魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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今回のお話しは七草会長視点でのお話となっています。

普段あまり扱わないキャラの視点で色々と難しく、書いている最中も違和感がありました……。
でも、ここを月島さん(モドキ)視点でやるわけにもいかず、今回のような形になりました。


そして、このたび通算UA100万突破を達成することが出来ました!

毎回のお話を面白くは書けない力量の自分でありますが、思い付きで書き始めたこの「魔法科高校の月島さん(モドキ)」をここまでなんとかやってこれました。よろしければ、これからもお付き合いいただければと思っております。

これも、読んでいただいている・お気に入り登録してくださっている・感想を書いてくださっている、そんな多くの読者の皆様のおかげです!


そして、感動もネタも……いろんなものを与えてくれる、月島さんのおかげ。(いつもの)


夏休み編-3:七草家邸宅での出来事

ついに訪れたその日。

 

 

七草邸宅に月島君が来た。

 

月島君は、『アイス・ピラーズ・ブレイク』の決勝戦の三試合目の時と同じ服装。ワイシャツ、ズボン、それにサスペンダー。彼の後輩たち曰く、月島君が本気(マジ)の時の格好らしい。

その様子は学校でのそれと同じだった。ある程度の礼儀をわきまえながらも悠然と構え、顔には薄く笑みを浮かべている。

 

 

客間で始まった会談。私から少し空けた隣のソファーは狸親父が。そして対面する形で月島君が座っている。

 

会談は最初からとんでもないものになった。

 

 

 

きっかけは狸親父の最初の一言。

 

「ふんっ。貴様が何の用で我々と話そうなどと考えたかは知らないが、こちらも暇ではない。早くすませようか」

 

 

「それはありがたい」

 

 

月島君の表情は変わらない。ただ、彼の口調から丁寧さが少し欠けた。

 

だけど、それ以上に変わった点があった。

 

それは客間の空気。

「張りつめている」なんていう表現では足りない、何かが全身に重くのしかかってくる……それ以上に、空気に触れている全ての部分から圧力を感じているような感覚……。そして、時折見える活性化した霊子。

 

似たような感覚を私は知っていた。

それは先程思い出していた『アイス・ピラーズ・ブレイク』の決勝戦。その時に月島君が使ったあの『闇』。あれから感じた圧とよく似ている。

ただ違う点もある。身体のもっと奥、まるで心臓や肺が……いえ、もっと奥の何かが締め上げられるような感覚さえ感じているという点。そして、「ピシリ」「パキリ」と何かが(きし)むような音と、地鳴りのような音が聞こえる気がするという点だ。

 

 

空気が変わった瞬間、動いた人は()()()()いた。

 

それは、私のボディガードである名倉(なくら)三郎(さぶろう)さん。

私が座っていた席の後ろにいたのだけど、すぐに私と月島君の間へと割り込み、そして……

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その様子は、まるで月島君に(こうべ)()れているようにも見える。

……けど、名倉さんが望まずしてそうしているのは、何かに耐えるように突っ張った手足が震えていることからわかる。

 

 

「つ、月島君…!?何を……」

 

なんとかソファーから立ち上がり月島君へと声を投げかけようとしたけれど、その途中で月島君が片方の手のひらを私に向けて制止をかけてきた。

 

「おっと。そこから動かないでください、七草真由美会長。貴女には()()()()当てないようにしていますが、その場から急に移動されると対応しきれません」

 

そう言ってくる月島君は、口調も含め、学校での私への対応と同じだった。

それにほんの少しだけ安心しつつも、月島君の言ったことについて考える。

 

名倉さんが倒れ込んだのは、私から離れてしまい、月島君が「当てる」と言っている()()の影響を受けているからだと考えられる。そしてその何かはあの『闇』に近いもの……。そう考えると、月島君は一瞬にしてその魔法を使ったということになる。それも魔法式を認識させないほどの高速で。

 

同時に、私は理解した。

 

私が今「押しつぶされる」「締め上げられる」と感じている以上の感覚を、私以外の人間は感じているという事を。

 

 

 

「…さて、七草弘一さん。今、僕が何をしているかわかるかい?」

 

「……広範囲…への、『加…重ま……ほう』…」

 

そう息切れ気味で言う父は、見た目こそちゃんと座れてはいるが顔には汗が幾筋にも流れている。名倉さんと同じく、この圧に耐えているみたいだ。

それに対して、月島君は「やれやれ」といった様子で首を振った。

 

「そういう質問じゃないよ。これが威嚇だとわかるかい?……そう聞いたんだ」

 

「……威嚇…?」

 

私の零した疑問に対してか、それとも最初から言うつもりだったのかはわからないけど、月島君はそのまま言葉を続けてくる。

 

「誠意には、誠意を。悪意には、悪意を返す……そう伝えていただろう?この部屋の周囲に魔法師を待機させ、僕を狙わせていた。その答えがこの威嚇だ」

 

そう言いきると同時に、圧と…それに伴う音が強くなった。

 

私はそれを感じながらも『マルチ・スコープ』を使用し、部屋の周囲を確認する。

……確かに十数人の魔法師がいた。中には見たことのある顔もある。月島君の言う通り、七草弘一(こちら)側が仕掛けた刺客に間違いないだろう。

魔法師たちの状態は名倉さんよりも酷い状態であり、大半が放心・気絶していてマトモに意識がある人はいなかった。

 

 

「っ……月島…君、こちらに非があったのは認めます。ですから……(おさ)えていただけませんか?」

 

重い空気の中、私は普段月島君に対しては使ったことの無い口調で()()。もう、学校の先輩・後輩という関係や、歳の差などといったものとは別の格の差というものを感じ取ってしまっていた。

 

月島君が短く息をついた。

 

すると、先程までの圧は無くなり、いつも通りの空気が客間に帰ってきた。

私はつい安堵の息を吐いてしまう。それとほぼ同時に、私と月島君以外の人からは「スーハー、スーハー」と繰り返し大きく息をしている音が聞こえてきた。それほどまでに、先程まではロクに息もできていなかったのかもしれない。

 

 

そんな私たちを一瞥した月島君は、再び正面を向いて口を開いた。

 

「これまで訪問した『一条(いちじょう)』、『二木(ふたつぎ)』、『五輪(いつわ)』、『十文字(じゅうもんじ)』の中では一番やり易い。彼らは友好的であったりその真逆であったり……はたまた、無い腹を探ろうとしてきたりと、話がし辛かったりもした。そんな中でも『七草(きみたち)』は好印象だ。手早く本題に入れる辺りは特に、ね。それに魔法師の配置はすれど、どこぞの連中のように僕の家や移動中なんかには手を出してこなかったのもありがたかったよ」

 

「どこの家だとは言わないけどね」と付け足した月島君は、こちらの反応は別に望んでいないかのように喋り続ける。

 

「今回、こうしてキミたちに会いに来たのは話し合いなんてものじゃなくて、一方的なものさ。挨拶と様子見……それと僕の意思を伝えるためだ」

 

「意思…?」

 

「僕の手の届く範囲であればこの国の平和は守る気はあるが、お家問題や権力争いなんかは興味は無い。他所でやってくれ……ただ、それだけの内容さ。……さて、僕の用は以上だ」

 

 

そう言って立ち上がり、客間から出ていこうとする月島君。

そんな彼を私が引き留めようとする…その前に……

 

「待て」

 

父・弘一が言葉を投げかけていた。

 

「貴様の、目的はなんだ」

 

「先程言ったけど?……あえて付け足すとすれば、「敵対するだけ無駄だ」と理解してほしかった…ということぐらいかな?()()()使()で大人しくさせるのは面倒なんで」

 

「…違う!それほどの力を持ってして、貴様は何をしようとしているんだ!」

 

大声で言われ、面倒そうにため息を吐く月島君。

 

 

「何を、と言われると……そうだね。のんびり過ごしたい…かな?」

 

 

その言葉に、誰もが呆けた顔をした。

 

「……魔法師として…いや、あんな目立ち方をしたヤツの言葉とは……思えない。それに、貴様の考えは甘すぎる」

 

 

「目立ったのは……僕も人だから色々とね…。魔法師としての道に足を踏み込んだことは、時々少しだけ後悔したりしている。……甘いことは否定はしないよ。そして、この甘い考えを押し通せる世界にするためにも、僕はこうして『十師族(きみら)』に会ってまわってるんだ」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「月島君!」

 

ああ言い残して客間を出ていってしまった月島君を、私は少し遅れてだけど追いかけた。

この邸宅内を一人で歩き回ることを危なく思っているわけじゃない。……さっきの月島君を見たら、そんな心配はいらないことはわかっている。

 

 

ただ不安があった。

 

時折あった私への対応はいつもの月島君。

けれど、今日、これまで知らなかった月島君の一面を見てしまった。それが大きすぎた。怖さ・恐ろしさを感じているけれど、このまま帰してしまい次は学校で会うとなると、ちゃんと接することが出来る気がしなかった。

だからこそ、今のうちにちゃんと面と向かって話しておきたかった。

 

 

 

駆け足で追いかけ、玄関近くでなんとか月島君に追いついた。

 

「月島君っ…!」

 

私の声に振り返った月島君の顔は何故か申し訳なさそうで、眉が少し八の字気味になっている。

 

 

「…七草会長。お騒がせして、すみませんでした」

 

頭を下げてくるその姿はいつもの月島君で安心しつつも、客間での月島君と()()()()()()()()()()()()()…という不安が残っている。

そして、何と言うべきかと私が悩んでいるうちに、先に月島君が動いた。

 

「ええっと、(たず)ねたいことがあるんですが…」

 

「な、何かしら?」

 

「もしかして、会長には妹さんがいたりしますか?」

 

月島君の言葉に、なんでそんなことをいきなり聞いてくるんだろうか?…という疑問と、一抹の不安がうまれる。一瞬どういうことかわからなかった。確かに2人いるけれど……

そして、その答えはすぐに彼の口から出てきた。

 

 

「本当に申し訳ないんですが……凄く怖がらせてしまいました」

 

 

……私はある事を思い出した、謎の圧力(あの空気)が客間内だけでなく周辺にも影響していたことを思い出した。

そしてもう一つ。

月島君が来るという事を知った妹たちが、昨日、「どういったご関係で!?」等、私に色々と聞いてきて月島君に興味(?)を持っていたことを思い出した。

 

それが繋がり、どういうことかを理解する。

 

「……っ!?」

 

「客間の隣…ひとつ手前の部屋ですね。いちおう()()もさせておいたから大丈夫だとは思います……それで彼女たちですが、そろそろ起きる頃かと」

 

私が2人が何処にいるか探そうと意識を向けようとする前に、月島君から2人の居場所が告げられた。

 

「お(しか)りはまた後日受けます。僕が今行くと逆効果ですし……ここで失礼させていただきます」

 

「これ以上の見送りはいりませんので、行ってあげてください」…そう言って月島君は玄関から出ていった。

 

 

出ていってしまった月島君のことも気になったが、それ以上に2人のことが心配でならなかったので、再び駆け足で廊下を移動して月島君が言っていた部屋へと向かう…。

 

 

―――――――――

 

 

……盗み聞きでもしようとしていたのか、2人は客間側の壁にもたれかかるようにして気を失っていた。

 

香澄(かすみ)泉美(いずみ)!」

 

2人の肩に手を置き軽く揺すりながら名前を呼ぶと、2人はすぐに目を開け始める。

 

 

「……ん?あれ?……ハッ!?大丈夫!?」

 

目覚めてすぐ、自分よりも私の心配をしてくる香澄。

 

そして、泉美はというと目覚めて少しの間、目をパチクリと瞬かせていたかと思えばどこか遠くを見てほけーっとしていた。

心配になって、もう一度声をかける。

 

「大丈夫なの?何処か痛いところがあったり……」

 

 

 

「胸を…締め付けられるような感覚……これが恋なの…」(ほわり

 

「違うわ。だから戻ってきて」

 

私と一緒に、香澄も青い顔をして首をブンブンと振っていた……。

 

 


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