魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
今回は主に壬生紗耶香視点からの話となっています。
眠くても頑張れるのは月島さんのおかげ。…もうゲシュタルト崩壊気味だなぁ。
生徒会と有志同盟による討論会は、生徒会の代表として壇上に上がった生徒会長・七草真由美の主張…演説によって会場の空気は一色に染まる。
まさに独壇場。有志同盟の代表として出ていた人たちも、ぐうの音も出ない状態になってしまう。
…しかし、それは必然である。
そもそも有志同盟に参加している二科生の生徒たちは、反魔法国際政治団体ブランシュの日本支部リーダー・
それに、二科生の生徒たちをそそのかした司一にとっては、一科生と二科生の差別なんてとこはどうでもよかったため、その結果がどうなろうと知ったことでは無かったのだろう。
討論会がこのまま終わってしまおうかという、ちょうどその時……
轟音。
会場からそう遠くはないであろう距離で、爆発が起きた。
そして、討論会の会場にいた何人かの二科生の生徒たちが、その爆発音とともに行動をおこそうとした。だが、これは会場内にいた風紀委員のメンバーがすぐさま取り押さえる。
続いて、窓を破り会場内に入り込んだのはガス
さらに、会場に侵入してきた銃火器装備のガスマスクたちは、風紀委員長・渡辺摩利によって鎮圧される。
当然、騒ぎはそれだけでは終わらなかった。校内へ侵入してきたテロ集団はまだ他にもいるようで、実技
これに対し、生徒会役員・風紀委員はもちろん、一般生徒も含めた生徒たちは侵入者を迎撃すべく行動を開始したのだ。その中には、もちろん司波達也とその仲間たちの姿もある。
しかし、それら暴れ回るテロ集団とは別に、校内に侵入していた少数チームがひとつ…。そのチームを誘導していたのは、放送室を占拠した際にもいたように有志同盟の中心部分にいた
彼女がテロ集団の少数を案内する先…。『国立魔法大学付属第一高校』の敷地内にある図書館、その中の魔法技術の先端資料が閲覧できる『特別閲覧室』と呼ばれる場所を目指していた。
―――――――――
「ここが『特別閲覧室』です」
私…壬生紗耶香がそう言うと、そばにいた協力者の三人は互いに頷き合う。そしてその三人は『特別閲覧室』の奥にある閲覧用ディスプレイへとむかい、私もそれに続いた。三人うちの一人がハッキングツールを取り出してディスプレイの前にある座椅子へ座る。
「おい壬生、一応外に気を配っておけ」
「他での騒ぎが陽動になっているから大丈夫だとは思うがな」
ディスプレイの前に座った一人以外の二人の協力者の言葉に、私は頷いた。
もしこの図書館に有志同盟以外の生徒が来た場合、保険として配置してもらった協力者二人と男子生徒一人が迎撃する様になっている。ここに来ようとその三人を倒す際には少なからず戦闘音が響いてくるだろう。
すぐに気づけるようにしなければと『特別閲覧室』の出入り口のほうへと目を向けると……
「へぇ…。差別撤廃を求める有志同盟や反魔法国際政治団体が魔法技術の先端資料を
自分たちが入った後に閉めていたはずの扉が開いていて……そしてそこには
その顔に私は見覚えがある。
一科生である1-Aの
私は、ちょうど生徒会の中条あずさといる姿を目撃してその凸凹な印象が強く刻まれていたのでよく憶えている。そして、二本あったかは定かではないが、その腰に白い刀の武装一体型CADをさげていたことも。
だけど、少し待ってほしい。
私たちだってついさっき到着したばかりだと言うのに、何故彼がここにいるのだろうか。
それに図書館内に配置していた三人がいたはずだ。なのに何故、彼は何事も無かったようにここにいるのか。
協力者の一人も彼に気づいたようで、こちらへ歩いてくる彼に向かって驚きながら言葉を発した。
「なっ、馬鹿な!?下の奴等はどうした!?」
「心配しなくてもいい。彼らなら、ただ単に眠ってもらってるだけだからね」
こちら側が驚きと焦りに染まっているのに対し、彼は淡々と落ち着いた様子で言い放つ。その顔には薄く笑みが張り付いている。
私にはその笑みが、差別の撤廃を求めて活動してきた私たちを…
「何よ…何がそんなにおかしいの!!一科生のあなたにはわからないかもしれないけど、私たちが差別を無くそうとしたことは―」
「別に壬生先輩の意志を否定はしませんよ。興味もありませんがね」
私の言葉を興味ないと切り捨てた彼は、そのまま相変わらずの淡々とした調子で言葉をつむいでいった。
「ただ「壬生先輩がしたい事」と「僕がしたい事」がぶつかっただけ。そして僕は「僕がしたい事」…実験を押し通す、それだけのことですよ。…ああ、先輩への被害は最小限にしてさしあげますのでご安心を」
彼がどうやってここまでこれたのか、彼の言う「実験」がいったい何なのか、考えている私の耳に協力者の人の声が入ってくる。
「壬生!
指輪。それはアンティナイトと呼ばれる金属を加工したもので、サイオンを注入することで『キャスト・ジャミング』の効果を持つサイオンノイズを発生させることができる代物。
『キャスト・ジャミング』の影響下では魔法式がエイドス(個別情報体)に働きかけるプロセスが阻害されてしまい、魔法を行使することが困難になる。その上、サイオンノイズそのものも魔法師には影響があり、耳鳴りなどの不調をおこしたりするもこともあるのだ。
私は言われるがままに彼のほうに向かってアンティナイトを使用した。
すると、サイオンノイズによる影響を受けたのだろう。彼は少しフラつき、眉間にシワを寄せる。
「死ねっ!」
それを見逃さなかった協力者が拳銃を構え、引き金を引いた。『キャスト・ジャミング』の影響下にある彼には魔法は使えず、弾丸を防ぐ
「『
キィン!
拳銃から放たれた銃弾が何かに阻まれ、
驚き、よくよく目を凝らすと私たちと彼の間に、彼の身長より少し大きい三角形の半透明の障壁らしきものがいつの間にか存在していた。どうやら、その障壁が銃弾を防いだようだ。
だけど、おかしい。魔法式らしきものは見えなかった……それに私はいまだに『キャスト・ジャミング』をし続けている。なのに彼は魔法を使ったというのだろうか。
協力者の人たちもおかしいと気づいたようで、銃を乱射しながら口々に叫んでいる。
「アンティナイトはどうなってるんだ!?」
「なんで魔法が使えてるんだよ!?話が違うじゃねぇか!」
いくら銃弾を撃ち込もうとも障壁にはヒビ一つ入らず、その向こうの彼に届くことはなさそうだ。
そして、そんな彼はというと……。
「物理攻撃はいわずもがな、サイオンノイズも完全に遮断……魔法の遮断も問題無く行えるかな。そして『キャスト・ジャミング』の影響下でも問題無く発動できることから考えても、やっぱり考えていた通り『完現術』は『魔法』とは別枠なんだろうね」
彼の口からは、私の知らない言葉も発せられている。ふるぶりんぐ…?いったい何のことだろうか?さっきの障壁の魔法名?いや、「魔法とは別枠」っていうのは……?
わけがわからず目をまたたかせて困惑している私たちに、彼はこちらを向いて首を振った。
「ああ、キミ達はそんなふうに必死に考えなくていいよ。どうせ
「えっ、それはどういう…」
私の疑問が口から出終えるのを待つことなく、彼は一方的に言葉をつむぐ。
「自己満足だけど言わせてもらうよ。すまない、そしてありがとう。キミ達には感謝している、彼らの…学校の敵になってくれて。おかげで
そう言いながら右手に持つ刀の切っ先を私たちにむけてみせたかと思えば、次の瞬間、床に淡い光を残して彼は……消えた。
「本当にありがとう」
背後からその声が聞こえたのとほぼ同時に……私の胸から白い刀身が生えた。
―――――――――
「……んっ…」
身体に妙な浮遊感をおぼえ、ぼんやりとする意識を必死に起こし、目を開こうとする。
目を開けた時に、最初に見えたのは天井。どうやら私はどこかで寝ていたようだ。
「壬生先輩が目覚めたみたいです」
体勢を起こそうと体を動かすと、私の寝ているところからそう遠くない場所から司波達也君の声が聞こえた。そして、その声につられるように「そうか」という声といくつかの足音聞こえてくる。
「大丈夫ですか、壬生先輩。月島は「手加減はした」って言ってましたけど、どこか痛んだりは…?」
「特には…」
上体を起こし終え、周囲を見て私は状況を把握した。
どうやら私が寝ていたのは保健室のベッドだったようで、その周りに司波君、その妹の司波さん、生徒会長の七草先輩、風紀委員長の渡辺先輩、部活連会頭の十文字先輩、それに一年生の二科生が二人。
私は司波君の言葉を聞いて思い出した。
ああ、そうだ……
負けたはずなのに、私の心はむしろスッキリとしている。
それは恐らく、魔法でも剣技でも私に劣っている月島君と戦闘をしたからだと思う。彼が幻影魔法と剣技を上手く組み合わせた戦闘法で、最初から最後まで私と正面から打ち合ってくれたからだ。月島君が私の怒りや悲しみと向き合う機会を作ってくれたおかげで、私は自分自身を見直すことができた。
今なら、一年前に渡辺先輩にご指導のお願いをすげなくあしらわれてしまったことから始まった劣等感さえ、正面から向き合える気がする。
そんなことを考えていると、司波君が私に「少しいいですか?」と問いかけてきたから、私は頷いてみせた。
「今回の件のきっかけについて聞きたいんですが」
「うん、私から話せることなら何でも答えるよ。実は…入学してすぐの時に、二科生だからって差別された出来事があって…」
……この後は、私が劣等感を抱く原因となった出来事の話をした。
驚くべきことに、そもそものきっかけとなった渡辺先輩の言葉が、私の勘違いだったみたいだった。それを知った時、なんとも言えない気持ちになった……だけど、胸の中の最後のモヤモヤが綺麗になくなったような気もした。
そしてその後、私のベッドから少し離れた司波君たちが「ブランシュの拠点に…」と、何かを話しだしている。
けれど、私はそれよりも気になることが…。
「月島君、どこにいったんだろう…?ちゃんとお礼言いたいのに…」
保健室内を見わたしてみるけど、姿は見えなかった。私は月島君に負けて気絶したはずだから、
ベッドの上で振り向き枕元側にある窓から外を見てみたけれど、当然彼はいなかった。
―――――――――
その頃、月島はというと……
「『ブック・オブ・ジ・エンド』の対人発動の実験とその限界確認。さらに、上書きするように挟み込んだ中での壬生先輩との勝負で剣技と魔法に磨きをかけられた。ついでと言っては何だけど『特別閲覧室』の資料にも挟み込んで、最先端の魔法の知識もゲット。『特別閲覧室』って色々許可取らないといけないから面倒だったんだよね……もう大収穫だよ、今日は」
彼は誰もいなくなった図書館の前で、ひとり呟く。
「それに比べ、ブランシュ日本支部では何も得るものは無いから、
そう独り言をこぼし、月島はひとり誰もいなくなった図書室へと入っていく。
何の偶然か、それは司波達也たちがブランシュ日本支部の拠点へと出発したのとほぼ同時だったという。