魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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またもや、更新時間がズレてしまいました。
読者の皆様方、大変申し訳ありませんでした!


今回のお話は第三者視点で、場面も結構コロコロ変わりますので、少し読み辛いかもしれません。
また、時間軸が前後する部分も有ります。ご了承ください。


沢山のUA、お気に入り、評価をいただけたり、ランキング上位をとれたりしたのは、読者の皆様と月島さんのおかげ。(定期)



九校戦編-20:『ブック・オブ・ジ・エンド』は斬っていた

横浜中華街に建つ『横浜グランドホテル』の一室。

そこに『無頭竜』の幹部数人が一つのテーブルを囲んで座っていた。

 

 

「一体どうするというんだ!最終日である明日の本戦『モノリス・コード』の結果が出る前から第一高校の総合優勝が確定。それも『ミラージ・バット』で1,2位を独占した!」

 

幹部の一人が声を張り上げて、テーブルをたたいた

 

「だから言っただろう!!もっと早く……初日からも一高への妨害工作をすべきだと!後手に回って慌てても後の祭りで、取り返しがつかなくなると!!」

 

「CADへの妨害工作は有力選手を潰すために活用した!本戦『バトル・ボード』でも選手を棄権へ追いやったではないか!」

 

「しかし新人戦の男子競技での一高への妨害はどうだった?どこの馬の骨とも知らん男子生徒へ『電子金蚕(でんしきんさん)』での妨害をしたにも関わらず、何度も失敗。その挙句、臆病風に吹かれて一高の対戦相手への細工へと切り替えたが、それも中途半端ではなかったか。一体どこの誰がそんな指令を出したのか…」

 

そう言う幹部は、ため息をつきながら別の幹部のほうをチラリと一瞥した。

その視線を向けられた方は、怒りで顔を赤くしながら睨み返し、イスから立ち上がり怒鳴り散らした

 

「その判断は正しかったではないか!事実、今日の本戦『ミラージ・バット』、貴様らに無理に押されて第一高校の選手のCADに細工を指示したが、無効化されるどころか工作員が取り押さえられる結果になった!アレのせいで足がついたらどうする!貴様らの責任だぞ!!」

 

本日行われた本戦『ミラージ・バット』。

その予選2戦目に出場する第一高校の選手のCADに、デバイスチェックの際に細工しようとした工作員が、司波達也という第一高校生徒に取り押さえられてしまう事態が起きた。

そのうえ、その場に九島烈が現れたことにより工作員には完全に逃げ道は無くなり、そのまま捕らえられてしまった。

 

その事を指摘し、肩を怒らせながら他の幹部たちを睨みつける……

 

 

……と、ここまで静観していた幹部の一人が静かに口を開いた。

 

「落ち着け…。今、この場ですべきことは、責任を押し付け合うことでは無い。如何(いか)にしてこの現状を打開するか話し合うことではないか?」

 

そう言われた立ち上がっていた幹部は、数秒だけ間を置いて「はぁ…」と息を吐いた後、改めてイスに座った。

 

 

「…さて、話を進めるが、「第三高校に勝ってもらう」などという考えが出来なくなったわけだが……こうなっては我々がとれる手段は限られてくる」

 

その言葉に別の幹部が頷く

 

「もはや手段は選んでられんな……。武力による介入で観客たちに死傷者を出し、『九校戦』を中止させ賭けそのものを無かったことにする……それしかあるまい」

 

もちろん、そんなことをすれば警察等も大きく動くうえ、賭博に参加していた客からは胴元である『無頭竜』へ苦情が多く寄せられるだろう。

しかし、だ。

それくらいならまだギリギリ何とかしようがある。少なくともこのまま『九校戦』が終わってしまうよりは全然マシだと、幹部たちは考えた。

 

 

「だが、そのための人員はどうする…?」

 

その一言で、幹部たちの眉間にシワが寄った。

観客に死傷者を出せるほどの力があり、仮に捕らえられたとしても情報を引き出されずらいのは、脳への手術や薬物の投与により意思と感情を奪い去られた存在……魔法師としてではなく道具としてしか扱われなくなった存在である『ジェネレーター』なのだが……

 

 

「……今、動かせる『ジェネレーター』はどれだけいる…?」

 

「…………この部屋を護っている3体だけだ。連れて来れる奴は、他所にももう1体もいない」

 

 

静まり返る室内。

そしてその静寂を破ったのは、本日何度目かになるテーブルが叩かれた音だった。

 

「どうなっているんだ!?『九校戦』の会場に送った奴らは……」

 

「他所に貸し出していたものを引っ張り戻し、今日会場に潜入させた『ジェネレーター』も()()()。連絡も反応も……()()()()()()()()()()…!」

 

焦りか、不安か、それとも怒りか。表情を歪めながら言う幹部と同様に、他の幹部たちも各々頭を抱えていた。

 

 

初日から、監視もかねて会場へ行かせていた『ジェネレーター』の1体。

そいつが二日目にして行方をくらました。

 

連絡も取れず、管理のための発信機等も忽然と消えてしまった『ジェネレーター』。

何者かが自分たちの動きに気づき、『ジェネレーター』をその先兵であると判断し消しにかかってきたのだろうか?

…だとしても、戦闘態勢に入れば即座にこちらへ情報が来るようにしているが、それは無かった。そのうえ、会場にいる『ジェネレーター』を襲おうものなら、それこそ騒ぎになるだろう……しかし、そういった様子も全く無かった。

 

その後も、監視のためにと新たな『ジェネレーター』を会場へと派遣していたのだが、その『ジェネレーター』たちも不意に何の痕跡も残さずに消えてしまう事態が続く……。

『無頭竜』たちは目に見えない()()と戦っているような感覚を感じていた…。

 

 

「と、途中から、『ジェネレーター』だけでなく下っ端も観客に混ぜて何人かその監視に行かせただろう!?そいつらはどうなった!?」

 

「定時連絡を続けている…………()()…!」

 

異常が無いことを知らせるために、決まった時間おきに行われる「定時連絡」。それが競技の終わったこんな夜中まで、何の報告も無しにずっと続いている……それは逆に異常である。

それを知り、その下っ端たちも『ジェネレーター』と同じく、この世に存在している保証が無くなった事を幹部たちは理解した。

 

 

再び訪れた静寂。その中で、一人の幹部が口を開いた。

 

「明日、ここにいる3体のうち1体を会場へ向かわせる。そして、会場へ到着してすぐに暴れさせ、観客を襲わせる。……何者かが手を出してくる前に、だ」

 

自分たちの護りを減らすことに躊躇(ためら)いはあったが、もはや背に腹は代えられない状況である事を幹部たち全員が理解していたため、誰からも反対意見は出ることは無かった。

むしろ、「明日でやっと解放される」といった気持すらあったのではないだろうか。

 

 

自分たちからその明日を消し去る悪魔が、ほんの数時間後に現れることも知らずに……。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

そのほぼ同時刻。

とある駐車場のある一台の車の中にて、小野(おの)(はるか)がつい昨日に頼まれた「『無頭竜』のアジトの所在」の情報を司波達也に受け渡しを終えたところだった。

 

報酬を受け取った遥は、車から降りていく達也の背中に問いかけた。

 

「保険……なのよね…?」

 

「ええ、保険です」

 

振り返らず淡々と言葉を返した司波達也は、車のドアを閉めその場を立ち去るように歩いて行く。

 

その姿を見つめながら遥は色々と悩んだが、いつの間にか達也が見えなくなってしまっていることに気づき、諦めたように車を動かしだした。

 

 

悩んでいた理由……それは、達也に渡した情報が完全に自分だけで調べたものでは無く、他人からの情報の裏付けを取ったものだということだった…。

 

 

―――――――――

 

 

時間は(さかのぼ)って、1日と少し前。

 

『九校戦』は八日目…8月10日の昼ごろ。

達也に新人戦『モノリス・コード』の決勝戦で使うマントを九重八雲の使い走りで届けに来た遥に、達也が『無頭竜』のアジトの所在を調べるように依頼する場面……その少し後の事だ。

 

 

達也と別れ、『無頭竜』を調べにかかる計画を考えながら乗って来た車まで徒歩で移動していた遥。

 

そんな彼女に、前のほうから屈強な体格の男が近づいて来ていた。

服装こそ一般人のように見えるが、その風貌はお世辞にもカタギの人間には見えなかったため、遥は「このままスルーすべきか」「それとも身を隠すべきか」と、とっさの判断を迫られる。

 

 

しかし、彼女が行動を起こす前に、彼女の眼前に誰かの後ろ姿が現れた。

 

一瞬身構えた遥だったが、その人物が着ている服が第一高校の制服である事に気づき「もしかして……」と思い、その背中を見上げた。

けれど、彼女の予想していた司波達也とは異なっており、達也よりも身長は高く、髪も長めであった。

 

その人物は遥の知らない人物ではなかった。

 

月島(つきしま)昊九郎(こうくろう)

 

先日、『九校戦』で大活躍をして認知度が爆発的に高まった月島だが、遥はそれ以前から少し知っていて興味も持っていた。

というのも、「ブランシュ事件」の際、遥が気にかけていた女子生徒…壬生(みぶ)紗耶香(さやか)を救った生徒だと知っていたから。そして、その壬生紗耶香へのカウンセリングの際に何度か話を聞いていたので、興味があったのだ。

 

 

そんな月島が遥の前に立ち、男に対してこう言った。

 

「失礼、ウチのカウンセラーに何のご用件でしょうか?」

 

そう言い放つ彼の背中から、遥はある種の安心感をおぼえた…。

 

……結局、男は「これを…」と短く言って、三つ折りにされた紙を遥に渡して「用は済んだ」と言わんばかりにすぐに何処かへ行ってしまった。

 

 

 

「何だったんですか?」

 

紙の事を問いかける月島。

 

「え、ええっと…連絡先だったみたい」

 

遥は苦笑いをしながら返事をした。

すると、月島は「おや?もしかして僕は馬に蹴られて死んじゃいますかね?」と笑いながら言っていた……。

 

 

……月島にはそう言った遥だったが、実は紙に書かれていたのは「『無頭竜』東日本支部のアジトの場所」それに加え、「今現在そこにいる幹部の名前」だった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

男は理解できなかった。

 

自分がほんの数日前まで『ジェネレーター』と呼ばれる存在の1体であったということを。

 

確かに、僅かながらではあるが、そのような扱いを受けていたような……そんなふうに動いていたような記憶があるような気はする。だが、よくわからなかった。

 

 

明確な最近の記憶は、ある地下室で目覚めたこと。男と同じように、質素なベッドに寝かされている男が何人かいたこと。そしてそばにあった携帯端末に、自分が所属していたという『無頭竜』という組織のボスを名乗る人物のメールが入っていたこと。

…そのメールには状況の説明と謝罪。そして「協力して欲しいこと」が書かれていた。

 

男は悩んだが、()()()()()()()()ため、書かれていた通りの事をした。

中には、まるで『無頭竜』の情報を売るような行為もあったが、ボスがメール内で書いていた「(あやま)ちを正す」という目的の一部なのだろうと考え、行動を続けた。

そして……

 

 

『ボスへ。任務達成しました。接触相手からの追跡も無い模様』

 

そうメールを送り、その返信で来たメールは……

 

『追跡が無いことはこちらでも確認した。ありがとう、これでキミは自由だ。容姿も変わり、幸か不幸かキミが『ジェネレーター』17号であったことはキミと私以外知りえないことだ。国籍が無いことは大変かもしれないが、人生をゼロから始めることが出来る。キミは皆と例の地下室をバラバラに脱出したまえ。あそこは捨てるべきだ』

 

『ボスは、いかがなされるのですか』

 

『あとは私の問題だ。ケジメをつけなければなるまい』

 

 

それ以降、メールは二度と来なかった。

 

男はボスの最後の命令に従い、目覚めた同じ境遇だった存在たちをまとめ、その地下から抜け出した。……これからどうなるかはわからなかったが、ボスから与えられた「自由」を(まっと)うすべく、男は行動を開始した。

 

 

……しかし、何故だろうか。男の頭からは不思議な感覚が抜けなかった。

 

昔から……それこそ、記憶が途切れる前から恩があるはずのボス。

その顔も、声も、名前も、全く思い出せない。

しかし、ボスからの助言で何度も助けられた記憶はある。

 

男は首をかしげた……だが、一番最初に見たメールに書いてあった「『ジェネレーター』から人間に戻った際、記憶への弊害が起こりうる」という一文を思い出し、男は「その一環だろう」と自分を納得させ……男は街の闇の中へと消えていった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「ふむ…。彼の前に出てみたけど、最後まで僕を()()()()だとは認識できていなかったようだね」

 

森崎(もりさき)駿(しゅん)が怪我により病院の病室に居ることにより、実質ひとり部屋となっていた月島(つきしま)昊九郎(こうくろう)が小さく呟いた。

 

 

「実験はおおむね成功。彼らの存在から、誰かが僕にたどり着くこともないだろうね」

 

実験。

 

ジェネレーター(じっけんだい)』に幾重(いくえ)にも施された手術や薬物を除去し、元の人としての存在まで戻せるかという、『盾舜六花』の実験(けん)練習。

怪我や傷といったものを「拒絶」を使い治すことはこれまでにも練習は出来たが、手術や薬物といったものは初めてであったためイメージの違いがかなりあった。しかし、何年前でも何重であっても「拒絶」は可能で『ジェネレーター』を人にすることは出来た。

 

そしてもうひとつ。

『ブック・オブ・ジ・エンド』の弱点のひとつとも言える、「自分を挟み込む」という制約。それの範囲を調べ、自分を薄めることができるかどうかという実験。

結果だけ言うならば、文字などといったものだけでの登場であればギリギリ可能であることがわかった。

だが、これの欠点として、文字だけということもあってあまり改変としての力が強く無いこと。そして、それにもかかわらず対象の記憶にはこころなしか強く印象に残っていることがあげられる。今回のような、元々相手の記憶が曖昧(あいまい)な場合以外には効果が薄いかもしれない。

 

 

 

「さて、後始末もちゃんとしないとね……」

 

そう言って月島は『栞』を取り出し、『ブック・オブ・ジ・エンド』を具現化させ……普段は使っていない方の携帯端末を斬りつけた。

 

 

「月島昊九郎は一度も触らなかった」という過去が挟み込まれたその携帯端末からは、送受信したものなどといったデータも含めた全てが痕跡も残さず書き換わり……文字通り「新品」そのものとなった。


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