魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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前回のお話とまとめてしまおうかと迷ったけれど、長くなり過ぎるために分割されたお話です。


『アイス・ピラーズ・ブレイク』決勝は次話……ではなく、次々話の予定です。
なお、次話は第三高校のとある生徒視点のお話を書く予定です。フラグを沢山建ててもらおうと思っています。



紅葉も、月島さんのおかげ。


九校戦編-13:九校戦・六日目・昼

午前中に行われた新人戦・男子『アイス・ピラーズ・ブレイク』の最後の予選により、決勝リーグに進む3人が決まった。

 

もちろん、僕も勝ち上がり決勝リーグへと進んだ。

他のメンバーは……ひとりは第九高校選手。そして、もうひとりは『十師族』の一角『一条家』の次期当主である第三高校選手・一条将輝だ。

 

 

 

……それにしても、どうしたものか…。

 

第九高校選手のほうは正直問題無い。これまでの予選と同じく、2本だけを本気で守り、相手の氷柱を地道に壊していく戦法で勝てるだろう。

 

だが問題なのは一条将輝との試合。

何が問題かというと、彼が攻撃に使用する魔法…『一条家』の秘術である『爆裂(ばくれつ)』が、『アイス・ピラーズ・ブレイク』という競技において有効的過ぎるという話だ。

 

 

『爆裂』。

対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法で、生物はもちろん、燃料等の液体が内部にある機械であれば爆散させ破壊することが出来る魔法だ。殺傷性ランクはAであるものの、『アイス・ピラーズ・ブレイク』には使用魔法へのレギュレーションが無いため使用できる。

この魔法は『アイス・ピラーズ・ブレイク』に使用される氷柱にも使用可能のようで、(固体)であっても効果はあり予選で猛威を振るっていた。

 

…で、厄介な点が2つほどある。

1つ目は、情報強化による防御があまり意味をなさないこと。どうしてかは詳しく知らないが、『爆裂』はそういった防御を貫通しての干渉ができるらしい。

2つ目は、その式の構築速度と氷柱を破壊するまでの時間が短いこと。展開速度のほうは『爆裂』そのものというより一条将輝の技能・能力の高さによるものだろう。流石は『十師族』といったところか。

 

 

それをふまえたうえで、彼との試合を考えてみよう。

 

求められるのは「早さ」ということになるだろう。

『爆裂』が防げないのであれば、自分の氷柱が全部壊される前に相手の氷柱を全部壊してしまえばいいのだ。

幸いと言っていいかはわからないが、『爆裂』は1つの対象物への干渉を行う魔法だ。故に12本の氷柱を破壊するには12回魔法式を展開しなければならない。ただ、CADによる『ループキャスト』を活用するだろうから、全て壊すまでの時間が大きく伸びることはあまり期待はできない。

…いくら甘く見積もっても、開始から10秒もかからないだろう。

 

つまり、一条将輝に勝とうと考えるならば、開始から5秒程度で相手の氷柱を全て破壊しなければならない。

 

 

 

……現実的に考えたら「無理」の一言だ。

 

 

 

僕もこれまで遊んできたわけじゃない。だけど、12本もの氷柱を一気に破壊するような魔法(もの)はあれど、それをほんの数秒で発動できるかどうかとなれば話は別だ。

 

無論、全く手段が無いというわけでは無い。

 

例えば『盾舜六花(しゅんしゅんりっか)』。

氷柱に干渉する魔法…ではなく干渉しようとする()()()()()()()()を「拒絶」し遮断してしまうことが出来る絶対防御の『三天結盾(さんてんけっしゅん)』。もはや、時間なんて気にしなくて良くなる。

攻撃に関しては、物体の結合を「拒絶」する『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』で氷柱を斜め切りにしてしまえばいいだろう。

 

だが、僕はこんな場で『盾舜六花』を…『完現術(フルブリング)』という僕の手の内を明かす気は全くない。これは取れない手段だ。

 

 

 

 

……というか、「もう十分だろう?」という気持ちもある。

 

計画の予定で個人的に「目立っておきたい」という目標は、九島烈に目をつけられる程度には出来たようなので十二分に達成できている。

第一高校への貢献度的にも、『クラウド・ボール』で優勝。さらには『アイス・ピラーズ・ブレイク』も、これまでの戦法で第九高校選手だけにでも勝てれば準優勝。1位の25ポイントとは10ポイントの差はあるものの、2位で15ポイント獲得できる。

 

もう十分なはずだ。これ以上、手の内をさらして一条将輝に勝とうとしなくとも、僕の当初の予定もこなせる。無理に1位を取る必要は無いだろう。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「さて、早めの昼食も取ったことですし、決勝リーグ前のCADの最終調整をしに行きましょうか」

 

「……月島君って、緊張してゴハンが喉を通らなかったりしないんですか?私なんてあんまり食べれなかったのに……」

 

早めの昼食を終えて第一高校の仮設本部へと向かう途中、僕にそう言ってきたのは、一緒に昼食を食べた…今現在は隣を歩いている中条先輩だった。

 

「出場するわけでもない中条先輩のほうが緊張しててどうするんですか。…それに、僕がそんなに緊張に弱くないのは『クラウド・ボール』の時にわかっていたでしょう?」

 

「それもそうですよね…。はぁ……相手選手にも、観客にも、あんな敵意を向けられる試合なんて初めて見ましたよ?それなのに普通にしてられるなんて…」

 

「おや?胃薬、必要ですか?」

 

感心というよりも呆れているような雰囲気でため息をつく中条先輩にそう聞くと、中条先輩は頬を膨らませて「いりません!」と言ってきた。どうやら僕にからかわれていると思ったのだろう。

 

 

 

「あら?あーちゃん、月島君。こんなところでどうしたの?」

 

本部へと向かう途中、反対の方向から七草会長、それと司波兄妹、雫、エイミィが来ていて、バッタリ鉢合わせた。

 

「ちょっと用があったんです。で、今、本部へと向かっているところです……そちらは何やら覚えのあるメンバーですね」

 

わかってはいるのだが、僕はわざと何のメンバーかは言わずに七草会長に問いかける。

 

 

「新人戦・女子の『アイス・ピラーズ・ブレイク』、第一高校(うち)が上位を独占したでしょう?そこで大会の運営委員会のほうから決勝リーグを行わず同率1位に、という提案があったの」

 

そう、今ここにいる一年女子生徒…深雪さん、雫、エイミィの3人が勝ち上がったのだ。

そして、運営からしてみれば、同じ学校で決勝リーグが行われても最終的な獲得ポイントに変わりが無いため、やるだけ準備等々が面倒なのだろう。

 

「それは運営側からすれば良い事ですけど、観客側からすれば少し残念でしょうね。衣装の件もありますが、使われる魔法も一般的に派手な傾向がありますからウケがいいと思うのですが……。本音を言えば、僕も観てみたかったですし」

 

「どっちにしても月島君は自分の試合があるから観には行けませんよ!」

 

少し頬を膨らませ気味の中条先輩にツッコまれ、僕は「おお、そうでしたね」と言いながら軽く流す。

…と、その様子を微笑みながら見ていた七草先輩が「でも…」と口を開いた。

 

「試合がなくなったわけじゃないのよ。司波さんと北山さんで決勝戦をすることに決まったわ。私は今からそれを運営委員会に伝えに行くところなの」

 

「おや?それではこれは、僕が引き止めてしまったということでしょうか?」

 

「そんなこと無いわ。それに、声をかけたのは私の方だもの」

 

 

―――――――――

 

 

あのあと、一言二言、言葉を交わし七草会長とは別れた。

そして、達也たちは僕らと同じくCADの調整の為に本部のほうへと行く予定だったそうなので、一緒に行くことに。……あんまり体調が優れなさそうなエイミィ(コンディションの悪さが決勝棄権の一因らしい)も「顔だけでも出しとくー」とついてきた。

 

 

「それで、月島くんの試合の予定はどーなってるの?」

 

「第1試合に九校と、第3試合に三校と…って感じだ。ついさっき情報が回ってきた」

 

「間に一戦分あきがあるのか。くじ運がいいな、月島」

 

そう言ったのは達也。

…まあ、確かに運がいいだろう。間があいていることはそこまで重要ではないが、九校の後に三校の一条と戦うという順番はかなりいい。いくら「勝てない」と最初から思っていても、精神的には少なからず影響があるからね。

 

「ただ……たぶんだけど午後一番の1試合目が、残念ながら女子の決勝戦と(かぶ)ってると思うんだ。見に行けそうにないよ」

 

「あー、じゃあ私は女子の決勝観に行った後に、月島くんの3試合目を観に行くって感じになるかなー」

 

「……というか、被ってなかったら自分の試合の前でも観に行く気なんですか、月島君は…」

 

もはや呆れ気味に言う中条先輩。……あれだ、ちょっと前に話した僕の緊張感の無さに呆れているんだろう。

 

緊張感…といえば、ここまで一度も喋っていない深雪さんと雫だが……まあ、当然と言えば当然か。まだ少し時間があるとはいえ、このあと戦う相手と一緒に雑談に交ざるというのはハードルが高いに決まっている。

 

 

 

…と、そんなこんなしているうちに、第一高校の仮設本部にたどり着いた。……だが、なんだろう?本部の中が少し騒がしい…というか賑やかだ。

その理由は、中に入ってすぐにわかった。

 

 

「げっ……」

 

 

とある机のまわりに人が集まっていて、その中に今朝見たばかりの5()()特徴的な髪型(シルエット)の人間が……

 

「キミら、なんでまたここにいるんだい…?」

 

ガラの悪い不良後輩5人組へ向かって声をかける。すると、5人はほぼ同時に振り返り、僕を見た。そして……

 

 

「「「「「すみません!月島さん!ちょっとの間、見ねぇでくだせぇ!!」」」」」

 

 

「……どういうことだい?」

 

僕の疑問に答えたのは、僕の返事を待たずに再び机のほうを向いた不良共ではなく、そのそばにいた()()()()だった。壬生先輩は僕らのほうに近づいてきて「あのね」と話しだした。

 

「彼らが持ってきてる横断幕あるでしょ?今、あれにペンを使って応援のメッセージ書いてるの。ほら、昔はよくやってたっていう「寄せ書き」ってやつよ!」

 

「色々とツッコミたいところですが……第一、なんで壬生先輩がアイツらと面識が…」

 

「いやね、月島くんの予選を最前列で応援してたら、いつの間にか意気投合しちゃっててー。見た目は奇抜だけど、いい子たちだね!」

 

あのバカ5人と意気投合するとか、壬生先輩が正常なのか心配になってくる……いや、どう考えても僕のせいか。

 

 

「メッセージ、私も書いたのよ!それと、桐原君も一緒に」

 

「「「「えっ」」」」

 

壬生先輩の言葉に、僕だけでなく、達也、深雪さん、雫といった面々が「ウソ!?」といった反応をしてしまう。すると、机のそばにいた桐原先輩がバッっとこちらへ一気に距離を詰めてきた。

 

「オイ、壬生!わざわざ本人に言わなくてもいいだろうが!?」

 

「本当の事なんだから、別に照れなくてもいいでしょ?それに、私たちと一緒に最前列で応援もしたんだし、試合も試合でとっくの昔に勝負ついたんだから、いい加減仲よくしたら?」

 

「い、いや、それはだな……」

 

……壬生先輩、桐原先輩は俺を応援するために最前列にいたわけじゃなくて、壬生先輩のそばにいたいから最前列にいたんだと思いますよ…?

それを察してもらえないとは、桐原先輩も苦労してらっしゃる…。

 

 

 

と、そんな中、さっきから僕の視界の端で「ウズウズ…!」としていたエイミィが手をピシッと挙げて言った。

 

「何それ、面白そう!!ねえねえ!それってわたしたちも書いたりしちゃっていいの!?」

 

その問いに答えたのは、また振り返ってきたアフロ。

 

「モチロンっす!遠慮せずに来て下さい、赤毛の姐さん!」

 

 

そこからは怒涛の流れだった。

 

 

「よっし!それじゃあ行こうよ深雪!」

 

「えっ、ちょ…エイミィ!?」

 

…と、深雪さんの手を取ったエイミィが机のほうへと一直線。

 

 

「ねえ、雫も書こうよ!」

 

「……私も?」

 

『アイス・ピラーズ・ブレイク』とはズレた時間で試合をやっていた『バトル・ボード』の出場選手であるほのかが、雫を連れて行く。

 

 

「ほらほら、あずさも、ね?」

 

「「ね?」ってなんですか~!?」

 

ついでとばかりに、壬生先輩が中条先輩を連れて行ってしまった。

 

 

 

残されたのは、僕と達也だけだった。

 

 

「なんかゴメンね。今から調整だっていうのに、肝心の選手を連れて行っちゃってさ…」

 

僕がそう言うと、達也は軽く肩をすくめて首を振った。

 

「気にするな。時間にはまだまだ余裕がある。…それにどちらかといえば、お前も被害者だろ」

 

「いやまあ、そうだけどさ……なんというか、朝に彼らをちゃんと叱らなかった僕の監督責任というか…」

 

 

 

「彼らにここの使用を許可したのは俺だ。月島が気にする必要は無い」

 

「「十文字会頭…!?」」

 

僕と達也の会話に割り込んできたのは、十文字会頭だった。あまりの予想外の出来事にさすがの達也も驚き気味だった。

 

「フッ…、良い後輩を持ったな、月島は」

 

僕らのそばまで歩いてきた会頭がそんな事を言ったが、正直なところ、あの不良5人をどこからどう見て「良い」と思ったのかが僕には理解できない。

 

 

…と、そこにリーゼントがこっちを向いてきて……

 

「ボスの兄さん!青のペン、空きましたよ!!」

 

「わかった。すぐ行こう」

 

そう言って、十文字会頭が足早に机のほうへとむかった。

 

 

 

「……ねぇ、達也。会頭が一番ノリノリに見えたのは、僕の気のせいかな…?」

 

「いや、俺にもそう見えた。…というか、よく見たらあの集団の中に渡辺先輩がいるぞ」

 

「本当だ。…いいのかな?午後から決勝だっていうのに、こんな軽いノリで」

 

僕はそう言った。しかし、達也からの言葉が返ってこなかった。

どうしたのかと思い、達也がいたほうへと目を向けてみたんだけど……達也は何故か僕の顔を見ていた。…いったいどうしたというのだろうか?

 

 

「そう言う割には、お前、笑ってるぞ」

 

 

「……ははっ。いやぁ、()鹿()()()()()()

 

僕の言葉に、達也がわずかにだが眉をしかめたのがわかった。……だが、今の僕が気にすることでは無い。

 

 

 

「だってさ、あんなに馬鹿正直に応援してくれてるんだよ?「相手は『十師族』だから」とか「似合わないから」とか、負ける言い訳をずっと考えてる()()()鹿()()()()()

 

 

達也が何か言ったり反応を示したりするよりも先に、僕は行動を開始する。

僕は一旦、泊まっているホテルへとむかうために、本部の外へと歩き出す。……そして、本部から出る直前に振り返り達也に言う。

 

「そうそう、達也。第3試合を観戦するときに美月を見かけたら伝えといてくれないかい?「絶対に眼鏡は外さないように」って」

 

「何故だ?」

 

 

 

「たぶん、凄く(まぶ)しくなると思うからね」


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