魔法科高校の月島さん(モドキ)   作:すしがわら

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※注意※
「独自解釈」「捏造設定」「ご都合主義」「原作改変」等が多々含まれています!
原作と大きく異なる流れがある部分が存在します。細かい点や話の流れも、諸々の事情により変更されている部分があります。ご了承ください。
不定期更新です。

今回は幹比古視点です。

今回、気付けば最近の投稿やこの小説の1話あたりの平均文字数の倍くらい書いていました。だからといって話が進んだかと言えばそうでもなかったり。
でも、書きたいことは書けていると思うので満足だと思います。


こうして色々と書けているのは、月島さんのおかげ。


月島代行消失編-11:来訪者

 

 

レオが襲われて警察病院に担ぎ込まれた。

そんな情報を知らされた僕らに衝撃が走った。

 

もちろん学校にレオは来ていなかった。

 

ついでに言うと、エリカも姿が見えなかった。()()病院ということは、お兄さんが警部だったはずだから、その(すじ)で先に看病とか付き添い、あるいは……?

理由は、単純に心配だったからか……横浜コンペの時に警備強化のためにレオは千葉家の道場で鍛えてた、仮にも千葉の弟子的立ち位置にいるレオがやられたことへの仇討ちのための情報収集だったり……は、流石に無いかな?

 

 

 

ともかく、放課後に僕らはレオのお見舞いにいくことに。

メンバーは、達也と司波さん、光井さん、美月さん、そして僕の5人。

 

 

病室に着けば、ベッド上で身体を起こし胡坐をかいている病衣を着たレオと、制服で来ていた僕らと違い私服のエリカが居た。

 

心配していたことを伝えつつ調子はどうなのか問い、達也を中心に何があったのかをレオから()いていった。

 

 

昨夜、渋谷を散歩している最中、正体不明の相手と交戦することになったが……()()()()()()()()()()()()()()()()()

殴り合いの接近戦中に腕を掴まれたかと思えば、急に身体から力が抜けてしまったらしい。そうして倒れてしまっていたところを、千葉(ちば)寿和(としかず)警部――つまりはエリカのところの一番上のお兄さん――に発見されて搬送されたという流れでの入院とのこと。

外傷も無く、検査結果でも身体の異常や毒物の反応が無く、あえて挙げるなら()()()()()()()()()()()()()()()?といった程度。原因不明というわけだ。

 

犯人についても、ほとんどわからないらしい。

外見的には、頭部は白い覆面(マスク)と帽子で、身体もロングコートに手袋などといったもので丸々隠されていたためにそれ以上の特徴が掴みようがなかったそうだ。

ただ、レオは戦闘の最中感覚的に犯人を女性だと感じたらしい。

 

けど、そうなるとその犯人はあのレオと殴り合いができるほどの腕力(パワー)を持っていることになるんだけど……魔法による補助があったにしても、どうにもしっくりと来ない気が……

それに、犯人は倒れた後のレオを()()()()()()。これまでの吸血鬼事件では被害者は死亡しているにも関わらず、だ。ということは、犯人からすると()()()()()()()()()()()のか? 共通点は血が抜かれていること……血が目的? でも、力が抜けるほど血が抜かれたわけじゃなさそうなのに……?

 

 

 

疑問と疑問。引っ掛かりを感じ、巡る思考。

それらを繋ぎ合わさった()()

生命力……精気?

もしかすると……?

 

 

 

僕の中で何かが繋がりそうになった、その時――――

 

 

 

邪魔(ジャマ)するぜ」

 

 

その聞きなれない男の声は、ノックも無しに開いた病室のドアの開閉音と共に聞こえてきた。

反射的にそっちに目を向けると、やっぱり見覚えの無い男性がいた――――()()()()()()()()()()()

 

オールバックな長めの黒髪。首元があったかそうなコート。シンプルな白シャツと黒ズボン。バッテン印な感じのシルバーのアクセサリーが首に下がっている。

身長は190くらいはありそうな高身長で、太くはないけど大分筋肉がついてそうなくらいにはガシッとしてる。

……そして、左手にはラップが輪ゴムで止められた、いわゆる()()()()()()

 

 

なんとも言えない、いきなりの来客に「入院患者のレオか他の誰かの知り合い?」という発想にようやく思い至り、チラッと周りを確認してみる。

 

……ポカンとしていたり、警戒していたり、ビックリしていたりと、どうにも誰かの友達とか警察関係者とかそんな様子ではなさそうだ。エリカに至っては、ベッド(わき)にあるナースコールに手をかけて、いつでも押せるようにしているし。

 

 

「あの人は…!」

 

ふと、本当に小さな声だけど、司波さんの漏れ出したような声が耳に入ってきた。知ってはいる、のだろうか?

ただ、そばにいる達也はもの凄く警戒しているようだから友好的な関係じゃあなさそうだけど。

 

 

そんな僕らをよそに、むしろ余裕然とした様子で微笑みさえ口元に浮かんできた男性は、スッと左手に持つ中華どんぶりをこっちに差し出してきて――――

 

 

 

「ラーメン、食うか?」

 

 

 

「えっ」

 

「なに()かれてんの!」

 

レオがエリカに頭を軽く(はた)かれてた。

検査のため食べられていないのか、病院食が味気ないのか……どっちかなんだろう。

 

 

というか、どういうことだ!?

そもそも、病院にラーメンとかの持ち込みっていいの!?

 

「なんだ、食わねぇのか。なら……」

 

空いてる右手で、病室内に備え付けであった丸椅子を引き寄せて、ドアの近くに壁を背にして座った。そして、どこからか割り箸を取り出し、小気味良い音を鳴らせて割った。

 

 

「いただきます」

 

 

「いや、食べるの!?」

 

 

言ってからハッとしたけど、見ず知らずの年上に何ツッコんでるんだ僕は!?

 

「お前らが食わないなら、俺が食べないと伸びるだろ」

 

「そうだろうけど…! そもそも、なんで病院にラーメンを! どんぶりで!?」

 

「好きだから、持ち歩いてるんだ」

 

「――――僕がおかしいのっ、コレ…!?」

 

 

「オイオイ。病院で騒ぐなよ」

 

 

「誰のせいで……!」

 

「お、落ち着いて」

 

いつの間にかそばまできていた柴田さんに寄り添われ、嫌でも気を落ち着かせようと(つと)める。

いや、確かにいきなりの事だらけで混乱しているところに、さらに立て続けに色々ツッコみどころがあったから、つい。一度落ち着いて冷静に考えれば……やっぱり、アッチがおかしいよね?

 

 

「大体、アンタ何者…!?」

 

未だにナースコールを手にしているんだろうエリカが、警戒心をありありと感じさせる声色で男に問いかけた。

…確かに、本来そこからだよね。

 

 

「何者って――――そこの2人は俺が誰か(わか)ってるみてぇじゃねぇか」

 

そう言って男が視線を向けたのは、やはりと言うべきか司波兄妹の方だった。

…と、その2人とは別に声を発した人がひとり。

 

「もしかして、あなたが銀城(ぎんじょう)さん……?」

 

「おぉ、声だけで(わか)ったか。んで――」

 

言い当てられた男――光井さんに「ぎんじょうさん」と呼ばれた男は、愉快そうに笑みを浮かべたと思えば、すぅーと表情を消して目を細めた。

 

 

「――今のでピンときてねぇってことは、()()()()他の奴には伝えてなかったんだな」

 

やはりと言うべきか、男が言ってくるのは僕らに疑問符を浮かばせてくる内容(こと)ばかりで――――

 

 

 

「でなきゃ、何の策も無しに一人(ひとり)で深夜徘徊なんてするはずねぇからな」

 

 

 

――――けれど、僕らを的確に驚かせてくるものだった。

なぜなら、レオが襲われた事件のことを、僕らでも今聞いたばかりの、ほんの昨夜の出来事を的確に理解していなければ出てこないだろう言葉だったから。

 

 

「なんで知ってんの……! まさか!?」

 

警戒心が跳ね上がる。

対照的に、男の方は相変わらずの様子であくまでも落ち着いている。

 

「知ってるも何も……今から(いち)から説明すんのは面倒だなぁ。なんで話してねぇんだよ、お前ら」

 

そう言葉を投げかけられたのは、男のことを分かっていた様子だった3人。

そのうちの達也が、男を睨みながら口を開く。

 

「信用されていると思ってたのか? 会ったこともない、よくわからない組織に所属している顔もわからない男を」

 

()()が稼いでいた信用分くらいは、話を聞いてもらえてたと思ってたんだがな」

 

「そう言うなら、せめて月島本人を出せ」

 

「そりゃそうだ」

 

困ったように肩をすくめてから一口(ひとくち)、ラーメンを(すす)る男。

 

けど、世間話のようにどこか淡々と交わされる会話が、どうにも重要な内容(こと)が混ざってたような……

 

 

「アンタ、襲撃と関係が――!」

「月島さんと何か関係が――?」

 

エリカと柴田さんの疑問が重なる。

 

 

「両方だ」

 

何でもないかのように出された返答に、こっちが引いてしまう。

 

「今日は説明のために来たんじゃねぇんだが……まあいい」

 

さっきの達也とのやりとりでも感じられたけど、どうにも面倒そうな雰囲気を感じさせる銀城空吾。一応はなんだかんだ言いつつも、説明とやらをしてはくれるらしい。

 

 

「俺は銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)月島(つきしま)昊九郎(こうくろう)と同じ【XCUTION(エクスキューション)】に所属している。んで、俺たちは今(ちまた)で「吸血鬼事件」と呼ばれている連続殺人事件をUSNAで発生してたころから追っていて、その犯人たちが日本に渡ったからその対応をしているところだ」

 

 

一息でそこまで言い切ると、今度はどんぶりの(ふち)に口をつけ一口スープを飲んだ。

そうしてから、銀城空吾は改めて口を開いた。

 

 

 

「俺のことはそんくらい適当でいいんだよ。んで、本題だが……今回俺がココに来た理由は、襲われて死んでねぇ事例があったと聞いたから。まさか、忠告しておいた奴らと同じ月島の友達(ダチ)だったとは」

 

「こっちとしては、犯人が(わか)っていて3日も経っているのに未だ犯行を止められていないことが驚きなんだがな」

 

「耳が痛いな」

 

彼が達也たちに何かしら「()()」という忠告を有効利用できていなかったことを嫌味ったらしくいったかと思えば、達也が即座に言い返した。

そして、もう何度目かもわからない、するっと出てくる重要情報に僕は頭を抱えたくなった。

 

「待って! 犯人が(わか)ってるっての!?」

 

エリカの当然の言葉に、銀城空吾は眉間にシワを寄せてから……達也を見た。

 

「なぁ。俺がラーメン食ってる間に簡単に説明しといてくれ。あのことが話されている前提で来てんだよ、俺」

 

 

そう言うと、本当にラーメンを食べるのを再開しだした。

 

 

「…ハァ。実はだな――――」

 

 

 

そんな様子を一瞥した達也は……大きくため息をついたうえで、僕らにこの男――銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)と面識を持つことになった経緯と、そのとき行わされた情報のやりとりについて教えてくれた。

 

横浜事変のすぐ後に月島君から預かっていたものがあったこと。

その預かりものには開放条件があったが、その条件と月島君を探していた中条会長とが一致したそうで渡したこと。

預かりものはカードで、【XCUTION(エクスキューション)】という組織に連絡するためのキーとなるものだったこと。

通話が繋がった先にいたのが、この銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)だったこと。

彼が月島君の仲間で、月島君の現状と今後のことについて教えてくれたこと。

彼らが追っている事件が、USNAから始まって日本にまで来た連続殺人「吸血鬼事件」だということ。

「吸血鬼事件」の犯人は「()()()()()」という情報体生物に取り憑かれた元人間ということ。

「パラサイト」の本体は精霊に近い存在で、触れることも見ることもできない相手であって、普通は戦おうにも話にならないこと。

関わらないよう人目が無い裏路地や夜間にひとりで出歩いたりを避けるか、あるいは精霊魔法を扱う古式魔法の家系の人にアドバイスを貰えと言われていたということ。

 

 

「――――と、こんなところか」

 

 

達也が話した内容に、初耳だった僕らは各々(おのおの)その得られた情報を自身の中で整理していった。

 

 

確かに、銀城空吾が「なんで話してねぇ」や「忠告してた」と言って不満そうにしていた理由も理解できる。かなり重要性の高い、しかも命に関わりかねない事件の情報なんだから。

だけど、同時に達也が言っていた「信用できない」というのも理解できる。電話越しにしか話したことの無い初対面の相手の言葉を信じるのは確かに難しい。さらに言えば、変に親切すぎて胡散臭(うさんくさ)さを感じなかったと言えば嘘になってしまうだろうから。

 

 

それはそれとして、話を聞いた僕は納得する。

違和感に対して、さっき僕の中で繋がりそうになっていた何か。「パラサイト」という答えが得られたのだから。

 

所謂(いわゆる)妖魔や悪霊といった類のものの一種。不明な部分も多いのは事実だけど、僕の知識の中にある「パラサイト」の情報と襲われたレオの話とでは符合する部分は多い。女性っぽいのに異常なほどの膂力(りょりょく)があったというのも、「パラサイト」に取り憑かれたことによる影響だと考えれば、納得できなくもない。

ただ、同時にこの一件は(ただ)の連続殺人事件なんかじゃない、非常に危険なモノだということを理解してしまい、全身に悪寒が走った。

 

 

 

達也が話していたのが一区切りついた様子を確認してか、これまで黙々とラーメンを食べていた銀城空吾がようやくというべきなのか、口を開いた。

それも、「ああ、そうそう」と軽い調子でだけど…。

 

「対応が遅れている理由なんだが……元々面倒な事案が絡んでいたのが、日本に入ってから三つ(どもえ)、四つ巴の余計にややこしい事態になっててな。話を通したり、他所(よそ)のヤツの対応に追われたりと本命の「パラサイト」になかなか手が付けられねぇ状況が続いたもんでね」

 

……それは僕らが聞いても良いことなのだろうか?

僕らが知っている日本警察だけが追っているなら態々(わざわざ)こんな言い方するわけが無い。名前も挙げられないような存在も「パラサイト」と追っているのだろう。そんな情報に、どこか薄ら寒さを感じるような気がしてならない。

 

 

「まっ、そこについてはあんたらには関係無いんで話す気もねぇんで」

 

 

やっぱりじゃないか!?

じゃあ最初から言わなければいいんじゃ……いや、銀城空吾(このひと)的には、達也に言われた未だに犯行を止められていない事への批難に対しての弁明だったのかもしれない。けどなぁ……。

 

 

「必要とするヤツにしかやらない情報か?」

 

他所(よそ)の機密情報なんて知ったところでどうしようもない、一般人が触れるべきじゃねぇ。面倒なことに頭突っ込んでロクなことにならねぇのが目に見えてるからな」

 

達也とのやり取りを聞いて、心の中で改めて「最初から言わないで」と(こぼ)してしまう。

 

 

 

「ごちそーさん。……さて、と。腹ごしらえも済んだところだし、やるとするか」

 

パシンッと手を合わせた銀城空吾は立ち上がり、座っていた丸椅子に割り箸の入った状態のどんぶりを置いた。

 

これまでの話から、色々と不明な部分はありつつも悪人ではなさそうではあるとはわかった僕らだけど、銀城空吾のいきなりの動きに最初ほどではないけど警戒してしまう。

みんなの気持ちを代弁するように、睨みを利かせている達也が話しかける。

 

「何をする気だ?」

 

「治すんだよ。ぶっ倒れたソイツの不調をな」

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

銀城空吾の発した言葉に目を見開く。

同時に、疑問も浮かぶ。特に張本人であるレオ自身は。

 

「でも、治すって何をだ? 確かに(ダル)いけど……血がちょっと減った以外は検査結果は特別問題無かったはずなんだが?」

 

原因もわからないのに、それをどうするんだよ?と口にせずとも表情でものを言うレオ。

いや、でも、今のレオの状態はおそらく――

 

「「パラサイト」に襲われた時に、霊子(プシオン)つーか幽体の構成……俗に言う精気ってもんが吸われて枯渇しているんだ。科学的な検査じゃあ(わか)んねぇ項目だ」

 

「やっぱり幽体から精気が! とすればかなり危ない状態だよ……というか、そんな状態をどうやって貴方(あなた)は!?」

 

僕だって「パラサイト」と聞き、レオの証言のことを考えて精気が吸われているだろうという考えには至っていた。だから調べようとは思ってたけど、その幽体に間接的に触れるように本人に接触して多少の時間を有してしまう。

それを銀城空吾(このひと)は、その状態を確信を持っているかのように言ってのける。「パラサイト」の特性を知っているからの発言なのか、それともそんな手順も無しに判別できてしまうのか!?

 

 

「見りゃ分かる。普通ならこれまでの被害者と同様死んじまうし、じゃなくとも心身衰弱で意識が無くなって寝たきりになるだろうよ。そうなってねぇとはいえ、大分(だいぶ)ヤバい状態だってのはお前も解ってんだろ? 多少補充するだけでも良くなるはずだ」

 

予想はできていたけど驚かされる「見りゃ分かる」発言。そして、予想以上のレオの危険そうな状態。

それに――

 

(ひと)から他人(ひと)への精気の譲渡だって!? そんなこと…」

 

「できるからやるんだよ。月島ならもっとスマートに治しちまうだろうがな」

 

そう言いながら歩いてベッドに近づいた。

そして、銀城空吾が差し出した右手の人差し指と中指が、胡坐をかいて座っていたレオの胸板に病衣越しに軽く触れた。

 

 

「…きれい」

 

聞こえた、柴田さんの呟き。

あの日に見た光と似た輝きを、僕らは見た。

夏休み、海辺の別荘、あの夜の光景を……!

 

 

 

「どうだ?」

 

「え? お、おおっ!」

 

時間にして、ほんの3秒程度。

何事もなかったかのように()いてきた銀城空吾に、呆気に取られていたレオがいま目を覚ましたかのような反応をしてから腕を伸ばしたかと思えば、それだけでは止まらずにその場で立ち上がってしまう。

 

「体がすっげぇ軽い! (ダル)さも無くなってる!」

 

「精気の補充と構造の補強を霊子でやっただけだ。身体的なダメージや疲労が無くなったわけじゃねぇからあんまりはしゃぐなよ」

 

「おうっ! ありがとう!」

 

子どものようにベッドの上で飛び跳ねだしたレオを手で(せい)して咎める銀城空吾。けど、表情は怒っているというより、むしろどこか嬉しそうに口角が上がっている。

 

 

「んじゃあ、用事も終わったんで俺は帰らせて貰うぜ」

 

 

満足げにした銀城空吾。

ベッドに背を向けて歩き、丸椅子に置いていたどんぶりを左手で持ち上げ病室の外へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

「ちょっと!」

 

足を止めドアを開けかけていた銀城空吾が振り返り目を向けたのは、声を上げたエリカだ。

 

「なんだ?」

 

「さっき言ってた襲撃犯のこと、詳しく教えなさいよ」

 

まさかの物言いに、流石に僕もギョッとする。

いや、そこはせめてお礼を一言(ひとこと)言うくらい――――いや、まさか!? ありえないだろーなんて思ってたけど、千葉の弟子的立ち位置にいるレオがやられたことへの仇討ちをやっぱり考えてるのかい!?

 

 

 

「話を聞いてたのかって言いたいところだが……一般論から言わせてもらうぜ」

 

実に面倒そうに、けれども荒さのある言葉遣いながらもエリカに語りかける銀城空吾。

 

 

「まず、この件に関わりたいなら、警察やってる嬢ちゃんの兄貴にでも協力させろとでも言ってみるといい。一般人が関わるべきじゃねぇ理由を(いち)から教えてくれるだろうし、運が良けりゃ身内の甘さで協力者として参加させて貰えるだろうよ」

 

言うほど一般論なのかという疑問や、彼がエリカの家族を把握していることに驚きながらも、その言葉に納得できてしまっている自分がいた。

いや、でも、警察は「パラサイト」のことを知っているのだろうか? 知っているならそれ相応の対策を練っているのだろうけど、もし知らないなら情報提供とかしないと余計に犠牲を増やしてしまうんじゃあないだろうか?

 

あと、なんだろう? 一瞬レオがビクッとしたような気がするけど…気のせいかな?

 

「それが難しいと思って(こっち)を頼ったっていうなら、裏の事情通から言わせてもらうが、嬢ちゃんは願い下げだ。協力して貰うなら、そっちの坊主(ボウズ)に声をかけな」

 

確かに、あのお兄さんが関わることを許しそうには思えないし、エリカのことだからそういった思考で言ってきたのはありえそうだ。

というか、表情が物語って――――って、銀城空吾がどんぶりを持っていない右手で指さしてるのって……

 

 

「ぇぅえ!? 僕ッ!?」

 

 

完全に関係の無いものとばかり思っていたところに指名されたんだけど!?

いやまぁ、レオが襲われて下手をすれば命まで危なかったことに何も思わないわけじゃないけどさぁ! そんな積極的に関わりたいかと問われたら、素直には頷けないよ!?

 

 

「なんでわたしじゃなくて、よりにもよってミキを――」

 

「実力の話じゃなくて、相性の話だ。()()()()()()()

 

不満を隠さずに前面に出すエリカに、聞いた瞬間に僕も納得してしまったことを言う銀城空吾。

暗に「他にもあるぞ」と言っているのも気にはなるけど……。

 

 

「さっき説明があったが、「パラサイト」の本体は実体が無い精霊みたいな存在なんだ。例え魔法師であっても攻撃できねぇどころか見えもしねぇ、その手の古式魔法の家系や特殊な異能持ちでなければな」

 

そう。世の中には()()()()()()を知覚する方法も撃退する方法もある。

だけどその方法は限られてるし、お世辞にも一般的に知られていたり扱える物でもない。それこそ、僕の家系のような古式魔法を扱う魔法師が受け継ぎ扱ってきたものが代表的だろう。

あとは、特殊な異能――柴田さんのような「霊子放射光過敏症」、僕らの業界では「水晶眼」と呼ばれ霊感を持つとされる存在のことだろう。(もっと)も、柴田さんなら「パラサイト」を見ることはできても対抗手段を持たないから対処ができないだろう。

 

 

「レオはやり合ったって!」

 

「だから、そいつは外身がパラサイトに乗り移られた元人間だって言ってんだろう。いくらお得意の剣術で痛めつけたところで、別の人間に取り憑くだけで何の解決にもならないどころか犠牲者が増えるだけだ……それこそ、戦っていた嬢ちゃんとかがな」

 

全くもってその通りだろう。

「パラサイト」への対抗策は、おそらくは構成している情報体そのものに干渉して存在を保てなくなるほどにしてしまい消滅させる。あるいは、弱らせるなどして封印するくらいだろう。実際に相対しないと分からないことは多いけれど、現実的な手段は後者だろうね、前者はいくらなんでも必要となりそうな術の規模や干渉力が半端じゃあないだろうから。

 

 

「嫌だぜ、俺は。(もと)嬢ちゃんをご家族や友人に始末させるなんてお涙頂戴展開はよ」

 

銀城空吾(このひと)は……!

言いたいことはわかるし、その通りなんだけどもっと言い方というか……せめて、変に煽るような例えを避けて真面目に言えばいいのにさ!?

 

「あんたらがやってるっていうなら対抗手段とかだってあるんでしょ…!」

 

「あるにはあるが、教える気はねぇよ。願い下げな理由その2だ」

 

わざわざ右手の指を2本伸ばし示してみせてきた彼は、段々と面倒そうにしながら……だけど、会話を切り上げて病室から出て行くようなことはせずに話を続ける。

 

「あんま人の話聞かないだろ。目上相手でも噛みつくし、納得しなかったら自分の感情に素直に動いて都合の悪いことはシャットアウト。道場で縦社会を叩き込まれてねぇのかってくらい」

 

「あんたに何が――」

 

「第一高校の前風紀委員長だったか?」

 

「っ!!」

 

銀城空吾の突然の一言に言葉を詰まらせたエリカはもちろん、周りのみんなも彼が何のことを言っているのか察して納得してしまう。

前風紀委員長――渡辺(わたなべ)摩利(まり)先輩のことだろう、九校戦での戦法や普段の事でもことあるごとに文句や愚痴っていたり、時には噛みついていたりしてたからなぁ。

 

その他にも、幼馴染である僕としては色々と思い当たることはある。その真っ直ぐさや力強さが良い方向に向いて本人や周囲に効果的で良い場面もあるけれど……。

 

 

()()()()()()()()()()()。それに、我が強いのはハングリー精神やら将来の伸びしろに繋がって悪くはねぇ……が、協力者や部下にいると作戦行動がガタつく」

 

思っている以上に銀城空吾(このひと)は色々と知っていることに恐ろしさを感じながらも、その意見自体には頷いてしまう。

 

 

「以上の2つの理由から、協力を頼まないし、余計なことに巻き込まれないように情報もやらない。……わかったか?」

 

わざわざ理由を説明をし、言い聞かせるように言ったうえで確認をする銀城空吾。これにはエリカも未だ色々と言いたげで表情や体に力が入っているのは分かるけど、言い返さずに――けど返事もせずに黙ってしまった。

下手すれば手を出すかと思ったけれど……なんとか、そこまではならなかったみたいだ。

 

 

 

 

今度こそ、といった様子で出て行こうとする銀城空吾。

しかし、また――今度は達也が止めた。

 

「待った」

 

「……今度は「お兄様」かよ」

 

 

「「「「「おにい、さま?」」」」」

 

 

目の前の男の口から出た予想外の、それもどうにも似合わないセリフに、エリカを除く僕らは復唱してしまっていた。

もちろん、その「お兄様」が(しめ)しているんだろう達也や、普段そう呼んでいる司波さんは嫌そうな表情(かお)をしている。

 

「月島がよく言ってるぜ。「あの深雪さんが全幅の信頼を置く立派で流石なお兄様」だとよ」

 

「月島君って、そんなキャラだったかい?」

 

僕の中の月島君のイメージとどうにも一致しない気がしてならない。

それに、どうにも本当に褒めているようには聞こえなくて面白おかしく言っているだけのような…?

 

それはまぁ、1年にも満たない付き合いだから彼の全てを知ってるわけなんてないけどさ?

中条会長みたいに本人の前で揶揄(からか)う様なことはあっても、そこにいない人のことを陰口のように面白おかしく言う事は全く無かったはずだ。むしろ、そんなことを言ったりすることを(とが)める側の人間だろう。

 

というか、彼は言われた本人の反応を見てそれを楽しんでいるような節があるから、なおのこと銀城空吾(このひと)にお兄様云々(うんぬん)を言ったとは思えないんだけど…?

 

 

 

「で? なんだ?」

 

立ち止まって面倒そうに、けれどやっぱりというべきか律儀に訊き返してくる銀城空吾。

 

「前の時も、今回も「他所の機密情報」と言っていたが――――それはUSNAか?」

 

「…………」

 

達也の問いに沈黙で返す銀城空吾。

 

「……なら、()き方を変える。()()()U()S()N()A()()()()()()()()()()()()()?」

 

それは何がどう変わっているんだろうか?

どっちにしても、僕には「機密情報のところを教えろ」って言っているようにしか聞こえないんだけど…?

 

 

「っハァ~……」

 

長く、大きなため息。もちろん、銀城空吾の口から出たものだ。

それに対して、達也じゃなくて司波さんが視線を厳しくしたんだけど……そんなことを気にしてないのか、気付いてないのか銀城空吾は「そうだな…」と話し出す。

 

「自国内で決めきれなかった時点で色々と頭抱えるだろうな。んで、渡航の判明――遅くとも日本で同様の事件が起きた情報を得た時点ですぐに秘密裏に始末できるように手を回そうとするな。本当に最低限の面子(メンツ)を守るのと、外身になっているであろう自国の魔法師の遺体を他国の研究機関に()られねぇようにな」

 

その言葉に、僕は今日何度目かの薄ら寒さを感じる。他のみんなも同様だったと思う。

だが銀城空吾はあくまでも淡々と言葉を続ける。

 

「少なくとも表面上は仲良くしている国相手とは言え「パラサイト」とやり合って勝てるレベルの魔法師をそうバンバンと渡航させるのは、外交関係含め色々と無理があるだろう。他にも魔法師を必要とする、やらなきゃならねぇことが国内外問わずにあるだろうことも考えればなおさらな」

 

またもや「聞いてもいいのか、これ?」と思いながら……それと、もしかして銀城空吾(このひと)はUSNAの内通者か何かなのか?って疑問を持ちながら、ついその話に耳を傾けてしまう。

 

「なら――まず使うのは、()()()()()()()()()()()。時間や手間がかからねぇ。日本の内情をある程度知ってる産業スパイや即戦力で任務行動ができる魔法部隊所属の軍人が候補だな。戦略級魔法師かそれに対抗できるヤツでもいれば、過剰戦力だろうが気にせず間違いなく使う」

 

 

――日本に居る手駒

 

何故かその言葉で、学校の演習で司波さんと競ったり、「月島さん伝説」について嬉々として話していたブロンドヘアの交換留学の姿が一瞬だけ脳裏を(よぎ)った。

スパイや軍人なんて職業が似合わない、できそうにもない、どこか抜けたようなキャラの女子生徒だっていうのに。

 

 

 

 

「まぁ結局は、実体を持たないパラサイトを対処できるヤツがいるかいないかで色々と変わるが――――USNAのことなんて欠片も知らねぇ一般人の考察だったが、こんなところで満足か?」

 

「ああ、十分だ」

 

わざとらしい言い方で何もわからないアピールをして見せる銀城空吾に、達也は頷き短く返事をしてみせた。

 

 

「それじゃあ、邪魔したな」

 

 

 

こうして、急な来訪者:銀城空吾は僕らに様々な余韻を残して病室を後にした。

 

そして僕らも、ほどなくして各々帰路についた。

急に元気になって医療従事者の人たちに取り囲まれ、どう説明するか誤魔化すか四苦八苦しているレオを病室に残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミ~キ~?」

 

「だから、何度も言ってるけどその呼び方は……あっ」

 

笑顔。

幼馴染だからこそ、嫌と言うほど分かってしまう。有無を言わせない、圧。

 

 

「対策、ある?」

 

 

銀城空吾に散々言われて静かになった時点で終わった気になっていた。

けど幼馴染なら解ってたはずだ、エリカはそのくらいで止まるような性格じゃあないってことを。

 

 

――やめるべきだ。

 

 

そんな拒否の一言すら言えない、言わせてもらえない。

止めることができない僕は……せめて、無事に帰られるようにと必死に準備をするだけだった。

 

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