魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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「次回からは月島さんが活躍(?)する」とは何だったのか。
時間軸的には確かに「八日目」に活躍・暗躍するんですけど、それが表に…というか物語上に出てくるのは「九日目」という……。
視点的な問題で、日にちを跨がなければならなかったということです。




森崎君が成長するのも、月島さんのおかげ。


九校戦編-18:九校戦・八日目

『九校戦』は八日目。

本日8月10日は新人戦『モノリス・コード』の予選の残りと決勝トーナメントが行われる。

 

『モノリス・コード』の試合は予選で各校が4戦して、その中の成績上位4校で決勝トーナメントが行われる少し変わった方式だ。

そして、今回は殺傷性ランクB以上の魔法を使用したとして第四高校が失格になったため、それがまた複雑なことに……と、まあ難しいことは置いておこう。

 

 

で、今は達也、レオ、幹比古の3人が予選で第八高校と対戦している。

 

……のだが、僕がいるのは観覧席ではない。

とある病室だ。

 

 

「なぁ、なんで月島が俺らの代わりにならなかったんだ?」

 

「声がかからなかったからだよ。というか、会頭たちに直接言いに行ったら「ダメ」って言われたからね。理由は……まあ、たいしたこと無かったよ」

 

イスに座る僕と話しているのはベッドの上で寝転がっている森崎君だ。

森崎君の身体のいたるところには包帯が巻かれている。…が、至って元気そうだ。時折顔を歪めたりはしているが、口は良く動いている。

 

 

「……カッコ悪いなぁ…。お前に負けるなよって言ったのに、俺がこんなザマなんてさ」

 

「まあ、最善では無かったね、ボディガードとしては半人前とも言えないんだから。モノリス(護衛対象)を守れずに行動不能になっちゃってるんだから」

 

「『モノリス・コード』もボディガードも、不意打ちが一番恐ろしい。なんでも有りえるから気をつけなよ」って月島が言っていた意味が良くわかった」

 

大きくため息をついて、それが傷の何処かに響いたんだろう。「イテテッ」と小声で呟いていた。

 

「まあ、キミのおかげで他の選手(ボディガード)は軽傷で済んだんだからいいんじゃないかい?あー……いやでも、やっぱりダメかな?軽傷とは言っても護衛続行は無理そうだったし。やっぱり森崎君は半人前だね」

 

「そうはっきり言うな!!」

 

「事実は受け入れなよ。それに、別にいいじゃないか。キミは学生なんだからさ、まだまだこれからだ」

 

 

 

僕はそう言いながらイスから立ち上がり、病室の外へと続くドアへと向かう。

 

「なあ、月島」

 

後ろからかけられた言葉に立ち止まる。僕は、振り向かず返事もせずに言葉の続きを待つ。

 

「司波達也たちは、第三高校の奴らに勝てると思うか?」

 

「……五分五分かな。お互いの作戦次第でどうにでもなるくらいだと思うよ」

 

僕はそう言い、「それじゃあ、お大事に」と付け足してから病室から出た。

 

 

―――――――――

 

 

……いやぁ、それにしても森崎君には申し訳ないことをしてしまった。

 

細工が第一高校側に直接されたのであればいくらかやりようがあるのだが、他の高校に施されたものであった場合、未然に防ぐのは難しい。渡辺委員長の事故の時と同じだ。

 

 

一応、森崎君たちのCADに細工がされていないかは、遠目ではあるけどチェックした。

 

結論……『無頭竜』、仕事してない。

なかなか細工を仕掛けて来ないんだ。新人戦のかなり早い段階から、原作以上に第一高校がポイントを獲得しているというのに、『無頭竜』からの妨害はほとんど原作通りなのだ。

 

正確には()()()()()()()何度か細工をしてきたのを、『完現術』の応用で確認できた。…確か、『クラウド・ボール』の3試合目あたりからだ。僕が行くって言ったのに、中条先輩が勝手に行った時に限って細工されている状態で僕の手元に来るという事態が起きた。

「審査を通ってきましたよ!」とにこやかにCADを渡してくる中条先輩、そのCADを確かめると変な異物感がある……あれは流石に、中条先輩を疑いかけた。

『アイス・ピラーズ・ブレイク』の時も予選中までは似たようなことはあった。だが、たまたまなのか何なのか、僕が行った時には細工されなかった。

 

 

ここでふとある考えが思い浮かんだ。

 

ひとつは、序盤で僕がCADへの細工を何度も看破し無力化してしまったがために、『無頭竜』が「第一高校にCAD細工は通じない」と思ってしまい、僕のCADに仕掛けて以降は第一高校のCADには完全にノータッチになった…という可能性。

もうひとつは、細工のほうにあまり気を向けられなくなるような()()()()()()()()『無頭竜』に起きた…という可能性。

 

……どちらにせよ、「月島さん(ぼく)おかげ(せい)」だろうね。

前者は言わずもがな、後者も少しばかり()()()()がある。

少し遊び過ぎただろうか……。

 

そして、「釣り」のほうも成果はいまいち、『無頭竜』は食いついてこなかった。

……まあ、考えてみれば、全試合終えた選手を消したところで意味が無いわけだから、当然と言えば当然か。

 

 

そんな数々の失敗を省みながら「現状に満足するしかないか…」とあきらめ気味にため息を吐く。

 

 

 

……そして、『九校戦』の会場に戻ってきて、もう一度ため息を吐くこととなる。

 

 

 

理由は、競技会場近くでバッタリ出くわした第三高校の3人組だ。

 

 

一条将輝、吉祥寺真紅郎、そして……名前は忘れたがもうひとり男子生徒。

 

こちらが視界に入った瞬間敵意を向けられたので、少しばかり驚いてしまったのだが……それにしても、一条将輝の顔というか目つきが少しばかり鋭い。

 

 

「これは第三高校の『モノリス・コード』メンバーの皆さん。決勝トーナメント進出おめでとう…」

 

「世辞はいい」

 

より一層目つきが悪くなった一条が、僕の言葉をさえぎった。そしてそのまま口を動かした。

 

「単刀直入に聞く。月島昊九郎(こうくろう)、何故お前は『モノリス・コード』に出場しない?」

 

「……ふっ」

 

「何がおかしい…!」

 

「いや、さっきお見舞いに行って会ってきたばかりの森崎君にも似たようなことを聞かれてね?それで少し緩んじゃったよ」

 

「森崎」という言葉に、一条の隣にいた吉祥寺が声には出さないものの反応を示した。……そういえば彼は『スピード・シューティング』で森崎君に負けたんだったっけ?『モノリス・コード』でリベンジでもしたかったのだろうか?

 

そんな事を少し考えながらも、僕は大仰に首をすくめてみせた。

 

「むしろ僕が聞きたいくらいだよ。なんで運営委員会は「月島を出さないように」と代役選考の際に釘刺ししてきたのかをね?」

 

「運営が、釘刺し…?」

 

訝し気に聞き返す吉祥寺に、僕は頷いて言葉を続ける。

 

「僕が直接聞いたわけじゃないんだけど……ウチの十文字先輩曰く、「特例として負傷者の代役を選出することを許可する。ただし、月島昊九郎は出場させてはいけない」というのが運営からの条件だったそうだ」

 

 

僕の言葉に何を思ったのだろうか。一条は眉間にシワを寄せていた。

 

「……そうか、邪魔をしたな」

 

そう短く吐き捨てるように言った一条は、他の二人に「行くぞ」と声をかけて第三高校の本部があるほうへと歩いて行った。

 

その後ろ姿を見ながら、僕は心の中で一言「かわいそうに」と呟いた。

一条のことじゃない、気の立っている一条と吉祥寺に挟まれている名も知らぬ第三高校(モブ)男子生徒のことだ。

ただの同級生なら何ということは無いだろうが、相手は『十師族』とちょっとした有名人であり完全に格上。あんなところにいたら気も休まらないだろう。

 

 

 

「僕なら心労をおこしそうだな」なんて思いながら、両者が順当に勝ち上がればそのうち行われるであろう、第一高校VS第三高校の決勝戦の事を考えた。

 

原作での勝敗を知っていながら森崎君に「五分五分だ」なんて言ったのには、つい先程この目でしかと見た一条の様子が理由にあった。

 

良くも悪くも余裕が無くなっている。

 

慢心や(おご)りは無くなったのはプラスだろう。しかし、視野が狭くなり短絡的になりかねないのはマイナスだ。これを抑える人がいればいいのだが……肝心の吉祥寺も普段通りとはほど遠いことを考えると、何とも言えない。

そうなってくると……本当に原作通りの試合展開になるとは限らない気がした。

 

「…まぁ、僕は僕でやるべきことをやるか。実験台(おもちゃ)のことも含め、最後までちゃんとしないとね」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

時は進んで、準決勝2試合が終わった後の決勝戦までの空き時間。

予想通り、決勝は第一高校VS第三高校となった。

 

 

……と、まあそのあたりは本人たちに頑張ってもらうしかないから、僕は特に何もするつもりは無い。

 

僕が少しばかり動かないといけないのは、この休憩時間中だ。

正確に言うならば、達也に決勝戦で使うマントを九重八雲の使い走りで届けに来た小野(おの)(はるか)に、達也が『無頭竜』のアジトの所在を調べるように依頼する場面……その後だ。

 

 

「さて…と。どう転がるものやら…」

 

泊まっているホテルの一室で普段使っているものとは別の携帯端末を手に取り、僕はひとり呟いた。

 


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