魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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今回は達也視点でのお話となっています。


※注意※
「独自解釈」「捏造設定」等が含まれます。ご注意ください。


魔法理論は大体大丈夫だと思います。……一部都合よく解釈しておりますが、ご了承ください。



大変な目に遭っても立ち上がれるのは、月島さんのおかげ。


九校戦編-9:九校戦・五日目・上『クラウド・ボール』

『九校戦』五日目。俺は深雪、そして他のいつものメンバーと新人戦・男子『クラウド・ボール』の会場に来ていた。

 

 

今から始まるのは予選12試合目…つまりは第一試合の最後の組の試合だ。

コート脇のベンチには、水やタオルなどを用意して座っている中条先輩。そして、そこから少し離れた場所では、スポーツウェアを着た月島が一人で軽いストレッチをしている。

 

なお、ベンチ側の観客席の最前列あたりには、壬生先輩を中心とした第一高校剣道部の部員が応援に駆け付けていた。

……『九校戦』終わった後の夏休み期間中に試合があると聞いていたが、そっちは大丈夫なのだろうか?

 

 

「それで、月島が移動魔法だけでボールを返すと言っていたのは本当なのか」

 

「はい、彼はそう言ってました」

 

深雪が頷き肯定するのを見た俺は、顎に手を当て少し考える…。

すると、その様子を不思議に思ったのか、考えていることを察したのか、幹比古が俺に意見を求めるように問いかけてきた。

 

「これまでの試合のレベルから考えて、やっぱり移動魔法だけで試合を乗り切るのは難しいと思うんだけど……」

 

「確かに、無理がある。だが、月島は他に何か「手」があるとも言ってたんだろう?それ次第ではどうにかなるかもしれない」

 

俺の言葉に、今度は雫が反応する。

 

「その「手」だけで何とかなるってこと?」

 

「そればっかりは、その「手」を実際に見てみなければ何とも言えないな」

 

 

 

深雪たちの様子を確認してみたが、皆ほとんど似たような面持ちだった。期待と不安、半分半分といったところ。

 

……だが、月島の出場種目の話をたまたま聞き、苦手そうな競技になるようわざと仕向けた俺は、加速魔法の苦手をどうにもできていないという時点で、別の可能性が頭に浮かんでいた。

 

 

「第一、月島が本腰を入れるかどうかもわからないしな…」

 

「…?それってどういうことですか?」

 

美月が首をかしげながら俺に聞いてきた。

 

「『クラウド・ボール』は半日で予選から決勝までの日程を終える、最大5試合しなければならない競技だ。体力やサイオンの消費を考えて挑む必要がある」

 

「それは知ってるが…。それで本腰入れるかどうかって言っても、結局は勝てなきゃ意味無いんじゃねぇのか?」

 

「レオ、月島が出場する競技は何か知ってるか?」

 

「そりゃあ知ってるさ。『クラウド・ボール』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』だろ?」

 

そう言ったレオだったが、自分で言った後に「ん?」と首をかしげた。

時をほぼ同じくして、他の皆も眉をしかめる。……おそらくは同じことに気づいたんだろう。

 

 

「お兄様、もしかして……」

 

「ああ。…月島は深雪や雫と同じく、()()()()()()『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選が控えている」

 

「えっ何?つまり月島くんは、ただでさえハードな『クラウド・ボール』の後に『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選があるってこと!?」

 

エリカの言葉に俺は頷く。そのエリカはもちろんのこと、他のみんなも驚いたような顔をしていた。

 

 

「運営側からすれば、求められる魔法の系統が異なる『クラウド・ボール』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』に同じ選手が出場するとは思わず、今回の大会の日程を決めていたんだろう。…そこにウチの学校では人数の関係で『クラウド・ボール』の空いた穴に月島が入ってしまったわけだ」

 

「では、本腰を入れないかもしれないというのは…」

 

「苦手である『クラウド・ボール』で無駄に消費するくらいなら、深追いせずに『アイス・ピラーズ・ブレイク』に温存する可能性がある、ということだ。おそらく、そのあたりのことは作戦スタッフの市原先輩あたりと相談してあるだろう」

 

「なるほど…。確かに、そう考えるほうが自然だ」

 

納得したように呟く幹比古。他も同じく「なるほど」と頷いていた。

……ただ一人、ほのかを除いて。

 

「大丈夫です、心配ありません。月島さんならきっと…!」

 

「…手、震えてるけど」

 

雫によるツッコミにより、その場の空気は何とも言えない和やかなものとなった。

 

 

 

 

それから数分経ったころだろうか。月島と、対戦相手の第六高校選手がそれぞれのコートの定位置へとついた。

 

「始まるみたいだよ」

 

幹比古の声につられ、皆の視線がコートのほうへと集まる。

 

 

俺もコートのほうへ目をやり、ひとり心の中で「お手並み拝見といこうか」と呟く。

 

これまで「対エリカ」「対桐原先輩」と、月島の戦いというものは見てはきたが、それらは工夫こそされていたが、正直なところ特別凄いといったものではなかった。

だが、『ブランシュ事件』において、月島は敵を圧倒するほどの力を使ったらしい。月島自身、それを認め「固有魔法」だと言い、それを俺に見せるとも言ってきた……つまり、そう遠くない内には知れるだろう。だが、俺の中には警戒と興味が入り交じったような感覚がある。

 

故に、できることならば月島と戦う選手たちには、圧倒しない程度に程よく月島を追い詰めて欲しいと思っている。そうなれば、もしかすると月島の「固有魔法」の断片でも見ることが出来るかもしれないからだ。

 

 

 

そんな俺の思惑もありながらも、新人戦・男子『クラウド・ボール』予選12試合…1セット目の開始の合図が響いた。

 

 

それと同時にシューターと呼ばれる機械から、相手選手の第六高校の選手のコートにむかってボールが射出された。

六高選手はそのボールを手に持つCADを使って加速魔法で運動ベクトルに干渉して動きを反転させ、月島のコートへと飛ばす。そう変哲の無いボールの返し方だ。おそらく第六高校選手は、体力の温存の作戦を立てるために月島の力量を計るべく様子見で打ってきたんだろう。

 

対する月島は、自身のほうへと飛んでくるボールに対し、競技用に用意したのであろう小銃型のCADを向けて引き金を絞り……

 

 

 

 

 

「その打球、消えるよ」

 

 

 

 

 

会場が一瞬静かになり……数秒後「ザワザワ」とざわつきだした。

 

それも、当然だろう。月島が言った通り、()()()()()()()のだから。

そして、ざわつきだした理由は消えたボールが、いつの間にか六高選手のコートに転がっていたから。

 

 

「何?何なのアレ!?」

 

「瞬間移動でもしたってのか!?」

 

エリカとレオが驚愕を口にする。…いや、会場のほぼ全ての人間が同じようなことを思っていただろう。

確かに、月島のコートで消失し、六高選手のコートで出現したように見えるから「瞬間移動した」と思ってしまっても仕方は無いかもしれない。だが、そもそも「瞬間移動の魔法式」なんてものが一般に公開されたことなどない。

 

 

 

そんな中でも試合はまだ続いている。開始から20秒経過した瞬間に、シューターから今度は月島のコートへとボールが射出された。そして再び……

 

「これも消えるよ」

 

月島はそう言いながら、CADの引き金を引く。すると、またボールが消えた。

六高選手は驚きつつも目を皿のようにしてあたりを見る……が、もう遅い。彼の目に入ったのは自分コートに転がっている2つ目のボールだろう。

 

 

 

「また消えた…!」

 

「どうなってるんだ!?」

 

美月と幹比古が再び驚愕する。

そして、隣に座っている深雪が俺に問いかけてきた

 

「お兄様、これはいったい…」

 

「そうだな…。次、月島のほうに来たボールから目を離さずにいれば、少し察しが付くかもしれないな」

 

俺がそう言うと、深雪だけでなく他の皆も月島のコートを注視しだす。

 

 

 

開始から40秒経過。3つ目のボールが今度は六高選手のコートへと打ち出された。六高選手は最初のボールよりも速い速度で月島のコートの角を狙い打ちこんだ。

 

「さあ、何回目で返せるかな…?」

 

小銃型CADを持つ手を軽く振るような仕草をしながら、月島はまたボールを消した。

目をまたたかせる六高選手。だが、またなすすべも無くボールはコートに転がる。

 

 

 

()()()()?」

 

「少し、揺らめきのようなものがあるように見えましたが……あれはもしかして…」

 

「アレって、桐原先輩と試合した時の「遅れて見える層」ってやつ?」

 

深雪の言葉に割り込むようにエリカが言ってきたが、俺はそれに首を振る。

 

「いいや、光学という点では同じだが、方向性が大きく違う。…それに、もしあの時の魔法だとすれば、相手コート内へ干渉してはいけない『クラウド・ボール』のルール上、消せるのは月島のコート内だけになってしまうだろう」

 

自分のコートに入ってきたボールを打ち返す競技である『クラウド・ボール』では、自分のコート内以外にあるボールへの魔法行使は違反行為だ。でなければ、相手コート内にあるボールに加重系統の重力操作魔法を使い、地面に叩きつけまくる選手が多々出てくるという酷い状態になるだろう。

…それに、光の屈折に干渉した「遅れて見える層」は月島側からも遅れて見えるので諸刃の剣だろう。いちおう、ボールが自分のコートに来た時だけに展開すれば、その問題は無くなるが……

 

 

「じゃあアレは何なんだよ?」

 

「『光学迷彩魔法』です」

 

レオの問いに答えたのは俺ではなく、ほのかだった。

 

「映像を投影することによって、対象物を目視させないようにする光学魔法の一種です」

 

「えっと、それってつまりどういうこと?」

 

首をかしげるエリカに、今度は俺が説明をする。

 

「簡単に言ってしまえば、ボールを周囲の景色に溶け込むように塗り替えたんだ、「映像(ひかり)」でな。そうすることで、相手にボールが消えたように錯覚させたわけだ」

 

少し説明を噛み砕いたことにより、エリカたちは月島が何をしたのかを理解することが出来たようだ。

 

 

六高選手も災難なものだ。見えないことでタイミング・速度・コースのほとんどがわからないわけだ。それでは打ち返すための魔法をいつ・どのように・どちらへ使えばいいのかわからないだろう。

 

 

 

「つまり、彼はボールにコートの緑の色を投影しているのかい?」

 

「正確には、ネットや白線と重なる位置では白いラインが見えるようにしている。そうしなければ本当に「見えない」だなんて思わせられないさ。…ただ、相手選手の視点で映す像を考えているから、俺たちがいる観客席から見ると白線やネットと重なる時に微妙にズレて見えるんだ。そこまでは気が回らないんだろう」

 

俺の答えに幹比古は納得したように頷く。

続いて、今度は美月が心配そうに聞いてきた。

 

「あの、あれって反則になったりは…?」

 

「『ループキャスト』で断続的に魔法をかけているならばアウトだが、あの『光学迷彩』は打ち返す時に一緒に発動した魔法。相手コートに入った時には最初に設定した像を映し出し続けている…最初に発動した魔法の影響が使用したサイオンに比例した時間残っているだけで、別に反則でもない」

 

「干渉の対象もボール。…言ってしまえば、加速魔法をかけるのと何の変わりも無い」と付け加えて言うと「そうなんですね…」と美月は安心したように息を吐いた。

 

 

皆が納得したかのように見えたが、唯一、雫が険しい顔をしたままだった。

それに気づいた深雪が雫に声をかける。

 

「どうしたんですか、雫?」

 

「信じられないの。投影する映像を毎回ボールのコースに合わせて設定してるってことは、その部分の魔法式は変数になってるんだと思うんだけど…」

 

「まあ…、それはきっとそうでしょう」

 

「加えて、投影する映像そのものの明るさも周囲に合わせないと浮くからそこも変数」

 

「ええ」

 

「その上、向かってくるボールを移動魔法で返すための限度・速度・コースの演算。…加速魔法によるベクトル転換なら楽なんだけど、月島さんはそれができないから手間がかかる。月島さんは、その全部の処理をボールを返すあの一瞬でやってる」

 

雫の言うことに「確かに…」と深雪は呟く。おそらくは深雪の記憶にある、月島の処理能力以上のことを月島自身がやってのけていることに驚いているんだろう。

 

「私も同じ『光学迷彩』は使えますけど……「そこにある」と意識している相手選手に「消えた」と誤認させる精度で、それもいくつものボールでしろと言われたら、自信を持って「出来る」とは言えません…」

 

光学系の魔法に精通しているほのかがこう言うのだ。月島がやっていることはそれほどまでの難易度ということだろう。

 

 

実際のところ、俺自身も最初見た時驚きはした。しかし、月島が成績以上のことをするということ自体は想定していたから、すぐに平常心に戻った。…だが、それと同時に「これ以上の何かがあるのでは?」と思えてしまう、月島の底知れなさを感じている。

 

……それにしても、一発で決めてしまうというのはある意味有効な考え方かも知れない。

時間が経つにつれてボールが増えていく『クラウド・ボール』では、複数のボールに対処する精神的圧迫感からミスが生まれることは多い。それを根源から消してしまううえに打ち合いによる消費()確実に無くなるのだから。

 

 

 

 

……と、そんなことを考えているうちに第1セットが終わってしまったようだ。

 

結果は月島の圧勝。

六高選手は一度も月島が放ったボールを打ち返すことが出来ずに終わったようだ。

 

 

ただ……観客からの反応はあまり良いものではなかった。

月島のしていることの凄さを理解できていないというのも一因かもしれないが、試合という観点から見れば、ほんの1,2打で終わる…ラリーの続かない試合は退屈なのだろう。

だが、競技は競技。勝ち負けがあるわけだ。勝つための手は打って当然。文句を言われる筋合いはないだろう。

 

 

なお、月島はそんな周りの様子など気にせず…

 

「ふぅ…。これを破ってくれなきゃ、ターン制にならないんだけどな…」

 

…と、わけのわからないことを言っていた。

むしろ、ベンチにいる中条先輩が会場の空気と六高(あいて)サイドの視線に震えていた。

 

 

 

 

「…桐原先輩との試合の時も思ったけど、月島君って使う魔法は卑怯寄りだけど、本人は馬鹿真面目だよね」

 

思い出して呟くエリカ。そのエリカに幹比古が問いかけた。

 

「僕はその試合は見に行ってないからよくわからないけど、彼が馬鹿真面目っていうのはどういうことだい?」

 

「だってさ、この第1セットってサイオンや体力の温存を考えるなら5球だけ消して返して、残りはスルーしてるのが一番じゃない。なのに丁寧に全部消して、一発で決めてるじゃない」

 

エリカの言うことはわからなくも無い。

桐原先輩との試合の時も「1分後に脳天を叩く」と宣言し、実行する際には「面!」とわざわざ言ったうえで竹刀で叩いていた。

今回も「ボールを消す」と言ったうえで打っている。それもエリカの言う通りわざわざ全てを。

 

「おそらくは、「全部に全力でかかっても問題無い」という余裕の表れ。もしくは、それによる他の選手への威嚇だろう。……まあ、エリカが言うようにただ単に馬鹿真面目なのかもしれないが」

 

「確かに、少し納得してしまいますね…」

 

苦笑いで同意してくれた深雪。

月島との縁が比較的短い幹比古と、「月島さんは馬鹿なんかじゃないですよ!」とほおを膨らませているほのか以外の皆もおおかた同意していた。

 

 

 

その後、第2,3セットも月島がストレートで取り、無事に月島の勝利となった。

 

完全に余談だが、あそこまでコテンパンにやられながらも途中で棄権せず、六高選手は最後までボールを見つけだそうとしていた。その精神力には、拍手をしてもいいのではないだろうか?と思った。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

この様子だと新人戦・男子『クラウド・ボール』は心配いらないだろう。

 

おそらく、月島の『光学迷彩』を看破することができるのは、七草会長の持つ『マルチスコープ』のような知覚魔法の持ち主ぐらいのはずだ。月島が息切れでもしない限り、まず敵は無い。

…それに、仮に『光学迷彩』を看破したところで、月島が何も用意していないとは思えない。

 

そう考える理由……誰も口にはしていなかったが、月島が使用しているCADは特化型ではなく汎用型である。

『クラウド・ボール』において、発動速度が優れている特化型を使わずに汎用型を使うメリットは「複数別の系統の魔法をインストールできる」ということぐらいだ。…つまりそれは今、月島が使っている移動・振動系統以外の系統の魔法もインストールされていることに他ならない。

 

個人的には、『光学迷彩』の次の手を見てみたいのだが……まあ、無理だろう。

 

 

 

その予想は的中し、月島は新人戦・男子『クラウド・ボール』をそのまま勝ち上がり、優勝した。

 

それも「全試合無失点」どころか「打ったボールを一度も返されない」という偉業を成し遂げて、だ。


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