魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
「原作改変」「捏造設定」等が含まれます。ご注意ください。
…といいますのも、書いている途中にあることに気が付いたんです。
「あれ?…これ、下手すると新人戦の『クラウド・ボール』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合時間、被ってしまうのでは?」
なので、誠に勝手ながら原作とは異なる部分を作らせていただきます。
具体的に書くと…
・本戦および新人戦では、『クラウド・ボール』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合の時間はかぶらない
以上の点になると思います。
…まあ、この変更により実害を受けるのは達也でしょう。はい。
そして、魔法論の前に物理学が…。
秋があること自体、月島さんのおかげ。
『九校戦』二日目の本日8月4日は、本戦『クラウド・ボール』と、本戦『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選が行われる。
……で、今僕らは『クラウド・ボール』本戦・女子が行われる会場にきているのだが、空気がとてもよろしくない。
原因は深雪さん。深雪さんの機嫌がとてつもなく悪いのだ。
いつものメンバーも、流石にどうしようもない状況でワタワタしている。しかも、こういう時唯一の頼みの綱である達也は
『クラウド・ボール』の試合が行われるコート脇に設置されているベンチ。そのそばのスペースで七草会長が試合前のストレッチを
一応フォローするが、達也は手伝いを喜んでしたわけでは無く、七草会長に「手伝って?(ニッコリ」と半分強制気味にお願いされて渋々…と言った感じである。
達也がああしてあそこで補助としていること自体……ある意味、達也は被害者であるかもしれない。
まあ、深雪さんの機嫌は後で達也自身に何とかしてもらうとしよう。
そんなところまで面倒はみれないし、みる義理も無い……というか、仮になんとかしようとしたところで何にもできそうにないというのがオチである。
…そんなことを考えているうちに、試合が始まる時間が目前まで迫ったようだ。
今から始まる『クラウド・ボール』だが基本的なルールとしては、低反発ボールをラケットまたは魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う対戦競技だ。バウンドが許されないことを考えると、打つ対象がボールではあるが点の取り方的にはテニスよりもバトミントンに近いかもしれない。
一試合女子は3セットマッチ(2セット先取で勝利)、男子は5セットマッチ(3セット先取で勝利)。
そして、1セット3分の中でボールが20秒ごとに追加されるというのが、この競技の特徴である。…つまり、互いに一度も自分コートに落さずに打ち合い続けた場合、最終的に9つのボールが行き
また、この競技は24人のトーナメントで行うのだが、全てを半日で終わらせることも重要な要素だ。というのも、決勝まで行けた場合、半日で5試合しなければならないハードなスケジュールとなる。1セット3分とはいえ9つのボールを扱うとなれば濃厚な時間となるわけで、ペース配分を間違えれば体力が持たなくなる。
…長々と説明したが、技能的な意味で『クラウド・ボール』に求められるのは、「自分コートに来るボールをいかに
「……まあ、七草会長なら問題無いんだろうけどね」
「ん?月島、何か言ったか?」
「いや、何も?」
ついこぼれ出てしまった僕の独り言に、隣にいたレオの耳にわずかながら届いてしまったようで、それを適当に流す。
そして、試合開始の時間。1セット目開始の合図が響く。
それと同時にシューターと呼ばれる機械から、相手選手の第七高校選手のコートにむかってボールが射出される。第七高校選手はそのボールを手に持つCADを使って魔法で打ち返し、七草会長のコートへと飛ばす。
…さて、ここからが問題だ。
ボールが2つのコートを仕切る中央のネットを越えた次の瞬間、七草会長は小銃型のCADの引き金を引いた。…すると、ボールは瞬時に第七高校選手のコートへと飛んで行った。
「『ダブル・バウンド』だったかな、あれは?」
「うん、たぶんそう」
僕の疑問に雫が頷き答えてくれた。
『ダブル・バウンド』は加速系の系統魔法。対象の移動物体の加速を2倍にし、ベクトルの方向を逆転させるという、ある種『クラウド・ボール』にはうってつけの魔法だ。
だが、『ダブル・バウンド』よりも驚異的に見えるのは、ボールへの対応の速さ。それを可能にしているのは、『マルチスコープ』という知覚魔法のおかげなのだろう。
その名の通り多方向からものを見るように知覚できるという『マルチスコープ』は、物体との距離感・位置関係を正確に把握できるため、昨日あった『スピード・シューティング』でも活躍していた。
そうしているうちにも時間は経ち、いつの間にかコート内では3つのボールが飛び交っていた。
こうなってくると対応に追われるのは第七高校選手だ。
打ち返したと思ったら、ネットを越えた瞬間に倍近くの速度で打ち返されるため、速度的にも対象の個数的にも、ドンドン追いつけなくなってくる。そんな状態が長く続くはずも無く、4つに増えた時点からボールが1つ、また1つと第七高校選手側のコートへと落ちていった。
「さすが会長といいますか…圧倒的ですね」
感心したように言う深雪さんに皆が同意を示す。
それとほぼ同時に第1セットが終了した。第七高校選手は肩で息をしながらその場に膝をついていた。
「…もしかして、2セット目をできるほどの体力も残ってなさそう?」
「あれだけ攻め立てられ続けていたんだ。仕方のないことだと思うよ」
第七高校選手の様子を見ていた美月の言葉に、幹比古が頷きながら言う。
その考えは的中。実力差的にも体力的にもこれ以上は無理があると悟ったのか、第七高校選手は2セット目を棄権し、七草会長の一回戦突破が決まった。
「そういえば、月島君って新人戦の『クラウド・ボール』に出るんだよね?」
コートから七草会長や達也が移動しはじめ、次の試合の選手たちと入れ替わりだした時に、エリカから僕にそんな質問が飛んできた。
「そうだけど……どうかしたかい?」
「いやさ、加速魔法が苦手って言ってたけど、大丈夫なのかなーって思って」
…一学期の初めの頃にエリカとの試合の後、そんな話をしていたのを思い出す。アレは事実だし、今でも加速系統の魔法は苦手である。
それに、今のタイミングでの質問も当然といえば当然だ。七草会長の試合を見ていればベクトル操作を行える加速系統の魔法の重要性がわかるだろう。
…とは言っても、できないものはできない。だから…
「大丈夫だよ。加速魔法は使わずに
僕がそう言うと、一人を除いた皆が目を真ん丸にして固まった。…まあ、まともに魔法を勉強していれば当然だろう。
唯一固まらなかったほのかが、心配そうに僕に言ってくる。
「向かってくるボールを移動魔法で返すとなると、ボールへの慣性が大変なことになりますけど……月島さんには何か方法があるんですよね?」
ほのかの言う通り、加速魔法…正確には加速系統内の「加速」と「減速」による干渉無しの場合、対象物への負荷が凄いことになる。下手をすればボールははじけ飛ぶだろう。
だが、返せないわけでは無い。正攻法は硬化魔法だろう。「耐えられなくなるなら、耐えられるようにすればいいじゃない」ということだ。…だが、普通に考えてそんなことは手間でしかないし、僕も極力する気は無い。
「僕がするのは、ボールが耐えられるギリギリを見極めて出力を調整した移動魔法をかけるだけさ」
その言葉に対して、復活した雫がやや
「でも、それだとボールの速度はゆっくりになる、相手に返されるだけ。それに、一定以上の速度のボールは返せない」
「それはごもっともな意見だ。…けど心配はいらない、手はあるさ」
僕はそう言いながらニヤリと笑ってみせる。
皆が「それはいったい…」といった雰囲気になったところで、僕は立ち上がる。
「どうしたんですか、月島さん?」
急に立ち上がった僕の行動がわからない様子でほのかが問いかけてきた。
「いや、七草会長は心配なさそうだから、僕は本戦・男子の『クラウド・ボール』のほうに行こうかと思ってね。たぶん、そろそろ桐原先輩の試合だろうし」
「桐原先輩って…。月島くん、
美月の言う「あんなこと」とは、おそらくは桐原先輩が僕を無理矢理試合に引っ張り出そうとしてきたあの時のことだろう。(森崎編‐2参照)
確かに驚いたし、面倒ではあったが、その程度で僕としてはそんなに気にするようなことでは無い。
…と、今度は僕の事を雫がジトーッと睨んできているのが見えた。
「さっきの話の「手」、言う気無かったんだね」
「皆になら教えても良かったけど、ここは観客席だからさ。僕の数少ない切り札なわけだし、隠しておきたくてね」
とは言っても、名のある家の出でもない『新人戦』の選手だというだけの僕に、わざわざ注目するような人がいるとは思えないので、少々過剰過ぎる隠し方かもしれないが。
「えー?ケチー!」
雫に便乗するように、口を尖らせるエリカ。
「あはは、まぁ本番のお楽しみにってことで、ね?それじゃあ、これで」
僕はそう言ってから、その場を後にした。
―――――――――
ああ言ってあの場から抜け出したものの、実際のところ桐原先輩の試合までは時間に余裕はある。
男子の『クラウド・ボール』が何試合か連続で棄権者が出て、早く進んでいたりしない限り30分ほどは自由だ。
当然、何の考えも無しにそんなに早くから動き出したわけでは無い。…今後のことも考えて、
何かある際には、事前の下見や確認をしっかりとしておいた方が良い、というのが僕の考え方だ。…まあ、これでも結構ギリギリなのかもしれないのだけど…。
…まあ、万一の場合を考えると、やはりこのあたりで一度手を加えておいた方が……。
……ん?今のは確か……
まあいいか、
なお、
……当然、コートに出てきた桐原先輩に凄く睨まれた。