうだ。妹達の背中を見つめて、俺は唱えた。

 

(つるぎ)で出来ていた―――

 

最後の呪文を。そして、右手を突き出す。

 

「【無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)】」

 

次の瞬間、現実世界が俺の心象に塗り潰された。アーチャーの世界と似たような荒野だけど、俺の後ろにだけ、緑の溢れる丘が聳え立つ。空は雲に覆われているが、所々から暖かい光が降り注ぐ。

 

その陽光は、まるでスポットライトのように俺の後ろにある緑の丘を照らしている。これが、俺の世界。緑の丘には、1本も剣が刺さっていない。これはつまり、この丘は俺の大切な物の象徴だ。

 

「……こんな世界で、どうするっていうの?」

 

「……勿論、お前を倒すんだよ。美遊を取り返す為にな。行くぞ、9枚目。武器の貯蔵は十分か」

 

これが、最後の戦いの火蓋を切る合図になった。




イリヤ・ボルクはちゃんと手加減してますw
こんな注意書きから入ってすみません。

さて、プリヤ士郎の無限の剣製。
その詠唱の意味は……
心は折れないから敗走はなく、ただ大切な妹達の幸福を望んで、それを必ず掴み取る。
与えられた幸福。安息の地を守る為に前に立ち、そんな日々をこれからも続けていきたい。
その為に英雄から力を与えられたこの体は、いつの間にか……
その英雄と、同じ境地に至っていた。
という感じです。

詠唱の時、イリヤ達なにしてんの? と思うでしょうが、ちゃんと後ろにいました。
士郎視点かつ、剣製の詠唱に集中してたのでイリヤ達の声は聞こえてませんでした。

それではまた次回。
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