魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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更新、予定していたよりも遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!
時間が取れず、感想に目がとおせていません。こちらも大変申し訳ありません!


文を書いているとき、自分のイメージが伝えられるように…と全力で挑んでいるつもりなのですが、中々うまくいかないものです…。


色々迷っても手が動くのは、月島さんのおかげ。



九校戦編-19:九校戦・九日目

「結局、何だったんでしょうね」

 

「さあな。結果だけで考えれば「ただの見間違い」だろうな」

 

とある裏路地にたたずむ警官二人。

そこは街のあちこちに防犯システムのあるこのご時世ではとても珍しく、()()()防犯網の穴になっていた地点だ。

 

「目撃者によると、ここに入っていった幾人かの人が消えたって言っていましたが…」

 

「わからん。何か裏のある者たちである可能性は高いが……こんなところに何かあるわけじゃないしな…」

 

警官の一人が周囲を見渡すが、狭い裏路地には隠れられるような場所は無い。普通に考えれば、走るなり何なりして曲がり角を曲がり別の路地に入ったくらいだろう……が、曲がった先をほんの少し行ったところで表通りのカメラの視界に入る。

 

他に考えられるのは路地の両脇にある建物だが……一番下の窓でも4メートル近くの高さにある。

しかし、わざわざ正面から建物に入らない理由があるだろうか?それに、建物の中にも一応調査の手は入ったが、侵入の形跡等の怪しい点は見つからなかった。

 

「そのうえ、魔法が使用された形跡も無しときたもんだ。面倒ったらありゃしねぇ……って、お前、何をしてる?」

 

警官の片割れが、もうひとりの警官が地面をコンコンと叩いている様子に首をかしげた。

 

「いや、実はこのあたりに地下に続く穴が隠されてたりしないかなーと」

 

「そんなものがあるなんて話、聞いてないが…」

 

「あくまで勝手な想像です」

 

「仮にあったとして、その穴の先には何があるんだ?」

 

「よそへの抜け道とか……秘密のアジトとか?」

 

「……お前はフィクションに影響され過ぎだ」

 

そんな事を言いながら、警官二人はその場を後にした……

 

 

 

―――――――――

 

 

 

……といった会話を、現場から遠く離れた『九校戦』会場の施設内にある休憩所から盗み聞きしていたのは、僕、月島昊九郎(こうくろう)だ。

 

何故そんなことをしているかというと……まあ、そこまで意味は無い。昨日行った潜入作戦と実験台(おもちゃ)の後始末の確認と、暇潰しといったところか。

警官(かれ)らは少しばかり行動が遅かった。今日の明け方であれば、まだ僕が消していなかったのだから。

 

 

そうそう。昨日は『無頭竜』のアジトの様子を見に行ったんだが、思った以上に殺伐としていて大変そうだった。

まあ、それもそうだろう。何もかも思い通りにいかず、問題の原因もわからないままとなれば、冷静に対処し続けること自体難しい話だ。

 

本当は実験台(おもちゃ)()()()()とも考えたんだけど、どうやら彼らは僕が望むことを実行しようとしていたみたいだったので、引っ掻き回すのは()めにした。

 

 

どうやら『無頭竜』は、ここにきて原作通り本戦『ミラージ・バット』の第一高校選手のCADに細工を施すように、工作員に指示を出すことにしたそうだ。

…というのも、残りの本戦『ミラージ・バット』と本戦『モノリス・コード』で第一高校が無得点でなければ第一高校の総合優勝が決まってしまうからだそうで、総合優勝(それ)を阻止するための工作は、『モノリス・コード』では他校への細工でもいいが『ミラージ・バット』は競技の性質上第一高校の選手本人のCADに細工しなければ妨害が難しいからである。

 

…で、それを何故僕が望んでいたかというと、深雪さんのCADに工作をしてくれなければ『無頭竜』が達也の逆鱗に触れることにならず、原作通りに『無頭竜』を消しにかからない可能性があるから。

いや別に絶対『無頭竜』が消えてほしいってわけではないのだけど、何をしでかすかわからない連中を野放しにする気は起きず、だからといって僕自身が手を下す気にもなれず……となれば、原作通りに達也と軍関係者に任せた方がいいだろうって考えになったわけだ。

 

 

 

……さて、それを踏まえて僕が今からどう動くべきか……。

 

「まあ、『ミラージ・バット』の応援に行くのは確定か…」

 

そう呟きながら僕は立ち上がり、『ミラージ・バット』の競技が行われる会場へとむかった。

 

 

会場へと向かう途中、僕と同じように本戦『ミラージ・バット』の応援へむかっているのであろう第三高校の生徒を見かけた。

別にその生徒の事を知っているとか、そう言うわけじゃない。ただ、その生徒の表情に少しばかり影が落ちていたというだけのことだ。

 

理由は第三高校の総合優勝がほぼ不可能になったためだろう。

そして、それを決定付けることとなったのは、昨日にあった新人戦『モノリス・コード』の決勝戦の第一高校VS第三高校の試合。

 

 

第三高校の一条将輝。慢心も(おご)りも無くなった彼は、レギュレーションの問題で『爆裂』は使用できないにも関わらず、それを感じさせないほどの力を見せつけた。

事実、一条は原作とは違い、相対した達也に(おく)れを取ること無く、常に攻め続けていた。それも自身に適した中距離を保ち達也を近寄らせないだけでなく、達也と、別行動している幹比古とレオとをほぼ一直線…つまりは同じ視界内に入れようとする素振(そぶ)りを混ぜ込んだ立ち回りをしていた。

 

距離を保つことはもちろんだが、その立ち回りは達也にとっては少し厄介なものだったろう。

自分への攻撃の魔法は最悪避ければいいが、その複数の魔法式の中に他の第三高校選手との戦闘に意識が向いている幹比古とレオへの不意打ち用の魔法が混ざっているとなると、それを探し当て術式解体(グラム・デモリッション)でその魔法式を優先的に破壊しなければならない。

ついでに言うならば、()()()で幹比古やレオへ魔法を使うのであれば、あえて見逃して、その(すき)に急接近し一気に仕留めることも出来るのだろう。だが、達也も一条の視界内にいる状況……そうなると達也は一条への接近を諦めてでも一条を自分だけに引き付けておく必要がある。

 

達也には隠さざるを得ない魔法があるとはいえ、一条VS達也はほぼ完全に一条のペースだった。

 

だが、第三高校は()()()

敗因を挙げるとすれば、「メンバーに名無し生徒(モブ)を入れていた」という点だろう。もしそこが何処か有名どころの家の出の生徒とかであれば、まだ勝機はあったかもしれない。

 

というのも、拮抗していた盤面だったが、名無し生徒(モブ)が落とされたことにより、吉祥寺VS幹比古&レオとなって均衡(きんこう)が崩れてしまったのだ。

均衡が崩れてすぐに吉祥寺と一条が合流したならまだ何か手が打てたかもしれない。だがそれを許さなかったのが、これまで一条に止められていた達也。モノリスに接近しながらも一条をけん制し、時間を稼いだ。

 

ほどなくして吉祥寺も倒され、1対3の構図が出来た。結果はもう見えたようなものだと思われたが、一条の魔法によるモノリスの防衛は最後の最後まで続いた。広範囲への魔法攻撃により一条はもちろんモノリスにも近づき辛くなった。

そんな中、達也が取った行動はモノリスへの決死の急接近。それにより10m以内まで近づけたのでモノリスを開くことに成功したが、そこで達也は一条の魔法を1,2発ほど受けてしまうが何事も無かったように体勢を立て直す。

 

その後は、あっけないものだった。

達也とレオによる守備。その中で幹比古が予選でやったのと同じように、精霊との『感覚同調』を使って開いたモノリス内に記されたコードを打ちこみ試合終了。一条を最後まで倒せなかったものの、第一高校の勝利となった。

 

 

 

新人戦『モノリス・コード』の結果が、第一高校が1位、第三高校が2位となったことで点差がさらに開き、新人戦のみならず総合優勝まで絶望的なものとなってしまった第三高校。大会が始まる時に大きく盛り上がっていたこともあって、反動ですごく沈んでしまっている節がある。

 

…そんな第三高校の生徒の様子を横目で見ながら、僕は『ミラージ・バット』が行われる会場へとたどり着いたのだった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

会場に着いた僕が向かった先は観覧席ではなく、出場選手やエンジニアがいる待合室。

そこにいたのは、『ミラージ・バット』の衣装に身を包みベンチに座る小早川先輩と、その担当のエンジニアの先輩だった。

 

 

「遅いよ。応援に来てくれないかと思ったじゃないか」

 

少し口を尖らせながら文句を言う小早川先輩。確かに先輩の言う通り、先輩が出る予選第一回戦開始まで30分も無い時間だ。

 

「すみません。…それで、調子はどうですか?」

 

「あはは、ついさっきまでかなり緊張してたんだが……うん、月島君の顔を見たら吹っ切れた気がするよ」

 

「そうですか?僕なんかの顔でよければ、好きなだけ見ていってください。……っ」

 

薄く微笑みながら軽い冗談を言って……その表情を歪ませてみせて、小早川先輩が手首あたりにつけている腕輪型のCADに手を触れる。…そして一言「失礼」と短く言って小早川先輩の手を取り、CADをまじまじと見てみせる。

 

 

「ど、どうかしたか?」

 

僕が普段見せないような表情、そして行動をしていることに気がついたんだろう小早川先輩が驚きと緊張、そして不安を混ぜたような表情で僕を見てきた。

 

「小早川先輩。すみませんが、このCAD外してもらえないでしょうか?」

 

「何故だい?」

 

「このCAD……何か異物が入り込んでいます」

 

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

大きく反応を示す小早川先輩と担当エンジニア。

特にエンジニアの先輩のほうの変化は顕著で、驚きの他に怒りのようなものが混じっていた。

 

「何を言っているの!そのCADは私が景子と調整して審査に出したものよ!?異物なんて入ってるわけが…」

 

そんな言葉をスルーして、小早川先輩に問いかける。

 

「小早川先輩、今CADを触ってみて違和感等はあったりは?」

 

「…いや、競技用のCADならこのくらいかなーってくらいで、特には」

 

「そうですか……仮に『バトル・ボード』で七高の選手のCADに仕掛けられていたものと同じならば、使用者への違和感が少ない可能性は十分に有り得るか」

 

 

そう言いながら、僕は携帯端末を取り出して()()()()に電話をかけた。

 

「達也かい?今少し時間を貰えないかな?深雪さんにも関わるかもしれない問題なんだ。…ああ。今、小早川先輩の控え室にいるから来て」

 

短くだが、最低限必要な内容を伝え、電話を切る。

そして改めて小早川先輩にCADを外すように促す。すると、今度は何も言わずに腕輪型のCADを外して手渡してくれた。

 

 

 

そうやり取りをしているうちに、控え室のドアがノックされ達也が入ってきた。

 

「どうしたんだ、月島。話というのは一体…」

 

「急に呼び出してすまない。達也、これを見てくれないか?」

 

「CADか…?」

 

CADに目を向けた達也が何かを言う前に、僕が先に用件を伝える。

 

「その小早川先輩のCADなんだけど、何か異物が入っているように感じるんだ。正確にはどういったものかはわからないけど、システムそのものには影響は無いみたいだから何かしらの条件で発動するようなものじゃないかと思っている……何かわからないかな?」

 

僕の言葉を聞いた達也は、軽く頷きこちらを見た。だがその眼は、「納得した」というよりも「どうしてわかった?」といった疑問のほうが濃いように見える……だが、試合の時間が近いこともあってか、達也はそこに言及はしてこなかった。

 

「…確かに、月島の言う通り異物が入っているようだが、それが何かまではわからない。だが、このCADを使うのは危険が伴う可能性が高い。……小早川先輩、予備は用意できますか?」

 

「あるにはある、けど……時間的に審査に通すことが難しいな」

 

時計を不安そうにする小早川先輩。

そんな先輩に「大丈夫ですよ」と僕は声をかけ、達也の手にある腕輪型CADを取った。

 

「達也。このCADから異物を取り除けば、問題無く使えるよね?」

 

「それは、まあそうだな」

 

「なら、異物を弾き出して、審査に通した時の状態に元通りにしてしまえばいいね」

 

達也が視線で「出来るのか?」と問いかけてくるが、僕はそれを手を軽くヒラヒラしながら「大丈夫」と返す。少し達也が眉をひそめたようだったが、僕は気にせずにしておいておく。

 

 

「月島。深雪に関わるというのは、深雪にも同じような工作がされるということか?」

 

「ああ。だから気をつけておいて欲しい。…そして、できれば工作の瞬間を見て犯人を取り押さえて欲しいんだ。現行犯ならむこうも言い訳しようが無いだろうからね」

 

「…わかった。それじゃあ、俺は深雪のCADの調整に戻るが、良いか?」

 

「わざわざ呼び出して悪かったね、達也」

 

達也は小早川先輩たちに軽く頭を下げた後、控え室を出ていった。

 

 

 

 

それじゃあ、さっそくCADから異物を取り除いてしまおうとした、その時……

 

「ちょっと待って!」

 

そう声をあげたのは、エンジニアの先輩だった。

 

「異物を弾き出してって、何を言っているの?そもそも、本当に異物なんて入っているわけないでしょ。お遊びなら他所でやって」

 

エンジニアの先輩は「ねぇ、景子?」といった様子でベンチに座る小早川先輩に目をやった。

 

「まあ、見えないものを「ある」と言われてもわからないし、信じがたいが…………よし!月島君、やってみせてくれ。私はそのCADを使って競技に出よう」

 

「景子!?」

 

「私は月島君を信頼しているからな。別に心配はしないさ……好きにやってくれ!」

 

学校のカフェで談笑した時と同じ、軽快な笑顔を僕に向けてくる小早川先輩を見て、僕はひとつ息をついた。

 

 

「…ありがとうございます。小早川先輩」

 

これは「失敗しましたー」なんてことは絶対に許されないな…と思いながら、CADにゆっくりと霊子(プシオン)を流し込み、『完現術』と同じ要領で異物を引き寄せ、外へと引っ張り出していく。

 

 

 

『えー?キミのCADの時みたいに、ボクたちを使わないのかい?』

 

 

そんな声が聞こえた気がしたが、どうせ僕以外には聞こえていないのだから…とスルーすることにした。


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