魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
「独自解釈」「捏造設定」「ご都合主義」「原作改変」等が多々含まれています!
原作と大きく異なる流れがある部分が存在します。
今回は、今回初登場の留学生アンジェリーナ=クドウ=シールズの視点でのお話となっています。
……色々と慣れていなかったので、不安です。あっ、あと「ワタシ」「私」等の原作でされているカタカナ・漢字の使い分けはしていません、ご了承ください。
劇場版でも月島さんと一緒に活躍していたリーナ。今作ではどうなるでしょうか?
えっ?劇場版に月島さんは登場していない?何言ってるんだ(以下略)
月島さんを書きたいけど書けない、それはすしがわらが作ったプロットのせい……だけど、月島さん(モドキ)の姿が見えていなくても心配いらないとわかるのは、月島さんのおかげ。
ワタシに与えられた任務である潜入捜査をこなすべく、留学先となった『国立魔法大学付属第一高等学校』に通い始めてから数日が経ちました。
授業を終えて、少し寄り道をしつつワタシがむかった先は、第一高校からそう遠くないマンション。そこには留学にあたりワタシ、アンジェリーナ=クドウ=シールズが借りている少人数家族用のファミリータイプの間取りの部屋がある。
「おかえりなさい、リーナ」
「シルヴィ、先に帰っていたんですか」
「もう夜ですよ」
帰り着いたマンションのドアを開けた先で待ってたのは、ワタシと同じUSNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊『スターズ』のメンバー、シルヴィ……シルヴィア・マーキュリー・ファースト。准尉の階級を持つこの部屋の同居人であり、今回の任務においてワタシの補佐役を務める人物。コード・ネームである「マーキュリー・ファースト」が「
『スターズ』には『
そのシルヴィに出迎えられ、第一高校の制服のままダイニングへ行くと、そこには先程までシルヴィと話していたのでしょうミア……ミカエラ・ホンゴウがいました。
「ミア、来ていたんですか」
「は、はい、お邪魔しております、
ワタシの言葉に強張った声で答えるミア。それに少し困りつつも、少しでも緊張を解いてもらえるようにと、シルヴィにお茶の用意をお願いします。
ミアはワタシと同じ日系アメリカ人なのだけど外見はとても日本人的で、金髪碧眼なワタシとは違って日本人に囲まれていても違和感が感じられない容姿をしています。
そんなミアですが、ワタシやシルヴィが所属している『スターズ』のメンバーではありません。放出系の魔法を研究する国防総省所属の魔法研究者で、今回は様々な経緯、そして本人の志願があって、諜報員としてワタシたちよりも先に日本に潜り込んだのです。
……だから、というわけじゃないですけど、そこまでカチコチに
そんな事を思いながらも、ミア本人に率直に「肩の力を抜いて頂戴」なんて言うのも何か違う気もする。
仕方がないから、イスに座っておとなしくお茶を用意してくれているシルヴィを待つことにしました。
少し経ち、ミルクティーを用意し持ってきてくれたシルビィがイスに座るのを確認して、ワタシはシルヴィに
「何かわかりましたか?」
ワタシの問いかけにシルヴィは小さく首を振ってから、口を開きました。
「公的なデータベースを洗い直していますが、今のところはまだ何も新しい情報は見つかっていません」
「そうですか……。そんなにすぐに結果が出るようなものでもないのでしょうね」
半分くらい予想していた答えに、ワタシは特別落胆したりもせずに返事を返しました。
そして、今度はミアへと話を振ります。
「ミアの方はどうですか?」
「こちらも、まだこれと言って……す、すみません」
相変わらず緊張しているミアにほんの少し不満を感じつつも、
……さて。シルヴィのほうも、ミアのほうも、特にこれといった進展は無かったようですが……これは先程も言ったように、調べ始めてから……来日してからの活動期間がまだ短いことも関係してくるでしょう。
時間は限られているとはいえ、その中で気長に構えておく姿勢が必要かもしれません。でないと、最初から焦り過ぎて逆にこちらの素性を悟られるようなことになりかねません。
……ああ。でも、まだ報告が出来ていない人物がいますね……
「リーナはいかがです? 少しはターゲットの二人と親しくなれましたか?」
そう。第一高校に留学生として潜入しターゲットと接触、間近で観察したり周囲の人間から聞き出すことで情報を得る……それがワタシの遂行すべき任務です。
さて、シルヴィへの答えなのですが……
「少しは親しくなった、と思いますけど……」
答えは「YES」なのですが、胸を張って言えるほどでもなく、収穫と言える情報も特には……むしろ不安要素がいくつか浮かび上がってきたくらいでした。
編入したクラスのクラスメイトである容疑者の一人、ミユキとはクラスメイトということもあって接触する機会も多い。また、ミユキの魔法力・魔法技能はとても高く、実習の際などにはワタシの
さらに言うならば、昼休みの昼食の際などにもご一緒させてもらっていて、留学生として違和感のない十分な交流をしているクラスメイトの中でもとりわけ交流が深い相手となっています。
もう一人の容疑者でありミユキの同学年の兄であるタツヤ。彼ともミユキを通じて知り合い、タツヤの他の友人たちと共に昼食を共にしたりと、少なからず友好関係を築けていると思います。
ただ、ミユキやタツヤの
……こういった任務の難しいところは、
そして、今回の件で浮かび上がってきた不安要素もある。それも含めてシルヴィたちに報告しなければいけないでしょう。
「ある程度は親しくなったと思いますが、肝心なところはまだ何も……それより先に、コッチの正体がバレちゃいそうです」
「……何かあったんですか?」
内容が内容だけに、シルヴィがこれまでよりも一層真面目な顔をして聞いてきました。
ワタシは短いため息をつきつつ、何があったか話します。
「タツヤに「アンジェリーナの愛称はアンジーじゃないか」って聞かれました。もう、ドキドキしましたよ」
「偶然ではないんですか?」
確かに偶然という事も考えられなくはない。愛称というのは法則性があるもので、名前によって数パターンあったりもするけど基本的には決まっており……逆説的に言えば、愛称を聞けば本名も絞られることだってあります。そう考えれば、タツヤがその法則をある程度知っていれば、先の「アンジェリーナの愛称はアンジーじゃないか」という疑問は出てきてもそれほどおかしくはありません。
もちろん「アンジェリーナ」の愛称には「アンジー」や「リーナ」はありますし、他にもありますから、タツヤが
……まぁ、だからどうしたって話ですし、たまたまタツヤが以前に知ったアンジェリーナという人物が「アンジー」と呼ばれていて、それが印象に残っていただけかもしれませんが……
そういうことで、偶然とも言えなくも無いけどそうでないとも言い切れないわけで、お手上げ状態に近いのです。
「わかりません。さっぱりです。やっぱりワタシにはむいていないのでしょうか?」
こんな状況で言うべきかはわかりませんが、ワタシは本来こういった情報を探るような任務にはつきません。基本は戦闘員です。
ですが、今回は容疑者が高校生であり年齢的に潜入に適しているということで、こうして戦闘員であるワタシが諜報活動を行うこととなりました。……正直、今でも少し自分には合っていない任務だと思っています。
……ただ、今回ばかりはこういった後ろ向きな発言は控えるべきだったかもしれません。
ワタシの発言を聞いたシルヴィとミアが心配そうな視線をワタシに向けてきていることに気付きました。
「とはいえ、相手は
この言葉は自信の表れではありません。シルヴィやミアに……いえ、むしろ自分自身に言い聞かせるための言葉です。
そう。ワタシは『
『
たかが高校生相手に後れを取っていいはずがありません。
「そうなのだ」と言い聞かせ、「そうあれ」と自分自身を奮い立たせる。そうして弱音を吐いたことを叱咤します。
「……そうですか。リーナがそう言うのであれば、私たちがそこまで心配するのも失礼というものでしょう」
空いたティーカップにミルクティーを追加で淹れてくれているシルヴィが、そう言いました。けど、その顔は「本当は心配してるんじゃ?」と勘ぐってしまうくらいに穏やかではありません。
そのことをワタシが言及しようとする前に、ティーポットを置いたシルヴィが「ですが……」と言いながら、改めてワタシの顔を見てきました。
「一つの案として聞いてもらえればいいのですが……いっそのこと、その容疑者二人から目を離してみてはどうでしょう?まだ始まったばかりなのですから、変に焦ってこちらの尻尾を掴まれるより、気長にいったほうがいいかもしれません」
シルヴィの言っていることはわからなくもありません。こちらが探るような様子をみせなければ、仮に疑われていたとしてもその疑惑を薄れさせることも期待できるでしょう。
ですが、あまりにも消極的な気が……いえ、ワタシも先程似たような考えになり、そう発言したことを思い出します。でも、やはり釈然としないのも事実です。
「バレないように少し距離を置くにしても、それは任務を放棄……とまではいきませんが、あまり良い気はしないのですが……」
「そのあたりを心配する必要はありません。
シルヴィに言われた「他の容疑者」という言葉に、ワタシは心の中でひとり首をかしげました。
確かに容疑者はミユキやタツヤを含め、六十人超います。ですが、それらの魔法師は各地に散らばっており、他の容疑者に関しては別の人が調査に当たっています。ワタシが第一高校に潜入することになったのは、
……そこまで考えて、ふと
「もしかして、
会えていないことと、調査対象外なことは間違い無く関係しているでしょう。
そう。来日した時にはすでに先に日本にいたミアたち諜報員が情報を得ていたのですが、ツキシマはある時期からずっと第一高校に登校していなかったのです。その情報通り、ワタシが第一高校に編入した際にはワタシが座る席……交換留学でUSNAへと行ったというシズクがいた席とは別に、もう一つ誰も座っていない席がありました。そこが本来ツキシマがいるはずの席であり、今日もその席はカラッポのままでした。
会えないから、本人がいなくて第一高校で調べられることは高が知れているので、ワタシには調べる必要が無いと言われていた……というわけです。
……だというのに、そのツキシマのことを探れとは。シルヴィはどうしてしまったんでしょう?
「色々と事情が変わったんですよ。……実は、リーナが帰ってくるまではミアとそのことについて話していたんです」
「そうなんですか?」
「は、はいっ! こちらでの調査でわかったことがありまして……」
ワタシの問いに、まだ緊張気味ではあるもののミアが元気よく応えました。それに付け足すようにして、シルヴィが続きました。
「ミアの情報に、別の場所で動いてツキシマについて調べていた諜報員からの情報をふまえて考えたところ、今は少しでも
「……判断に至った経緯はわかりましたが、結局ミアたちの情報というものはどういったものなのですか?」
「
「警備が異様……ですか?」
シルヴィの言葉を反復するようにして聞き返す。
優秀な魔法師がいる家が警備員などを雇ったり、身内の魔法師に警備をさせることは別段ありえないとは言い切れないでしょう。むしろ、これまでに得ているツキシマの情報……魔法力や魔法技能のことを考えれば……。
「「警備をしている」と言う感じではなく、隠れながら自然に
「……?それも周囲の家に気を遣っていれば、普通にありえそうですが?」
ミアが言ったことにワタシはますます特別なこととは思えなくなり、どうして「異様」とまでいわれているのだろうかと首をかしげてしまいました。
シルヴィが、言葉やその反応でワタシが思っていることを理解した様子で頷き、その私の考えを肯定しました。
「リーナの言う通り、よほどの魔法師家系でもない限りここまでは特別おかしくは無いでしょう。……問題は、その警備をしている人物たちが複数の『
「ならばツキシマとその『十師族』の間に何か深い繋がりが…………
『十師族』……「クドウ」の名を持つだけあって、ワタシにも関係の無いものではないし、当然のように知っています。
『十師族』といえば、日本の魔法界に君臨するその名の通り十の魔法師の家系からなる一団。幾多とある魔法師の家系の中から選ばれただけあって、正に日本の中でも屈指の実力者の集まりです。
……が、一団とは言っても一枚岩とは言い難い集団だったはず……日本に限らず力や権力のある団体は派閥などでわかれているものです。それがもし仮に本当に団結していたとすれば、確かにそれは「
「そして……その集団の中には『七草』、『十文字』、『五輪』を中心に『
「なっ……!?」
そこまで『十師族』内の情勢に詳しく無いワタシでもわかります。これは「普通ではない」と。それと同時に、おそらくはその状況を一人で生みだしたツキシマという人物の存在の大きさが嫌でもわかってしまいます。
ここまでくると、もはやツキシマには何かあるとしか思えません。いえ、むしろそう周囲が思うように誘導しようとしているのかと深読みしてしまいそうなほどあからさまな「何かある感」がヒシヒシと感じられます。
そしてこれが、ワタシにいないツキシマのことを探れと言っている理由なのでしょう。
……まぁ、なんとなくわかりますが……。
「えっと、つまり……諜報員がツキシマの家周辺を調査し素性を探るはずが想定以上で手の出しようが無いから、ワタシのいる学校ぐらいしか探れそうなところが無い……ということでしょうか?」
「そういうわけです。ここまでとは本部も予想していなかったでしょう。……もはや早いうちに今回の任務中には
そう言ってため息をもらしたシルヴィと、凄く申し訳なさそうに顔を伏せるミアを見て、本当に
……そうなると、さすがに「仕事が増える」などと文句も言えず、むしろその状況を打開してあげなければという気にさえなってきます。
「わかりました、ワタシに任せてください!明日以降、ツキシマに関係する部活動などで調査してみましょう」
―――――――――
「ハァ……どうしよう?」
シルヴィとミアに「ツキシマのことは任せて」と言ったのが
シルヴィたちにああ意気込んで見せましたが、昨日一日休み時間などを利用して調査したもののこれといった成果をあげられずにいました。
そうなってしまったのも、元をたどればツキシマがいけないのだと思います。
……というのも、ツキシマが所属していたという『剣道部』に見学をしに行き見学の途中に何気なく彼の名前を出したところ、二年生の剣道部員の女子の一人が泣き出してしまい、それ以上聞けるような空気では無くなりました。
同じく、ツキシマが書記をやっていたという『生徒会』でも、彼の名前を出したとたん生徒会長だという先輩が泣き出してしまい、『剣道部』の時と同じくそれ以上聞けなくなってしまいました。
いなくなったツキシマのことを想う人が複数人いるということは、ただ単に魔法力があっただけでなくそれだけ人望も厚かったということがわかります……が、それだけです。
その結果、今、ワタシはこれ以上どうしたものかと悩んでいるわけです。
調査のために一人で行動できるようミユキたちに「ちょっと用があって……」と言って別れた放課後。
そうはしたものの、本当に何かすることがあるわけでもなく……ツキシマのことを探るあてもなく、第一高校の敷地内をなんとなく歩きまわっていました。
「ちょっといいか?」
たまたま
ワタシは声をかけられた方向……背後へ振り向きつつ返事をします。
「ハイ?なんでしょうか」
「昨日、キミが月島のことを気にしていたってことを友人から聞いたんだ」
そう言ったのは、ワタシに声をかけた男子生徒。名前までは思い出せませんが、なんとなく覚えのある顔と声なので……もしかして、クラスメイトのひとりでしょうか?
……ですが、そんなことがどうでもよく感じられる要素がありました。
その男子生徒がまとっている空気、そしてその鋭い視線。確実にただものではないとわかりました。ワタシの中にわずかに「まさか……正体を勘付かれた!?」という焦りが生まれます。
「……それで、何でアイツの事をそんなに調べているんだ?」
これはマズいかもしれない。返答を間違えれば…………もし仮に戦闘になったとしても負ける気はさらさらありませんが、面倒なことになってしまうでしょうからそれは避けたいです。
「せ、せっかく同じクラスになれたのに一度も会えないツキシマ君が気になって……ホラッ!クラスメイトなのに一度も会えないまま、何も知らないままで留学が終わってしまうのはとっても残念じゃないですかー。だから知りたいなーって思って……」
言いながら自分で「あっ、これはないなー……」と思ってしまいました。
ですが、もう言ってしまったことは無かったことには…………
「そうかそうか、月島のことがそんなに知りたかったんだな!アイツの友人として嬉しい限りだ!……じゃあ俺が教えてやるよ」
「……は?」
さっきまで睨みつけてきていた男子生徒の表情が一変し、ニカリッと歯を見せる軽快な笑顔になりました。
……って、そうじゃなくて…………ど、どういうことでしょうか!?
「月島とは昔一回会ったことがあって高校で再会したってだけで、俺も特別親しいわけじゃないんだが……それでも、アイツのことは人並み以上には知ってるつもりだ」
「は……はあ?そ、そうですかー」
「まぁ立ち話はなんだし、カフェにでも行かないか?」
「え、ええぇ……?」
わけがわからないまま、勝手に話がすすんでいきます。
で、でも!ツキシマのことが知れるならいい……のよね?
―――――――――
…………そして、ワタシはそこで知ることとなりました。
ワタシたちが「容疑者」として……場合によっては「敵」としてみる人物の凄さを、強さを、恐ろしさを、偉大さを。
男子生徒の口から語られた『月島さん伝説』によって……!!
月島さんのことを知っている男子生徒……イッタイダレナンダー?
……前回のラストに雫が手にした謎のものは、次回の話に関わってくる予定です。