魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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※注意※
「独自解釈」「捏造設定」等が含まれます。ご注意ください。


上記の要素は、主にアニメ等では描かれていなかった部分を勝手に補完している…ということです。




鈴虫の綺麗な鳴き声が聞こえるのは、東仙隊長のおかげ……ではなく、やっぱり月島さんのおかげ。



九校戦編-7:九校戦・三日目

さて、『九校戦』三日目の本日8月5日は、九校戦内でもある種の節目になる日だ。

 

というのも、今日行われるのは本戦『バトル・ボード』準決勝・決勝と、本戦『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選・決勝なのだが、そこで一旦「本戦」は終了して残りの『ミラージュ・バット』と『モノリス・コード』は九日目と十日目(最終日)に行われる。

 

つまりは、明日からは一年生たちが主役となる「新人戦」に一度切り替わるのだ。

 

そんなこともあって各学校の二、三年生は、後輩たちに良い流れでバトンタッチできるようにという想いもあるようで、これまで以上に気合が入っている選手が多くいた。

 

 

 

だが、本戦・女子『バトル・ボード』準決勝第2レースで問題が起こった。

 

第七高校選手が水路のカーブで謎の急加速をし、それを受け止めようとした渡辺委員長が受け止めきれず、そのまま柵を超えコース外へと出てしまい怪我を負った。

不幸中の幸いと言っていいかはわからないが、第七高校選手と渡辺委員長は少しの骨折で済んだ。……もし、渡辺委員長が止めようとしなければ、第七高校選手のほうは大変な大怪我になっていただろう。

 

…そんなことがあって、「危険走行」をしたとして第七高校選手は「失格」。怪我が理由で渡辺委員長は「棄権」することとなった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

そして、僕は今、『バトル・ボード』の会場の選手待機室にいる。色々と準備を終え、試合(レース)を目前にした選手が待つ場所だ。

位置的に説明するならば、コースにほど近い…というか、観客席の最前列の下の建物部分だ。一部が半透明のガラス張りになっているため、ここからコースが見える。

 

 

…何故そんなところに僕がいるのか。

別に臨時のエンジニアだとかいうわけでは無い。全部、七草会長が悪いのだ。

 

「張り切ってたけど……きっと試合目前になると緊張しちゃうと思うから、ヨロシクね?」

 

そう言って僕にウィンクをし、怪我をした渡辺委員長に付き添いに行った七草会長。…彼女は色々と勘違いしている…いやもしかしたら、わかっているうえでからかうためだったのかもしれないか……。

ついでに言うなら、本当の担当エンジニアもなんか遠慮したようで、ここから離れてしまっている。

 

 

まあ、それに実際に緊張しちゃってるからなぁ……

 

 

そう思いながら僕が目をやるのは、『バトル・ボード』用のウェットスーツに着替え終え、部屋に備え付けられたベンチに座っている小早川先輩だ。

 

『バトル・ボード』の試合形式を憶えているだろうか?

準決勝に進出できるのは6人。それを3・3の二つに分けて準決勝を2レースで行い、両方の1位が決勝に。残りの4人が3位決定戦を行う。小早川先輩は準決勝第1レースに出場してボード一つ分くらいの差で3位になり、これから3位決定戦である。

 

…ここで思い出してほしいことがある。準決勝第2レースのほうがどうなったのかを…。

3人のうち、第七高校選手が「失格」、渡辺委員長が「棄権」、残った第九高校選手が「決勝進出」。

そう、小早川先輩はこれから、準決勝第1レースで2位だった相手…つまりは自身が負けた相手と一対一での「3位決定戦」に挑まなければならないのだ。それは緊張もするだろう。

 

 

 

「…小早川先輩」

 

僕がそう声をかけると、小早川先輩はビクッっと驚いたような反応を示した。

…おかしなものだ。ここへは一緒に来たと言うのに、まるで僕がいることを忘れてたかのような反応だ。

 

ため息をつき首を振りながら、こちらへと顔を向けた小早川先輩に言う。

 

「ポイントをとれる選手が私しかいなくなったーっなんてこと、気になさってるんですか?」

 

「なんてこと、ではないだろう?摩利がいなくなった分、少しでも点を取らなければならない!…だが、相手は私がさっき負けた相手なんだ。どうすれば…」

 

「……別に負けてもいいんじゃないですか?」

 

僕の言葉に小早川先輩は「はぁ…!?」と珍しくやや怒り気味に睨みつけてきた。

だが、そんな視線はスルーだ。

 

「全力で挑んで負けたなら「今の私はこのレベルなのかー」で終わりでいいじゃないですか」

 

「何を馬鹿なことを言っている!これは、このレースの勝敗は第一高校全体に関わる重要なこと…」

 

 

()()()()()

 

あえて強く言い放ち、小早川先輩が口走っていた「自分自身を追い詰める言葉」を止めさせる。

 

「小早川先輩がここで勝とうが負けようが、3位か4位…たった10ポイントの差」

 

「だから、その10ポイントがだな…!」

 

 

 

 

 

 

「そんな10ポイント、僕が人数合わせで出場させられてる新人戦『クラウド・ボール』で3位以上をとってしまえばチャラですよ」

 

「は…?」

 

 

本戦の『バトル・ボード』は、1位50ポイント、2位30ポイント、3位、20ポイント、4位10ポイント。対して、僕が出る新人戦の『クラウド・ボール』は、1位25ポイント、2位15ポイント、3位10ポイントだ。

新人戦は本戦の半分のポイントとはいえ、ポイントには違いはあるまい。

 

 

「さらに言えば、僕が1位又は2位をとれたならば、お釣りがきます」

 

ぽかーっとしている小早川先輩に、続けざまに言い続ける。

 

「一高全員で同じポイントなら、先輩の取り損ねたポイントも僕が補えます。…最後の『九校戦』なんですから、もう順位なんて気にしないで二度と走れないであろうこのコースを、最後の最後まで思いっきり楽しんで走り抜けてください」

 

 

 

数十秒……いや、1分は経っただろうか。ようやく小早川先輩が口を開いた。

 

「後輩に自分の尻拭いをさせる、か。格好がつかないな」

 

「やめてあげてください。そんなことを言ったら、予選で落ちてしまった先輩方が大変なことになりますよ」

 

「ふっ、それもそうか」

 

ようやくいつもの調子に戻った小早川先輩はベンチから立ち上がり、大きく伸びをした。

 

 

「そうさ、私には『ミラージ・バット』も残ってる。そっちでもっと上を目指せばいい。…そのためにも、今はこの最後のレースを走りきるだけ」

 

ちょうどその時、3位決定戦開始準備のアナウンスがはいる。

 

「ボード、スタート地点まで持っていきましょうか?」

 

「いや、いいよ。月島くんはここで応援しておいてくれ」

 

ボードを抱えて、コースのある外への扉へとむかう小早川先輩。

扉を開け、出ていく直前に小早川先輩はコチラへ振り向いてニカリと笑った。

 

 

「じゃあ、楽しんでくるよ」

 

「どうぞ、心ゆくまで」

 

 

 

小早川先輩の後ろ姿を見送り……扉が完全に閉まりきったところで大きく息をついた。

 

選手がスタート位置についた後に、3位決定戦の開始のアナウンスが始まる。

そして、レース開始の合図。小早川先輩はボードと共に勢いよく飛び出していった。

 

 

そんなレースの様子を見ながら、僕は先程の会話を思い出していた。

 

「最後の『九校戦』……楽しんで、か…」

 

我ながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人間が言えることじゃないなぁ…。

 

 

準決勝第2レースのあの事故は、外部からの工作によって引き起こされたものである。

それはアニメで見たので僕は知っている。…それも、起きること自体、事前に知っていた。だが、止めなかった。

 

 

あの事故を引き起こした要因は大きく分けて二つ。言い訳をするのであれば、その二つを止める手段が無かったと言っておこう。

 

一つ目は、第七高校選手の危険走行原因を生み出した、CADへの細工。

二つ目は、水路内に潜む『精霊』による、受け止めようとする渡辺委員長への妨害。

 

一つ目のほうは、第七高校選手への接触が不可能だったことと、細工を指摘出来るだけのちからを僕が持ち合わせていなかったこと。

二つ目のほうは、『九校戦』一日目の『バトル・ボード』予選の際に確認した際に、コース内への干渉が難しいこと。そして、『精霊』を認識する手段を僕が()()持ち得ていなかった事があげられる。

 

 

唯一、決行できる手段であったのは、これらの妨害工作を裏から仕掛けてきている犯罪組織(シンジケート)無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』を()()()してしまうという手段だ。

 

だが、僕はこの手段をとらなかった。

理由は簡単。時間・労力がかかり過ぎる上にあまりにもリスクが大きく、実際に行うには無理がある。それならば、『無頭竜』のことは原作通りに達也に任せてしまったほうが良いと判断した。

そして、途中少し関わる程度にして、僕は僕なりに利を得よう……そう考え行動をしている。

 

 

ただでさえ、危ない橋を渡っている状態だ。

 

『九校戦』に出場しなければならないので、ある程度目立ってしまうのは仕方がないと割り切っている……というか、それも計画のうちに盛り込んである。

だが、悪目立ち…悪い意味で目をつけられるのは本望ではない。

 

そう考えると、やはりここで僕自身が『無頭竜』に牙をむくのは得策ではないだろう。

 

「でも、僕が気をつけるべきは『無頭竜』そのものっていうよりも、その動きを監視してる方々なんだけど、ね」

 

今回の実験の計画の第一段階は何とかなったが、できる限り怖い国家権力の方々にはお世話になりたくないものだ。

 

 

 

そして、もう一つ考えなければならないことがある。

それは小早川先輩の()()()()()だ。

 

『九校戦』が始まる前に本人から出場する競技を聞いた後に思い出したのだが、小早川先輩は()()()()()()()だ。

「小早川先輩はもうダメかもしれんな」

画面越しに聞いた達也の淡々とした思考。それは本戦『ミラージ・バット』で起こった、CADへの細工による魔法の不発。それにより小早川先輩は魔法師生命を断たれてしまう……それが原作であった流れだ。

 

幸いなことに、この世界でも原作通りになればそのCADへの細工は小早川先輩のCADに行われるはずだ。そうであれば、今回の渡辺委員長の一件のように対処が難しいわけでは無い。……が、やはりそう考えてしまうだけで渡辺委員長への罪悪感が膨れ上がってしまう。

 

 

「……いや、今は小早川先輩のCADへの細工……それの対処とタイミングを考えないと……」

 

 

 

 

ふいに、大きな歓声があがった。

…色々と考えているうちに、どうやら3位決定戦が終わったようだ。

 

モニターに表示された勝者名は『小早川景子』。小早川先輩は無事3位に入賞できたようだ。

観客席からの歓声に応えるように手を振る小早川先輩。彼女の笑顔を見て、軽く微笑む。

 

「まあ、今くらいはお祭り気分を味わっておこう」

 

レースを終え、こちらへと戻ってくる小早川先輩を迎えるためのタオル等の用意をする。

ついでに、祝いの言葉も考えておこうか……。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

『バトル・ボード』が終わった後、観戦しに行った『アイス・ピラーズ・ブレイク』では男子は十文字会頭が、女子は千代田先輩が優勝した。

 

まあ、その観戦でちょっとしたことがあったのだが……まあ、そう大したことでは無い。

 

ただちょっと「クリムゾン・プリンス」と「カーディナル・ジョージ」という愉快な異名を持つ二人に会ったというだけだ。本当に大したことは無い。

 


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