魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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今回のお話は第三者視点です。


『十師族』の全ての反応を書くほどの気力もないので、大半はカットになるかと。
なので、『夏休み編』で今回のお話関連の内容を書くのは、次話だけになる予定です。その後は……どうなるでしょう?


無病息災なのも、月島さんのおかげ。


夏休み編-2:『十師族』

 

 

とある屋敷の一室。

建物から飛び出す形でつくられた空間は、ガラスによって仕切られている。

ガラスの向こうには、この屋敷の庭が広がっていた。

 

外からの光が差し込むそのスペースで、椅子に腰かけてティーカップに口をつける女性が一人。

 

 

「そう……。それで、ふたりは?」

 

女性は、扉のそばにたたずむ初老の執事に問いかける。

 

「戦闘といった戦闘は行わなかったようです。怪我も無く、意識もハッキリしており、精神的にも異常はありません。……別の部屋に待機させておりますが、お連れいたしましょうか?」

 

「いいえ、無事ならいいわ。それで、彼が渡してきたというものは?」

 

「こちらに…」

 

音を立てずに女性のそばまで近寄り、封筒を手渡す老執事。

ティーカップをソーサーに置いた女性は封筒を受け取ったあと、老執事が差し出したペーパーナイフを受け取り、封を開けた。そして中の折りたたまれた紙を取り出し、広げ目を通しだす。

 

 

「……ふふっ、()()()()()()()()

 

そう呟いた女性は、そばから少し引いた位置に立っていた老執事にその紙を渡す。

 

「返事をお願いします。「日時は20日(はつか)、昼過ぎに迎えを出します」と」

 

「かしこまりました」

 

頭を下げ、一歩下がる老執事。

女性はその顔に薄く微笑みを浮かべて言う。

 

「そうね……ここに到着する時間を、ちょうどティータイム前にしましょう。お茶で歓迎…というのはどうかしら」

 

「おおせのままに」

 

 

 

部屋から出ていく老執事を見送った女性は、ガラス越しの空を軽く見上げて、ここにはいない人物への言葉をこぼす。

 

「楽しみにしてるわ。……月島(つきしま)昊九郎(こうくろう)さん」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

東京都心にほど近い高級住宅街。その一角にある豪華な邸宅のとある一室……七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)の私室にて、その部屋の主が頭を抱えていた。

 

『大丈夫か、七草?』

 

その声の主は真由美が今現在あることについて連絡を取っている相手である十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)だった。

 

「え、ええ……。でも、ちょっと待って。情報を整理するから」

 

真由美が頭を抱えている原因は、彼女が「狸親父」呼ばわりする父・七草弘一(こういち)が半分……。

そしてもう半分の原因は、自身が通う国立魔法大学付属第一高校の後輩である月島昊九郎という生徒だった。……もしかすると、こちらのほうが割合が高い……いや、大半がこちらかもしれない。

 

 

―――――――――

 

 

事の始まりは今朝の、父・弘一の一言……

 

「第一高校に、月島昊九郎という生徒がいるだろう?奴はどういった人間だ」

 

その問いかけに、真由美は特に驚きもせずにいた。

『九校戦』であれだけ目立ったのだ。『十師族』が……そして自分の父親が月島昊九郎という人間に目をつけてもおかしくは無いと、大会が終わる前から思っていたからだ。

まさか自分にここまでストレートに彼の事を聞いてくるというのは流石に予想外だったものの、まだここまではよかった。

 

成績優秀であることなど、当たり障りのない感じで答えた真由美。

それに対し、弘一は特に興味を持ったりした様子も無さそうにしながら、次の言葉を吐いた。

 

 

「まあいい。……明後日、彼が七草邸宅(ここ)に来る」

 

「えっ……?」

 

「うえの二人は都合がつかないが、お前くらいは顔を出しておけ」

 

真由美が状況を理解するよりも先に、弘一は鼻で笑うような仕草をした。

 

「そう深く考える必要は無い。大人の真似事をしたがっている子供の相手をするだけだ。……『十師族』全てを相手にしようなどとは片腹痛い」

 

そう言い残して、弘一はその場から去っていった……

 

 

―――――――――

 

 

父がどこかへ行ってしまったため、どういうことなのかが解らないままになってしまった真由美が頼みの綱をかけたのは、同じ『十師族』である十文字克人だった……というわけだ。

 

そして、彼と連絡を取ったところ、最初に彼が言った言葉は「お前の耳にも入ったか…」で、続いて軽い溜息だった。

 

 

その後、真由美が十文字克人から聞いた話は、まとめるとこういったものだった。

 

 

『九校戦』が終わってすぐのこと…

 

 

最初に、一つを除いた『十師族』全てに同じような内容の文章が届いた。

それの差出人は『九校戦』で異質な活躍を見せた月島昊九郎であり、内容は大まかにいうと……

 

「魔法界の代表者とも言える十師族の当主様と是非(ぜひ)お話を願いたい。ここからここまでの期間中ならば時間をとれますので、お会いして頂けるかたはそちらのスケジュールで余裕のある日時をご連絡ください。お伺いさせていただきます」

 

……といったものだった。

この礼儀があるのか、馬鹿にしているのか……そもそも何かの冗談なのかとも思える文章。おそらく各家の当主は首をかしげただろう。

 

 

だが、その次……ある1つの動きで自体が大きく変わった。

それは、「『九島(くどう)家』によって、時間のひとつが埋まった」という月島昊九郎からの連絡。スケジュールが埋まったことが連絡されるのは予想はしても、まさか家の名前まで出すというのは、怖いもの知らずのすることだろう。

 

しかし、それ以上に重要なのが「他の『十師族』が手を付けた」という事実。

月島自体にはあまり興味が無くとも、有力かもしれない魔法師が他の家にまわるとなると、それを良しとは思い辛いというものだろう。そして、実際のところ「取り込む」にしろ「消す」にしろ、この誘いに乗った方が動きやすいというのは間違いないわけだ。

 

 

そんなわけで、『九島家』に続く形で「我も我も」と他の『十師族』も月島と約束を取り付けたのだ。

 

結果、「連絡先がわからない」という理由で文章がいっていなかった『四葉家』を除いた全ての『十師族』が関わることとなった。

月島昊九郎曰く、「表の顔が無い『四葉家』には、むこうから接触してきた時に対応する」とのことだった。

 

 

 

そして、そんな話を十文字克人から聞いた真由美が頭を抱えているわけだが、理由は当然こんな突拍子の無いことをしでかしているからだ。

 

「……十文字くん」

 

『なんだ?』

 

少しの時間黙っていた真由美からの呼びかけに、機械越しに答える十文字克人。

そんな彼に真由美は若干弱々しい声で言う。

 

「これって、どう考えても穴だらけよね?」

 

『……ああ』

 

間をあけて答えた十文字克人は、続けて言った。

 

『各家が「月島はすでにどこかと裏で繋がっているのではないか」という疑念を持っている。そうなると話にしろ、交渉にしろ、上手くいき辛いだろう。さらには、『十師族』同士にけん制をさせて、自身への危害を避けようとしているように感じられるが……こちらも半端だな』

 

 

真由美も似たようなことを考えていた。

 

外部の者を自分自身のテリトリーに入れるというのは懐に入れるというわけで、地の利が有ると同時に大きなリスクがある。少しでも怪しいと感じられれば、無事に返してもらえるという保証はない。

 

そして、他の家との時間が知られているということは、もし月島昊九郎に何かあった場合、その時に彼と約束をしていた家が真っ先に疑われることとなる。これによって互いが監視し合うような関係になるわけだが……どう考えても甘い。

 

誰かが彼の行動を監視しているわけでもないので、どこで途切れたかなんて判りっこない。それに、自分の家が約束した日以外で月島昊九郎をどうにかしてしまえば、別の家に罪を擦り付けることも簡単だ。

第一、大半の『十師族』は様子見に近いため、仮に月島昊九郎が消されたとしても「他所に渡らなかったならいいや」程度に終わらせてしまうだろう。

 

 

真由美は父親が何故「大人の真似事をしたがっている子供の相手をするだけだ」などと言っていたかを理解した。

 

「確かにコレは、未熟者のすることだわ……」

 

『そうとは限らんぞ?』

 

機械越しに聞こえた声に、真由美はため息をつきながら返した。

 

「どう考えても、月島君が危ないことをしてるだけじゃない!十文字くんは心配じゃないの!?」

 

『心配じゃないと言えば嘘になる。だが同時に、こんなお粗末なことを()()月島がするか?…という疑問も湧いてくる。……『九校戦』開催中から考えられていたとすれば、もっとスマートなやり方もあっただろう』

 

 

十文字克人の言うことには、真由美も少なからず理解は出来た。しかし、納得までには至らず、相変わらずモヤモヤとした感じをおぼえる。

 

 

「……それじゃあ、なんで月島君はこんなことしてるの」

 

『わからん。そもそも、後ろ盾が欲しいのか、『十師族』に入り込みたいのか……何がしたいのかがわからない以上、何とも言えない』

 

『ただ……』と十文字克人は言葉を続ける。

 

 

『「誠意には、誠意を。悪意には、悪意を返す」と文面に書いてあった。……もしかするとこの話の()自体、『十師族』それぞれの家を試すために月島がしかけた罠かもしれんな』

 

 

その言葉を聞いた真由美は、息を飲んでしまう。

 

『九校戦』では頼もしささえ感じた存在。その彼が敵に回るかもしれない……真由美は、今自分がしているのが「彼の心配」だけではなく「自分自身への心配」も含まれているのだと、ここで初めて気がついた。

 

彼の実力が『十師族』のそれに勝っているかどうかは正直わからないだろう。

だが、真由美の心には、月島が『アイス・ピラーズ・ブレイク』決勝で見せたあの『闇』のような、どこか底知れない不安が渦巻いていた……。


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