魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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思ったよりも長くなってしまい、切りどころがわからなくて色々と調整しました。


今回のお話は重要性はあまりありませんが、個人的には書きたかったお話です。
『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合はまだ少し後になりますかねー?


秋の味覚も全て、月島さんのおかげ。


九校戦編-12:九校戦・六日目・朝

『九校戦』もついに6日目。折り返しを過ぎたところだ。

本日8月8日は、新人戦『バトルボード』の準決勝~決勝。そして新人戦『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選と決勝リーグが行われる。

 

僕の出場する新人戦・男子『アイス・ピラーズ・ブレイク』だが、昨日行われた予選までで選手は6人に絞られている。なので、午前中に予選の試合を3回行って3人に絞り、勝ち残った3人で午後から決勝リーグを行い1~3位を決めるわけだ。

 

 

―――――――――

 

 

「さて、そろそろ最終調整をしとかないとかな…?」

 

朝食を取り終えた後に少し休憩を挟んだ僕は、午前中に行われる最後の予選の為のCADの調整について中条先輩と話すために、敷地内の一角に設けられた第一高校の仮設本部へと歩を進めた。

 

 

 

…それにしても、昨日は色々とあり過ぎて大変だった。

『クラウド・ボール』『アイス・ピラーズ・ブレイク』といった競技に出場したのはもちろんだが、その後も色々とあった。

 

まず、応援に来ていた壬生先輩を中心とした剣道部員に挨拶してまわった。

その後、みんな帰ったと思ったら壬生先輩が誰かを連れてきた。壬生先輩のお父様らしい。「そういえば、この人アニメで見たかも」とか「そういえば、元・軍関係者なんだっけ?」などと思いながら、そのお父様と少し話した。

…ただ、「ありがとう」と言われた時は少し困った。いやだって、壬生(父)が礼を言っているのは「ブランシュ事件」での壬生先輩に関する事。それは『ブック・オブ・ジ・エンド』による改変で出来た結果なわけで、正直なところ礼を言われるようなことでは無いのだ。

 

で、そんな感じに話している途中、そこに九校戦運営委員会の人が現れた。なんでも僕に用があるらしく、ついて来てほしいとのこと。別に断る理由も無かったので、壬生先輩と壬生(父)に別れを告げて運営委員会の人についていった。

森崎君が目立ったからということで予定を変更して僕自身も少し目立つことにして()()()()を取ったのだが、悪目立ちしすぎたのか、それとも目論見通りに運営に潜り込んでいる『無頭竜』の工作員に接触されたのか…。

僕を案内している人を見ながら「もしかして、この人も『無頭竜』の息がかかってるのかなー」なんて考えているうちに、とある一室に通された。

 

そこにいたのは『十師族』の一角『九島家』の前当主、九島烈だった。……うん、目立つと決めた時点で『十師族』との接触は予想していたけど、予想以上に早く、大物である。

彼は最後の推測こそ明後日の方向へとすっぽ抜けていたものの、懇親会での僕の行動をほぼ完全に捕捉しており、あの時点である程度の興味を僕に向けていたようだ。そして『クラウド・ボール』で完全に僕に目を付けたらしい。

予想外で少々自分の立ち位置に悩んだが、なんとかその場は切り抜けることは出来た。……だけど、『十師族』との関係はそう遠くないうちに考えないとなぁ…。

 

 

 

いろんな意味で濃厚だった昨日の事を思い出しながら移動している途中、僕の持つ携帯端末からコール音が鳴った。

「なんだろう?」と思いながらも、流れるような動きで携帯端末をとる。

 

「はい」

 

『月島か?今どこにいる?』

 

端末から聞こえてきた声は、渡辺委員長のものだった。

本戦・女子『バトル・ボード』の準決勝での一件で怪我を負った渡辺委員長だが、競技に出ることは出来ないものの、出歩くことは可能なので応援や作戦会議等に顔を出しに来てくれている。

 

しかし、競技も始まっていないこんな朝早くに、いったいどうしたというのだろうか?

 

「今、宿泊している例のホテルから出て、本部のほうへと向かっているところですが」

 

『そうか、それはちょうど良かった。急げとは言わないが、そのまま本部へ来てくれ』

 

「わかりました」

 

「ちょうど良かった」という言葉に首をかしげつつも、僕は端末の向こう側にいる渡辺委員長に返事をした。

 

 

通話を切ってから、少し考えてみる。

先に考えた通り、競技の始まっていないこんな時間に何か事故があるとは思えない。…というか、今日ある競技の中で男子で勝ち残っているのは僕だけだ。他の選手に何かあったとしても僕にわざわざ連絡は来ないはず。

…となると、僕に何か関係のある事……例えば、担当エンジニアである中条先輩が熱出したとか、いまさらになって「昨日のアレは反則だー」とかいう話があがったとかか?

 

 

そうしているうちに、第一高校の仮設本部が見えるところまで来た。…そこまで来て、僕に連絡が来た理由がわかった。

 

仮設本部の入り口付近に、僕を待っているのであろう渡辺委員長。()()()()()()()()()

その仮設本部のわきに、横一列に並んで立つ特徴的な髪型の5人の人間。

 

「モヒカン」「アフロ」「ドレッド」「オールバック」「リーゼント」

 

……見間違いであってほしかったが、どう考えても彼らだろう。いや、もう彼らしかありえなかった。

 

 

「「「「「おはようございます!月島さん!!」」」」」

 

 

そう、彼らは卒業式(プロローグ参照)にいた、中学の時のガラの悪い後輩たちだ。

こんなところまで部外者を入れるとは、警備はどうなってるんだ……って、武装した賊を侵入させたり工作員が入り込んだりしているんだから、警備がザルなのは原作の時点でわかっていたことだ。

 

 

 

「よし、キミらは帰るんだ」

 

 

「「「「「そんなっ!?ヒドイっす、月島さん!」」」」」

 

息ピッタリだなぁ、キミらは…。

そんな彼らに呆れつつも、僕は彼らに言う。

 

「どうして僕がこんなことを言うかわかるかい?昔っから何度も言ってきたよね、「人命が関わる事以外では、他人に迷惑をかけるようなことはしない」って。…こんな時間にこんなところに来るっていうのが第一高校の方々に迷惑なことだとはわからなかったのかい?」

 

「「「「「そ、それは……」」」」」

 

僕が説教モードに入っているのに気がついたのだろう。5人は背筋を伸ばしてプルプル震えだした。そして、その中で一番行動力と責任感があるモヒカンが真っ先に口を開き、続いて他の子たちも口を開いた。

 

 

「先日から「月島さんが出るんじゃないか」と思い、九校戦の中継を観てました!そしたら昨日、月島さんが競技に出てて、次の日の『アイス・ピラーズ・ブレイク』って競技にも出るってわかって…」

 

「それで、オレらみんなで考えて「やっぱり現地で応援するしかない!」ってなって、昨日の午後から準備したんす」

 

「移動ルートやかかる時間、お金のこととか色々計算した上で予定を立てて…」

 

「はやる気持ちを抑えきれず、こうして朝一で着くように出発したッス」

 

「それで、九校戦の会場に着いたのは良いものの、最初は観客席で応援できればいいって思ってたんですが……みんな、近くに月島さんがいるって思ったら会いたくなって。こうして月島さんが所属する第一高校のほうへと…」

 

 

 

 

 

「誰が「経緯と言い訳を言え」なんて言ったかな?」

 

「「「「「す、すみませんでしたーっ!!」」」」」

 

素早い動きで全員一緒になって、綺麗にピッシリ頭を下げる5人。だが……

 

「謝る対象が違うんじゃないかな?キミらが迷惑をかけたのは僕じゃないだろう?」

 

「「「「「ヒィ!?」」」」」

 

そろって飛び上がるこのバカ5人をどうしたものだろうか…。

 

 

「もうそこまででいいだろう」

 

そう僕に言ってきたのは、渡辺委員長だ。

 

「来た時は皆驚きはしたが、彼らは大人しくしていた。そこまで怒らなくてもいいと思うが」

 

「…委員長の後ろにいる会長……そのまた後ろで中条先輩が震えてる原因は彼らなんでしょう?迷惑をかけていないとは全く言えない状況なのでは?」

 

僕はそう言いながら、仮設本部内からコチラの様子をうかがっている七草会長の後ろでまさに小動物のように震えている中条先輩を見る。

その僕につられるように渡辺委員長もそちらを見たんだけど、何を思ったのか「ぷっ…!」と吹き出し口元を歪ませている。

 

「どうしたんですか?」

 

「くくっ…。いやなに、そういえば月島に初めて会った時の中条もあんな感じだったと思ってな」

 

「…止めて下さい。あの時、僕、けっこう傷ついたんですよ?」

 

顔を見るなり悲鳴をあげられ、涙目でガクブルで避けられたあの時…。思い出しただけで、気分がだだ下がりである。

 

 

そんな事を考えていると、なんだか怒る気も失せてしまっていた。

僕は一度大きなため息をつき、5人のほうへ向き直る。

 

「今回は渡辺委員長の顔に免じて、これ以上の説教はしないことにするよ…。ただし、今後は人に迷惑をかけないように」

 

「「「「「ウッス!」」」」」

 

元気の良い返事をした5人は、渡辺先輩のほうを向いて頭を下げた。

 

 

「「「「「ご迷惑をおかけしました、(あね)さん!」」」」」

 

 

「月島、前言撤回だ。あと小一時間くらい説教してやれ」

 

…あっ、そういえば渡辺委員長って風紀委員のメンバーに「姐さん」って呼ばれるのを嫌がって、呼んだヤツを叩いてたりしたっけ?

 

「これからCAD調整しないといけないんで、お断りします。…といいますか、彼らは悪気はない…というより、そこまで考えが回るほどの頭はないんで、勘弁してあげて下さい」

 

「案外辛辣なんだな…」

 

僕の言いように微妙な反応を示す渡辺委員長。

…単細胞とまでは言わないけど、お世辞にも頭良いとは言えないからなぁ彼らは。

 

 

 

「あっ、そうでした!月島さんに見て欲しいものがあるんす!」

 

そう言ってアフロは背負っていたリュックをおろして、中から畳まれた何か大きな布のようなものを取り出した。それの端をそれぞれリーゼントと持って、一気に広げた。

それは、長さが3メートルほどの手作り感溢れる横断幕だった。そこには「天下無双・月島さん」とデカデカと書かれている。

 

それを見た渡辺委員長は「アナログだな…」と言いながら笑っていた。…本部の中からも吹き出すような音が聞こえてきた。

 

「よし、燃やそう」

 

「そ、それはあんまりっす!?月島さん!昨日の昼から急いで用意したんすよ!?」

 

涙目で言うリーゼント。だが、そんなことを言われてもこれは恥ずかしすぎる。

 

 

…ん?

 

「昨日の昼から用意したって……僕が昨日の予選2戦で負けたらどうするつもりだったんだい?」

 

 

「なに言ってるんすか?謙遜しなくていいんですよ、月島さん!」

 

「月島さんが最強なのは昔からじゃないっすか!」

 

「そうですよ!月島さんがどこの馬の骨ともわからないヤツに負けるはずがありませんよ!」

 

「天と地がひっくり返っても、月島さんが負けるなんてありえません!!」

 

「そーッス!月島さんに勝とうなんざ戦車連れてきても、戦闘機連れてきても、まだまだ足りねーッス!」

 

 

綺麗な目で真っ直ぐ僕を見つめてくる5人。

 

……信じられるかい?彼ら、『ブック・オブ・ジ・エンド』無しの説教だけでこうなったんだよ?

もうこれ、盲目過ぎるでしょ…

 

 

「……というかキミら、競技のルール理解して(わかって)ないだろう」

 

 

「ハイ!中継の解説聞きましたが、全然わかりませんでした!」

 

「というか、『魔法』の「ま」の字もわかんないっす!」

 

「そもそも、魔法がわかるなら月島さんがいる『第一高校』受験できるんですけど…」

 

「ううっ…!月島さんと学生生活を過ごしたかったです!」

 

「ふがいない俺らで申し訳ないッス!」

 

 

「いや、ちょっと待って。途中からなんか話がズレてないかい?」

 

「競技理解してない」って話から、なんで「『第一高校』に入学できない」って話になってるのかな?しかも、なんか涙目になってるし……どこまで本気(マジ)なんだ。

 

「「「「「でも、別の学校行っても俺らの心の師匠っす!月島さーん!!」」」」」

 

「うおぅ!?泣くな!跳びついてくるな!抱きつくなー!?」

 

何かが決壊したかのように僕に跳びついてくる5人。

 

 

「僕は今から午前中の予選の準備をしないといけないんだ!ほら、さっさと他所へ行くんだ!」

 

「あっ、その前に記念写真いいッスか?」

 

「もう勝手にしてくれ…!」

 

 

―――――――――

 

 

あの後、記念撮影をして、あのバカ5人は「全力で応援するッス!」と言って他所に行った。

撮影は渡辺委員長が買って出てくれたのだが、委員長はやけにニヤニヤしていた。

 

 

そして、僕はやっとのことで本部の中へ入ったのだが……。

 

 

「ふふっ、月島君って後輩に(した)われてるのね」

 

そう笑っているのは七草会長。…絶対に後々いじられるね、これは。

 

「噂には聞いていましたが、あのような人たちだったんですね」

 

いつも通りの表情で言うのは市原先輩。噂っていうのは、入学当初にあった「月島は地元の不良の頭首(ドン)だった」とか、そういうのだろう。

 

「身なりや言葉使いはともかく、結束力は有りそうだったな」

 

頷きながらそう言うのは十文字会頭。……いったい何の評価なんでしょうか?

 

 

……うん、ここまではある程度予想はしていた。だが…

 

「ふっ…いつもマイペースな月島が他人に振り回されるのは、新鮮だったな」

 

「そうですね、お兄様。新しい一面が見れました」

 

いたのか司波兄妹。あれか?入り口から見えた部分以外にも誰かいたってことなのか。

僕のその予想は正しかったようで……

 

「…もしかして、さっきのが()だったりする?」

 

そう聞いてくるのは雫。…いや、アレは素というよりもイラつき気味で荒くなっていたというか……。

 

「あんなに慕われるなんて、流石です、月島さん!」

 

……どうしてそうなるのかなぁ?ほのかは「さすつき」なんて言ってないでお兄様にアタックしに行きなよ…。

 

 

 

そして、CADの調整を始める前に、ついさっきまでビクビクしていた中条先輩と一緒になったのだけど……

 

「先程は僕の後輩が迷惑をかけました」

 

僕がそう言うと、中条先輩は「あはは…」と少し固めではあったけど笑顔を見せた。

 

「最初見た時は怖かったけど、月島君と話してるとなんだかコントみたいで……気づいたら怖くなくなってましたから」

 

……僕らはコント集団か芸人か何かと認識されたのかな?

 

 

 





―オマケ―

今回入れようと思ったけれど、タイミングがつかめずに入れられなかったエピソード。


~バカ後輩5人組は月島さん(モドキ)の連絡先を知っていたのか?~

実は普通に知っているし、登録されている。去年までは普通に連絡を取っていたし、メールのやり取りもあった。

しかし、事あるごとに「~したほうがいいっすかね?」とか「~と~、どっちがいいんでしょうか?」等の相談をしたり、「今日の報告」と称したメールを毎日送ってきたりしていたため、その当時から月島さん(モドキ)は頭を悩ませていた。
そこで、高校にあがる少し前から月島さん(モドキ)は5人に「人命が関わる場合を除いて、僕への連絡を禁止する。僕もずっと一緒に入れるわけじゃないんだから、そろそろ自分で考えて動くようにしなよ」と言った。
以来、5人は律儀にその言葉を守って連絡は取らないようになった。…が、月島さん(モドキ)への慕いっぷりは相変わらずだった。


……というエピソード。
そこまで重要じゃない。

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