魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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入学編と九校戦編の間に何か変なものができてしまいました。


夏バテせずに元気でいられるのも、月島さんのおかげ。


森崎編-1:日常

ブランシュ事件を終え、学校に普通の日常が戻ってからもう2カ月ほど経った。

 

僕も色々と面倒事はありもしたが、それなりの学校生活を送っている。

まあ、大きく変わった点はといえば……。

 

 

 

「お疲れ様!月島君」

 

「お疲れ様です、壬生先輩」

 

僕が今いるのは校内のとある道場。……そう、入ってしまったのだ、剣道部に。

 

最初は面倒だと思っていた。だが、会うたび何度もイイ笑顔で勧誘しにきてくれる壬生先輩になんだか申し訳なくなり、なんとなくで入部することを返事してしまったのだ。

 

そして、いざ入部してみれば何ということは無い、むしろ充実してるとさえ言えた。

僕は大抵のことは『ブック・オブ・ジ・エンド』を活用することで極められるが、それは挟み込んだ過去から経験等を引っ張ってきて得たものである。こうして汗を流して何かに徹するのは久々で、新鮮で無性に楽しく感じられた。

 

 

「やっぱり、月島君は筋がいいよ!経験無しで入部して、短期間で基礎は完璧って言えるくらいになってるんだから!」

 

「ありがとうございます。先輩にそう言ってもらえると自信がつきますよ」

 

「そうそう!他の人より入部が遅かったことなんて気にしないで、胸張っていていいんだよ?」

 

そう爽やかな笑顔を僕に向けてくる壬生先輩に、僕も軽く微笑み返す。

 

彼女にはそれなりにお世話にもなっている。特に僕の入部当初、剣道経験皆無でロクにわかっていない状態の僕を気にかけてくれた。自分の練習を後回しにして僕に指導しに来てくれたりもした壬生先輩には、頭が上がらない思いだったりする。

……何より申し訳ないのが、このご(えん)の始まりが『ブック・オブ・ジ・エンド』であることだ。

 

きっかけはともあれ、剣道部への勧誘にのったこともあって壬生先輩とはそこそこ親しくなっている。どれくらいかというと……

 

「ねえ月島君、この後時間があったりする?」

 

「まぁ、特に予定はありませんが…」

 

「少し気になっているお店があるんだけど、一緒に寄ってみない?」

 

と、まあこんな感じにお茶に誘われるくらいには親しくなりました。…なってしまいましたとさ。

まあ、僕の記憶にある範囲内ではあるけど、壬生先輩はブランシュ事件以降は特に事件の中心になったりすることは無かったはずだから、親しくなっても問題は無いだろう。それに…

 

「いいですね、ご一緒させていただきます」

 

魔法を学ぶために来た学校とはいえ、せっかくの学生生活なのだ。こういった青春があってもいいだろう。

 

「それじゃあ、着替えてから校門あたりで待ち合わせでいい?」

 

「ええ、ではまた後ほど…」

 

そう壬生先輩と話した後、各々部室へと行ったのだった…。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

身なりを整え、制服に着替え終えた僕は校門近くに行った。やはりというか、こういうことは男子よりも女子のほうが時間がかかっているようで、壬生先輩はまだ見当たらない。

 

 

…別に僕はものぐさなわけではない。ちゃんと汗を流して体は綺麗にしてあるし、身だしなみには気をつけてはいるので、むしろ男子生徒の中では部室を出るのは一番最後になるくらいである。

 

ああ、言い忘れていたが、他の部員たちとの仲は至って良好だ。

剣道部は「非魔法活動」であることや先のブランシュ事件のことを考えると、二科生ばかりの中に一科生の僕が入ると色々面倒事があるんじゃないかと予想もしたが、そんなことは無くむしろ友好的だった。おかげで、男子部員による部室内での馬鹿話にも参加できたりしている。

 

「青春だねぇ…」

 

遠い過去になってきてしまっている前世での馬鹿騒ぎした学生生活と重ね合わせて、不意にしみじみとした気持ちになってしまった。

 

 

 

気持ちを一旦切り替え、校門のわきで壬生先輩を待つことにした僕は、鞄の中から本を取り出して読もうと思ったのだが、ふと視界に誰かが見えた。

森崎君だ。そう認識した僕が彼に向けて「よう」といった風に微笑みながら軽く手を上げたのだが……。

 

「…………」

 

森崎君はこちらを睨んだ後、フンッと他所を向いてしまう。予想はしてたが、ずいぶんと嫌われてしまったようだ。

「まあ、そうだろうな」と思い、改めて鞄から本を取り出し壬生先輩が来るのを待つことにした。

 

 

 

壬生先輩が来たのは、それから10分ほど後の事。

 

「ゴメン。待たせちゃったね」

 

「いえ、お気になさらないでください。壬生先輩が気になっているお店を紹介して頂けることを考えれば、なんてことはありませんから」

 

読みかけの本に栞を挟み込み、それを鞄に入れた僕は「では、行きましょうか?」と言いながら壬生先輩に向きなおる。

 

「ええ、行きましょう」

 

この後行った、彼女が言っていた気になっているお店というのも中々良い店で、壬生先輩とお茶をしそれなりに楽しい時間を過ごすことができた。

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

その数日後の昼。

風紀委員の関係で少し用があって、渡辺委員長に連絡をしたのだけど…

 

「今、生徒会室にいるから来い」

 

とのことだった。どうやら原作で描写があったように生徒会室で昼食をとっているらしい。

 

 

 

「失礼します」

 

「いらっしゃい。月島君」

 

生徒会室に入った僕を真っ先に出迎えた声は七草会長のものだった。

…と、ここで僕はあることに気づいた。

 

「深雪さんと達也もここで食事をしていたんだね」

 

「はい、いつもではないですが今日は少し用もありましたので…」

 

「俺はその付き添いだ」

 

そう、生徒会室にいたのは生徒会メンバーである七草会長、市原先輩、中条先輩…そして、僕が探していた渡辺委員長だけではなく、達也たちもいたのだ。

生徒会役員である深雪さんだけでなく達也も生徒会室にいたのだ……と、よくよく考えてみると「妹のいるところにお兄様がいる」と言ってもいい状態であるのだから、達也がいてもそうおかしくないないことに気づく。

 

なので、僕は達也たちのことはとりあえずおいておき、僕にとっての本題である渡辺委員長の座っている場所へとむかった。

 

 

「委員長、先月の風紀委員の活動記録をまとめ終えましたので、時間のある時にご確認をお願いします」

 

「ああ、ありがとう。月島は仕事が早くて助かる」

 

「任せて良かったよ」と満足げに言う渡辺委員長だったが、その後すぐに少し眉間にシワをよせながら「しかしだな」と言葉を続けてきた。

 

「書類が出来たからと言ってわざわざ昼休み中に持ってこなくてもいいんだぞ。お前も昼食を取らなければならないだろう?」

 

渡辺委員長の言葉に対して僕が答える前に、別の人…達也が口を挟んできた。

 

「委員長、月島は放課後はいち早く剣道部に行って壬生先輩に会いたいんですよ」

 

その達也の一言が、生徒会室内の空気を少し変えてしまった…面倒な方向に。

 

 

「まあ…!そうなんですか?」と言う深雪さんはまだいいだろう。だが、渡辺委員長は面白いものを見つけたようにニヤついてきたのは嫌な予感しかしない。いや、一番面倒なのは間違いなく生徒会室(この部屋)の主である七草先輩か。

 

「へぇー、堅物そうな月島君がまさかの恋色沙汰なんて意外ね」

 

ほら来た、と心の中で呟きながら、どうしたものか考える。……いや、別にウソを言う理由なんてないか。隠すべき事なんて無いわけだし、率直に言ってしまえばいいだろう。

 

「壬生先輩には指導して頂いた恩などはありますが、僕には()()()()()はありません。…まあ、放課後の部活が楽しみなのは否定しませんが、それはあくまでも思った以上に剣道を楽しんでいるからというだけですよ」

 

「あら、そうなの…」

 

「最初は「入る気は無い」とか言っていたのに、随分と変わったものだな」

 

面白くなさそうにする七草会長。達也の言葉に深雪さんが頷く。そして、話しに入ってこれていない市原先輩と中条先輩は「剣道部に入っていたのか」程度の反応だった。

そんな中で一人、渡辺委員長だけは未だにニヤニヤしているのが目についた。

 

「委員長、どうかしましたか?」

 

「なに、壬生で無いのなら景子(けいこ)のほうが本命なのかと思ってな。学校のカフェで談笑していたと聞いたぞ」

 

景子と言われて一瞬疑問符が湧いたが、小早川先輩の名前が景子だったことを思い出し納得する。

以前に(しおり)を拾ってもらった際に「お礼として何かあったら」と交換した連絡先。少し前に、それを通じて小早川先輩から「気分転換に付き合ってー」と連絡があり、呼び出された場所が学校のカフェ。そこで気分転換と言う名のお喋りに付き合ったのだ。

 

それを思い出し、僕はひとつ息を吐いてから渡辺委員長に言う。

 

「それも、僕が小早川先輩に恩があったからのことであって、それ以上の意味はありません」

 

「わかってる。でもあいつは言っていたぞ「良い気分転換になった」って」

 

「それは何よりですよ」

 

 

 

僕がそう区切ることで話は途切れ、この話題はここで終わる……と思ったのだが、どうやらそうはいかないようで、「そうだったのねー」と七草会長が言葉を続けてしまった。

 

「知らなかったわ。月島君って年上趣味なのね」

 

その一言で、生徒会室の空気が再び何とも言えない感じになった。その中で唯一と言っていい癒しは「ああ、大変そうに…」という視線を向けてくる達也くらいだ。おそらくは、このメンバーだと普段は達也がいじられる側なのだろう。……といっても、今日はその達也にキラーパスを投げられたため、あまり安心はできないが。

それに、普段の達也の観察するような視線が一番気を遣うわけで…

 

…と、いけないいけない。今は話が変に膨らむ前に、七草会長にビシッと言っておくことが先決だろう。…そして、ついでに切り上げに入るとしよう。そうしなければ、いよいよ昼食をとる時間が無くなってしまうからね。

 

 

「ですから壬生先輩にも小早川先輩にもそういう気はありませんから。それに、幼児ほどの年齢であれば一年の差は大きいですが、高校生くらいまでになると一年の差はほとんど関係ありませんよ。あるのは……個人個人の差くらいですよ」

 

「ちょっと、月島君!?なんで最後にコッチを見ながら言ったんですか!?私、今の今まで話に関わって無かったですよね!?」

 

チラリッと見たことに上手いこと反応してくれたのは中条先輩。物事が面倒になってきた時は、他の人にその場の空気を軽くひっかきまわしてもらって、その騒ぎの最中に脱出するのが楽なのだ。

 

「いえ、偶然視線が向いてしまっただけです。大した理由はありません」

 

「ウソです!絶対「中条はちっちゃいなー」とか考えてましたよね!」

 

「「身長は七草会長とそう変わらないのに、なんでこんなにも子供っぽいのかなー」とは思いましたが、「中条はちっちゃいなー」とは全く…」

 

「同じことじゃないですかー!?」

 

それにしても、中条先輩も僕に対して怯えたりせずにちゃんと言えるようになったなぁ…。最初の頃のガクブル具合と比べてみると、随分と成長(?)したものだ。

そんなことを考えながら、(ほお)をプクーッと膨らませて怒っている中条先輩から逃げるようにして、僕は軽く笑いながら扉のほうへと後ずさりする。

 

 

「おお、怖い怖い。これは退散しなければいけませんね」

 

「また逃げるんですか!今日という今日は私が先輩だということを……!」

 

僕は中条先輩の言葉を最後まで聞かずに生徒会室をあとにした。

…最後に見えた中条先輩以外のメンバーの顔は「ああ、またか」といった様子だったのは……まあ本当にいつものことだ。




月島さん(モドキ)の日常生活の一端でした。

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