もう平謝りする事しかできません。
私の状況については、少し長くなるので書きません。
どうしても知りたい方は、ピクシブの方を見てください。
それでは、大変遅れましたが、キャスター戦、決着です。
【士郎視点】
「美遊!」
「今のって、まさか!」
「空間転移ですわ!」
「嘘でしょ!? そんなの、もう【魔法】の領域じゃない! 信じられないわ!」
魔女の攻撃をまともに食らって、吹き飛ばされた美遊。それを見た遠坂とルヴィアが敵の使った力の正体を分析して驚愕する。空間転移の魔術。そんな切り札を隠していたなんて。これが英霊の恐ろしさか。
美遊は鉄橋に激突して、動かなくなった。まずい、あれじゃ止めを刺してくれと言っているようなものだ。サファイアの防壁を貫く程の魔力弾を至近距離で食らったんだから、かなりのダメージを受けただろう。
ここからじゃ距離がありすぎる。魔女が、まさに止めの一撃を放とうとしているのが見える。もう何秒もないだろう。俺には、攻撃を止める方法もない。【
「美遊、逃げろ! くそっ!」
ならば貫ける威力の攻撃、【
何もできない。それが分かってしまって、俺は歯噛みする。まだ、足りないのか? 英霊の力を手に入れてもまだ。そう思った時だった。魔女が止めの一撃を放とうとした瞬間、美遊の元へ飛んでいく人影。
「イリヤ!」
そう、その人影はイリヤだった。俺の妹のイリヤが、美遊を抱えてその場から離れる事に成功した。結果、魔女の攻撃は何もない空間を通過していった。その光景に、俺は心底安心した。ありがとう、イリヤ。
イリヤと美遊は、空中で何かを話し合っているようだ。何か作戦を思い付いたのか? 後ろで遠坂達が、撤退するべきだと叫んでいるが、ここで退いても次に繋がる保証はどこにもない。だったら……
「イリヤ達に懸けてみよう」
「はあ!? 正気なの衛宮くん!」
「……確かに、何か策を思い付いたというなら、あの二人に任せてみるというのもありかもしれませんわね。カレイドの魔法少女は二人で一つ。あの二人が連携を上手くできれば、無限の可能性がありますわ」
「……そうかも、ね……」
そういう事になった。俺は難しい事も魔術の事も分からない。だけど、イリヤを、妹を信じるという事にかけては、世界中の誰にも負けない。当初の作戦通りに、俺はイリヤ達を援護する事だけに集中するんだ。
「頑張れ、イリヤ……」
俺は静かに、そう呟いて応援していた。
…………………………………………………
【イリヤ視点】
「行くよ、ルビー!」
『はい!』
美遊さんの作戦を信じて、私はキャスターに接近して注意を引く。私が囮になって、キャスターの動きを止める。そこまでは、最初の作戦と変わらない。でもそれだと、転移して逃げられて反撃されてしまう。
さっきの様に。だから、美遊さんが考えた作戦はそれに対応するものだった。私は、目一杯のスピードで動き回りながら、そのチャンスを探す。キャスターの魔力弾は、自動追尾の特性で私を捉えようとする。
それを全力で避けながら、魔力砲で相殺していく。相殺しきれない物は、お兄ちゃんが撃ち落としてくれる。そう信じて、私は無茶な接近を試みる。怖くない。体の横を魔力弾が通りすぎていくけど、怖くない。
私が今やっているのは、怪我をして動けない美遊さんが復帰するまでの時間稼ぎと、キャスターの注意を私に引き付けて敵の意識を私だけに向けさせる事。私が一番の敵だと認識させる事だった。これは布石だ。
「……お待たせ、イリヤスフィール」
『少し手間取りました』
「美遊さん、もう大丈夫なの?」
「問題ない。それじゃあ、作戦通りに」
「任せて!」
そうしていると、美遊さんが復帰してきた。怪我はもう大丈夫そうだ。作戦開始の合図と共に、私はキャスターに正面から接近した。さっきまでの攻防で、敵の意識は完全に私に集中している。
「ちょっとイリヤ! あんたは囮役でしょうが! そんなに前に出てどうするつもりよ!」
「そうですわ! 無理をせず距離を取りなさい! 引き付ける事に専念なさいな!」
下から、凛さんとルヴィアさんの驚いた声が聞こえてくるけど、私はそれを無視した。二人の言う事は正しい。けどこれは作戦なんだ。私が攻撃すると思わせる事が大事だった。私は美遊さんを信じる。
無数の魔力弾が私に殺到してくる。それを撃ち落としながら、私は真っ直ぐに突撃してルビーに魔力を集中する。最大の魔力を込めた一撃に、キャスターの気配がはっきりと変わったのが分かった。
「いくよルビー! 特大の……【散弾】!」
『……ッ!?』
最大の魔力を込めて放たれた散弾が、キャスターに殺到する。防御も考えず、全魔力を込めた。これならさすがのキャスターも、防御できないだろう。これが美遊さんの考えた作戦だ。
「また消えた!?」
お兄ちゃんの言葉通り、キャスターは空間転移して散弾を回避した。よし、作戦通り! それを見て私は、思わず笑ってしまった。全力で防壁を展開しながら、私は思う。後は任せたよ、美遊さん!
…………………………………………………
【士郎視点】
「イリヤ!」
俺は、上空のイリヤを見上げて悲鳴を上げた。さっきと同じだ。イリヤの攻撃を転移して躱した魔女は、イリヤの背後に出現していた。それはまさに、先程の展開と同じだった。危ない!
そう思った時だった。さっきのイリヤの攻撃。まさに散弾のように放たれた攻撃が、空中で跳ね返った。全ての弾がイリヤの背後に弾き返されて降り注ぐ。そこには、転移した魔女がいた。
「そうか! 魔力反射制御平面! キャスターが上空に展開してるそれに、散弾をぶつけたのね!」
「自分の背後に反射されるようにして、キャスターに当てたって事か!」
「そう、キャスターが転移して躱す事を計算して、そこに跳ね返るようにしたのよ!」
そういう事らしかった。イリヤのやつ、そんな事を計算してやったのか。キャスターはさっき、美遊の攻撃を躱して背後に回って攻撃してきた。その習性を逆手にとって攻撃を当てたんだ。
敵の反射防壁をも利用して。連続転移はできないらしく、キャスターは正面に防壁を張って防御する。今度こそ、キャスターの動きが完全に止まった。そして、それを見逃す美遊ではない。
「今だよ、美遊さん!」
キャスターの上空に、サファイアを構えて佇む少女。魔力の足場に真っ直ぐ立ち、敵を見据えている。最大の魔力を込めて、今まさに一撃を放つ所だった。その姿と表情に見惚れてしまう。
「弾速最大……【
「おお!」
渾身の魔力弾は、特大のビームとなって放たれた。身動きができないキャスターに、その攻撃は見事に命中した。キャスターの防壁を一瞬で吹き飛ばし、その体を地面に撃ち落としていった。
「止めよ衛宮くん!」
「いきますわよ!」
「りょ、了解!」
地面に墜落したキャスターに、遠坂とルヴィアは容赦しない。俺にも追撃を指示し、過剰とも言える追い打ちを行おうとしている。これって、死体蹴りって言うんじゃないのか? こ、怖い……
「
「
「―――
遠坂とルヴィアが、何かを握りしめながら叫ぶ。恐らく二人の魔術攻撃なんだろう。俺も、右手に新たな剣を作り出して呪文を唱える。原理はよく分からないが、頭に勝手に浮かんでくる。
弓に剣を矢のように番え、その形を変形させる。細長くドリルのように捻って、まさしく矢のような形に変えた剣に、渾身の魔力を込めた。先のライダーとの戦いで使った、あの決め技だった。
「【轟風弾五連】!」
「【爆炎弾七連】!」
「【
地面に激突して土煙を上げ、姿は見えないが、キャスターがいるであろう場所に向けて、俺達の攻撃が一斉に放たれた。その瞬間、視界が真っ白に染まり、すぐに凄まじい爆音と爆炎が上がった。
「……これならさすがに倒したか?」
「多分ね。っていうか、これで倒せてなかったら化け物よ」
「上空の魔法陣も消えましたし、倒した筈ですわ」
俺の確認に、遠坂とルヴィアが頷いてくれる。ルヴィアの言葉通り、さっきまで空を埋め尽くしていた魔法陣は完全に消えていた。終わったんだ。そう確信して、俺達は一斉に安堵して息を吐く。
「と言いますか、遠坂凛! 五連ってなんですの!? 勝負所でケチってんじゃねーですわ!」
「う、うっさいわねッ! アンタとは経済事情が違うのよ! そうポンポン宝石使えないの!」
「お、おい。勝ったんだから良いだろ? 勝った時にまで喧嘩するなよ」
本当にこの二人は。どうして苦労してやっと勝ったのに喧嘩するんだよ。息を吐くように喧嘩しなければ死んでしまうのだろうか? というか、ケチるだの宝石だの、一体何の事なんだろうか。
「それにルヴィア、その言葉遣いはお嬢様としてギリギリだぞ……せっかく美人なんだから、もう少しそれっぽくした方がいいと思うぞ?」
「えっ……?」
「むっ!」
じゃねーですわって……汚いのか綺麗なのか分からんぞ? 遠坂も言ってたけど、どんな日本語をマスターしたんだよルヴィアは。俺がそれを指摘すると、何故かルヴィアは真っ赤になった。
さっきの自分の言葉遣いを思い出して、今更恥ずかしくなったのだろうか。そして、これまた何故か遠坂が不機嫌そうになる。いや、なんでさ? 俺は溜息を吐きつつ、遠坂にも釘を刺す。
「遠坂も。いつも怒ってばかりで疲れないか? 遠坂は、笑っている方が可愛いんだから、そうすればいいのに。ルビーとサファイアに、また愛想つかされるぞ?」
「……」
あれ? 今度は遠坂も真っ赤になって黙ってしまった。訳が分からない反応をする二人に、俺は首を傾げてしまう。あ、そういえば、そろそろキャスターのカードを回収しないといけないよな。
「さて、キャスターのカードは……あれ?」
ない。キャスターを倒した場所には、爆発でクレーターができていたが、その中心にあると思っていたカードがどこにもなかった。俺は首を傾げて、次の瞬間、背筋が凍った。ま、まさか……!
「イリヤ! 美遊! キャスターはまだ……!」
上空から、もう近くまで降りてきていたイリヤ達。二人も、もう終わったと思っていたんだろう。まるで警戒していない雰囲気だった。だが、まだ終わっていない。そう叫ぼうとした時だった。
「ッ!?」
「この魔力!」
空間全体を軋ませるような、強大な魔力。遠坂とルヴィアが謎の硬直から復帰し、その魔力に反応を示す。だがもう遅かった。『そいつ』は、もうそこにいた。巨大な魔法陣を背後に従えて。
「キャスター!」
遥か上空に、再び君臨する魔女。その体はもうボロボロで、右半身が抉れている。だけどそいつはまだ生きていた。そして、俺達に向けて壮絶な殺気を放っている。その目はまだ死んでいない。
「空間転移して、また逃げていた!? 右半身はダメージ食らってるけど!」
「まずいですわ! キャスターはまだ、相討ち覚悟の一撃を放てますわ!」
「くそっ!」
途轍もない魔力弾を放とうとしているのが分かる。恐らくルヴィアの言う通り、キャスターは俺達諸共吹き飛ぶ覚悟の攻撃を放つつもりだ。俺は即座に
キャスターが放とうとしているのは、初戦の最後に使ったあれを、さらに強力にしたものだろう。あんなものを撃たれてしまったら、この空間全てが消し飛んでしまうだろう。間違いなく全滅だ!
「行きます!」
「美遊さん、ダメ! 間に合わない!」
美遊がキャスターの元に駆け上がっていくが、イリヤの言う通りもう間に合わない。どうする? 【
なら、もう一度【偽・螺旋剣】か? これも駄目だ。溜めに時間が掛かりすぎる! 俺は、自分の無力さに歯を食いしばる。くそっ、あの時、気を緩めなければ! 自分の迂闊さに俺は絶望する。
だけどまだ、諦めていない者がいた。それは、俺の妹だった。
…………………………………………………
【美遊視点】
『美遊様! もう間に合いません!』
「分かってる! でも、やらないと……!」
私は、上空のキャスターを睨みながら空を駆ける。サファイアの言ってる事は分かるけど、私には責任がある。クラスカードは、私のせいでばら撒かれた。この現状は、全部私のせいなんだ。
私がこの世界に来たせいで! 本来なら戦わなくてもよかった人達が、傷つかなくてもよかった人達が戦って、そして傷ついている。この世界のお兄ちゃんが、カードを手にする事はなかった!
ルヴィアさんも、遠坂凛さんも、イリヤスフィールも! 私のせいで! だからこのカードは、私が一人で回収しなければならなかったんだ。誰も巻き込まずに、私が一人でやらないといけない。
だから誰も傷つけない為に、イリヤスフィールにもこう言った。クラスカードは全て私一人で回収すると。私はそれを実行しなければならない。こんな戦いで誰かが傷つくなんて間違っている。
だからこそ……
「私が盾になってでも、皆を傷つけさせはしない!」
『美遊様!?』
間に合わないなら、せめて皆の盾になろうと、私はサファイアの力で全開で防壁を張ろうとした。全ての魔力を使って魔力防壁を張り、敵の攻撃の前に両手を広げた、その時だった。
「ダメー!」
「!?」
どこかで、もう駄目だと諦めかけていた、私の心に響く声。そう、まだこの場で一人だけ、諦めていない人間がいた。私は、その声のした後ろを振り返った。すると、そこにいたのは……
「イリヤスフィール!?」
「美遊さん、受け取ってー!」
イリヤスフィールだった。この世界での士郎さんの妹。魔術の事も、クラスカードの事も、そしてカレイドステッキの事も、何も知らない一般人。だからこそ彼女は、まだ諦めていなかった。
イリヤスフィールが、巨大な魔力砲を私に向かって撃ってきた。何をしようとしているのか、私はすぐに判断する事はできなかった。けれど……そうか! 私は、その魔力砲に背を向けて構える。
「いっけー!」
「ッ!」
イリヤスフィールが撃ち出した魔力砲。私は、それに『乗った』。魔力を足場にして空中を跳ぶ、私だからこそできた芸当だった。今までとは比較にならない加速で、私は一直線に空を駆ける。
「クラスカード『ランサー』、【
サファイアにランサーのカードを押し当てて、その力を開放する。目の前には、驚愕の表情を浮かべるキャスター。敵の攻撃の直前に、私は間に合った。このタイミングなら……いける!
「【
サファイアが変化した、魔槍ゲイ・ボルク。ランサーのカードの英霊、クー・フーリンの宝具。因果を逆転させる呪いの槍が、キャスターの心臓を貫いた。今度こそ、決着の瞬間だった。
「……クラスカード『キャスター』、回収完了」
「やったあ!」
キャスターの体が消滅し、クラスカードに変化する。私はそれを回収した。後ろでイリヤスフィールが喜びの声を上げている。私は、複雑な気分でその様子を見た。この子、あの状況で……
『美遊様……差し出がましいとは承知していますが、イリヤ様は……』
「……分かってる」
『……美遊様の力を疑問に思っている訳ではありません。しかし、美遊様一人では、今回のキャスターを倒す事はできなかったでしょう。確かにイリヤ様はまだ未熟ですが……』
「……うん」
『カレイドの魔法少女は二人で一つ。その力を合わせる事で、一人では太刀打ちできない状況をも跳ね返す事ができるようになるのです。どうか、それをお忘れなきよう……』
「……考えてみる」
そう答えるしかなかった。反論の余地がないからだ。それに、イリヤスフィールのあの発想とあの機転。あれは、私には考えもつかなかった。あんな方法で加速させるなんて、無茶苦茶だ。
「やったね、美遊さん!」
「イリヤスフィール……」
「? なに?」
「そ、その……ありが……」
満面の笑顔で私の元に来た彼女に、今回の事のお礼を言おうとした、その瞬間……
「きゃあっ!」
「!?」
下の方から、遠坂凛さんの悲鳴と、轟音が響いた。そして、私とイリヤスフィールは目撃する。黒い霧を纏いながら、圧倒的な存在感を放つ、漆黒の騎士を。そこには、新たな絶望がいた。
私達の本当の死闘は、これから始まるのだった……
相変わらず、息を吐くようにフラグを立てる士郎さんです。
美遊の方も、イリヤと仲良くなるフラグが立ちましたが。
まあこっちは原作通りですがね。
それより重要なのは、美遊の心情とかです。
原作では語られていませんが、きっとこんな気持ちだったでしょう。
小学生が背負いすぎ!
それでは、感想を待ってます。