錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

7 / 53
今回は、アーチャー、エミヤの話です。
プリヤ士郎が見た夢とは……?

それでは、どうぞ。


衛宮士郎は夢を見る

【士郎視点】

 

夢を見ている。不思議な夢だ。それはある男の生涯だった。その男は、かつて俺が目指した正義の味方だった。全てを守ろうとして、全てを助けようとして、ただ必死に足掻き続けた。その生涯は、壮絶だった。

 

どれだけ必死に求めても、どれだけ必死に足掻いても、その男の手からそれらは溢れ落ちていった。その男は、血の涙を流しながらも、それでも、足掻き続ける事を止めなかった。一体、どうしてそこまで……

 

その男は全てを助けようとした。そんな事は不可能だと知りながら。その様はまさに狂気の沙汰だった。誰一人として、その男の理解者はいなかった。挙げ句の果てに、その男は助けようとした者に裏切られた。

 

だけどそれでも、その男は笑って死んだ。満足だと。その事に絶句する。次の瞬間、場面が転換する。俺は、いつの間にか不毛の荒野に立っていた。無数の剣が突き立つ荒野の中心に、小高い丘が見えた。

 

その丘にも、無数の剣が突き刺さっているのが見えた。そしてその丘の上に、一人の男が膝をついている。その男が、さっきの生涯を送っていた男だと分かった。俺は、その男の元に歩み寄る。無意識だった。

 

少しずつ近付いていく。正義の味方という理想の果て。イリヤ達に出会わなかったら俺もああなっていたかもしれない。その男はどこまでも理想に殉じて、死後の安らぎすら差し出した。その魂を世界に捧げて。

 

この荒野だけを胸に抱いて、死んだ後も人を救い続けようとして、世界に命じられるまま戦い続けた。そしてその度に、一本、また一本と剣を丘に刺していく。それは、あまりにも救われない光景だった。

 

信じていた。より多くの人達を助けられると男は信じていた。けれど、その先々で男を待っていたのは人殺しだった。こんなのはあんまりだ。大を生かす為に小を斬る。それ以外の方法を求めて差し出したのに。

 

戦う度に、体も心も傷付いて。残ったのはこの無限の剣だけだ。その男は様々なものに裏切られてきた。それでも、たった一つ信じた理想があるから戦ってきた。魂を差し出し、死後の安らぎを売り渡したのも。

 

より多くの、生前は助けられなかった人達を助けられると信じていたから。何万人の人を助けられると、そう信じていたから。それなのに、その男に与えられたのは、誰かを助ける事ではなく殺す事だった……

 

『……そんなのってありかよ……』

 

『……』

 

『なあ、こんなのってありなのかよ!』

 

『……』

 

俺は、剣の丘に片膝をついているその男にそう叫んだ。希望に満ち溢れていたその男の顔が、絶望に歪んでいくのが見えた。俺はもう見ていられなかった。俺の声がその男に届いているのかは、分からない。

 

それでも、あまりの理不尽に、叫ばずにはいられなかった。顔を歪め、目を見開き、荒野に突き刺さる剣を呆然と見つめる男。あらゆるものに裏切られてきたその男は、最後の最後に、唯一信じたその理想にさえ裏切られた。こんなのってありかよ……

 

【体は……】

 

『……え?』

 

【体は(つるぎ)で出来ている……】

 

男のあまりに壮絶な生涯に、一緒になって絶望する俺の頭に、突然そんなフレーズが浮かんできた。声ではない。俺の内から、そんな言葉が頭の中に浮かんできたんだ。どういう意味なのかは、全然分からない。

 

『……衛宮士郎』

 

『え?』

 

『お前の心象は、どんな景色だ?』

 

突然浮かんできた奇妙な言葉に呆然としていると、剣の丘に立っていた男が俺の方を見てそう聞いてきた。どうして俺の名前を知っているのか、それはどういう意味かを聞こうとしたのだが、視界が消えていく。

 

どうやら、夢から覚めるようだ。その事を自覚した瞬間に、剣の丘に立っていた男は微かに笑った。意味のない問いをしたな、とでも言うように。ああ、どうして俺は、この男が言いたい事が分かるんだろう?

 

『俺は、家族を守る!』

 

『……そうか。ならば、そうするがいい』

 

意味は分からなかった。この男が何者かも分からない。だけど俺は、俺自身が望む事をその男に叫んでいた。それに対する男の声は、どこか満ち足りたような響きで……俺はそれに、少しだけ安堵したのだった。

 

…………………………………………………

 

「……最近、おかしな夢ばかり見るな」

 

気が付くと、俺は自室のベッドの上で目を覚ましていた。さっきの夢は、一体何だったのだろう。以前見た、美遊の夢ともまた違うような気がした。さっきの夢はとても現実とは思えないようなものだった。

 

「……また早く目が覚めちまったな……」

 

あの時と同じだ。まだ空は白んできた直後といった感じだった。その事から推測すると、まだ太陽が顔を出したばかりだろう。さて、どうするか。俺は少しだけ考えて、ふとある名案が浮かんだ。そうだ……

 

イリヤと美遊に、弁当を作ってやるというのはどうだろうか。今日は土曜日。小学校は休みだ。高校も休みなんだが、俺は部活の朝練がある。イリヤ達は、キャスター戦に備えて特訓すると言っていたからな。

 

美遊は、突然向かいに出来た、ルヴィアの屋敷に住んでいる。その美遊も、ルヴィアが空を飛ぶ特訓をすると言っていた筈だ。イリヤに美遊の分の弁当を持たせて、一緒に特訓させてみたら仲良くなれる筈だ。

 

すでに空を飛べるイリヤが、美遊に飛び方を教えてやるという事もできるのでは? 俺は浮かんできた名案に、我ながら完璧な作戦だと確信する。美遊と一緒に魔法少女物のアニメを見たりすれば、もっと良い。

 

「二人は友達になれる筈だ!」

 

そうと決まれば、早速二人の弁当を作ってしまわなければならない。ついでだから、今朝の朝飯も作ってしまおう。自分の名案に酔いしれる俺は、ごく自然に湧いてきたその考えにも、疑問を持つ事はなかった。

 

そうした結果、機嫌を悪くする家政婦さんがいるという事も完全に忘れていた。恐らくこの辺が、俺がどこか抜けていると良く言われる原因なのだろう。すまん。どうか許してくれ、セラ。完全に忘れていたよ。

 

…………………………………………………

 

「「……」」

 

き、気まずい……! 俺は、用意した朝飯の前で、セラに睨まれていた。何度も経験した状況ではあるが、今日はいつもと勝手が違っていた。セラの視線は、いつもよりも数倍は鋭かった。その原因は……

 

「……シロウ、これはどういう事です?」

 

「えっとな、セラ……」

 

「一体いつの間に、これほどに料理の腕を上げていたのですか!? しかも掃除まで完璧に終わらせてしまうとは! 私の仕事をどこまで奪うつもりなんですか!」

 

こういう事だった。俺自身、朝飯を作っている最中に驚いたんだ。何故か妙に調子が良くて、いつもよりかなり上手くできた。しかもかなり短時間で。体が勝手に動く。気分を良くした俺は、掃除も済ませた。

 

掃除も、いつもより簡単に素早くできた。イリヤ達の弁当も当然作り終わっている。起きてきたセラが、いつもよりテキパキと家事をこなす俺を呆然と見ていた。そして我に返ったセラが朝飯の味見をして、俺の料理の腕が急上昇した事に気付いたんだ。

 

「密かに腕を磨いていたのですね……私の仕事を奪う為に。そんなに不満でしたか」

 

「ご、誤解だセラ。落ち着け」

 

「……ぐすっ……」

 

「わーっ! 泣くなセラ! そんなつもりはなかったんだ! え~と……」

 

「あ……」

 

マジ泣きされてしまった。これはまずい。俺は混乱しながらも、セラの頭を撫でる。セラに不満なんてある筈がない。セラも、イリヤと同じくらい大切な人なんだ。リズもだけどな。それを伝えたくて俺は言う。

 

「俺はセラが必要だ。セラの仕事を奪おうなんて、考えた事もないよ。だからセラ。落ち着いてくれよ。セラの涙なんて、俺は見たくないよ。だから、な?」

 

「は、はい……」

 

良かった。セラは泣き止んでくれた。少し顔が赤いような気もするが。どうしたんだセラ? 俺とセラはしばらく見つめ合う。

 

「じーっ……」

 

「はっ!? リ、リーゼリット!」

 

「うおっ!? どうしたリズ!?」

 

「……セラとシロウがイチャついてる」

 

「なっ!? ち、ちちち違います!」

 

「イリヤに話してこよっと♪」

 

「待ちなさいリーゼリット!」

 

「待てリズ!」

 

それは気まずくなるだろ! 俺とセラは、嬉々としてイリヤの元に向かうリズの後を追い掛けた。衛宮家は今朝も平和だった。

 

…………………………………………………

 

「おはようお兄ちゃん」

 

「あ、ああ、おはようイリヤ」

 

「どうしたの?」

 

「い、いや、別に……」

 

あの後、俺とセラは、何とかリズを止める事に成功した。だからイリヤは、さっきの出来事を知らないんだ。そんなイリヤの、純粋な視線に何故か居たたまれない俺は、変な感じになってしまう。何でだろう?

 

「えっと、それでさイリヤ。確か今日は、特訓するって言ってただろ?」

 

「うん。それがどうしたの?」

 

「ほら、お弁当。早起きして作ったんだ」

 

「わあ、ありがとうお兄ちゃん! あれ? でもこれ、二つあるよ? どうして? もしかして、凛さんの分も作ったの?」

 

「いや、こっちは美遊の分だ。確か美遊も空を飛ぶ特訓をするってルヴィアが言っていただろ? どうせだったら、一緒に特訓してみたらどうかと思ってさ……」

 

「……美遊さんの……」

 

考えた作戦を伝えてみるが、やはりイリヤは気乗りしないという感じだった。まあ、そんなに簡単じゃないだろうけどさ。本当なら、俺が仲を取り持ちたいが、それではあまり意味がないだろう。イリヤ達が自ら仲良くならなければ本当の友達ではない。

 

俺にできるのは、精々、切っ掛けを作ってやる事だけだ。だけど俺は、自慢の妹の事を信じている。きっとイリヤなら、美遊と本当の友達になれる筈だと。だってイリヤは俺の妹なんだからな。優しい女の子だ。

 

「向かいの家に住んでるんだし、出掛ける時に誘ってみたらどうだ? 俺のお弁当をダシにしていいからさ。せっかく、新しい友達を作るチャンスだろ? 空の飛び方を教えてあげるのも良いんじゃないかな?」

 

「……お兄ちゃん……うん、そうだね……美遊さんと、ちょっと話してみるよ」

 

「ああ、それでこそイリヤだ」

 

少し笑ってそう答えたイリヤの頭を、俺は誇らしい気持ちで撫でた。やっぱりイリヤは自慢の妹だ。凄く優しい女の子。イリヤに任せておけば上手くいく筈だ。俺はそう確信して、部活の朝練に向かうのだった。

 

…………………………………………………

 

「先輩、今日は凄く調子が良いんですね。それに凄く嬉しそうですし。何か良い事があったんですか? ……妹さんの事とか」

 

「ああ、桜……うん、実はさ。イリヤに、新しい友達ができそうなんだよ。弓の調子が良いのは、何でだろ? 分からないな」

 

俺は声を掛けてきた部活の後輩、間桐桜にそう答えた。確かに桜の言う通りだった。今日は何故か弓の調子が良い。もしかしてこれは、アーチャーのカードを使った影響かもしれないと思ったが、そんな事を桜に話しても、何の意味もないだろう。

 

だから俺は、イリヤの事についての話だけをする事にした。そういえば桜は、なんでイリヤの事だと分かったんだろう。しかも何故か桜は、イリヤの名前を出す時に微妙な顔をしていた。どういう意味だろうか。

 

「そうなんですか。それは良かったですね先輩。ふふっ、先輩ったら、本当に妹さんの事が大切なんですね。良いなあ……」

 

ああ、そうか。桜にはあまり仲が良くない兄がいるからな。だからきっと、俺達兄妹の関係が羨ましいのだろう。慎二のやつ、本当に困った奴だ。兄貴なら、妹に優しくしろよな。桜の兄は、俺と同じクラスだ。

 

間桐慎二。プライドが高く、子供っぽい。転校してきた遠坂とルヴィアにちょっかいをかけようとして、手酷く撥ね付けられたのは俺の記憶に新しい事件だった。完全に自業自得で、同情はできなかったけどな。

 

そんなどうしようもないような兄貴でも、桜にとってはやはり家族なんだろう。健気な桜に同情する。俺は、少しだけ寂しそうに笑う桜の頭を撫でてやる。俺にできるのはこれくらいしかないからな……

 

「せっ、先輩!?」

 

「大丈夫だよ桜。桜が諦めなければ、いつか慎二とも上手くやれるようになるさ」

 

「はっ、はい! ありがとうございます! そうですよね! 私が諦めちゃ駄目ですよね! 少しだけ元気が出ました!」

 

「そっか。それは良かったよ」

 

何故か顔を真っ赤にしているが、どうやら元気が出たらしい。笑顔を取り戻した桜に癒されながら、俺はその後の朝練に励んだのだった。そして、俺はその朝練の中で、一つだけ気付いた。やはりこれは……

 

英霊、アーチャーの感覚が、日常の中でも残っているようだ。俺の全てを差し出す事で得た力。やはり何の変化もないという事はなかったらしい。あのカードで変身する度に、この感覚は強くなっていくようだ。

 

もしかして、今朝の夢も、その影響だったのかもしれない。あの夢に出てきた男が、アーチャーの英霊なのかも。だとしたら、あの英霊はどれだけのものを背負っているのか。あの壮絶な生き様を俺は思い出す。

 

「……なあ、お前は一体誰なんだ?」

 

俺は懐からアーチャーのカードを取り出してそう問い掛けた。だけどやっぱり、何の答えも返ってはこなかった。また夢の事を真剣に考える自分に少し呆れながら、それでもこの英霊の正体が気になっていた。

 

…………………………………………………

 

「……衛宮くん」

 

「遠坂? お前、なんで休みの日に学校に来てるんだよ? それと、ずっとそこから弓道場を見ていたのか? どうして……」

 

朝練が終わり、着替えて帰ろうとした時、弓道場の入口に遠坂がいた。遠坂は、複雑そうな表情を浮かべて、声を掛けてきた。なんでそんな表情を浮かべてるんだよ? 俺は遠坂の様子に首をかしげるしかない。

 

「……さっき衛宮くんと話してた娘……」

 

「さっき? ああ、桜の事か。桜がどうかしたのか? もしかして知り合いとか?」

 

「……まあ、そんなものね」

 

何故か辛そうな表情を浮かべる遠坂。一体何なんだよ。桜と遠坂が知り合いだって? そういえば遠坂は、昔はこの冬木に住んでいたと言っていたな。その時の知り合いという事だろうか? だけどこの表情……

 

ただの知り合いとは思えないな。遠坂と桜はどんな関係だったんだろう。だけどこの雰囲気は、軽々しく聞けるような感じじゃないな。俺が踏み込んでいい領域ではないような気がする。あくまで勘だけどな。

 

「それで、話は何なんだ?」

 

「ええ、その……あの娘の家族とかどんな感じなのか知ってるかしら?」

 

「へ?」

 

「だ、だから……家族との関係とか……」

 

「そんなものは、桜に直接聞けば良いじゃないか。少し待ってれば来ると思うし」

 

「それはちょっと……」

 

「あ、ほら、来たぞ遠坂。知り合いだったら何も問題はないじゃないか。行こう」

 

「ちょっと衛宮くん! 手を離して……! もう、お願いだから離してってば!」

 

「うわっ!」

 

「なっ!?」

 

「先輩? えっ!?」

 

俺は、いまいちはっきりしない遠坂の態度に疑問を持つ。少し強引にでも、遠坂を桜の元に連れていこうとした。遠坂の手を掴んで引っ張ったら、遠坂が抵抗した。そこまではまだ良かったんだ。そこまではな。

 

どうしてこうなった!? 思いの外、力が強かった遠坂の抵抗でバランスを崩した俺は、後ろに引っ張られてしまった。俺の後ろにいた遠坂を巻き込んで、派手に転んでしまったのだ。それもまだ良かった。

 

だが、どうしてそうなったのか、俺は遠坂の上に覆い被さるような形で倒れてしまったのだ。端から見ると、まるで俺が、遠坂を押し倒したように見えてしまうだろう。さらに最悪な事に、倒れた俺の手が……

 

「っ!? きゃあああっ!」

 

「わざとじゃな……ぐはっ!」

 

遠坂の胸に、俺の右手が! 勿論、わざとじゃないんだが、遠坂にとってはそんな事は関係ない事だろう。案の定、俺は遠坂の強烈な掌底を顎に食らって気絶した。セラより強いな……魔術師の筈じゃ……?

 

俺は、最後にそう思ったのだった……




桜と凛とセラにフラグが立ちました。
イリヤにもですが(笑)

そして、アーチャーのフラグも。
イベントフラグですけどね。

それでは、感想を待っています。

-追記-
原作のプリヤでは、凛が桜を知らないような感じでしたが、この作品では、二次創作らしく設定を捏造しています。

原作fateと同じ設定で、凛と桜の二人は実の姉妹であり、凛も桜も、お互いにその事を知っているという設定です。

原作とは違って、桜は間桐の犠牲にはなっていませんが、やはり凛は桜に複雑な感情を抱いているという感じにしています。

桜の方は、普通に凛と仲良くしたいのですが、凛の方はどう接していいか分からないというような設定にしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。