魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
「月島さんのおかげ」と言えるのも月島さんのおかげだと考えると、全てが月島さんのおかげに思えてくる不思議。
『新入部員勧誘週間』。それは各部活動所属者にとって、才能の原石や優秀な後輩を見つけ出し、自分の所属する部に勧誘する……ある意味でその部活の未来に大きく関わる重要な行事だ。
生徒たちに熱が入っている上に、魔法系クラブを中心に CAD(術式補助演算機)を持ち歩いている生徒たちもいるため、勧誘中の衝突、新入生の取り合いなどのいざこざが起こる。
そんな中、
生徒会のほうから手伝いの人が出たりもするそうだが、それでも入って早々こんな大きな仕事があるのだから、それはもう大変なことである。
時に、この学校にはオカルト研究部みたいな部活はあるのだろうか。『BLEACH』に登場する能力を持っている身としては、そういった心霊・スピリチュアルな部活に興味があるのだが……。
そういえば、この世界って精霊とか使い魔とか呼ばれる奴が普通にいて、それらのチカラを借りて使用する魔法もあったはずだ。となると、心霊とかというものはこの世界にとってはあまり面白いものではないのでは…だとすると、部活にはないかもしれないな。
え?『BLEACH』のどこが心霊やスピリチュアル物だったかって?
最初から最後までそうだったじゃないか。主人公の黒崎一護くんに謝……らなくていいね、うん。
…話を戻そうか。先程風紀委員全員での活動の最終確認を終え、これから風紀委員の各自がバラバラに別れて見回りをするわけだが……。
「それじゃあ達也、頑張ってね」
「ああ。月島こそ」
そう言って、僕と達也は別々の方向へと歩いていく。
それにしても、達也は本当にCADを2つ持っていくんだな…。
アニメのおかげで色々と流れやその理由については知っていたが、実際にCADを持つようになった身としては、どうしてもCAD2つ使うというのは感心をしてしまう。
少なくとも、今の僕には出来ない芸当だ。
「…人のことよりもまずは自分の心配だ」
僕の記憶の中に残っている知識内で憶えている今日起こる問題は「剣道部と剣術部の衝突」くらいだ。だが、これは達也が解決してくれるはずなので問題無い。
むしろ、その現場には僕は近づかないほうがいいかもしれない。もし一歩間違えて達也よりも早いタイミングで介入してしまったり、僕が体育館に先に入って達也が「月島が見て回るならいいか」と
というのも、
もちろん、『
そして、僕の戦闘が『完現術』での高速移動からの不意打ちが基本であるため、それを使用しない単純な戦闘では相手がその道の部活なわけで、接近戦で勝てる気がしない。その上むこうが複数人で来たり、高周波ブレード等の魔法を使用してきた場合、僕は逃げることしかできないだろう。
「大人しく体育館がある場所とは別の場所を見て回るとするか…」
そう考え、僕は校門のある校舎正面のほうへと歩きだす。
―――――――――
校門近くへたどり着く少し前に、先日知り合ったとある人がチラリと僕の視界に入る。
どうやら、むこうも僕のことに気づいたようだった。
えっ?何故わかったかって…?
その人が逃げたからだよ。
僕に気づいたとたんビクリッと飛び上がって、来た方へと小走りでUターンして行ってしまったのだ。
それにしても運が悪いなぁ…あの人は。
僕はそんな反応されると追いかけたくなる
さて、先回りをしよう…。
大丈夫、大丈夫。『
風紀委員の仕事?
ああ、ちゃんとこなすとも。先回りしてる途中で騒ぎを見かけたらちゃんとソッチを優先するさ……だた、急ぎ過ぎて僕の眼に映らないかもしれないけど、それは仕方ないよね?
―――――――――
「ひゃあぁ!?」
「中条先輩…顔を見ただけで逃げたり、叫んだりしないでいただきたいのですが…」
先回りして目の前に出たとたんコレだよ…。
僕を見て逃げ出した人。それは生徒会のメンバーである二年生の
中条先輩とは、昨日僕が演習室にお邪魔した時にとあるCADを手に恍惚の表情を浮かべていたのが僕から見たファーストコンタクトだった。…中条先輩から見たら、その後の僕の顔を見て叫び声をあげたところからがファーストコンタクトだと記憶しているだろう。
あの後、七草会長や渡辺委員長が間に入った状態で互いに自己紹介などをして怖いという印象を払拭しようとしたりもしたのだが……相変わらず、怖がられてしまっているようだ。
「それで、なんで逃げたりしたんですか?僕、風紀委員に対して後ろめたさがある生徒なのかと思い、こうして追いかけてしまったのですが…」
もちろん、この言葉は嘘である。が、何かしらの理由付けがあったほうが中条先輩も納得できるだろう。そして、納得してくれれば少しくらいは心を開いて……。
と、そんなことを考えていると、いきなり中条先輩がピョンピョン
「お、お金は持ってませんから~!」
「いや、小銭が無いか確認するためにジャンプさせるって、いつの時代の不良ですか」
「はわっ!靴の底にも隠してませんよ!?」
「疑ってもいませんから。そもそも、お金を取り上げたりしませんよ。人違いで追いかけただけです」
涙目で「…本当ですか?」と聞いてくる中条先輩に「本当です」と返して落ち着かせる。
…お金を取ろうとしたわけじゃないってほうに本当って言っただけだから、一応嘘は言っていない…ということにしてほしい。じゃないと罪悪感が湧いてきてしまう。
ここで、ふと僕の頭の中にあることが思い浮かんだ。
「…もしかして、生徒会からの手伝いというのは中条先輩なんですか?」
「はいぃ…!」
怯えながらの返答ではあったが、答えは「YES」のようだった。
それにしても、この人が諍いの仲裁なんかをできるのだろうか?いやまあ、できるから生徒会の代表として手伝いにかりだされているのだろうけど…気になるな。
「中条先輩。中条先輩の仕事を見学させていただきたいんですが…」
僕がそう言うと 中条先輩が「何故?」といった疑問を浮かべる表情になった。なので、僕は急きょ理由をつけることにした。
「風紀委員に配属された後にこんなことを言うのもなんですが、僕、あまり
「ウソはいけませんよ…?」
「嘘?失礼ですが、僕のどのあたりに嘘が…?」
「ふ、不良の
ああ…やっぱり中条先輩から見た僕の認識ってそういう感じなんだ。半分予想はしてはいたけど、こうやって面と向かって言われると少し傷つくなぁ。
「それに……」
そう言って中条先輩は僕の腰あたりに目をやった。
彼女は何を見ているのか…。まあ、ほぼ間違いなく僕が腰にさげてある
「武装一体型CADを使ってる人が荒事が苦手とは思えません」
武装一体型CAD。その名の通り、『魔法』を発動する為の起動式を魔法師に提供する補助装置であるCADが、なにかしらの武装に内蔵されている物を指す言葉だ。一般的に武装一体型CADに内蔵されているCADは、多様性を重視した汎用型CADではなく、魔法の発動速度を重視した特化型CADである。
そして、中条先輩の言った通り僕の持っているCADは武装一体型なのだ。
見た目は「真っ白な抜き身の刀」。もちろん刃は付いていない。だけど、見る人が見ればソレが何なのかがわかる。
長方形の
そう、この武装一体型CADは一般で売ってあるものを僕が改造・カスタマイズし、『ブック・オブ・ジ・エンド』の発動状態の姿…『
自分が普段使うCADをこの形状・デザインにした理由は、ひとえに『ブック・オブ・ジ・エンド』を見られた際にある程度はごまかしがきくからだ。
…とまあ、そんな刀型の武装一体型CADを持ち歩いている人間が「荒事が苦手」って言っても、確かに納得できないだろう。
実は、
ならば…。
「もちろん戦えないわけじゃないですが、少々手加減が苦手で…。取り押さえる相手を風紀委員が大怪我させてはいけませんし、生徒たちが熱くなった時にどうするべきかわからず、上手く行動が起こせそうにないんです」
「大怪我」あたりで、何を想像したのか中条先輩の顔が恐怖で引きつっていたが、僕が全て言い終わった後には「じ、事情はわかりました…」と震え声ではあったが納得してくれたようだった。
「でも、私のやり方は参考にできないかと…」
「…といいますと?」
「最初のうちは言葉で注意して……それでも熱くなって騒ぎが起きそうになると『
「『梓弓』?」
聞き覚えの無い言葉だ。おそらくは魔法名なのだろうが……記憶にない。
そんな僕の様子を察してくれたのであろう。まだ少し怯え気味ではあるものの少しは僕に慣れてきたのであろう中条先輩が口を開いた。
「一定の範囲内の人を一種のトランス状態にする効果がある『情動干渉系魔法』で…。わかりますか?広い意味では『精神干渉系魔法』の一種なんですけど…」
「なるほど…」
そういえば、アニメの最後から何話か前で何か弓っぽい魔法を使っていた描写があったのを思い出した。
あの時、何の説明もなかったが……なるほど『精神干渉系魔法』の一種だから使うのを躊躇っていたのか。『精神干渉系魔法』には厳しい使用条件が課せられている…とかそんな話を聞いたことがあったので納得する。
確かに『精神干渉系魔法』等の魔法は誰でも扱えるわけでは無いので、「参考にならない」と言っていたのも頷けた。
「となると、後は卵が先か鶏が先か……」
「…?いったい何の」
「いえ、独り言ですので気になさらないでください」
うっかり「中条あずさが『梓弓』を使うって…どっちが先なんだろう」というメタァ…な事を考えてしまっていたが、それを無理矢理中断した。考えても意味は無いのだから、時間を無駄にすべきではないだろう。
「そういうことなら、確かにあまり参考にできそうにないですね。仕方ありません……生徒会の代表として風紀委員の手伝いに出る、頼りになって優秀な中条あずさ先輩のその
「ふぇ!?」
何に驚いたのかはわからないが気の抜ける声をあげた中条先輩が、うつむき気味になりアゴに手を当てて、何かブツブツと呟きながら考え込みだしてしまった。
よくわからないが、いい加減風紀委員の仕事に戻るべきだろう。
そう思い、僕は「それでは、失礼します」と中条先輩に軽く頭を下げた後、その場を後にした。
その少し後に…。
「そ、そこまで言うなら、少しだけなら見学しても……って。あれ?いない…」
と、遠くから聞こえた気がしたが……まあ気のせいだろう。
―――――――――
中条先輩と別れてから(というか置いてきてから)、僕はちゃんと風紀委員として見回りの仕事をしていた。
争いになりそうな場面にも何回か遭遇したが、みんな「風紀委員だ」と言って仲裁に入るだけで大人しく引き下がってくれたので、荒事は起きずに済んでいる。
そんな見回り中、後ろのほうから何者かが声をかけてきた。
「月島さん!」
この学校で新入生である僕を「さん」付けで呼ぶ人間は限られているから、その声の雰囲気と合わせて誰なのかがすぐにわかる。
振り向くと、予想していた人物と……それとその隣にもう一人がいて、こちらへ駆け寄ってきた。
「光井さん。それに北山さんも。所属する部活は決まったかい?」
「はい、一応は…」
「……(コクリ」
僕の問いかけに光井ほのかさんが答え、北山雫さんはそれに同意するように頷いてきた。
同じクラスなこともあって、比較的顔を合わせることは多い……まあ、他のクラスメイト(主に男子生徒)の鋭い視線が面倒なため、クラス内で会話することは少なく、挨拶を交わす程度だ。
所属先が決まったのであれば、この新入部員勧誘週間もいくらか過ごしやすくなるだろう。
……と僕が考えていると、北山さんがこちらをジットリと見てきているのに気がつく。
「…どうかしたかい?」
「この前、名前で呼ぶように言ったの覚えてない?」
この前というと、下校騒動の後、達也たちと一緒に帰った時のことだろう。…確かにそんなことを言われた覚えはある。
けど、あの時僕は「名前じゃなくて「月島」のほうで呼んでくれ」ってメンバーに言ったんだけど…。
「僕は「名前で呼ばないでくれ」って言ったのに…こっちは名前で呼んでいいのかい?」
「私はそれでいい」
「あっ、私も「ほのか」って呼んでください」
達也も他の人もそうだったけど、そのあたりのことは 結構寛大だねぇ…。いや、僕が気にし過ぎなのかな?
その後、ふたりと「風紀委員は大変か」とか「武装一体型CADを使ってるんだ」とか他愛のない話をした…。
…名前で呼ばれたくなかった理由?
それはもちろん「月島さん」って呼んでくれる人が欲しかったからだよ。