魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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今回は、第三高校の「カーディナル・ジョージ」こと吉祥寺(きちじょうじ)真紅郎(しんくろう)視点でのお話となっています。

また、少しだけ時間軸が前後しており、前回と前々回の間に位置するお話です。
正確にナンバリングするならば、実は12.5だったりしますが……お許しを!


原作にもあった例の場面から始まりますが、原作とは少し変わった点もあったりします。


沢山のUA、お気に入り、評価をいただけたり、ランキング上位をとれたりしたのは、読者の皆さまと月島さんのおかげ。(定期)



九校戦編-14:九校戦・六日目・吉祥寺

大会六日目の午前中。

僕と将輝は、午前中に行われる『アイス・ピラーズ・ブレイク』の予選の試合前に、担当選手と共に控え室へと来るであろう司波(しば)達也(たつや)に会うべく、控え室近くの通路で待ち伏せていた。

 

 

司波達也。

大会四日目に行われた新人戦・女子『スピード・シューティング』において、第一高校の選手が上位3位を独占した……その立役者として名前が挙がったのが選手たちのエンジニアをしていたという司波達也だった。

 

CADの処理速度等のスペックに制限のある『九校戦』において、エンジニアの腕というのは試合を左右するものだとは認識していた。

だが、彼のエンジニアとしての技術・知識は、他のエンジニアとは次元が違うと言えるほどのもので、完全に想定外である。しかも、一年生とはいえ、これほどの人物がこれまで無名だったのも驚きだ。

 

 

そんな理由もあり、将輝との話し合いの結果「一度、()()をしに行こう」ということで、こうして待ち伏せている。

 

 

―――――――――

 

 

思惑通り、司波達也は担当選手と共に通路に現れた。

 

僕と将輝は簡単な自己紹介をして、「顔を見にきた」事を伝える。すると、彼は選手に先に控え室に行くように言い、選手の女子生徒は了解し、僕らの横を通って控え室へとむかって行った。

 

 

「僕たちは、明日の『モノリス・コード』に出場します。君はどうなんですか?」

 

僕の問いかけの意図に気づいたんだろう。司波達也は言葉を返してくる。

 

「そっちは担当しない」

 

「そうですか、残念です。いずれ、キミが担当する選手とも戦ってみたいですね。…無論、勝つのは僕たちですが」

 

 

「時間を取らせたな。次の機会を楽しみにしている」

 

将輝がそう言って歩き出し僕も将輝の後に続き、司波達也の横を通り過ぎようとし……

 

 

 

「……フッ」

 

 

司波達也のほうから鼻で笑ったような声が聞こえ、僕らは足を止めた。

そして、僕よりも先に将輝が振り返って言う。

 

「…何がおかしい?」

 

「いや。まるで『アイス・ピラーズ・ブレイク』はもう終わったかのように言うのが、変でな」

 

そう言う司波達也の意図がわからず、「馬鹿にされてる」というよりは「何言ってるんだ?」と感じ、特に怒りといったものも()いてこなかった。

 

 

ほんの数秒考え、ひとつだけ思い当たったことがあったからそれを口にする。

 

「確か、第一高校はここまで一人勝ち残っていましたよね。()()月島(つきしま)昊九郎(こうくろう)という選手が…。彼が決勝で立ち(ふさ)がる…とでも言いたいんですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

淡々とそう言う司波達也を不思議に思いつつも、こちらも気にする様子は表面に出さないようにしながら言葉を返す。

 

「彼の『クラウド・ボール』での実績、そしてそれを含めてこれまで見せてきた基礎能力の高さは評価に値するでしょう。ですが、それでも()()()優等生止まりです」

 

「演算速度や干渉力の高さは認めるが、俺の敵じゃない」

 

 

()()()()()()

 

口調は淡々としているが、笑うように口角を僅かに上げる司波達也。

対して、僕らは司波達也の妙な言い回しにさらに疑問を積もらせ、眉間にシワを寄せる。それを見てか見ずかはわからないが、司波達也は言葉を続けてきた。

 

「「ただの優等生」か、確かに的を射ている。…だが、そう見えるからこそアイツの底が見えない。素顔が見えてこない。……本当に「ただの優等生」であればいいんだがな」

 

僕らが口を開くよりも前に、よくわからないことを言い残して、司波達也は選手に先に行かせた控え室のほうへと歩いて行ってしまった。

 

 

 

 

 

残された僕と将輝は、将輝の『アイス・ピラーズ・ブレイク』予選の準備の為に、割り当てられた控え室へとむかうことにした。

その道中……

 

「…ジョージ。さっきの話、どう思う?」

 

将輝の問いに、僕は少し考える。

月島昊九郎という人物については前情報や競技での姿以外に、()()()()()()()()()()()()()()ため、そのあたりも思い出しながら考えてみた……。

 

 

―――――――――

 

 

思い出すのは『九校戦』三日目の本戦・男子『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合を観に行った時のこと。その時に僕らは月島昊九郎と言う人物に出会った。

 

理由は何ということは無い。決勝リーグということもあって様々な学校の生徒が所狭しと観戦しに来ている中で、少し用があって遅れて来た僕らがたまたま座れた場所が彼の隣の席だったというだけだ。

 

 

「すまないが、隣、いいかい?」

 

「ああ、かまわないよ」

 

他校の生徒である将輝の問いかけに、こちらに顔を向けて微笑んで承諾した青年。それが月島昊九郎だった。

僕…そして将輝もそうだったらしいが、その返事の際に初めて事前に得ていた情報にもあった月島昊九郎だと気付いた。

 

事前に得ていた情報というものは、とても簡単で簡潔なもので、「司波深雪と並ぶほどの成績優秀者。第一高校・一年女子のエースを司波深雪とするならば、男子のエースは彼である」…といった内容だった。

 

 

そんな彼だが、競技が進むにつれて、何やら肩を落としため息を吐くようになった。

 

そんな彼に、軽い情報収集もかねて僕は言った。

 

「ため息をついているけど、自分の学校の先輩の試合が心配なんですか?」

 

「いや、そんなことは無いさ。むしろ逆で信頼できる」

 

まあ、それもそうだろう。第一高校からの決勝進出者は、将輝と同じく『十師族』の家…『十文字家』の人間。十文字克人なのだから、心配も無いだろう。

『十文字家』の『ファランクス』という防壁魔法も、将輝の『爆裂』とは別方向に『アイス・ピラーズ・ブレイク』に適している魔法であるから、それは当然と言えば当然だ。

 

けど、そうなると何故ため息をついているのだろうか?

同じ考えを持ったのか、将輝が月島昊九郎に問いかけた。

 

「なら、何故そんなにため息をついているんだ?」

 

「先輩がたの活躍は、後続の鼓舞になるけどプレッシャーにもなるってことさ。…特に僕みたいに苦手な競技まで割り当てられた選手はね」

 

「「まで割り当てられた」……?」

 

「そうさ。試験の成績が良いならどんな競技でもできるとでも思っているのかねぇ、上の人は……」

 

ブツブツと文句を言い出す彼に、僕と将輝は苦笑いをした……。

その後、少ししたら気分を切り替えられたようで、残りの時間は普通に観戦していた。

 

 

―――――――――

 

 

そして、今現在、司波達也と話したことによって新たな情報…と呼べるほどのものではないが、得られたものはある。

 

「自分の学校の選手に隠し玉があるかもしれないことを臭わせる必要は無いと思う。そんなことをしてもデメリットでしかないからね」

 

「じゃあ司波達也の言葉は、俺たちに無駄な気をつかわせるための偽りだと思っていればいいんだな」

 

「いや、司波達也の言葉通り「()()()()」と思っていた方が良いと思うよ」

 

「どういうことだ、ジョージ?」

 

将輝の反応は、当然のことだと思う。

はたから見れば、僕がいきなり前言とは反対の事を言ったわけだ。でも、これには僕なりの考えがある。

 

 

「彼の言葉が正しいかどうかっていう話じゃない。月島昊九郎という選手の能力的に考えて、何かあって当然だろうって考えだよ」

 

「だが、それだとヤツ本人の言葉と…「苦手な競技にも参加する」という言葉と矛盾するんじゃないか?」

 

「そうだね。僕も彼の『クラウド・ボール』の試合を見た時「コッチが得意競技か」って思ったけど……でも、『アイス・ピラーズ・ブレイク』のほうも『クラウド・ボール』ほどの驚きは無いとはいえ、一般的に見れば十分過ぎる実力だった。そうなると、「苦手競技がある」という言葉自体が罠かもしれない」

 

僕の考えに納得してくれたようで、将輝は「なるほど」と言い頷いてくれた。

 

「あの時点から『アイス・ピラーズ・ブレイク』で俺と当たる事を想定していて、少しでも勝利の可能性を見出すために油断させるための偽の情報を……ということか。なら、あの時俺たちが隣に座ったのも、ヤツの計算の内なのか?」

 

「そこは偶然だと思う。隣に座ってきた将輝の正体をいち早く察して、とっさに考えて行動したんじゃないかな?だってもし、事前に計画を建てて僕らとの接触の機会をうかがっていたのなら、なおさら司波達也がこのタイミングで臭わせるはずがないからね」

 

「それもそうか……」

 

 

将輝はアゴに手を当てて一旦考え込むような仕草をした。

そして、少しの間を開けて僕に問いかけてきた。

 

「ジョージ、()()()()()()()()()

 

「正直わからない。けど、女子のほうで使用されたっていう『氷炎地獄(インフェルノ)』レベルのものが出てくるって考えるべきだと思うよ」

 

 

氷炎地獄(インフェルノ)』。

対象エリアをふたつに分け、一方のエネルギーをもう一方へと逃がす魔法だ。それにより何が起こるかと言うと、その名の通り「極寒」と「灼熱」の空間を作り出してしまうのだ。

これを『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合における自分と相手のフィールドに発動したとすれば、攻防一体で厄介なうえに純粋に水だけで出来た氷ではない氷柱は、内部の空気が膨張して不安定な状態に陥り簡単に破壊出来てしまう…まさに「必殺技」だろう。

 

 

「なるほどな。確かに光学魔法をあれだけ得意とするならば、もとを正せば同じ系統である振動系魔法の『氷炎地獄』を使えても、そこまで不思議じゃないな。干渉力や魔法力的にも納得はいく」

 

「もちろん、他の魔法を使ってくる可能性はある。だけど、対戦するときには「それくらいは出来る」と思って挑んだほうがいいって話さ」

 

月島昊九郎は振動系の他にも収束系統の魔法も使っているので、そちらのほうで攻めてくる可能性は高い。だが、具体的に大きな威力を持った魔法を挙げるとなれば『氷炎地獄』が例にしやすかったというだけだ。

 

 

 

「もし決勝リーグにあがった時、月島昊九郎と対戦する機会があったとすれば、将輝が取るべき作戦はひとつ。「開始と同時に『爆裂』を使い、速攻で終わらせる」ただそれだけだよ」

 

「ヤツが得意とする光学魔法による幻影は警戒しなくていいのか?」

 

「必要が全く無いわけじゃないけど、あんまり気にしなくていいと思う。…というより、変に守りに回ってしまって月島昊九郎に大技を使うスキを与えてしまうほうがマズい。彼がどういう魔法を使うかがわからないからなおさらね」

 

「大技にしろ小細工にしろ、使われる前に終わらせてしまえばいいというわけか」

 

至極単純な作戦ではあるけど、それ故に強力だ。

そして、将輝にはそれを実行できるだけの実力がある。競技用のCADであっても将輝の『爆裂』の発動スピードは、他の一般選手の魔法の発動スピードに負けることは無い。開始の合図の瞬間から本気で行けば何の問題も無いだろう。

 

 

 

そんなことを話しているうちに、将輝に割り当てられた控え室の前へとたどり着いた。

 

「さてっ、月島昊九郎よりも今は目前の予選だな。ジョージも明日からの『モノリス・コード』の準備のほうに取りかかってくれ。そっちのほうが()()だろう?」

 

将輝の言っていることの意味がわかり、僕は頷いて答える。

 

「わかってるよ。心配しなくても、僕は一度負けた相手に負けはしないさ」

 

「ああ、それでこそジョージだ。それじゃあ俺は、勢いをつけるためにもこの『アイス・ピラーズ・ブレイク』を綺麗に決めてくるかな」

 

 

そう言いながら片手を軽く上げて控え室へと入っていく将輝。

その後ろ姿を見ながら、僕は僕がすべきことを考える。

 

月島昊九郎のことを考える必要は無い。『アイス・ピラーズ・ブレイク』は、将輝の独壇場なのだから。

あの将輝の実力を疑う必要などどこにあるだろうか。

 

 

 

僕が勝つべき相手は『モノリス・コード』にいる。そこで負けないためにも準備から十分にしておかなければならない。

 

 

森崎(もりさき)駿(しゅん)…!」

 

 

出場した『スピード・シューティング』での、予想外の敗北。その相手が第一高校・一年の森崎駿という生徒だった。彼が『モノリス・コード』にも出場すると知った時は、僕の中にこれまでにないくらいの闘志が湧き上がったものだ。

 

彼の率いる第一高校チームと当たるために……『スピード・シューティング』での雪辱を晴らすためにも、今は各校の出場選手の情報とそれぞれへの対策を立て、確実に勝てるようにしなければ……!

 

僕は自分のすべきことをこなすために、第三高校の本部へと歩を進めた。

 





次回!遂に『アイス・ピラーズ・ブレイク』決勝戦に突入!


そして、そろそろ月島さん(モドキ)の『九校戦』での目的、および、『クラウド・ボール』のころからこれまでに無いくらい目立つようにしだした理由・意図について触れていければ、と思っております。
それに、バスに乗る前に達也と約束したこともありますから……書かなきゃいけないことがたくさんありますね!……さて、どうしたものでしょう?

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