魔法科高校の月島さん(モドキ) 作:すしがわら
それは、急なことでした。
学校での
リビングのモニターで行われたテレビ電話。そのやりとりの結果、私達は出かけることになりました。
それは、お誘い――否、
何故なら、相手は四葉の現当主。
私達兄妹の亡き実母、
ですが、あくまで相手は当主であり、その関係性が第一です。私達兄妹は、表では「四葉家」との関係性こそ隠されていますが、あくまでその庇護下にあり、同時に一員として数えられる者であるのです。
故に、「どうぞ、いらしてください」などと言われるお誘いであっても、その実、強制的な招集でしかないのです。
四葉の本宅へと向かう、そのための足は用意されていました。
それは、他の四葉家そのもののと、私達兄妹との関係性の秘匿と言うのが大きな理由でしょう。そして、通話を終えたそのすぐ後に訪問してきたため事前に手を回していたので、そんなことはありえないと分かりながらも拒否権を欠片も与えないための圧力の誇示のようにも感じられます。
ある種の救いであったのは、その迎えの方々が私達も知る人で、四葉の人間の中では数少ないお兄様に友好的な人物であったことでしょう。
司波家と同じ――しかし、立ち位置は大きく異なる――四葉の分家「
私達兄妹の――私とは3ヶ月――
「黒羽家」は四葉の諜報部門の統括をしており、様々な情報関係や裏工作などを得意とする人たちを有している家であるそうです。
姉弟もその才を活かして、諜報から荒事、裏仕事などもこなしているとのこと。そういう意味では、私よりも実践を知り、経験している魔法師であるでしょう。
私は――亜夜子さんにどこか敵視…とまでは行かずとも対抗心を向けられているようで、あまり「仲の良い関係」とは言えませんが――並程度の関係性を築いていると思います。
最も、双子の父親がお兄様を不当に扱ううえに変に絡んでくるので鬱陶しくて……そして私自身、四葉に対して決して良い感情ばかり持っているわけでも無く、どうしても関わるにあたって四葉が絡んでくる双子には色々と思う所もありはしますが……。
重要なのはお兄様の方。
生まれ持った「分解」と「再生」にキャパシティを占有されていたため、一般的な魔法師としての才能を持たず、四葉の関係者のほとんどからマトモな扱いを受けないお兄様に対し、実際に接したり、お兄様の実績を評価し、そして魔法についてのアドバイスを受けるなどの交流を経て正しく認識し、お兄様を尊敬すべき人として受け入れたのです。
そのような訳で、様々な感情が有りはしますが、それを所かまわず表立って出してしまうほど私は子供ではありません。
私はお兄様の隣に座り、お兄様と共に双子と対面しながら移動時間を過ごすだけです。
「それで、今回の招待はどういった用件なのかは……?」
この場にいるのが、私達だけということも、双子からの要望もあってお兄様は普段通りに近い口調でのやりとりをします。
これが本宅などであれば、私のガーディアンというだけの肩書で才能が無いと不当な扱いを受けているお兄様は、奴らからすると「下の者としての振る舞い」を求められてしまうことでしょう。
それを強要されないというだけでも、お兄様にとって、そして私にとっても良い環境です。
「私たちも二人の詳しい予定までは聞かされていませんが……」
「四葉の後継者についての話だとはおっしゃってました」
四葉の後継者……つまりは、四葉家次期当主について。
その手の話は、実際にされたことも、噂話として四葉の関係者間で聞こえてきたりもしていました。もちろん、その後継者候補に私の名前が挙がっていることも。
後継者となること……それは、
けれど、それによるメリットは無いわけではありません。私の地位が盤石となること、それはガーディアンであるお兄様の扱いに関しても同様。加えて、内部から変えていくという意味でも当主という立場は間違い無く重要なものではあります。
……ですが、当主となることでのデメリットは
それは、十中八九「結婚」というものが付いてくるということ。
家を率いて、発展させ、存続させていく存在として、ソレが必要であることは理解できます。しかし、私は結婚に対して前向きに考えることはできません。
まだ早いというのも一つの理由。そして、なにより私はお兄様のことが……大好きであるということ。異性として――かどうかはひとまず言及しませんが、お兄様を差し置いて他の男性と結婚したいと思えるほど、誰かを想い愛することが想像できませんし、できる気がしません。
もちろん、どれだけ私が大好きで愛していたとしても、お兄様とは結婚することはできないのは分かっています。
私やお兄様の地位が上がることが、お兄様のためになることも。
それでも……。
私の胸の内で回るモヤモヤした悩みが解決する事なんて無く、答えの出ないまま時間は立っていき、こうしている間にも本宅に近づく。
大した心の整理も覚悟もできないまま、現当主の前に行く。
その事実がより不安を大きくするようでした。
陽が落ちた頃。
本宅の屋敷に着き、双子と共に執事長の葉山さんに案内されて四葉家当主・四葉真夜様のいる執務室へ。
双子は執務室までは入らずに、外で待機。葉山さんは「お茶を用意しますので」と
執務室にて、対面した四葉真夜。
こうして画面越しでなく、面として接するのは久しい気がしますが、以前と何の代わりも無いように見えます。
「お待ちしておりましたわ、深雪さん、達也さん」
命令口調などでも無く、ふんぞり返っていない。丁寧で落ち着いた声色。
けれど、確かに感じられる圧。もっとも、本人は威圧しようとなんて思ってもいない、ただ自然といるだけでしょうけれど……。
「おすわりなさって」と、掌で部屋の中の椅子を指し示して促されます。
私は一つ礼をし断りを入れてから腰を下ろします。それに習うように、ガーディアンであるお兄様が私のそばにつきました。
それを確認すると小さく頷いた真夜様。
「深雪さん」
「っ、はい」
「高校生活、第一学年が終わろうとしていますが、将来どのようにしていきたいか明確なビジョンは持てるようになっていますか?」
「……はい?」
「漫然と学ぶだけではいけませんよ? こういったことを学びたい、将来こんなことを仕事にしてみたい……そんなことを、一年の学校生活の中で得ることはありませんでしたか?」
想定外の言葉に、つい、不適切であろう返しを漏らしてしまう。
てっきり、後継者として~とか、そんなことを言われると……それが、なんでか学校のこと?
目の前の真夜様の様子は特に変わりはない。私の漏らした言葉を特別不快としているわけでもなく、あくまでも私の返答を待っている様子。
「申し訳ございませんが、真夜様」
固まってしまっていた私を見てか、救いの手を差し伸べてくれたのはお兄様でした。
「達也さん、どうされましたか?」
「今日は、何故このようなことをお聞きになろうと?」
私も少なからず感じていた根本的な疑問を投げかけたお兄様に、「そのことか」といった様子をみせた真夜様は「それはですね…」と言葉を続けました。
「週末に十師族の集まりがあるのですが、他の家は後継者や子供を連れてくるとのこと。流石に今回は連れていけませんけれど、そろそろ真剣に決めていかなければと……候補の方々の現状と意思の確認と、猶予までにしっかりと考えてもらえるよう促そうかと思いまして」
そこまで言ってから一息ついて、ニッコリと笑顔を見せて改めて言葉を紡いできました。
「あとは、姉の忘れ形見のお二人の成長を、この目で確認しておきたかったので」
その言葉を聞いて、お兄様もある程度は納得はしたようで――私も意図は理解できました。
けれど、結局私は大元の問いかけに答えることができずにいました。
今後、そして将来、どうしていきたいか。その答えを
なぜなら、そのほとんどが「お兄様と~」が付き、自分の将来したいこととして挙げられるか、悩んでしまったから……。
「ご心配には及びません、今すぐ答えが欲しかったわけでもありませんでしたので」
私の内心を読み取ったかのようにそう言って見せた真夜様。
「当主やそれに準ずるものを目指すのであれば、コチラから道を示すことができます。ですが、それ以外の道――所謂一般企業やフリーランスで働くとなれば話は別です。今のうちから、少しずつでも考えていく方が良いでしょう」
まるで話に聞く、進路相談のような言葉の数々が私の耳に入ってきます。
「当主以外の生き方を選ぶなら、しっかりとその道を考えておくようにしてくださいね」
優しさとも、警告とも取れる言葉。
けれど、そこには厳しくはありつつも将来の自由が開かれているように聞こえてきて――
「……はい。今後はより将来を考えながら勉学に取り組んで参ります」
――でも今は、そんな当たり障りのない返事しかすることはできそうにありませんでした。
思いのほか、早く終わった当主との会談。
「客間にお茶を用意してもらってますから」
そういった真夜様自らが執務室の扉を開けてお兄様と私についてくるように促して歩き出します。
外で待っていた双子も合流し、真夜様の前を行く。
客間を目前として、双子が早足になり先立って客間の両開きの扉に手をかけ開けようとし――
――歩く私は手を掴まれました。
驚きはしません。そこにいるのは、私が最も信頼する人なのだから。
「お兄様?」
ただ、疑問は感じ、立ち止まって振り返る。
すると、すぐに手を離しました。そこにいるのは、いつもと変わりの無いお兄様。
どうしたのでしょうか?
その感じた疑問を改めて声に出すその前に、かすかな擦れる音と共に扉が開かれ――――
「やぁ久しぶりだね、二人とも」
声が、聞こえた。
「
亜夜子さんの声。
「ちょっ!? 流石にそんな呼び方は…!」
文弥さんの声。
「いいんだよ。僕からそう呼んでもいいって言ったんだから」
誰かの声。
「ふぅ……美徳ではあるけれど、子供に甘すぎるのも考え物ですね」
真夜様の声。
「お言葉ですが、もう子供と呼ぶべきでは無いレディとなっていますので」
亜夜子さんの声。
「どうでしょうね? それはあくまで自認の話。事実は月島さんの目を見れば、一目瞭然でなくて?」
また、真夜様の声。
「まあまあ。公的な場ならまだしも、今は僕らだけしかいないんだ。無礼講……いや、もっと気楽な感じでいいんじゃないかな? そう、家族のようにね」
誰かの――
気付けば、開け広げられていた客間の扉へと駆け込んでいた。
そして、私の視界に飛び込んできた光景。
「……どうして」
居るはずのない存在。
「どうしてここにいるの!?」
ソファーに腰かけながら、亜夜子さんに左腕に抱き付かれ、隣に座る文弥さんの頭を右手で撫で、そばに立つ真夜様に微笑みかける その姿。
「月島、昊九郎……!?」
普段は呼ばない
「深雪さん? 何をおっしゃっているのかしら?」
「それにこーくんにそんな言葉遣いと呼び方は、いくらなんでも非常識ではなくて?」
「その、達也さんからも……」
深夜様は疑問を、亜夜子さんは非難を、文弥さんはお兄様に……
「何をって、ありえないじゃないですか!? だって! 彼は、四葉と関係無い、一般家庭のっ、一般人で……!!」
「本当に何を言っているのかしら……?」
会談では何も変わらなかった真夜様が、心底信じられないといった様子で何度目かの疑問を投げかけてきた。
そして、それは月島さんの両脇を固める双子も同様の様子で……
「お二人も巻き込まれた沖縄海戦で、領土を守り大亜細亜連合を撃退できたのも」
「横浜事変をあれだけの被害に抑え、報復を完遂することができたのも」
「我々「四葉家」が今、この地位にあるのも」
――――全部、月島さんが居てくれたからじゃないですか
「月島さんが、四葉と関係が無いわけがありませんよ? 深雪さん?」
信じられない。
意味が分からない。
疑うことも無く、そう言い放ってきた様子が……
そんな三人に囲まれて薄っすらと微笑みを浮かべる男が……
振り返る。
駆け出した私について来ていたお兄様と視線が交差する。
「おにい、さま……!」
お兄様は私を見ていた視線を、むこうへと向け……
小さく溜息をついた。
「御三方、お戯れを」
一歩踏み出し、私の前に立ったお兄様。
「月島と四葉の関係は深雪が当主を継承するその時まで秘密にする……そういう話だったのをお忘れですか?」
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