世界平和と己の幸せが俺の夢 作: 黒兎
最近、筆のノリが良い気がする「 黒兎」だよ!
でも、原稿配分間違えるのはいつもの事だよ! そろそろこの癖直さないとね!
おかげで、3Part編成の番外編「離反のエクストラ」の終了が次回まで持ち越す事になっちゃったね……いやぁ、久し振り過ぎて戦闘シーンの配分訳わかんない……
とりあえず! 次回には番外編終了して! 本編に戻るぞ!(と言いながら、この作品の流れは段々とアニメから脱線していくのだった……)
翌明朝。
まだ日が昇り始めた頃、神奈川陣営の都市部から少し離れた所にある廃墟に二人の姿があった。
片や、薄い色の髪を持ち、紅玉の様な瞳を持つ少女。その小さな背とは不釣りあいの純白の外套を見に纏い、三都市最強の座に着いている神奈川主席、天河 舞姫。
もう片や、対照的に濃い黒髪が印象的な少年。名を九重 黒乃。白基調に黒線の入った制服を纏う姿はただの神奈川生徒。だが──
「クロノん………本当に、本当に良いの?」
「何度も問うな。答えは寸分変わらずなんだから………『ああ、勿論』だ」
両者は共に真剣な表情で、互いを見つめていた。そこにあるのは────戦意。ただ、それだけだ。
何故、この様な状況になったか………発端は数時間前へと遡る。
―――*―――*―――
───千葉に戻る。
言葉にしてしまえば、たった五文字程度の簡潔なもの。
だが、それが齎す大き過ぎる影響を鑑みれば、重大な意味を持つ言葉を明日葉に宣言した黒乃は、その日の晩。時間としては日付が変わる寸前だろうか。それくらいの時間に神奈川主席・舞姫の元を訪ねた。……もちろん、舞姫の自室を、だ。
神奈川の豪華な寮に住んでいる事を知っていた黒乃は
正面からだと、色々と面倒な奴に見咎められそうなのは経験則的に理解出来ていたが故の判断。
その判断通り、窓からの浸入は誰とも会わなかった。というか、会った方が問題かもしれない。
「……こんな風にだけど、初めて舞姫の部屋に入ったんだな…………」
とりあえず、勝手に女子の部屋に入って呟く内容では無いのだろう。それくらいは黒乃にも理解出来ていたが、言ってしまったものは仕方ない。うん、仕方ない。
舞姫に用のある黒乃は、まず部屋内を見渡して探すが──やはり、首席。内装の豪華絢爛っぷりといったら、他ではお目にかかれないレベルだった。
───と、内装を拝みつつ、探していると、
「(ったく………毎度毎度警戒心が無いな………………まぁ、舞姫らしいちゃ、そうなんだが)」
内心でそう思った黒乃は、その寝顔をもう少し観察していたかったが、生憎、今回の用を考えれば、そういう訳にもいかない。制服の裏ポケットから、ある物を抜き出し、舞姫に突き付けるが────
「────黒乃。貴様、ヒメをどうする気だ?」
瞬間、黒乃と全く同じ場所から現れた神奈川次席・ほたるは自前の刀の抜き身を黒乃の首筋に沿えた。
「………別に」
「勝手にヒメの部屋に立ち入った上で『別に』というのは無理があるだろう。事と場合によっては………斬るぞ」
完全に激おこモードのほたる。
「(ああ、この反応………勿論、“知っている”。というか、知ってなかったら、わざわざこの時間帯に来ないっての)」
だが、黒乃は何も焦らなかった。焦る要素が何一つ無かった。
何故なら、この場、この状況において、ほたるの乱入は最初から予期していたのだから。
だって、ほたるは舞姫に関しては、朱雀から「阿保護者」と称されるレベルで舞姫に過保護なのだ。その舞姫の部屋にほんの些細な変化が訪れても、分かるに違いない。
「別に疚しいことをしにきた訳じゃない………最後。そう、最後に………舞姫に伝えておきたいことを伝えておこうって思ってな。だから、ほたる………舞姫起こして?」
流石に黒乃が起こす訳には行かない。他の男が触れたとなると、後々舞姫信者に闇討ちされるかもしれないし。………まぁ、無駄だけど。
そんな黒乃の言葉にほたるは怪訝な視線を向けるが、舞姫が起きないことには話が進まない事に気付いたのだろう。静かに優しく、揺すり、語り掛ける。
「ヒメ………ヒメ………少しだけで良いから起きて」
「っ………んぅ………なぁに、ほたるちゃん」
案外、直ぐに起きた舞姫は寝間着姿で一度グーッと身体を伸ばしていた。寝ていると身体が固まりやすいし、当然の行動だろう。
そして、状況を把握するべく、辺りを見渡すと、そこにいたのは大好きなほたるちゃんと………黒乃だった。
「え………く、クロノん⁉︎」
「おう、舞姫」
軽く会釈し、黒乃は夜更けということを考慮し、さっさと用件を述べる事にする。
「明日───ってか、もう今日か。まぁ、今日の朝6時、この紙に書いた場所に来い」
「………どういうこと?」
「要点だけ掻い摘んで話せば………俺、神奈川出る事にしたんだ」
「「───ッ!」」
神奈川主次席の二人に走る衝撃。
ようやく、神奈川にも馴染んできた(?)時に「出る」。しかも………余り詳しくは言えないが、舞姫にとって、黒乃が神奈川を離れるのは少し問題が生じる。
だが、不思議と冷静でいられた。だから、普通に訊ねることが出来た。
「クロノん………それは何か事情があるの?」
「………まぁ、そういうことだ」
「それは言えない内容なの?」
「勿論だ。言える内容なら、交渉材料として事欠かないのは分かってるだろ」
「………それもそうだね」
正直な話、黒乃としても、一刻も早く神奈川を出て、千葉に戻りたい。戻って、全てから明日葉を護り続けたい。
だから、ここで説得出来るに越したことはない。でも、同時に分かってもいた。
────この連中相手に説得の類が通じる訳が無い、と。
「で、クロノん………ここに来た用件って何? 単にそれを伝えに来ただけ?」
「いや、全く違う」
単に用件を伝えるだけなら、他のタイミングがあった。
だが、この時だけは………この場にいる三人だけの秘密に出来る。
そうでもしないと他方からの邪魔立てが入る可能性があるからだ。
「それじゃ、お前は絶対に納得しない。俺に前言っただろ? 『クロノんも私から笑顔を奪わないよね?』って」
それは舞姫を不幸にさせないこと。ここからは想像混じりの完全な仮定だが、舞姫は黒乃が神奈川から出ていく事で何らかの不利益を被るんじゃないか? と思考が至った。
だから………だからこそ、互いが心残りしないための方法を考えた。
そして、導き出せたのは
「───だから、明日も朝、指定された場所で本気で戦おう。賭けるのは俺の身元で。俺が勝ったら、神奈川から出ていく。舞姫が勝ったら、神奈川に残る。ほら、簡単だろ?」
そう………実に単純な方法。
舞姫に勝って、納得させる。
武闘派集いの神奈川陣営にとっては、十八番の決め方であり………そして、ある意味最高クラスの攻略難度。
何故なら、相手は防衛三都市において、計10年間の最強の存在。真っ向から向かえば、こっちがへし折られる相手。
だが、やらねばならない。完全に納得させるには、それしかない。
「勿論、俺と舞姫の一対一だ。ほたる、絶対に手出しはするなよ」
「………少し質問させろ、黒乃」
冷ややかな声で質疑するほたる。
「もし………もしもの話だ。貴様がヒメと拮抗出来るだけの力を秘めていたと仮定する。ならば、二人の戦闘が命を賭けたものに変わった場合はどうする? どっちかが完全に斃れるまで戦り合うのか?」
「………正直分からん。ただ、殺すまではしないつもりだ。流石に舞姫を失ったら、防衛に支障を来すだろ」
一応、そこら辺は配慮する黒乃。
舞姫の存在の有無で、神奈川は強さを百にでも零にでも化けるのだから、必然的に他の二つの陣営でフォローする必要性が出てくる場合だってあるのだ。そんな厄介極まりない役を請け負う可能性は少しでも減らすべきだろう。
「言いたかった事はそれだけだ。因みに指定された時間に指定された場所にいなかったら、是が非でも神奈川出ていくから。じゃあ、夜も遅いし、おやすみ。よく寝ろよ」
そう言い残し、黒乃は寮の窓から飛び降り、消える。
その後ろ姿を見たほたるは、ベットの上で口を縛るように閉ざし、掌を思いっ切り握り締めていた舞姫を見る。
「ヒメ………」
「ねぇ、ほたるちゃん………私………私ね────」
―――*―――*―――
「───ねぇ、クロノん」
再度、語り掛ける舞姫。そこには、黒乃を思い労っている意が汲み取れるが───黒乃にとっては、そんな思いやりは邪魔以外の何物にも感じられなかった。
───言葉は要らない。必要なのは、互いに折れない想いを交わす剣戟だけ。
それを証明するべく、早く戦いたいのだが、黒乃は何を思ったのか、気怠そうだが言葉を受ける。
「何だよ?」
「出ていく理由は教えてくれないの?」
「別に聞く必要が無いだろ………どっちかが勝てば、それで全て成立するんだし」
「それはそうだけど………」
───舞姫の言葉を正面から跳ね除ける形で、だが。
「つか、俺とお前の間柄で話す事は………まぁ、無くはないが、それも全て、戦えば分かるだろ。なら、サッサと始めようぜ。そっちの方が互いにとって有意義だろうし」
吐き捨てる様に言った黒乃は己の得物であるブレードライフルを構え、完全戦闘モードにシフトした瞳で舞姫を見据える。
そして、舞姫はその黒乃の瞳に息を呑まざるを得なかった。
そこにいたのは────今までの数々の状況で見てきた黒乃とは全く違う者だったのだ。
今までは、どれだけ危険な状況だろうとも、何処と無く“気怠さ”というものを感じさせていた。
だが………今の黒乃はどうだ?
完全に真剣な眼で、雰囲気も一切の怠慢を感じさせない。時代が時代なら、完全に“強者”と足り得たに違いない。
その姿に舞姫は悟る。
────黒乃はもう、舞姫の言葉に聞く耳を持っていないことに。
ならば、すぐに肚は括れた。
和平は無駄。相手は戦う意志がある。
そういう手練れには、真正面からぶつかる。
それが舞姫の辿ってきた軌跡であり、これから辿る道においても同様。
そう………そのぶつかる相手が黒乃というだけだ。
「………そうだね、クロノん」
舞姫はそう呟くと、己の得物である大剣を抜き、構える。
「相手が戦う気満々なのに、御託を並べたままなんて失礼だよね。──クロノん、掛かっておいで。自分で言うのは恥ずかしいけど……三都市最強が相手になるよ」
「じゃ、遠慮なく行かせてもらう!」
そう言い放った黒乃は───真っ先に後方に跳んだ。
そして、ブレードライフルから弾丸を乱射。耳を刺すような炸裂音が響くが、その全ては舞姫の大剣の一薙によって生まれた剣圧で叩き落される。
だが、黒乃は絶えず、乱射を続ける。器用な事に弾丸の
正直な話、この攻め方以外で舞姫を落とすのは至難を極める。
得物が大剣という点から、彼女を近距離型の戦闘者と誰もが思う。事実そうだが……その天性の才を彷彿とさせる“絶対性”が舞姫を強者と認識させるのだ。
あらゆる攻撃、あらゆる防御、あらゆる手段……その全てをたった一つ、強過ぎる力の元で叩き伏せる事が出来る舞姫。
そんな手練れに。わざわざ、得意距離の土俵で戦うと……馬鹿馬鹿しいにも程がある。
ならば、黒乃は消去法で考えても、中距離以上の距離、飛び道具で戦う他無いのだ。
「剣は銃には敵わない」
歴史が必然として、表してきた教訓をそっくりそのまま織り込んだ戦法。
勿論、理想展開は一方的だし、ともすれば卑怯と呼ばれるかもしれない。だが、この程度で卑怯などとほざかれては、そいつはきっと戦いに無知か、馬鹿に違いない。戦場は美徳云々で生き残れる場所では無いのだ。
「はぁッ!」
────だが、そんなこと、舞姫も十二分に理解していた。
だからこそ、黒乃へ見せ付けるのだ。
例え、悪相性の距離であって、効果的な戦法だったとしても………その全てを蹂躙し尽くすだけの力が舞姫にあることを!
放たれる銃弾を全部叩き落としながら、舞姫は体内の命気を脚部に収束。銃弾が形成する幕の微妙な途切れに姿勢を低くし、潜り込み───一気に命気解放。宛ら、弾丸の様に距離を詰める。
瞬間………そう、たった瞬間に眼前に現れた舞姫の姿。だが、黒乃には予想出来ていた。よって、取った手は蹴り。
高速で近付くのは不意を突いた場合には絶大な効果を生む。しかし、同時に弱点もあるのだ。
それは、急制動不能。
速く動けば動くほどに制御が利かなくなり、止まれなくなる。加え、高速動体に当たる外的衝撃は通常時よりも数倍近く大きくなる。小石を時速10キロでぶつけられるのと、時速100キロでぶつけらえるくらいの差は出るのではないか? 検証してないから、詳しくは言えないが。
まぁ、故に今の舞姫にとって、黒乃の蹴りは回避不能、絶大火力を持ったクロスカウンター。
しかも、得物である大剣で防御しようにも、刃渡の長さが仇となり、身に寄せて防御が間に合わないのは眼に見えている。
だが、舞姫もその程度で王手を掛けさせるほどに柔な相手では無い。
「ッ!」
駆け出した時、黒乃に一撃を加える為に構えていた大剣を舞姫は黒乃の蹴りが当たる寸前に地面に叩き付け、地表を刳る。
刳られた地表からは勿論、無数の瓦礫が飛び散る訳で───
「チッ………そういうことかよ」
舌打ちしながら、黒乃は蹴りを中断。即座にバックステップへと切り替えながら、先程同様に射撃する。が、跳ねた瓦礫が上手い具合に壁となし、舞姫の身を守ったようだ。
またもや、一定距離が離れた所で、戦いの流れが一度切れた。その状況を理解し、黒乃は確認するように呟く。
「今の蹴りで普通なら詰みだった。だが、お前は咄嗟に機転を利かせて、大剣で瓦礫壁を作り、蹴りを中断。加え、一度仕切り直すタイミングを作った訳か………確かにアレなら、俺も追撃出来ないし、ベストな判断だな」
現に黒乃の銃弾が通らなかった。
「でも、一度限りの奇策だし………もうクロノんに通用しないでしょ?」
「勿論だ。同じ手に二度も引っかかるとか三流のすることだろ」
「じゃあ、次こそクロノんを押し切るよ。クロノんには………まだ神奈川にいてほしいし」
「なら、頑張れよ。俺一人を超えれば叶う願いだしな」
そう言い、黒乃は舞姫を、舞姫は黒乃を超える為、再び駆け出した。
―――*―――*―――
二度目、黒乃と舞姫が互いに互いを超えんと刃を交わし合い始めた頃、遠く離れた神奈川寮の自室にいたほたるは居ても立っても居られなかった。
「ヒメ………ヒメ………………」
───舞姫は斃れていないだろうか
───黒乃に殺されていないだろうか
───いや、まず大怪我を負っていたりはしないだろうか
完全に過保護な親の考え方だが、ほたるだ。仕方無い。
だが、脳裏の片隅に心配を加速させていたのは、昨晩に舞姫が話してくれた“本音”の内容だった。
舞姫は約束の相手であるほたるには絶対に虚言を吐かない。それも自分のことに関してなら尚更に。
だからこそ、心配しか浮かばなかった。その内容通りなら───
───舞姫は黒乃に打ち勝たねばならないのに、
「──────ッ! ヒメッ!」
やはり、待っていられない。親友にして、最愛の存在の言葉で「待ってて」と言われても待てない。
気付いたら、ほたるは黒乃と舞姫が戦い争う戦場に向けて駆け出していた。