魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
「何でもわかります(キリッ」な達也視点は色々と便利がいい気がします。
幸せな日常を過ごせるのも、月島さんのおかげ。
放課後、よかれと思い、生徒会室で月島と桐原先輩との試合の裏の事情を生徒会メンバーと渡辺摩利委員長に説明した。
すると、委員長が「今、月島はどこに?」と聞いてきたので「カフェで誰かと会う約束があったらしく、そっちに行っています。…相談してみようかとか言ってましたね」と俺は返す。
「そうか」と委員長は立ち上がり、「どれ。私も相談に乗ってみるとするかな」と言って生徒会室を出て行った。
その後、カフェでどういうことがあったかは詳しくは知らないが、どうやら試合は予定通りの日時で行うことになったそうだ。
月島の実力を知りたい俺としては、個人的にありがたい。
そのことを言っていた時の月島は、普段通りの様子でいたって穏やかだった。
そして、なんでも壬生先輩は「何回も邪魔してくるから、一回正面から叩き潰そう!」といった感じに燃えているそうで、月島は「僕よりも彼女が戦うみたいだよ」と笑いながら話していた。
……個人的に気になるのは、桐原先輩が月島にくってかかっている理由を壬生先輩が知っているかどうかだ。それによっては桐原先輩がかわいそうに……いや、状況的に考えて手遅れか。もうすでに壬生先輩の中では桐原先輩に対してマイナスイメージがついてしまっているだろうからな。
―――――――――
それがもう三日前のこと。
俺はちょうど今、校内の道場に入ったところだ。隣には深雪がいる。
道場内は道場の壁面に合わせる様に、入り口から見て右、左、正面の主に3つに分かれていた。
1つは月島を応援する剣道部メンバー。もう1つは桐原先輩を応援する剣術部メンバー。最後は生徒会や風紀委員メンバーを中心とした見学者たち。
…俺は最後の集団に含まれる。
「おーい!司波くん、深雪ー!こっちこっちー」
正面のほうの集団にいたエリカがこちらに手を振って呼んでくる。そのそばにはレオと美月、それにほのかと雫もいた。
「…行こうか」
「はい、お兄様」
深雪と共にエリカたちのほうへと行き、そこに腰をおろす。そして、試合の行われるのであろう道場の中央へと目を向けた。
あの白線で仕切られた一辺がおおよそ10mほどの正方形の範囲内で戦うのだろう。
「…あら?月島さんはどちらに?」
深雪がキョロキョロと道場を見渡してこの試合の主役の1人である月島を探していたようだが、見当たらなかったようだ。
「アレ」
そう言って雫が指差したのは、剣道部側にいる人物。
そいつは剣道の道着・袴そして防具を身につけ、竹刀を携えていた。隣には壬生先輩がいて、その人物の背中を叩いて「大丈夫、大丈夫!」と声をかけていたのと、身長から考えてアレが月島なのだろう。
ついでに言うと、剣術部側にいた桐原先輩はその月島と壬生先輩の様子を見ていたのだろう、目つきを一層鋭くし殺気を放っていた。
いや、しかし……これは何というか…。
俺が口にする前に、雫から月島を教えてもらった深雪が俺の考えと同じようなことを口にした。
「見慣れていないだけかもしれませんが……違和感が…」
「あー、私も思った」
「着られている…って感じがします」
「同意」
「そんなこと無いと思うけど…」
深雪の言葉にエリカ、美月、雫、ほのかが反応を返す。
言葉には出していないがレオもウンウンと頷いているから、俺も入れたメンバー全員の中では、ほのか以外は同意見だったようだ。
「というか、これは剣道の試合じゃないから、防具は逆に邪魔になると思うんだが…」
「だよね。…「僕は剣道部だー!」っていう意思表示かしら?」
俺の言葉にエリカも同意してくれた。
事実、フル装備の月島に対し、桐原先輩のほうは随分と身軽そうに見える。それに、面があるぶん視界も狭まってしまうだろう。
「両者、前へ!」
そんな話をしているうちに、試合開始の時間が迫ってきたようだ。立会人である渡辺摩利委員長の一声で道場内は静まり、月島と桐原先輩が中央のほうへと歩み寄っていった。
「事前にルールを確認しておく。決定的な一撃、もしくは私の判断による制止で勝敗を決める。範囲は白線内、魔法の使用は有り。ただし、相手に怪我を負わせるような行為は禁止……でいいな?」
「「はい」」
両者がそろって委員長へと返事をする。
それを確認した委員長が頷き、試合開始の為に次の言葉を発しようとした……が、その前に月島が挙手をした。
「すみません、委員長。始める前に少し桐原先輩と話をさせていただいても良いでしょうか?」
「…まあ、構わないが」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げた後、月島は桐原先輩のほうへと顔を向ける。
すると、月島よりも先に桐原先輩が口を開いた。
「ちょうど良かった、俺も言いたいことがあったんだ。…月島、その防具を外せ。負けた時にソイツのせいにされても困るからな」
「気にしないでください。この程度、ハンデにもなりません」
「…なら、いつも持ってる武装一体型のCADはどうしたんだ。手ぇ抜いてんじゃねぇぞ」
「桐原先輩は高周波ブレードで剣を叩き切って勝とうとしてくると思っているので、遠慮しますよ。あのCADを切られては困りますから」
月島の返答に「けっ、そうかよ」と吐き捨てるように言った桐原先輩は、反転して歩き出した。おそらく、試合開始時の自分の立ち位置へ移動したのだろう。
その背中に月島が声をかけた。
「開始からちょうど1分後。その時に先輩の脳天に竹刀を叩き込んで終了ですから、それまでが先輩の見せ場ですよ」
それは突然の勝利宣言。しかもタイムリミット付きで、だ。
道場内はどよめき、「マジで」「出来んのかよ」等の言葉が聞こえてきた。
勝利宣言をした月島を睨みつける桐原先輩。
対して月島はゆうゆうと自分の立ち位置へと歩いていた。その表情は面に隠れており、把握することは出来そうにない。
両者が定位置についたのを確認して、委員長が手をスゥっと挙げる。そして、道場内に備え付けられた時計を確認し……先程の月島の発言に配慮したのだろう、
「始めぇ!!」
合図と共に桐原先輩が横方向に移動しながら、腕に装着するタイプのCADを素早く操作した。すると桐原先輩が持つ竹刀に魔法式が展開される。
しかし、
パシィーン!
桐原先輩に急接近した月島が右手だけで持った竹刀を振るい、桐原先輩の竹刀を叩きつけ……その時に魔法式がかき消された。
予想外の出来事に、桐原先輩はもちろん、道場内の誰もが驚いていた。
竹刀を振るい、一度月島との距離を取った桐原先輩が再びCADを操作する。が、結果は同じ。また月島の竹刀によってかき消される。
『精霊の眼』で
「まさか、ぼくと同じ…」
見学者の中からそんな声がわずかに聞こえ、そちらを確認し、納得する。
そこにいたのは、1-Bの
そんな彼が得意とし、今、月島が使っている魔法。
「接触型
圧縮されたサイオンの塊を対象物に直接ぶつけ爆発させることで魔法式を吹き飛ばす対抗魔法である術式解体。それを打ち出さずに扱うのが接触型術式解体。当然、超近距離で無ければつかえないのだが、メリットとして通常の術式解体と違い爆発することはないので連続で使える。
連続で使える……つまりこれは、接近戦を強いられる今回の試合形式では最大限に発揮できるため、桐原先輩にとっては厳しい戦いになる。
「クソッ…!」
何度も魔法の発動を邪魔されるうえ、絶えず攻めてくる月島に押される桐原先輩。
完全に月島のペースに飲まれてしまった桐原先輩が、また月島と距離を取った。……が。
「っ!?」
バックステップですぐにその場を跳びのいた。
理由は簡単。桐原先輩の足元近くに、いつの間にか複数の魔法式が展開されていたからだ。
俺は視ていたからわかるが、あの魔法式は月島が桐原先輩との打ち合いの途中に、CAD無しで展開しておいた遅延発動のもの。…月島は随分と器用らしい。
桐原先輩の行動は悪手だ。なぜなら桐原先輩が飛び退いた先は白線の角方向。そう、桐原先輩は白線とその角を中心に半径5mほどの円の弧を描くように配置された魔法式に囲まれてしまい、その範囲は実質、本来の四分の一ほどでしか無くなってしまっていた。
桐原先輩もそれに気づいたようで眉をしかめていた。ああなってしまえば、『精霊の眼』であの魔法式がどういうものなのかわかる俺なら問題無いが、桐原先輩は下手には動けないだろう。
そんな桐原先輩のほうへゆっくりと近づき、魔法式の一歩手前で立ち止まる月島。
ここで初めて月島は竹刀を両手で握り「剣道」と言われて思い出すような、ちゃんとした構えになった。
「知っているかい?剣は片手で振るより両手で振った方が強いんだよ」
…何故かそんなことを言い放った月島は竹刀を正面に構えたまま、床の魔法式に
「面!!」
月島はそう叫んで竹刀を
そこには桐原先輩はいない……ように
だが、月島の竹刀が床に展開された魔法式上の空間を通り始めたあたりで、一瞬揺らめきが起き……。
「なっ…!?」
そこには、月島のほうへと突っ込んでくる、驚愕の表情を浮かべた桐原先輩がいた。
そしてその頭上には、ちょうど振り下ろされている月島の竹刀。…もはや避けるすべも時間も無い。
小気味良い音が道場内に響き渡り、その数秒後に委員長の口から勝者が告げられる。
「…そこまで!勝者、月島!!」
それは、宣言通りにちょうど1分後だった。
一瞬置いてからの歓声。
しかし、おそらくはその内の大半の人間は何が起こったのか理解していないだろう。
「お兄様、一体何が…」
「月島が床に展開した魔法式の列、あの上に「光の進みを遅らせる層」が壁のようにできていた。発生していたのはだいたい1,2秒ほどのズレだな」
俺の話を聞いていたエリカが、口を挟んできた。
「なるほど。最後に桐原先輩が月島君に突っ込んで行ってたのは、一旦右方向にフェイント入れたその時の像が見えて、反応したからだったのね」
「隅に追い詰められた場合、相手が動いた方向とは反対方向から逃れようとするからな。月島は、自分自身からも遅れて見える像にとらわれず、桐原先輩の行動を読み切って像の遅れを利用し先回りして一撃を叩き込んだわけだ」
深雪をはじめ、いつものメンバー……それと、ついでに見学していた他の人たちも俺の話をきいていたようで、「なるほど」といった様子で軽く頷いているのがわかった。
それにしても、月島は本当に
前に自分の中で考えていた「月島は強力な幻覚を見せることが出来る」という仮説の可能性は少し低くなったと言える。
だが、図書館を襲撃したであろうテロリストたちの症状の事や、エイドスにかかっていたあの謎のノイズの事もまだ不明だ。何かあると思い、あらゆる可能性を考えるべきだろう。
「お兄様?どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ」
警戒は解くべきではない。
壬生先輩にハイタッチを何度も付き合わされている月島に目をやりながら、そう考えた。