魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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今回は達也視点でのお話しとなっています。

正直、難産でした。…ほぼ確実に今後チョイチョイっと表現等に手を加えることとなると思います。


達也の隣に月島さんが立っている姿を想像すると、なんとなく笑えてくる……気がします。


…そろそろ前書きでのネタにも困ってきたけど、それでも「月島さんのおかげ」なのは、月島さんのおかげ。(ゲシュタルト崩壊中…)



九校戦編-3:月島への疑惑

「あそこまでお熱だと中条先輩は『トーラス・シルバー』の正体を知ったら、その人のそばにずっとついていきそうだよ。それこそ小動物みたいに……いや、もっと…恋人か何かになろうとするかな?」

 

月島のその一言が深雪を刺激し、俺の精神を擦り減らした。

 

それと同時に俺は、月島が()()()()俺への意趣返しとして深雪を刺激したのではないか?という疑惑が湧いた。

 

もしそうだとすれば、驚くべきことが事実であることになる。

 

 

『トーラス・シルバー』の秘密を月島は知っている。

 

 

あくまで現時点では「()()」というだけの状態だ。ただ単に中条先輩の様子を見て本当にそう思っただけかもしれない。

けれど、どうしてもその疑念が拭えなかった。

 

…いや、極端な話をすると、『トーラス・シルバー』の秘密については、知られること自体は俺自身はそこまでは困らない。

だが、『トーラス・シルバー』の秘密にいたる事ができるのであれば、俺や深雪の『十師族』『四葉(よつば)』との関係にすらたどりつけている可能性が出てきてしまう。それは大問題だ。

 

 

この疑念により、一旦緩めていた月島への監視の目を強化することになる。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

そして、それから数日後のこと。

 

少しばかり予定外の事があり、俺は『九校戦』に技術スタッフとして参加することとなった。1年なうえに二科生である生徒が参加するのは、前例がないそうだ。

 

 

そして、そこで俺が担当する選手は全員1年の女子生徒だった。

 

というのも、異例の1年生エンジニアということもあり、対象は最初に同学年に絞られ、プライドの高い1年男子生徒たちにはCADの調整を拒否。結果的に1年女子だけになったのだ。

…月島はといえば、さきの「CAD勉強会(トーラス・シルバー講座)」に引き続き、中条先輩が担当していた。

 

 

 

九校戦競技の練習期間中にも、俺は月島の事を監視していた。

しかし、不審なところは特になかった。

 

 

…いや、おかしいところはたくさんあったのだが……。

 

まず競技の練習期間にも関わらず、月島は風紀委員の仕事はもちろん、剣道部の練習にも顔を出していた。

なんでも、剣道部のほうは『九校戦』の後に剣道の全国大会があるそうなのだ。だが、つまみ出されて壬生先輩に怒られていた。

 

「月島君は『九校戦』の選手なんだから、そっちに集中しなさい!」

 

…なお、その時の壬生先輩の顔がどことなく嬉しそうだったことは……まあ、言わなくても察しがつくだろう。

 

 

そして、競技の練習のほうに戻ったかと思えば、本戦・男子の『クラウド・ボール』の出場選手である桐原先輩の練習の手伝いをしだした。

さらには、新人戦・女子の『アイス・ピラーズ・ブレイク』の出場選手であり俺の担当でもある深雪、雫、そして1-Bの明智(あけち)英美(えいみ)の練習の手伝いをしだした。

 

俺が引き留め聞いたところ、月島(いわ)く…

 

「中条先輩が本戦選手にかかりっきりだから、自分と同じ競技の選手の練習を見て勉強する」

 

との事らしく、それなりの考えがあったそうだ。

……ただし、中条先輩には特に何も言わずの行動だったらしく「ぷんぷん!」という擬音が似合いそうな感じに怒っている中条先輩が現れ、月島はその中条先輩と…

 

「新人戦より本戦のほうが重要ですよね?先輩方を優先してください、僕は僕で何とかしておきますから」

 

「そういうことじゃありません!ほら、戻りますよ!」

 

などと言った感じの会話をしながら、どこかへと行ってしまった。

 

 

その後も月島は、自分の競技の練習よりも他人の手伝いを優先しているふしがあり、他の選手たちは「手伝ってくれて練習が(はかど)って感謝したいけど、月島(アイツ)自身は大丈夫なのか?」と、なんとも言えない表情をしていた。

 

唯一、雫だけは遠慮無く月島を練習に付き合わせていた。

何でも、最初に月島が『アイス・ピラーズ・ブレイク』の練習を手伝った際に見せた『情報強化』による防御に思うところがあったらしく、仮想敵として月島を使っていた。

 

「他校にもこのくらいの『情報強化』ができる選手がいるかもしれないから」

 

雫はそう言っていたが、月島の干渉力は並よりもかなり高い。故に月島ほどの『情報強化』を行える選手は、そういないと思うのだが……まあ、それが意欲に繋がっているから、とりあえずは問題無い。

 

 

 

……話を戻すが、最初にも言った通り、月島には俺が望むような不審な点は見当たらなかった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

そんなことがありながらも、ついに訪れた8月1日。

 

『九校戦』の会場である「富士演習場」へと、選手と作戦スタッフはバスで、技術スタッフは作業車(CAD調整の為の機材等を乗せた車)で移動するのだが……ここで、少し想定外の出来事が起きた。

 

七草会長が家の用事…つまりは『十師族』としての用事で遅れてくるとのことだ。

ある程度前に連絡が来ていて「先に行っておいて」等の話もあったそうだが、3年を中心とした生徒たちの話し合いの結果、待つことになった。

 

そして、出欠確認をしていた俺は、そのままバスの外で待つことにしたのだが……そんな俺の目の前で、渡辺先輩と月島によるやりとりが行われていた。

 

 

―――――――――

 

 

「いや、わざわざ外で待たなくてもだな…」

 

日傘を手にした渡辺先輩が困り顔で月島に言う。

 

「ほとんど僕のワガママのようなものですよ。…どうにもこういう時にジッと座って待っておくのができない性分でして」

 

月島の言葉を聞いた渡辺先輩は「むむむっ…」と呻った。

おそらくは、風紀委員としての活動、九校戦選手に選ばれてからの他の選手へのサポート、等々の月島の普段の行動から、月島が言っていることがなんとなくわかったのだろう。

 

 

折れたのは渡辺先輩だった。

 

「はぁ…、わかったわかった。ただ、しんどくなった時は遠慮せずバスに入って良いぞ。司波も、だ。真由美が来るまで作業車でなくバス(こっち)で待っていてもかまわない」

 

「ありがとうございます。…では、渡辺委員長は一足先にどうぞ」

 

月島に勧められるままに、渡辺先輩は日傘をたたんでバスへと乗車した。

 

 

「達也も、僕に仕事を任せてしまってもいいんだよ?」

 

「大丈夫だ。そう大した負担でもないからな」

 

「そうかい?…なら僕はバスの中のお姫様の機嫌をどうにかする方法を考えないといけなくなるなぁ……」

 

困ったように笑う月島は、そんなことを言いながらCADを使わずに魔法を展開した。どうやら一定以上の光と紫外線を遮断する層をつくる光学系魔法のようで、月島の周り…ついでに俺のほうにもその効力が出て、先程までの直射日光が嘘のようになり、幾分暑さが和らいだ。

 

「すまないな」

 

「いやいや、いいって。…代わりと言ってはなんだけどさ、待っているあいだ暇潰しにちょっと話そうか」

 

軽く礼を言うと、月島はいつもの調子で返してきた。

 

 

 

 

 

「まっ、話というか忠告なんだけど、魔法師に(さぐ)りを入れるのはやめたほうがいい。色んな物失ってからじゃあ遅いからね」

 

 

 

 

「……っ!?」

 

完全な不意打ちによる指摘。月島が俺の監視の目を見抜いていたということ。

一気に自分の中で警戒レベルを上げる。そして、警戒態勢をとろうとした……いや、だが、ここは多くの一般生徒の人の目がある。大きな動きはできない。幸い…と言っていいかはわからないが、月島自身もそうであるはずだ。

 

どうする?

先手必勝…しかし、バス内からは会話は聞き取れていないだろうにしても、表面上は何の罪の無い生徒である月島を攻撃するのは無理がある。

 

どうする?

何のことかわからないフリをし、しらを切るべきか。おそらくはそれが一番だろうが、もし本当に俺たちのことを調べあげられているとすれば、効果は薄く意味はあまりないかもしれない。

 

 

「最近、また見られている気がしてね。……で、僕に何が聞きたかったんだい?なんでも答えるよ。あっ、でも性癖とか恥ずかしい話は勘弁してね」

 

 

どうする?

俺も月島も共に手を出せない状況だが…………ん?

 

 

「…ちょっと待て月島」

 

「もしかして、質問を考える時間が欲しいのかい?別にかまわないよ。七草会長がいつ来るかはわからないけど、別段急ぐ必要は無いからね」

 

「いや、そうじゃなくてだな」

 

一度、大きく息を吐いて頭の中を整理する。

 

「月島。さっきお前は人に探りを入れないように警告してきたよな?」

 

「うん、そうだけど?僕が母親から教わった数少ない教えで「『秘術』とか、お家問題とか、色々面倒なんだよ」って」

 

「で、だ。なんでお前は俺に質問させようとしてきたんだ?」

 

「それは達也が僕のこと観察してたりしたからだよ?何か聞きたいことがあるんじゃないかなって思ってね。わざわざ遠回しに調べようとしなくても、聞きに来てくれればいいのに」

 

そう言う月島の顔はいたっていつも通りだった。…いや、むしろ爽やかさ一割増くらいかもしれない。

 

 

 

月島(こいつ)はどういうつもりなのだろう?

探りを入れられたくないのか…?自分の事を知られたいのか、知られたくないのか……。

そもそも、月島は裏が有るのか無いのか…本当に()()()なんだ。

 

確かめるためにも、俺はあえて月島の誘いに乗ることにした。

それもあえて()()()()()()()ような問いかけをする。

 

 

「月島。お前はブランシュ事件の時、本当に魔法と剣技でテロリストを倒したのか?」

 

その問いに対する月島の反応はと言えば…。

かなり驚いているようで、目を見開いていた。

 

「えっ、もしかして壬生先輩が何か言ってた?」

 

「いや、そういうわけじゃないが」

 

「そっか。…良かった」

 

安心したように「フゥ…」と息を吐く月島。…だが、今の反応からして…。

 

「魔法と剣技以外を使ったというのは否定しないんだな」

 

「まあね…」

 

 

 

明後日の方向を見ながら返事をしてきた月島だったが、ふとアゴに手を当てて何か考え出す。

 

「…でも、これは考えようによっては良い機会かもしれない」

 

「何を言っているんだ?」

 

俺の問いかけを聞いてか聞かずかはわからないが、月島は俺へと顔を寄せてきた。

 

「ねえ、達也。達也って話によると、魔法の解析が得意なんだろう?」

 

「それなりには…とだけ答えておこう」

 

適当な返しにも月島は「うん、それなら十分だ」と満足げに頷きだす。

 

 

「僕はね、この学校に来るにあたってある目標があったんだ」

 

「目標?」

 

「ああ、魔法師である母親にも話して無いことなんだけど、()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう目標。おそらくは無系統魔法……そして入学してから調べた限りでは、似たような魔法は資料内にはなかったんだ」

 

スラスラと月島の口から出てくる言葉。だが、それはある意味俺が予想していた以上の内容だった。

そして…

 

「正直、もう僕一人じゃあお手上げに近い状態なんだよね。感覚的にはどういうものかはわかるけど、それ以上はわからないんだ。……それで相談なんだけど、今度、機会を作って僕の魔法を見てくれないかい?」

 

「…それがテロリストたちを撃退するのに使った魔法なのか?」

 

「うーん…そうだね、正確にはそれを活用したものが…かな?」

 

「そうか…。わかった、機会があったらな」

 

月島は「あっ、今の話はオフレコでよろしくね?」といつもの調子で言ってきたので、俺は軽く「わかった」と返した。

 

 

 

 

自分で言うのもなんだが、この時俺は珍しく混乱していた。

 

理由は簡単。「月島が何を考えているのかがわからない」だ。

 

話を聞く限りでは、月島のいう「魔法(チカラ)」というものは、ある一個人以外使用不可能とされる『固有魔法』などと呼ばれている(たぐい)のものである可能性が高い。…というか、おそらくはそうだろう。

 

 

だが、問題は「何故それを司波達也()に話したのか」だ。

 

もし、俺が想定していたように月島が俺たちに敵対するような存在だった場合、テロリストを制圧するのに使える切り札のような『固有魔法』を(ゆう)していることを教えることにメリットは無い。ましてや、それを披露する場を設けようとすることにも。…むしろ、両方デメリットでしかないだろう。

 

いや、もし敵対するような存在でなかったとしても、親にも話したことの無いことを他人に話したり披露しようとしたりするだろうか?

以前、九重八雲に情報を集めて貰った際に、「月島の母は魔法師家系ではない家に生まれた魔法師で、才能は言うほどなかった」という話を聞いていたが、そのあたりの理由で月島は唯一の身近の魔法師である母親にも『固有魔法』のことは話さなかった……と言う可能性は無くは無いが…、それでも何かしっくりこない。

 

俺へと歩み寄るために、あえて大きな情報を差し出した…?

いや、だが、敵にしろ何にしろ『固有魔法』などというものを引き合いに出すほどのことなのだろうか?

 

 

俺はひとり、何か手がかりとなる情報はないか…と、月島との過去の出来事を思い出していく。

 

…と、ふとある出来事を思い出した。

それは、月島とエリカの試合の後、月島に武装一体型CADがあっていないことを指摘した時のこと。…特にその中でもエリカの最後の一言を、だ。

 

『あっ、わかった。月島君ってレオとは別タイプの馬鹿だ』

 

……これまで俺が長々と考えてきたことが「月島はある種の馬鹿である」の一文で片付いてしまうのは、なんとも言えない気持ちだ。

 

 

 

そんなことを考えながら、隣にいる月島のほうへと目を向ける。

すると、ちょうどこちらを見ていた月島が「どうしたんだい?」と言うように首を軽くかしげてきた。

 

「他に何か聞きたいことがある?」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

「遠慮しなくていいよ?何でも聞いてくれ」

 

そう言って、いつもの調子で微笑む月島。

…月島の真意、そして俺のことを何処まで知っているかは依然としてわからないままだが、ある種の信用は少しはおけるとは感じられた。もちろん、疑惑を完全に拭い去ることはできないが…。

 

「ならば」と、七草会長が来るまでの時間、より月島を知るためにもこのまま月島と話してみよう…そう俺は考えた。

 

 

 

「なら聞くが、『九校戦』で泊まるホテル、森崎と同室らしいが大丈夫なのか?」

 

「…ノーコメントで」

 

「おい」

 

……本当に、月島はどこからどこまでが本気なのか、何を考えているか、よくわからないな…。




月島さん(モドキ)「探ってくる?なら、あけっぴろげればいいじゃないか」(見せるのは真実のみだとは言っていない)


当然ですが、月島さん(モドキ)も色々考えながら、打算なんかもありながら、自分なりに目的へと至ろうとしています。そのあたりは次回以降に…。

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