愛情なんてひとそれぞれでしょう。

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愛情の有無によって双子の価値観は変わるのだろうか?

「だから、違うって言ってんだろうが!!」

「ならお前以外に誰がいるんだよッ!!」

「……ッ」

 繰り返す同じやり取り。体のあちこちに傷を持つ少年と男性。取調室で警察に事情聴取を、少年はされていた。しかもどうやら、犯人が少年であると決めつけての、尋問であるらしい。

 既に一時間は経過した。最初から今に至るまで、徐々に語気を強くしているが結論的には「早く自白しろ」ということしかされていない。

 しかし、違うものは違うのだ。事実、少年は犯人ではない。しかし、少年は自分が疑われる理由を、自分が犯人だと決め付けられる理由をハッキリと理解していた。そして理解しているからこそ、この状況を変えるのは難しいと理解していた。

 少年が犯人として疑われている事件の概要は以下の通りである。

 

 とある双子の姉弟の両親が殺された。その時間、両親を殺すことができるのはその姉弟だけ。ならばと警察は二人を取り巻く環境について詳しく調べた。すると、その姉弟、少女と少年には決定的な扱いの差というものがあった。

 姉である少女は甘やかされ、弟である少年は徹底的に厳しく育てられていた。少年の体の傷は両親の虐待に等しい教育の賜物だった。

「姉との扱いの差に我慢できなくなっての反抗、そういうことだろ。二人の中で、唯一動機があるのはお前だけなんだよ、いつまでこんなことを繰り返すつもりなんだ?」

「……俺はやってない。ふざけるなよ、クソが」

 少年も相手も一時間、同じやり取りをしている。理屈ではなく感情的に、互いの正義をぶつけあっていた。どちらも自分が悪だと認める訳にはいかない。

 

 なるほど、確かに少年は姉とは正反対の地獄に等しい教育を受けた。こちらが必死に勉強をしている中、姉は楽しそうに大音量でFPSゲームをしていても怒られるのはこちらの方。集中できないと文句を言ったならば「集中力のないお前が悪い」と怒鳴られてしまう。中学三年間学年一位を取り続けているというのに一切褒められず、かと思えば姉がネットゲームでたかが十万位を切ったことで両親は大喜び、狂喜乱舞していた。双子だというのに誕生日の扱いすらも全く違う。姉が巨大なホールケーキを食べているというのに、こちらは粗末で雑で甘みの強い小さなケーキを与えられ、甘過ぎるなどと文句を言えば殴る蹴るをされた。他にも前例をあげればキリがない。――普通に考えれば、それで殺意を抱いていると思われても仕方がない。

 いや事実、少年は両親に殺意を抱いた。何回も、何回も、何回も殺そうとして、しかし、殺す暇すら両親は与えなかった。俺を殺す暇があるなら努力をしろとそんなことを宣う両親だった。だからだろう、武道にも多少は精通し、嫉妬からのいじめも回避していた。精神力も強く、一時間の尋問を経た今も尚、一切折れるつもりはない。何がどこで功を為すか分からないな、とそんなことを思うくらいだった。

 と、そんな時だった。

「ちょっ、先輩ッ! まずいって、勝手に入ったら!」

「うるせぇな、事実を伝えることの何が悪いんだよ」

 突然現れたのは二人の警官。先輩後輩コンビであるらしい二人は、しかし他の警察官から歓迎されていない様子だった。

「さて、面倒臭ぇから事実だけ告げるぞ。お前らが調べてる事件、犯人が自白した。――犯人は、殺された夫婦の娘だ」

「……は?」

 声を漏らしたのは少年であり、尋問をしていた警察官だった。

「まぁ、詳しくは本人から事情を聞けばいいだろ」

 現れた少女には手錠が掛けられており、尋問していた警察官が座っていた椅子に座る。事情聴取の前にと、少女は一つ条件を出していた。少年と話がしたい、という条件を。それが終われば全て答えると、しかしその前に少年と、弟と話がしたかった。

 

「どういう、ことだよ。姉さんが殺した? んな訳ねぇ、だろ?」

「……ううん、私が殺したの。簡単な話でしょ、物理的に殺すことができるのが私達二人で、君が殺してないんだから、私が殺したに決まっているじゃない」

「違う。だって、姉さんにはあの二人を殺す理由なんてないじゃないか。……だって姉さんはあの二人に――」

「――愛されていた、とでも言いたいのかな?」

「……ああ」

「違うよ。あの二人に誰よりも愛されていたのは、君だよ」

 空白。思考停止の白。何がどういうことか分からず、言葉に詰まってしまう。

「は?」

 ようやく絞り出せたその声は不確かで、発声が上手く言ったのかすら疑問視したくなるほどだった。

「悔しかった。私はずっと、君に劣等感を抱いていた。何でも一人でできて、何でもやり遂げられる君が、私はずっと、ずっと羨ましかった」

「何、を?」

「私はね、あの二人から見放されていたんだ。何もできないから、無能だから私にあの二人は何もしなかった。ずっと、ずっと優しく接した。……あれは全部、哀れみだったの。この子は何もできないから、だからできたことはほめてあげようっていう、そういう慈悲だった。無慈悲に、私はそうして諦められた」

 続けて少女は言葉を紡ぐ。既に少年の思考では今の事象は理解できず、故にここからは少女の独り語りとなる。

「辛かった。ずっと、ずっと、私は何もしなくても褒められて、何をしても褒められて、ずっとずっと、そうして甘やかされていた。だけど、君は違った。表では厳しくされていただろうけど、裏では君をあの二人はずっと評価していた。学年一位だって、ずっとずっと、喜んでいたよ。それこそ、私を褒める時なんかに比べ物にならないくらいに」

「だから、嫉妬した。私は君が嫌いだった。嫌いで憎くて、殺したくて、だけどそんなことをしてはいけないって分かっていたから、できなかった。別にルールだからって訳じゃないよ、無能な私が有能な君を殺したりなんて、そんなことできる訳がなかった」

「だからね、あの二人を殺したんだ。あの二人がいなければ、私はあの二人に甘やかされることも、君を厳しくそして徹底的に評価することもない。……そうすれば、私は劣等感に塗れることはない。思いついた時は名案だと思ったなぁ。あとはこのまま、どちらも知らないで通せば、そのうち未解決になって、それで終わると思った」

「……だけど、違った。君が犯人として疑われた。考えたら分かることなのにね、だけど、私には分からなかった。君なら分かったんだろうね、だから君は両親を殺さなかった。……私にはそんなことすら分からなかった。私はさ、何もできないから、だからせめて君には迷惑を掛けたくなかったんだ。……ごめんね、本当にごめん」

 感情が先行した、順序だっていない曖昧で無茶苦茶な言葉の羅列。それでも伝わってきたのは、少年と少女の価値観には絶対的な差があったということだった。

 

「……そうだ、最後に一つだけ」

 連れて行かれる姉の姿を、呆然と見つめる少年に、少女は一言。最後とは、もう二度と会わないという意味であり、そういう決意の表明だった。

「誕生日に、君が食べていたケーキ。……あれ、お父さんとお母さんが頑張って作った、手作りのケーキなんだよ。……私も、食べたかったな。……あの二人の、本当の愛情が、私も欲しかったな」




お久しぶりです。私事ですが、電撃大賞にて一次突破しました。嬉しいです。

さて、事件の後少年は、パティシエを目指すようになったそうです。曰く、誰よりも愛情の籠もったケーキを送りたい相手がいる、とのことです。

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