魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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今回は、今作初となるモブキャラ視点でのお話となっています。
理由としては、今回登場するキャラのどちらの視点でもあまりパッとしそうになかったからです。


前回の「九校戦編-10:九校戦・五日目・下 予選とその後」で月島さん(モドキ)が遅れて来たのは何故なのか。そう言うお話です。



アニメBLEACHのOP・EDの曲・映像がオサレなのも、月島さんのおかげ。


九校戦編-11:九校戦・五日目・裏

ああ、胃が痛い。

胃がキリキリと締め上げられるような感覚を覚えながらも、私は背筋を伸ばして扉のわきに立つ。

 

私の目に映るのは、とある豪華な客室。その一角にあるテーブルを挟んでそれぞれソファーに腰かけるご老人と青年。

 

 

ご老人のほうは言わずと知れた「最高にして最巧」と(うた)われた「トリック・スター」九島烈。第一線を退いた今現在でも大きな影響力を持つため、我々「九校戦運営委員会」としてはご助力は嬉しくはあるが扱いが難しいお方だ。

 

相対する青年は、本日の午前中に行われた新人戦・男子『クラウド・ボール』優勝者である月島(こう)九郎。彼は「全試合無失点」「打ったボールを一度も返されない」という偉業を成し遂げた新人戦のダークホース。

 

 

そんな二人がこうしてひとつの部屋で顔を合わせることとなった流れと、私が胃を痛めていることは無関係ではない。

 

嫌な予感がしたのは何時からだったろうか……。

 

 

―――――――――

 

 

事の始まりは、新人戦・男子『クラウド・ボール』18試合目に九島先生が会場の観客席まで足を運ばれたことだった。

 

これまでのどの競技の試合も客室の大型モニターでご覧になっていた九島先生が、室内のとはいえわざわざ観客席に出てこられたとあって、私を含めた「九校戦運営委員会」の人間は対応に困った。

そんな中、ある一人が九島先生に「こんなところまでお見えになられるとは。いかがなされたのですか」と問いかけた。すると……

 

 

「なに。一人、気になる若者がいたものでな」

 

 

そうおっしゃられて試合が行われているコートへと目を向け続けている九島先生。九島先生のおっしゃる「気になる若者」というのが誰なのかは、そこにいる全員が察することが出来た。

試合をしている第一高の月島という青年だ。他の選手とは異なる彼は、良くも悪くも目立っていたのだから当然だろう。

 

その後も九島先生は月島(かれ)の試合を決勝まで観られていった。

 

 

そして、決勝戦が終わった後のこと。

その時、たまたま一番近くにいた私に、九島先生がお声をかけられた。

 

「そこのキミ。少し頼みごとをしても良いかな?」

 

そう九島先生に言われて断れる人間がいるだろうか。

少し悪い予感を感じながらも「面倒事ではありませんように」と祈りながら、頷いた。

 

「彼はこの後の『アイス・ピラーズ・ブレイク』にも出場するそうなのだが……。その『アイス・ピラーズ・ブレイク』の今日の分の試合が終わった後、彼を私の部屋へ案内してくれないか」

 

九島先生の言葉に周りが少しどよめく。ですが、私は表情を崩さずにそれを承諾した。

 

「ああ、彼のためにもなるべく人に知られないようにしてあげなさい」

 

そう付け加えた九島先生は観客席から移動を始めた。

 

 

…つまりは放送・アナウンス等で呼び出せなくなってしまったわけだ。難易度はあがったものの、まだ精神的な余裕はあった。

 

 

だが、月島(かれ)が出場した新人戦・男子『アイス・ピラーズ・ブレイク』予選が今日の分の試合が消化されたところで彼をすぐ探したのだが、見つからず。

このあたりで「九島先生を待たせてしまう!?」と焦りだし、胃が少しずつ痛くなって…。

 

 

探し始めてから30分後、一高の仮設本部に赴き、彼の事を聞くのも止む無しかと思いはじめたあたりで、ようやく彼を見つけ出せた。

 

彼と同年代の少女とその父親らしき人物と話していた彼に「少しお時間よろしいでしょうか」と腰を低めに始め、ついて来てほしいということを伝えた。

九島先生の名前を出さないように何故・どうしてといった内容を伝えずに言ったため、渋られると思ったのだが……彼は思いの(ほか)(こころよ)く承諾してくれた。

 

 

少女とその父親と一言二言(ひとことふたこと)話した後、私について来てくれた。

私よりも身長の高い彼だが、特別気難しさも無く、年上への礼儀もなっていた。

 

「息を切らせていたようでしたが、もしかすると随分と探し回らせてしまったのでしょうか?…それは申し訳ありませんでした」

 

そう謝ってきた彼に、私は「そう気にしなくていい」と伝える。すると彼は「お心遣いいただきありがとうございます」と微笑みながら頭を下げてきた。

…そのあたりで、私の胃は少し楽になった。

 

 

 

彼を九島先生のいる客室まで案内し、扉をノック。月島昊九郎を連れてきたことを伝えると、扉の奥から「入りたまえ」という声とロックの外れる音が聞こえ、私は扉を開けて月島昊九郎(かれ)を部屋へと誘導。

 

 

「来てくれたか。そちらにかけたまえ」

 

九島先生が反対側のソファーを薦めると、月島青年はそのソファーのそばまで移動し九島先生へ軽く一礼して腰をかけた。

 

「申し訳ありません。お待たせしてしまったようで…」

 

私は目を疑った。先程の移動中は爽やかな微笑みを浮かべていた月島青年だったが、その表情が一変していたからだ。それも緊張や畏れ多いといった感情からの変化ではない。

()()()()()、ただし()()()()、だ。

 

私だって今日の今日まで社会の荒波に飲まれてきたからわかる。彼が…月島青年がしているのは相手を観察する姿勢なのだ。それも全く隠す気の無い…。

だが、一番の問題は相手が九島先生であることだ。完全に目上の存在を前にしてそんな態度をとるなどということは、まさに自殺行為である。

 

 

私が月島青年を叱りつけようかとも一瞬考えたが、この部屋を包み込む重い空気がそれを許さなかった。

私はただただこの部屋を早く出たく、一礼をした後、扉から外へ出ようと行動を開始したのだが……

 

「そう長くは話しはしない。……ああ、キミもそこで待っていてくれ」

 

九島先生の一言により、それさえ止められてしまい、扉のそばで立っておくことしか出来なくなる。

 

 

胃がキリキリ痛む音が耳元で聞こえてくるような気がする中……そこからが本当の地獄の始まりだった。

 

 

―――――――――

 

 

そして現在に至る。

 

九島先生と月島青年はお互いに簡単な自己紹介を終えたのだが、そんな中でもこの部屋の空気は変わらず重苦しい。

 

「それで、九島烈様は僕にどういったご用件で?」

 

淡々と、礼儀をわきまえる気もなさそうな様子で言う月島青年。会話に割り込んで注意できるほどの度胸も無い私は、ただ胃を痛めながらこの時間が過ぎるのを待つことしか出来ずにいる。

 

対する九島先生は、月島青年の態度を気にした様子も無さそうに話しだす。

 

「いやなに、懇親会(こんしんかい)の勝者に祝いの言葉でも…と思ってな」

 

「懇親会の勝者」…?

いったい何のことだろうと思ったが、私は会話に割り込ん(以下略)

 

 

しかし、何もわからない私と違って月島青年はいっそう口に笑みを浮かべていた。

 

「ほぅ……?」

 

「各校の上層部の生徒が挨拶をし合って(さぐ)れもしない腹を探ろうとし、他の生徒が自校で固まってお喋りをする中で、唯一明確な実を取ったのがキミだったという話だ」

 

そこで一息ついた九島先生は、言葉を続けた。

 

「スポットライトで照らされる前から私の悪ふざけをいち早く察し、周囲の生徒たちの反応を観察、その中で悪ふざけのタネに気づけた者を探し出す。立派なものだ」

 

「買いかぶり過ぎですよ、老師。私はただ単にお説教臭いお話が嫌いで他所(よそ)を向いていただけですから」

 

「なら、キミが目を止めた生徒はどう説明するかね?私があの時言った「タネに気づいた5人」のうち第一高校の2人を除いた3人を注視していただろう?」

 

「……おかしいですね?それだと老師の悪ふざけのタネに気づけていたのは5人ではなく、僕を含め6人になるのでは?」 

 

露骨に話題をそらし、上げ足を取りにかかる月島青年。……あの九島先生に対してそんなことをしようとは、本当に命知らずである。

 

 

お怒りになられないかと私が心配する中、九島先生は声を出して笑い出した。

 

「はっはっはっ、確かにその通りだとも。恥ずかしながらあの時の私はキミが何をしているのか、何故そうするのか、そもそも本当に聞いていないのかフリなのか……それすらわからずにいたからな。しかし、『クラウド・ボール』の試合を見て気づいた…いや、気づかされたよ」

 

そこにきて、初めて月島青年の顔に張り付いていた笑みが消え、九島先生の言葉を待つように真顔になった。

 

 

「まさか私の悪ふざけを利用して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

九島先生がそう言ったところで部屋の空気が一気に緩んだ。そして……

 

 

「ふぅ……そこまでわかっていらっしゃるなら、僕から申し上げられることは何も無いではありませんか。…あえて言うとすれば、あの時はここまで目立つ予定は無かった…ということぐらいでしょう。まさかあの3人の誰も出場していなかったのですから」

 

真顔だった月島青年の顔に笑みが戻った。ただし、先程までと違い、私が最初に会った時のような心からの笑みだ。

対する九島先生も心なしか楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「なに、キミをこうして呼んだのも、キミの意図に気づけたということを伝えたかっただけだよ。さっきの反応で私は大満足だ」

 

「それは何よりです」

 

「明日の『アイス・ピラーズ・ブレイク』、楽しみにしているよ」

 

 

 

 

それで話は終わったようで、九島先生は扉の前にいる私に「月島(かれ)を送ってあげてくれ」と言った。

月島青年ももう話すことは無いらしく、九島先生に最後の挨拶をした後ソファーから立ち上がり、私と共に部屋を出た。

 

 

 

 

部屋を出て少しの間は沈黙が続いた。だが、途中で月島青年が私に声をかけてきた。

 

 

「申し訳ありません、ずいぶんと神経を擦り減らせてしまったようで……」

 

 

そう彼は私に頭を下げる。私は「わかっていたなら、早めに何とかしてほしかったものだ」と伝えた。すると……

 

 

「いえ、まさか私のお遊びに老師が付き合ってくださるとは思わなくて、少し気分が高揚しすぎて」

 

 

私は声を大にして言いたかった。あんな息苦しい遊びがあるか!…と。

 

 

 

 

 

 

「では、お詫びというわけではありませんが、今回の心労を楽にしてさしあげますよ」

 

 

 

       トスッ

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

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