幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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かつて約束した誓い。

だが、それは叶わなかった。

噛み合わなかった歯車が重なり今動き出した。

黄金の獅子は約束を果たす為に立ち向かう。





第四十四話 『闘乱《トウラン》後編』

禁牙の接触を受け、負傷したボルフォッグを回収した翌日。

 

ホンコン国内の廃墟エリアに侵入した帽子型機動要塞があった。

 

名はシャポー・ド・ソルシエール。

 

バイオネット所属のギムレットを指揮官とする空中要塞である。

 

この状況に対しGGGはホンコン政府にホンコン国内における戦闘行為の容認を求めたが…

 

ガンダムファイト中の為に中々容認が下りずにいた。

 

それに対し国際警察機構の発言もあり、ホンコン国内での戦闘行為が認められた。

 

なお、活動中のバイオネット幹部逮捕の為に現地に赴任しているエキスパートの参加も含めていた。

 

ホンコン国内での戦闘許可が下りた後、私とロサは国際警察機構の上層部からの指示を受けてホンコンに到着したGGGと合流する事となった。

 

なお、今回の戦闘行為に対して持ち込み厳禁だったNEWのAMも別ルートから搬入して貰っている。

 

そして今回の戦いに向けて私はロサと話をしていた。

 

 

「ハスミ、許可が下りて良かったね。」

「ええ、それに機体を持ち込めないんじゃ話にならないわ。」

「本当ならアレで戦う方が効率いいと思うけど…」

「そうね、だけどあの力はこの場で見せない方が良い。」

「そう…だよね。」

「…(ロサの正体が漏れてないからいいけど…あの力まで使ったらどうなるか。」

 

 

アレとは念神と機神の事である。

 

能力は凄まじいが出処が出処なので下手に出す事は出来ない。

 

空白事件の最中は状況が状況だったので仕方がなく手札を出した。

 

事件後に軍上層部に知られて接収されそうにもなったが…

 

生憎とそれらは契約した本人しか使えない上に運用もその本人のみとなってしまうので迂闊に手が出せない。

 

見事なまでの永久登録なワンオフ機体であり、それも相まって量産も不可能。

 

事情を知るコーウェン准将と小父様の伝手で有耶無耶にしたりサクラを入れて曖昧にして頂いている。

 

その為、軍は私達を元の部隊からギリアム少佐の諜報部隊に転属させて経過観察に決めたとの事だった。

 

頃合いを見て…

 

あの『それも私だ!』が政府直轄の特殊部隊に転属させる腹積もりだろう。

 

一部の役立たず共はあれだけ助言して置いたのに本当に振り落としが雑である。

 

私はその時が差し迫っている事を知りつつも流れのままに任せた。

 

これは変えてはいけないターニングポイントなのだから…

 

 

「ロサ、GGGと合流したら光竜達と会って来て良いよ。」

「いいの?」

「勿論、向こう側の了承を得てからだけどね。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

乙女なガールズトークにお姉さんは眼福眼福なので。

 

それにロサの精神不調メンテを兼ねている。

 

この決着はロサ自身が着けるべき事。

 

助言はするがそれ以上の手出しはしない事にしている。

 

 

「…(今頃、ネオ・ネパールの僧侶達…大塚式ウソ発見器の餌食になっているだろうな。」

 

 

僧侶達と言うのは前回キラルを自爆させようとした連中の事である。

 

リアルタイムで大塚署長の大塚式ウソ発見器が執行されています。

 

あのカツ丼の誘惑に勝てる人なんて数える程度しかないでしょうね。

 

念視から泣きながらがっついているのが視えます。

 

相変わらずえげつない。

 

で、彼らにDG細胞を提供したのがウォン首相の配下の者だった事が判明。

 

だが、彼らの発言だけで物的証拠がない。

 

暫くは様子見となるだろう。

 

引き続き、現地調査に入らなければならないが…

 

別の事件が差し迫っているので油断は出来ない。

 

 

「…(大元のバルトール事件は未遂で終わった、修羅とデュミナスの一件が終わった訳じゃない。」

 

 

バルトールに関してはジジ・ルーと共に何機か行方不明のままとなっているので何時再発するか判らない。

 

修羅も今回の出方が不明の為、下手な行動は取れない。

 

デュミナスに関しては横槍を入れては失敗に追い込んでいるのでいずれ痺れを切らせるだろう。

 

 

「いや、私が本流を捻じ曲げ過ぎた結果なのかもしれない…」

 

 

私は静かに呟いた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

GGGと合流後、私達は作戦会議に参加。

 

既にガオファーが出現したエリアの民間人の避難は終了している。

 

勇者チームがガオファーを拿捕する一方で凱が命の救出に入るとの事だ。

 

だが、これも敵の罠がある事を推測させた。

 

この時点で相手側はGSライド対応の対勇者用ウイルスを完成させている。

 

これでこちらの動きは封じられるだろう。

 

しかし、これだけではない。

 

同時刻にホンコン国内でガンダムヘッドとデスアーミーの大群が出現。

 

マスターガンダムを筆頭に各国のガンダムファイター達が応戦している状態だ。

 

現状、女王感染者の正体が判らないままだ。

 

DGいや子供の方が事を起こしていると推測も出来る。

 

と、成ればデビルガンダム四天王も生み出されても可笑しくはない。

 

更にバラルの禁牙もこの期に妖機人を出撃させていた。

 

災厄の三つ巴戦。

 

 

「ブチ切れてもいいですかね?」

 

 

会議終了後、出撃準備の最中。

 

私も大人気ないと思ったが、内密に彼らを呼び寄せる事にした。

 

 

「あの脳筋には『地獄』を見せてやるしかなさそうね。」

 

 

出撃後、私達は凱達と共に対バイオネット戦に参加する予定だったが…

 

DG軍団の件もあり、二手に分かれる事に決めた。

 

私はそのままバイオネット戦に。

 

そしてロサをDG軍団と戦闘を続けているガンダムファイター達の応援に向かわせた。

 

これはロサ自身が選んだ道である。

 

私が止める筋合いなど無い。

 

 

「…やっぱり、そう来たか。」

 

 

情報通り、バイオネットは対勇者用のウイルスを発動させ氷竜らGSライドの勇者ロボ達は戦闘不能となった。

 

 

「動けるのはお前だけの様だな?」

「だったらどうするつもりですか?」

「貴様の動きさえ止めればこちらの手の内だ。」

「そうですが…」

「!?」

 

 

私は操縦桿を握り絞めるとシュウの駆るガオファーに突撃を開始した。

 

 

「な!?」

「私、これでも切れてますので。」

 

 

そう、このエクスガーバイン・クリンゲの力を見せてあげるわ。

 

 

「ガーリオンのスペック上、こちらの方が上の筈…!」

「違うわ、この子の名前はエクスガーバイン…ガーリオンとヒュッケバインの力を併せ持った機体。」

「まさか…!」

「念動力者を甘く見るな!!」

 

 

エクスガーバインの武装が一つ。

 

 

「T-LINKフルドライブ…グラビティ・ドライバー!!」

 

 

重力の一撃がガオファーに突き刺さる。

 

 

「かはっ!?」

「続けて、アキュリス展開!!」

 

 

吹き飛ばされたガオファーに念動の槍が突き刺さる。

 

 

「重力の檻…ゲフェングニス・フォン・シュベラクラフト!!」

「う、動けん!」

 

 

念動による重力の檻となったアキュリスに囚われたガオファー。

 

 

「そのまま静かにしていてください。」

 

 

そして私は凱に合図を送る。

 

 

「今です、勇者王!!」

 

 

シャポー・ド・ソルシエールに潜入した凱達が反撃の牙を剥けた。

 

そして命とガオマシーンの回収が完了し要塞から撤退した。

 

度重なる現実に困惑するギムレットの心情は穏やかではない、そう任務失敗の文字が脳裏に浮かんでいたからだ。

 

同時に突如、ブリッジのモニターに通信が入った。

 

 

『ご苦労様です、ギムレット。』

「ウォン、貴様…我々バイオネットの技術提供を受けて起きながら!」

『そのバイオネット上層部より君に通達です、任務失敗の業は自ら受けて貰うとの事ですよ?』

「ヒヒッ!?」

『私も彼らの協力者として貴方の加勢は出来なくなりました、後はご自由にお願いします。』

 

 

各所より爆発を引き起こしている要塞のブリッジのモニターが切れると、ギムレットは追尾型ビーム兵装のコンソールを動かした。

 

 

「いけませんねぇ…アルエットちゃん、悪い子はお仕置きをしなければなりません。」

 

 

それはギムレットが任務失敗の汚名を晴らす為に行った愚行な行為だった…

 

 

「命さん、危ない!」

「!?」

 

 

作戦が失敗し要塞のビーム兵装を起動させ避難中の命達を狙ったギムレット。

 

アルエットによって庇われた命。

 

ビーム兵装の直撃を避けたものの爆風に巻き込まれた上に要塞から落下。

 

だが、ファイナルフュージョンを成功させたガオファイガーによって救出された。

 

 

「ギムレット、シュウとアルエットの運命を捻じ曲げ、命を攫ったお前達バイオネットを俺は許さない!!」

 

 

ガオファイガーのブロウクンファントムが要塞に居たギムレットごと艦橋を貫いた。

 

 

「い、いけましぇぇぇんん!!?」

 

 

崩壊する要塞と共にギムレットは消えて逝った。

 

 

 

「アルエット、しっかりして!」

「うっ…」

「アルエット、良かった…」

 

 

ガオファイガーの掌の上で命が気絶したアルエットを介抱。

 

アルエットも意識はなかったが、無事である事は確認された。

 

二人を回収した凱はコックピットの中でシュウに語った。

 

 

「シュウ、お前との約束は必ず守る…決着はその体を治してからだ。」

「ああ、済まなかった…凱。」

 

 

*******

 

 

一方その頃。

 

 

「…私はもう影に囚われない!」

 

 

再生を繰り返し無尽蔵に出現するDG軍団。

 

応戦するガンダムファイター達を支援する様にロサのエクスガーバイン・ピストーレが降り立った。

 

刃のクリンゲに対して銃撃戦特化に仕上げられた銃のピストーレ。

 

ロサの高度処理能力と反射速度計算が合わさる事でその効力を発揮する。

 

 

「計算完了、これ以上好きにはさせないです!」

 

 

ピストーレ専用の銃撃兵装、シュピルツォイグ。

 

 

「ミサイルの雨霰…ラケーテ・フォン・ナーデル!」

 

 

玩具箱と揶揄された兵装から発射されるミサイルの嵐。

 

的確に敵の発生源となっている機体をピンポイントで狙っていた。

 

 

「ドモンさん、マーカーを付けた相手がガンダムヘッドとデスアーミーの発生させているエネルギー源です。」

「ロサ、済まない。」

「こちらで援護は継続します、皆さんは発生源の破壊をお願いします。」

 

 

シャッフル同盟を先頭にデスアーミーの大群に突撃するガンダムファイター達。

 

ロサは弾薬が続く限り、支援と援護射撃を続けた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ギムレットと共に帽子型要塞が墜落した事によりバイオネットのガオーマシン強奪事件は幕を下ろした。

 

バイオネットのメタルサイボーグである鰐淵シュウは投降。

 

その後、拘束されGGGで治療を受けた後にその罪を問われる事となった。

 

凱と誓った思春期の約束を交わす為に、彼もまた新たな道へ進むだろう。

 

私達は今回の現場の引継ぎを行った後、もう一方の戦いを終えたロサと話をした。

 

 

「ハスミ、これで良かったのよね?」

「ええ、今の所はね。」

 

 

バイオネットは首領・Dr.タナトスが逮捕されない限り、活動を続けるだろう。

 

今回はギムレットを退けただけマシなのかもしれない。

 

後は伏線であるパスキューマシンが地球へ降り立つ日を待つだけである。

 

アルエット、貴方の頭脳は来たるべき日まで眠っていなさい。

 

在るかも知れない『覇界王の訪れ』の時まで。

 

 

「…次は釧路湿原での戦い、か。」

 

 

徐々に満る月の残像を黄昏の空から見上げながら私は次なる戦いに意識を向けた。

 

 

=続=

 




繋いだ縁と共に突き進む。

人の皮を被った人外達。

この出逢いは新たな可能性の導き。


次回、幻影のエトランゼ・第四十五話 『巡天《メグルテン》』。


古き時代に交わした盟約を果たそう。


※エクスガーバイン・クリンゲ
ガーバイン・クリンゲを改修した機体。
T-LINK兵装をリミッターを解除しているのでその馬力はすさまじい。
ピストーレとペアを組む事で真の本領を発揮する。

※エクスガーバイン・ピストーレ
ガーバイン・クリンゲの改修と並行して開発された機体。
銃撃特化型であると同時に武装使用時に高度処理能力を必要とされているので補助AI搭載が必須となる。
クリンゲとペアを組む事で真の本領を発揮する。

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