世界平和と己の幸せが俺の夢   作: 黒兎

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Happy Halloween! Trick or Treat!

さてさて、一ヶ月ぶりの執筆で完全にキャラ振れ激しいけど、もう一周回ってそれっぽく見えて末期の私「 黒兎」ですが、大丈夫だよね! 最近、マトモに思考が回ってない気がするね! 大丈夫かな?



色々と動くぞ、今回は



追記:明日葉の服装の記載を変更しました。再度、ご確認頂けると幸いですm(_ _)m






離反のエクストラ Part2

 結局、お互いに手を離す事無いまま、ショッピングモールの中を練り歩く事になった。

 今に至るまで……というか、現在進行形で今も、だが内心焦りまくりだが、仕方無い。もう慣れた。………いや、正確には慣れてないし、未だに心に来る新鮮な温もりがあるが、意識の眼を向けない様にしてやり過ごす事にした。

 

「つか、相も変わらず広いな………」

「まぁ、あたしらのトコの商科にとっては最前線とも取れる施設だし? 当然ちゃ当然」

 

 成る程な、と黒乃は思い頷く。

 

 この防衛三都市は何も《アンノウン》と戦う戦闘員………戦闘科だけで構成されている訳では無い。それでは都市運営などが回る訳無いのだから。

 他にも、戦闘科にとっての生命線たる武装の細部調整やメンテナンスを行ったり、建造物の製作を担当する工科。食料品やその他の品物を生産する生産科。そして、それらを売買する商科、などなどと色々な科によって、この都市は回るべくして回っているのだ。

 

 黒乃が有している知識では、千葉陣営においての商科の活動が盛り上がっているのは、今居るショッピングモールと、休日に都市内にある大型ビル付近を歩行者天国と化して開かれる市場だった筈。どちらも盛況で、他都市から訪れる事も有ったり無かったり………まぁ、それでも珍しいのだが。

 

「で、明日葉所望の店って何処だ? 流石にこの広さで無闇に探し回るのは骨が折れる」

「まぁまぁ、ついて来て。直ぐそこだろうし………多分」

 

 ………何処と無く、不安気な台詞が聞こえた気がする。が、手の温もり同様に無視する事にした。というか、未だに冷静さを欠いていて、気付けなかったのも要因の一つだろう。

 

「今思ったんだけど、クロって神奈川でどんな休日過ごすん? なーんか、イメージしにくいと言うか………」

「休日、なぁ………」

 

 きっと、明日葉にとっては移動中の間を取り持つ為の気の利いた世間話なのだろう。………そう、明日葉にとっては。

 黒乃にとっては………ある種、禁句だったかも知れない。

 

「俺にとっては学校ある日の方が休日だからなぁ………」

「? どゆこと?」

「学校ある日は理由こじ付ければサボれるだろ? でも、休日はその………何と言いますか、舞姫に色々と」

 

 そう、色々………生徒会の事務サポートとか舞姫の暇潰し相手、その他諸々。

 割と本気で休日の方が頑張ってる感あると言う無茶苦茶な状態なのだ。

 が、そんな黒乃の事情など知る由も無い明日葉は、台詞中の一単語に反応していた。

 

「色々………」

「どうした明日葉––––って、痛い痛いッ!」

 

 複雑な乙女心の感線に引っかかったが故、無意識に黒乃の手を握り締めていた明日葉はハッと正気に戻る。

 

「え、っと………なんかゴメン」

「いや、別に良いけどさ………何か気に障ったか?」

「その………何も無い」

「なら、良いけど」

 

 なんかよく分からずに納得した黒乃。

 ………まぁ、人の心なんて理解出来るはずも無いので、ここは引き手も充分に選択肢としてOKだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──と、思った瞬間──────────

 

 

「────────ッ⁉︎」

 

 疾る気配。刺さる視線。

 それに黒乃は反応。視線のした先へと振り向き、キッと見据える。が──そこにあるのは一般人の雑踏。

 あの中から、視線の正体を探すのは難しいに違いない。

 

 だが………

 

「あの視線………まさか、な………」

 

 ………何処か思い至る所のある黒乃は明日葉の手を握る力を痛めないレベルで強めにして、

 

「えっ………クロ?」

「ちょっと足早めるぞ。………懐かしい相手がいる気がする」

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「………ねぇ、アレって………………」

「ん? ………って、ありゃ………ははッ! マジかよ………こりゃ、何の冗談だってんだ!」

「五月蝿い。ちょっと黙りなさい、馬鹿」

 

 雑踏の中、千葉陣営の制服を身に纏う少年少女の二人がいた。

 ここは千葉陣営なだけあり、別に目立ちはしないが………その二人は視線の先に垣間見えた光景に思う所があった様。

 そして、その光景というのは──

 

 

 ──黒乃と明日葉が手を繋ぎ、歩いている姿だった。

 

 

「黒乃様は武術云々を極めてなくても、勘だけで見つけてくる可能性もあるんだから………大声出すとかしないで」

 

 落ち着いた声音で話す水色の髪の少女。パッと見の外見も整っていて、動物でイメージを表せば、猫に近いかもしれない。

 

「あーあー分かってるっつーの………つーか、黒乃を見つけてからの態度変わりすぎだろ。ああいうのが好みか?」

 

 一方、少年の方は赤獅子っぽかった。まるで気性の荒さを感じさせる尖った赤髪は、彼の性格を表しているのかも知れない。

 

「別にそういうのじゃないわよ………というか、黒乃様が私を選ぶ訳無いし」

「まぁ、あの光景見たら、なぁ………やっぱ、アイツに希望を与えたのは、首席様なのかね」

「………知らないわよ」

 

 少年の言葉に少女は若干、機嫌を悪くし、ちょっと不貞腐れる。

 それに少年はハァッと溜息を吐き、

 

「………ったく、機嫌損ねんなよ。あとでなんか奢ってやるから、機嫌直せ」

「………………分かったわよ」

 

 渋々了承した少女は、とりあえず見つからない様に雑踏の中へと消えてゆく。

 そして、少年もそれに続いて消えていくのだった………

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 先程の気配、視線の残滓が無くなった頃、黒乃と明日葉は目的の店に着く。

 

「ここ、だよな?」

 

 どうやら、至って普通の服屋の様で黒乃は一安心。これがその………男性客が入り難い系統の店だったら、やっぱり肩身が狭くなるから………。

 

「ん。合ってる」

「じゃ、後は俺が出る幕は無いな」

「は? 何言ってるんだし」

 

 えっと………なんで俺が文句みたいな事を言われてるんでしょう?

 

 内心、そう思った黒乃は首を傾げ、自論を展開する。

 

「だって、買うのは明日葉の服だよな………?」

「うん」

「女性物、だよな………?」

「勿論じゃん………つか何? 嫌味?」

 

 黒乃の言葉に明日葉は睨みながら、お世辞にも大きいとは言い難い胸部を隠す。

 普段ならば、速攻で謝る場面なのだが、今回に限っては自論展開に忙しい。

 

「じゃあ、男の俺に出来る事ないだろ………」

 

 そう………文字通り、黒乃に出る幕は一切無いのだ。

 黒乃は流行とか、そういったものには疎いに加え、興味が無いし、何より………

 

「俺の感性はどうも人と違うからな」

 

 ──そこが問題なのである。

 

 黒乃は良くも悪くも人と違う。

 凄くポジティブに言うなら、天才肌風の感性。

 凄くネガティヴに言うなら、常人では到底理解出来ない様な感性。

 そんな感じの黒乃が………もし………明日葉の服に意見なんて出した日には………

 

「(悲惨な結果が待ってる様にしか思えねぇぇぇぇぇぇッ!)」

 

 故に絶対に避けねばならない案件。

 だから、一生懸命に考え、何としてでも明日葉が考えを改めてくれる様に言葉を選別する中––––微かに届いた明日葉の言葉が思考を凍結させた。

 

「………だって、クロに選んでほしいし

 

 

 ………

 

 ………………

 

 ………………………え?

 

 

 真面目に理解及ばぬ黒乃は内心、焦りつつも凍った思考を無理矢理稼働させる。

 とりあえず、言っておかねばならない事は––––………

 

「どういうことでせう?」

 

 ………なんか、随分古い言い回しも入ったが、ここはスルーする空気。明日葉は構わずに答える。

 

「いや、だから………その………………クロに選んでほしいな、って」

 

 顔真っ赤な状態で、尻窄みする様な声音が醸し出すは色々と唆られそうな雰囲気で。

 そして、ここは千葉陣営で。

 明日葉は千葉陣営の首席で。

 極めに、黒乃は千葉裏切りの神奈川陣営所属で──

 

「(あー………視線が。視線が痛い………)」

 

 この「人がゴミの様だ!」とか言われそうな量の通行人の大多数は「死ねよ、リア充が………」的な恨み嫉みの籠った視線を向けてくるのが痛い。ホントに痛い。マジ痛い。

 というか、千種 明日葉という女の子は控え目に言っても可愛い部類に入る。兄の霞が溺愛しているのも、血で繋がっていない黒乃でさえ納得行くのだから、その可愛さがそんじょそこらの奴らとは格が違うに違いない。

 加え、首席という知名度の高さが相成ることで………周りの視線が痛い訳だ。主に男子から。

 

「………つか、別に俺リア充じゃないんだよなぁ………………」

「クロォ、何か言った?」

「いや、なんにも」

 

 未だに赤味の引いてない顔で小音台詞を聞き直さんとする明日葉に黒乃は其の場凌ぎではぐらかす。

 どうせ、まだ明日葉の思考は冷静じゃない。表情と思考は大体は繋がっているという話を小耳に挟んだ記憶にあったはずだから、多分冷静じゃないはずだ……多分。

 

 まぁ、何はともあれ、黒乃が明日葉の服を選ばなくてはならない様で………とりあえず、初手として、

 

「こんなに沢山の衣類、考察するだけで日が暮れそうだな。せめて、数候補に絞る為にも、店員に聞いて良いか?」

「………まぁ、それくらいなら」

 

 若干、明日葉は口を尖らせる様な所作を見せたが、ここはスルー一択。実際に一案ずつ考えていては、時間が足らないだけだ。

 

「すみませーん」

 

 至って普通の定型句。

 だが、こういう店で働く人にとって、これはある種の魔法の言葉。何故なら、そこには金づる(きゃく)が居るのだから。

 そして、その考え通り、すぐさま黒乃&明日葉の元へと一人の店員が駆け付ける。

 

「何かご用ですか?」

 

 見てて気分の良い笑み。俗に言う、営業スマイル。

 ただ、その表情を作る一瞬の間隙に、一度だけ黒乃に黒い視線を送っていたのは勿論気付いていた。流石は裏切り者。嫌われ過ぎである。

 しかし、その点を考慮しても、この店員は良く出来ている。

 個人的というかは風潮的な“嫌さ”を確かに垣間見させたが、それでも営業スマイルへの変わり身の早さは凄かった。………だからこそ、余計にムカつくのだが、ここは我慢。仕方ない。

 

「えっと………明日葉に似合う服を探してるんだけど………何通りか選んでくれないか?」

「畏まりました」

 

 特に事情も聞かずに行動に出るところ、やはり良く出来ている。やっぱ、ムカつく。

 そして、数分後、店員は両手に衣類を抱えてやってくる。目算、三通り分位の衣服はあるのだろう。

 

「これでよろしいでしょうか?」

「うん、ありがとう」

 

 流石に営業スマイルのまま、引き下がられるのは癪だ。こっちもこっちで満面の笑みを浮かべて、上辺だけの礼を述べ、受け取る。

 だが、店員は店員でスルースキル持ちの様で………特に素振りを見せずに消えてゆく。

 それに黒乃は本気でイラッとしたが、流石に表には出さなかった。

 

「…………」

「クロォ、どうかした?」

 

 が、流石に顰め面が滲み出ていて、明日葉は何処と無く心配気な声をかけてくる。

 こういう局面、男が女を心配させるのは悪手。例え、若干拙くても弁解しておくに限る。

 

「別に何でも無い………じゃあ、選ぶか」

 

 即座に意識を切り替え、手にした衣服を確認。

 

 一組目はふんわりとした感じの白いロングワンピース。ただ、単体と言えども、それ故の良さが出ると思えば良いのだろう。

 

 二組目はフレアキャミソールの上にフリルの付いた漆黒のカーディガンという組み合わせ。何処と無く、普段の千葉制服を思わせる雰囲気ではあるが、確実に違って見えるに違いない。

 

 で、三組目は──

 

「………ねぇ、クロ」

「言うな、明日葉。言わなくても分かるから」

 

 どういう言葉で表現するのが正しいのかの判断が難しい………何故なら、これを“服”と称して良いかが分からないからだ。

 とにかく、視野で拾えた情報を掻い摘んで、説明すると──まず、布面積が少な過ぎる。こんな物を着て、街中を歩けば、色んな意味で目を惹くだろう。………アブない意味で。

 

「まずこれは候補外だな。こんな頭の逝かれた奴がデザインした風な服を明日葉が着る時点で世界が終わってる」

「そこまで言う? ………まぁ、絶対に着ないけど」

 

 二人の意見一致により、三組目は除外確定。墓地行きではない、除外だ。つまり、帰ってくるな。

 結果、残るは一組目と二組目。

 だが………これはこれで問題が出てきていた。

 脳内で勝手に当てはめただけでも、両者ともに明日葉に似合っているのだ。

 どっちを選んでも結局似合っているから、確かにどっちでも良い。そういう解釈も無い訳では無い。

 が、その選択はきっと、選ばなかった方を絶対に悔やむに違いないのだ。………まぁ、黒乃も、ある手段をすっかり見落としているから、こんな問題にぶち当たっているのだが。

 

「ぐぬぬ………分からん。どっちが正解か分かんないぞ………」

「んー………」

 

 頭が過剰加熱(オーバーヒート)するくらいに思考を重ね、遂には唸り声まで出し始めた黒乃を尻目に明日葉は明日葉で考えていた。

 が、やはり、主観的に見てしまうと………

 

「(どっちも似合ってない気が………)」

 

 と、否が応でもネガティヴな思考に襲われてしまう。

 

 こんな風に互いに違う事に頭を悩ませる中、共通の解が奇しくも全く同じタイミングで割り出せ、口に付いていた。

 

「とりあえず着てみてくれねぇと分からねぇ………」

「とりあえず着てみないと分かんない………」

 

 ………

 

 ………………

 

 ………………………

 

「全く………」

「同じ事、思ってた………?」

 

 自覚すると、勝手に両者の頬は赤みを含む。

 が、互いの意見がここまで一致しているのなら、やるべきことは既に決まっていると同義。即ち、試着。

 ならば、行動は早かった。

 足早に試着室がある区画へと向かい、明日葉は衣服を手に中へ、黒乃は外で大人しく待機する。………流石に男女一緒に試着室とかいう密室狭小空間は色々とダメだ。

 そこから数分経った頃だろうか。明日葉がガラッと試着室のカーテンを開き、新たな装いを身に纏った姿を黒乃に見せつけた。

 どうやら、最初に着たのは一組目の方で………端的に言うと黒乃は言葉を失っていた。

 

 そこにいたのは………傾国の美少女だった。

 明日葉の年相応にして、ひた隠しにしている純真さとあどけなさを露わにする姿は普段とのギャップが凄いのだが、それでも似合っている。寧ろ、そのギャップが一層魅力を引き立てていると言っても過言では無いだろう。

 

 完全に開いた口の塞がらない黒乃は放心状態で明日葉を見ていたが、見られている明日葉にとって、無言で見られるのは何となく居辛いので、指先で髪の毛をクルクルと弄りながら、意見を求める。

 

「あの………どう?」

「──え………あ、うん………その、何ていうか………………凄い似合ってるぞ。言葉に困るくらい」

 

 何故だろう………意見を言うだけで良い黒乃でさえも、ちょっと苦しくなってきた。怖いくらいに似合ってて、可愛いのだし。

 

「そ、そっか………じゃあ、もう片方も着てくる」

 

 明日葉はそう言い残し、再び試着室のカーテンを閉めた。

 字面だけ見れば、確かに冷静に思えただろうが、表情は非常に赤面としていた。それなりに明日葉も恥ずかしかったという事なんだろう………単純に黒乃の読み違えかもしれないが。

 

 そこからまたもや数分後、もう一組を見に纏い直した明日葉が再び姿を現す。

 

 方向性の違う装い。勿論、明日葉から醸し出される雰囲気は先のとは一変していた。

 先ほどのが無垢さによる可愛さを重きにおいていた服装だったのなら、この服装はスタイリッシュな格好良さの中に明日葉の魅力を内包した、という感じだろうか。

 

「えと………こっちはどう?」

「十分に可愛いと思う………つか、似合い過ぎて怖い」

「ふーん………じゃ、どっちが良かった?」

 

 明日葉に聞かれ、黒乃は一度考える。

 

 どちらの装いにも方向性の違う魅力があり、それこそ明日葉という存在の二面性を表している様に見えた。

 “純粋な少女”としての明日葉と“戦う悦びを知った戦闘者”としての明日葉。

 この一度壊れた世界だからこそ、共存出来ている二面性。

 これが壊れる前の世界ならば、きっと片方の面はもう片方の面に潰されていたのかもしれない。

 故に、その二面性をこうして見れた点だけは、この歪な世界に感謝出来る気がした。

 

「(──じゃなくて)」

 

 何故か世界に感謝するという行為に至っていた。一度、思考を取っ払おう。

 まぁ、正直な感想を述べるならば、両方とも似合っている。甲乙付け難いとはまさしくこういう事を指すんだろう。

 違う点はやはり、組み合わせの方向性。これこそ、選ぶ者の感性が問われる話だが──

 

「両方良いし、正直選べない………けど、二組目の方が俺的には良いかな」

 

 ──黒乃は二組目を選んだ。

 理由としては三つある。

 

 一つ目は、単純にロングワンピースの一組目を買ったとして、そのまま着て一日を過ごすとなると必然的に黒乃は新たな装いの明日葉と一緒にいらざるを得ない訳だ。

 なのに、あれだけ言い淀む程の可愛さを放ち続けられたら………周りの視線が痛いのは勿論、黒乃自身が明日葉を直視出来ないのが安易に想像出来る。

 

 二つ目は………黒乃が思い描く明日葉という存在のイメージが原因だった。

 確かに明日葉は可愛いだろう。そこは十二分に理解している。だが………単に可愛いだけの存在では決して無い。

 いつも気怠けにしつつも、周囲の誰よりも己の置かれた立場とやるべき事をちゃんと見極めて(まぁ、見極めには確実に霞のサポートがあると言っても過言では無いが)、この三都市間でも最強クラスの《世界》を保持している“圧倒的強者”。

 そんな存在に見えている黒乃が、単なる可愛さ一点で推し測る事が出来なかったのだ。………でも、どっちも可愛かったけども。

 

 三つ目は単に明日葉が動きにくそうな服を好まなさそうだったからだ。他意は無い。

 

「ふーん……そっか」

 

 黒乃の選択に何を思ったかはしらないが、明日葉は頷き、

 

「そう言うならこっちにする。ちょっと待ってて、買ってくるから」

「じゃあ、これ持ってけ」

 

 行こうとする明日葉に黒乃が投げたのは財布。

 

「いや、クロが払わなくても……」

「女に払わせるとか、男として立つ瀬が無いんだがそれは」

「クロォに男の威厳とか求めてないし。というか、そういう問題じゃなくて、あたし、別に金に困ってる訳じゃないから、そういうの要らない、的な?」

「やっぱ、首席様の稼ぎは良いわけですか……」

 

 ハハ、ハハハ……と乾いた笑いしか込み上げてこない黒乃。

 確かに都市の首席ともなれば、管理局から支給される金や待遇なども普通とは段違いに良くなるだろう。首席とは、各都市の印象(イメージ)にして、最強である存在なのだから、当然といえば当然である。

 その事を鑑みれば、名目上はただの一般生徒と差し支えない黒乃の稼ぎなど、陳腐なもので、それで「払う」など、逆に威厳を損ないそうだ……ヤバい、割と本気で悲しくなってきた。

 

「そーゆーこと。だから、クロォが無理する必要無いってわけ」

「クソッ、こっちの懐事情までバッチリ知られてやがる!」

 

 黒乃自身、決して金使いが荒い訳ではない。

 だが、何故か口座から金が消えている。それも一気に消えるのではなく、少量を短い時間期間(スパン)で。

 不思議に思い、口座を管理している神奈川の経理科に何度か問題報告を行ったが、全部原因不明。なので、もう諦めていた。

 故に金は生活最低限+α分はあるが、振る舞える程は無い。割とカツカツなのである。

 

「つか、なんで俺の口座から金消えてくんだ………?」

 

 その悲壮感を帯びた呟きに、人知れず少しだけ明日葉は微笑んでいたことは黒乃は知らなかった。

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 その後、黒乃と新装を纏った明日葉は、気分気儘に色んな場所を回り、最後の最後で辿りついたのは、千葉都市に建てられている観覧車だった。

 記憶通りの情報ならば、あの観覧車が建てられたのは、三都市が設立した頃だった筈だ。確か───三都市間の協力の証として、建てられたのだったか。本来ならば、三都市間の長である(と自称している)東京に建てられる筈だったが、千葉に建ったという………

 三都市成立当時は、《アンノウン》との戦闘や生きることに必死だった為、心に余裕が無く、あの観覧車は一切見向きもされてはいなかったが、最近はまぁまぁ使われているのでは無いだろうか? 知らんけど。

 

「さて………ここに着いたか」

 

 夕焼けに照らされる観覧車を視界に留めた黒乃は言葉を吐く。

 そう………もし、もしもの話………明日葉と、今の様に二人っきりならば、行きたいと思っていた唯一の場所。………まぁ、結局、そのことは明日葉には言わず、流れで偶々辿り着いたのだが。

 

「何? クロォは興味あるの、こんなボロっちいの?」

「別に良いだろ………というか、明日葉はまだ時間あるか?」

「ん。別に大丈夫だけど」

「じゃあ、乗るぞ」

 

 その時、明日葉は見た。黒乃───それも、今までに無いレベルで真剣な眼をした黒乃を。

 それには抗えない。そんな気がした。

 だから、何も言えずに明日葉は黒乃に手を引かれ、観覧車に乗ることになる。

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「………」

「………」

 

 黒乃も明日葉も二人とも対面式の観覧車の席に座りながら、頬杖を付きながら、無言でいた。

 故に明日葉の脳内は中々の混乱具合を迎えていた。

 

「(え、何この状況………珍しく「乗るぞ」なんて断言してたのに、無言? え、ホント何?)」

 

 だが、そんな明日葉の思慮などいざ知らず、黒乃は無言を貫いていた。

 とりあえず訳が分からない明日葉は頭を冷やす為に意識を外へと向けると───

 

「綺麗…………」

 

 ──思わず声を漏らしていた。

 

 単なる夕焼けに照らされた千葉都市。

 言葉にしてしまえば、たった数文字だけの景色。だが、それだけで完成されていた美しさを放っていた。

 捨てる程に転がっている日常。しかし、その全てが絢爛に輝いている。

 そして、その全てを護る為に戦っている………もしかして、黒乃はこの事を自覚させたかったのだろうか?

 明日葉はそう思い、黒乃を見ると、同時に黒乃は言葉を吐いていた。

 

「なぁ、明日葉………綺麗だろ、この景色」

「うん………」

「そして、これを護る為なら、《アンノウン》との戦闘も頑張れる気がするだろ?」

「………そういうのも悪くないかも」

「そっか………まぁ、でも………………」

「ん?」

「なんでもない」

 

 黒乃は明日葉の詮索を無理矢理断ち切り、一度咳払い。

 そして、本題を切り出すことにする。

 

「明日葉………謝らせてくれ。ホントにゴメン」

 

 真剣な表情で頭を下げる黒乃に明日葉は怪訝な表情で、

 

「………何?」

「俺の勝手な亡命がお前を縛り付けていること。そして───昨日、リヴァイアサン級を斃す為にお前に俺の《世界》を見せてしまったことに」

「いや、前者は分かるけど………後者はなんで?」

「………………」

 

 理由を答えずに黒乃はひたすら、観覧車の中を抜き目無く確認していた。

 そして、確認を終えた後、明日葉には確実に聞こえる位の声量で言葉を吐いた。

 

「俺の《世界》は………ちょっとした事情の所為で口外厳禁なんだよ。でも、昨日俺はリヴァイアサン級に勝つ為に使ってしまった………」

「で、でも、あたしまだ誰にも言ってないけど」

「そういう問題じゃない! 俺があの《世界》を使わざるを得ない状況になったのが問題なんだ!」

 

 声を荒げる黒乃。その表情は焦りに染まっていた。

 

「どれだけ情報を規制して、口止めしても、何処かの誰かは絶対に気付く。俺の《世界》に当たらなくても、『何かおかしい』とは思うかもしれない………それだけで駄目だ! この………この乱れた世界にとっては!」

「乱れた………世界?」

「───ッ!?」

 

 黒乃は思わぬ“失言”に表情を歪めるが、

 

「………別に何でも無い。言葉の綾だ」

 

 訂正はせず、深入りされない“言い訳”を吐く。

 だが、大事なのはそこでは無くと思った黒乃は言葉を続ける。

 

「とりあえず、俺の《世界》の所為で明日葉は近いうちに危険に晒される。それだけは絶対に断言出来る」

「ちょ、ちょっと待って! 割と本気で訳分かんないんですけど?」

「訳が分かったら、それこそ危険に晒されるまでの期間が早まる! 分からなくて良い!」

 

 このままではヒートアップしながらの会話になってしまうには確実なので、一度頭を冷やしてから、

 

「まぁ、とにかく危険なんだ………しかも、俺の《世界》が原因と来た。なら───俺が責任を取るのが妥当だし、ベストだろ」

「え、責任? ちょっと、さっきからクロォが何言ってるか意味不明なんですけど」

 

 明日葉の言葉は殆ど無視して、黒乃は言いたかった事を言う。

 

「だから、俺がどれだけ非難されようとも構わないし、仕方無い。全ての恨みは俺が背負う。だから───

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───俺は千葉に戻る。千葉に戻って………明日葉。俺はお前を護り続ける」

 

 

 

 

 

 

 

 

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