世界平和と己の幸せが俺の夢   作: 黒兎

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学校生活の多忙さとリアル経験値足らなくて、男女交際レベルが1はおろか、0クラスの『 黒兎』です

この一話でデート回を終わらせるつもりだったんだけど………尺の都合で跨ぐ事になりました



あと、一つ、大事な事を言っておこう………








………私に甘ったるい話を書けというのは何よりも難易度が高いぞ=期待するな


加えて、キャラ崩壊も中々あるので、心しといて………だって、あの子が………ツン要素少ないんだもの




追記(2016/09/19):まさかの未完成の方を投稿してたです………たった今修正いたしました。申し訳ございませんm(_ _)m

追記バージョン2:活動報告に謝罪文まとめておきました………








離反のエクストラ Part1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう………全身がフワフワする。

 

 無意識にそう思い至った黒乃は理解する。

 

 

 ここは………夢の中だ。でなければ、こんな気持ちになる訳無い。

 

 そして、霞みがかった視界を少し上に逸らすと––––逆光で見難いが、誰かが居て、膝枕されていた。

 すると、そんな視線を感じ取ったのか、膝枕していた“人”はニッコリと微笑み、声を掛ける。

 

 

『おはよう………よく寝た?』

 

 

 この鼓膜によく響く声。声量は普通程度なのに、随分と独特な声音だ。

 

 だが、黒乃は何も答えずに再び目を閉じる。

 

 

『あらあら………何か癇に障った?』

『………別に』

 

 

 すると、今度は答えた。それに人は再び微笑む。

 

 

『それでよく寝た?』

『俺に答える義務は無い』

『あらら、冷たいわね………』

 

 

 ズーンと意気消沈した人は一度咳払いをしてから、何かを諭し始める。

 

 

『黒乃………貴方は凄いわ』

『………いきなりなんだよ』

 

 

 突拍子の無い一言に黒乃は怪訝な表情を浮かべる。が、御構い無しに––––しかも、まさかの頭を撫でながら、言葉を続けた。

 

 

『貴方には人類の全てが詰まってる。希望も絶望も、その全てを。でも………貴方にはある物が欠けていた』

 

 

 ………分かっている。

 

 言外にそう言わんとする黒乃に人は微笑みを崩さない。

 

 

『だから、その欠けた物は私が埋めてあげた。やっぱり、私凄い!』

『………おい、なんか自画自賛が続きそうだぞ』

『おっとっと、脱線する所だった………』

 

 

 ホント、この人は色々と抜けている。

 やはり、天才は思考回路の繋ぎ方が常人とは違えているのだろう。

 

 

『えーっと………そうそう。で、一応は欠けてる物を補ったけど………それは仮初めで、出鱈目で、贋作だ。本物には数段以上劣っちゃう訳だ。だからね………黒乃は探すべきだ』

『ちょっと意味不明なんだが………』

『良いから最後まで聞く! 貴方はね………いつか、底から先まで赦せる様な相手を見つけるんだ。歪で異形な君を受け入れて、横に並んで歩いてくれる人を』

『………やっぱり、意味分かんないな』

『ふふ……まだ学習していない領域だしね、仕方無い。でも、覚えておけば、君はもっと………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヴァイアサン級《アンノウン》討伐作戦から一夜を明かした黒乃は神奈川にある寮の自室で眼を覚ました。いつも通りの時間に。

 倦怠感は未だ抜けずにいて、正直まだ寝ていたい。

 今日は大規模作戦の後だからか、特例で三都市はお休みムードで包まれている。きっと、寝ててもバチは当たるまい。

 だが––––

 

 

 ピーンポーン。

 

 

 ––––朝っぱらだというのにインターホンが鳴っている。

 今までの経験則的には舞姫かほたるだろう。

 ならば、無視一択だ。どうせ、扉なんか壊して入ってくるのだから。

 しかし、

 

 

 ピーンポーン………ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン––––

 

 

 何故か延々と鳴らされているこの状況は一体どういう事だ。

 もう一度言おう。朝っぱらだ。

 こんなにインターホンを連続して鳴らすのは常識的に考えて、可笑しい。

 

「あー………無視無視。こちとら怠いんだっつーの………何が悲しくて休日の朝っぱらから面倒そうな事に首を突っ込まなきゃならないんだよ」

 

 そう言い残し、黒乃はいそいそと布団に潜り込み、イン・ザ・ドリームの彼方へと誘われんとした時、インターホンに変化が起きた。

 

 

 ピーンポーン、ピーンポーン………ピンポン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン………

 

 

 引っ切り無しに連打して、音は部屋内に充満。

 流石に………流石に………………

 

 

「–––––––––耐えれるかぁッッッ!!」

 

 

 猛然と叫ぶ黒乃もある意味、近所迷惑なのだが、そんな事には気付かず、黒乃はフローリングを思いっ切り踏み締めながらに音源の近くたる扉へと向かう。

 そして–––––

 

「るっせぇんだよッ常識的な時間を考えろッッッ–––––––––––––––って、明日葉?」

 

 ––––扉を開くや否や、文句を思いの限り吐き終える寸前に、確認出来た相手の顔を見て、声音はだいぶ落ち着く。ただ、脳内は混乱の坩堝に陥っていた。

 あれれ………扉を開くと、そこにいるのは色素薄い髪のチビ(まいひめ)か、過保護が過ぎる阿保護者(ほたる)がいると思っていただけに、視界に入ってきた赤茶髪に驚きを隠せない。

 

「うぃーっす。おはよー、クロォ」

「………朝っぱらから、近所迷惑は良くないんだが………………というか、おはよう。何しに来たんだ、他都市の首席様が」

「んー………何っつーか、話? というか、色々的な?」

「訳分からん………」

「というか、部屋入れて。出来れば、コーヒーよろ」

「随分と豪勢な対応をご所望ですこと………まぁ、良いよ。入って寛いでろ」

 

 そう黒乃が返すと明日葉はそそくさと部屋に入り、文字通り寛ぎ始める。本当に遠慮の知らない奴だ。

 その様子を尻目に黒乃は冷蔵庫から普段愛用のアイスコーヒーを出し、グラスに注ぐ。

 両手に黒々とした液体が入ったグラスを持ち、明日葉が寛いでいるリビングに向かい、取り敢えず机にグラスを置いた。

 

「ほら」

「サンクス」

 

 単純な短いやり取りを経て、明日葉はアイスコーヒーを一気飲み。最早、遠慮を感じない………まぁ、最初からそうだったが。

 ふぅ………と溜息吐く明日葉は空っぽのグラスを机に置き、黒乃をジッと見つめる。

 

「何だよ」

「………別に何も無い」

「というか、どうやってここまで来た? 普通、他陣営の生徒が入ろうとすると、面倒な手続きだらけな筈なんだけど」

「あー………ちょっち不味いかも」

「は?」

 

 そして、明日葉はどうやってここまで来たかを語り始めた。

 どうやら、ここに早く辿り着きたかったらしく………だいぶ端折ったらしい。

 正規の手続きは首席権限で無理矢理通し、公共交通機関を使うのも億劫だったらしく、神奈川陣営領に入るや否や、公共の面前で《世界》を乱用しながら、やって来たらしい。

 都市内で、他陣営の生徒––––しかも、首席が《世界》を顕現。下手すれば………

 

「警備隊とかが来る、かも?」

「はぁ………やっぱり、ロクな事にならないんだな。でも、舞姫にでも連絡しとけば大丈夫だ。この都市、舞姫で回ってるから」

 

 黒乃はパパッと端末で事の顛末を舞姫に報告しておく。

 こういう不測の事態が相手の時は、多少は面倒でも早めに対処しておくのが最善だ。

 

「これで………大丈夫、かな? で、そこまで急ぎの用って何だよ」

 

 ………まぁ、想像は付いているのだ。

 黒乃の《世界》か、普段の実力制動か。

 大凡、そのどっちかに違いない。

 ただ、それを当てるのではなく、本人の口から聞く。そこが重要なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––––––––––と、勝手に脳内捲し立ている中、明日葉は黒乃の予測のどれをも超える答えを出してきた。

 

 

「あー……少し付き合ってくんないかなぁと」

「………へ?」

 

 あれー………なんか読み違えたぞ、おい。

 

 そう思う黒乃は一度唸り、首を傾げた後、慎重に言葉を選んで尋ねる。

 何故か、ここで選択を間違えてはいけない気がして。

 

「えーっと………それは今からって事か?」

「勿論。じゃなきゃ、わざわざ朝っぱらから来ないって」

「デスヨネー」

 

 まぁ、聞いた黒乃も馬鹿だった。冗談で来たにしても、時間が早過ぎる。

 

「で、付き合う? 付き合わない?」

「それって、俺に拒否権云々は存在するのか?」

「ん? あると思う?」

 

 普段では考えられない程の純粋な笑みに黒乃は………逆らえるはずが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 結局、流れ的に一緒にお出掛けという如何にもデートっぽい感じの事となった黒乃と明日葉。

 二人とも、現所属の制服を見に纏い、歩く姿は客観的に見て––––控え目に言っても、変だった。

 だって、千葉と神奈川の生徒。

 しかも、片や、三都市間ランキングで2位という好成績を叩き出しているが故、千葉陣営の首席を務めているという“最強”に近い存在。

 もう片や、圧倒的な実力と絶望的なまでの《世界》を兼ね備えておきながら、ランキングは上位止まりというある種の“歪さ”を感じさせる存在。………まぁ、それは本人の《世界》の本性を知っている者だけが捉えれる印象だったが。

 普通に見れば、千葉陣営の首席と神奈川陣営の雑兵。

 しかも、神奈川陣営の雑兵の方は元々、千葉陣営という裏切り者。

 嗚呼、なんと気不味いのだろう。

 ただ––––当の本人たちはそんな気不味さ以前にある意味面倒くさいというか羨ましい悩みに苛まれていた。

 

「(どしよ………流れで誘ったけど、いざとなるとやっぱ、緊張する………)」

 

 明日葉は黒乃を誘ったものの、それが故の新鮮な緊張に頭を悩ませていた。

 新鮮な緊張というのが、どういった意味を持つかは各々の判断に任せるとしよう。

 で、黒乃は––––

 

「(これってさ………デート、なのか? いや、違う? でも、そうじゃない?)」

 

 ––––とエンドレスな思考で混乱気味だった。

 まぁ、一般的な感性を元に考えるのならば、まだデートとは言えないんだろう。精々、仲の良い友達くらいに見られるのが関の山だ。

 いや、別に疚しい気持ちがどうのこうのの話では無く、単純に焦っていたのだ。

 

 こんな風に二人がそれぞれに想いに心を悩ませる中、口を開く。

 

「「………あのさ––––ッ」」

 

 が、双方同時だった為、両方とも言い淀む。

 

「……明日葉からどうぞ」

「ん……あの…………どする?」

「………考えてなかったのかよ」

 

 明日葉の言葉に黒乃は顳顬を抓った。

 まさか、全く考え無しで外に出されるとは思っていなかったのだ。

 だが、それなら突っ掛かる。

 

「じゃあ、俺に何を“付き合え”って言ったんだ?」

「えと……んー……暇潰し?」

「俺はお前の暇潰し相手ですかはい」

 

 黒乃は適当に返すが––––その視界に入った明日葉の瞳の奥に秘められた意志の色に気を引き締める。

 言葉と意志が噛み合っていない。

 口では随分と気楽な事を言っているが、眼は割と本気。

 つまり、それ程になるまでに何か重要な事があるのだろう。

 

「まぁ、誘ったのは明日葉なんだ。お前の行きたいトコに行けよ。基本は付いて行くから」

「………分かった」

 

 一度、頷いた明日葉は黒乃を連れ、歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

「ここ………かな」

 

 明日葉が歩みを止めたのを視界に留め、黒乃も止まったそこは千葉陣営の領土にある至って普通の喫茶店。

 結局、黒乃にとって古巣である千葉に戻ってきた訳だが………凄く針の筵だった。

 それもそのはず。公には黒乃はただの離反者––––裏切者なのだから。

 妬み、嫉み、恨み、怨み………もっと負の感情の篭った視線が多く集められたが、その度に明日葉が銃口が如くの視線を送り、黙殺していた。ある意味凄い。

 黒乃としては、その負の視線を直で受けた方が損害自体は少ないのだが、こうも無駄に迎撃されて、守られている方がむず痒かったりする。

 

「へぇー、喫茶店。確かに朝飯食えてないから、チョイスとしては最適か」

「でしょー、流石私気が効く」

「へいへい」

 

 軽くあしらう黒乃は明日葉に続き、喫茶店内に入る。

 どうやら、店内自体は外とは違い、落ち着きある雰囲気だった。いつも、馬鹿騒ぎだらけの千葉陣営とは思いにくい。

 明日葉が歩き、座るは店内最奥の席。ならば、流れ的に黒乃は対面側に腰掛ける。

 すると、そそくさと店員が来て、注文を受けに来る。

 店員は一度、黒乃を一瞥し、何か言いた気な表情を一瞬だけ浮かべたが、即座に営業スマイルを浮かべて、言葉を紡ぐ。

 

「ご注文は如何致しましょう?」

「あー………クロは何頼む?」

「一番安い奴で。最悪はコーヒーだけでも良い」

「さっきも飲んでたじゃん………」

 

 ハァッと溜息吐く明日葉は黒乃の分も注文を済ませる。

 

「じゃ、モーニングセット二つで」

「畏まりました」

 

 聞き届けた店員はそそくさと来た道引き返し、消えていく。

 その背中が見えなくなった頃、明日葉は………軽く舌打ちした。

 何やら機嫌の悪そうな明日葉に黒乃は問う。

 

「どうしたんだ? 今のお前、何か凄い表情だぞ」

「ちょっとイラっときた」

「何にだよ……別に可笑しな点は無かったろ」

「気付いてる癖に………バカ」

 

 明日葉の言う通り、不機嫌の理由は何と無くは気付いているのだ。

 先程、表立っては見せなかったが、垣間見えた店員の眼差しに込められた思い。

 あれを敢えて形容するなら………軽蔑、だろう。

 裏切っておいて、ノコノコと帰ってきた。しかも、高々、遊びに来た体で。

 そりゃ、何か言いたそうにする訳だ。

 

「事実だしな………正直、俺は千葉陣営の敵って扱いが妥当だろ。まぁ、それでも………」

「ん?」

「………前、同じ小隊だった奴らは時々手紙寄越してくるんだけどな」

「あー………あの子達か」

 

 黒乃の言葉に合点の行った明日葉は言葉を漏らす。

 

「今も元気なんじゃない? 前と変わってないし」

「字面的には分かってたけどな。まぁ、良かった良かった」

 

 納得しながら、黒乃は息を吐く。

 あいつらが今も元気でやっている。それが確証取れただけで安心は出来た。

 

「(前はあいつらは俺がいないと纏まり無しの奴らだったからなぁ……危なっかしいけど、元気そうで良かった)」

 

 と、思考を走らせる中、店員はプレートに二人分のモーニングセットを乗せて来た。

 

「お待ちどう様」

 

 如何にもテンプレな言葉と共に置かれたモーニングセットは世間一般のと全くと言って良いほど差が無かった。

 焼き目の付いた食パンに目玉焼き。加え、コーヒー。………朝っぱらから、コーヒーばかりな気がするが、気にしない方向で。

 

「それじゃ、いただくか………って、明日葉。お前、もう食い始めてるのかよ」

「だって、お腹空いてたしー」

「まぁ、良いけどよ………いただきます、と」

 

 なんだかんだ言いながらもお腹が空いていたのであろう明日葉は先に食い始めていて、黒乃はそれに続き、食べ始める。

 まぁ、特に変わりないラインナップなだけあり、特に変な味はしない。寧ろ、普通過ぎて怖い。

 数分後、二人とも食べ終わり、一息吐く。

 そして、黒乃は問う。

 

「––––で、これからどうするんだ? どうせ、振り回されるのが眼に見えてるけど」

「うっわー……被害妄想乙」

「事実だろ」

 

 揶揄う口調の明日葉に黒乃は事実を呆れ気に告げる。

 事実、黒乃は振り回され易い気質の持ち主だ。特に明日葉には。

 

「ま、テキトーに暇潰すだけだけど……クロはどっか行きたい?」

「別に。強いて言うなら、お前の行きたい所で良いよ」

「ふーん……」

 

 いつも通りの素っ気ない返しに明日葉は一考。

 しかし、すぐに思い至った様で、返答。

 

「じゃあ、買い物したい」

「買い物、かぁ……なんか欲しい物でもあるのか?」

「ちょっと服がね……私らって、普段から制服じゃん? だから、私服もあった方が良いのかなーっと」

「納得」

 

 黒乃は言葉と共に地味に残っていたコーヒーを啜る。

 

「それじゃ、長居も何だし早く出ようぜ」

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「––––で、ここか」

 

 辿り着いたのは千葉の中でも一番栄えた都––––旧日本で言う、千葉県の千葉市にあたる所にある大型ショッピングモール。

 確かにここならば、明日葉御所望の服を売ってる店も複数はあるだろうし、他に用が出来ても、大抵は何とかなるだろう。

 実によく考えられた選択に納得した黒乃は、中へ入ろうと歩みを進めようとする––––が、明日葉がちょんちょんと背中を突くので、一度立ち止まり、振り向く。

 

「? どうかしたか?」

「いや………あの、さ………その………………」

 

 いつもの明日葉とは違う歯切れの悪さに黒乃は怪訝な表情を浮かべ、少し追及する。

 

「言いたい事があるなら、はっきり言っとけよ。そういう事を言える状況って………思いの外、貴重だからな」

「えっ………」

 

 妙に実感の籠もった言葉に明日葉は思わず、声を出す。

 まるで、その言葉は現実に起きた事の様に。

 まるで、実体験の様に。

 余りに真実に迫り過ぎた言葉は明日葉の心に深く突き刺さる。

 そして、それが原因となり………言いたかった事を言う後押しをした。

 

「え、と………じゃあ、手出して」

「手………?」

 

 明日葉の言葉を聞き届けた黒乃はマジマジと自分の手を見つめ、一度考えてから––––右手を差し出す。

 それに明日葉は左手を重ね、握り締めた。

 握手………などではなく、純粋な手繋ぎ。

 

「あ………」

 

 そして、漸く黒乃は理解………出来た気がした。けど––––

 

「(これが思違いだったら、割と本気でショックなんだよなぁ………)」

 

 だから、口にする事は無い。わざわざ、危険に立ち向かっていくなんぞ、歴史上の英雄にでも任せておけば良い。一般クラスには荷が重過ぎる。

 まぁ、それでも沈黙を貫くのも悪手なのだろう。方向性の違う話をして、気を紛わさなけば––––

 

「にしても、暑いなぁ………やっぱり夏だから?」

 

 ––––と思っていたのに、全く以って不発だった。

 

 だって、体感的に暑く感じるのは、明日葉の手を––––状況的にとはいえ––––握っているからで。

 故に焦っているからで。

 

 何が方向性の違う話だ………ドンピシャどストレートで直球過ぎて、ある意味笑えない。

 

 しかし、そんな黒乃の焦る内心を読み取ったのか、明日葉はすかさずフォローに入る。

 

「ま、確かに夏だしね〜………でも、それだけじゃないんだけどね

「え……なんか言ったか?」

「なーんでもなーい………じゃ、行こ?」

 

 普段とは違い、心底楽し気に笑う明日葉は黒乃の手を引き、歩みを進める。

 その表情の裏に気恥ずかしさを孕んでいた事に気付いたのは多分、直近の黒乃だけだったのだろう………

 




さて………最初のシーンの不穏さと言い、何かが見え隠れするお話となりましたが………大まかにはデートの前哨戦です。次回は………もっと、良い感じになると良いな

あと、タイトルにもこれからの流れの意味を持ってたりするので、考察してみても面白いかもしれませんね〜〜


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