世界平和と己の幸せが俺の夢 作: 黒兎
昔、絶滅寸前までに壊されたとは思わない位の発展具合の街中の空を後ろ向きで飛ぶ男––––
「(こうやって、一直線に飛ぶ分には出来るんだが………やっぱり、方向転換が効かないのが面倒だな。………東京首席の《世界》の方が融通が利いて良いかも)」
黒乃の《世界》の延長線で空を飛ぶ––––というか、弾丸擬きに飛ばされる事は出来るのだが、生憎、方向転換が出来ない。故に飛ぶ方向を間違えたら、大惨事確定。恐ろしい………
そして、少し解説を挟もう。
この世界には、対《アンノウン》を想定したグループが四つある。
一つが戦前に首都だった東京陣営。後に話す勢力の定例会議を行う大会議場を保有している都市であり、戦前同様に国の中心とも言える。
二つ目が神奈川陣営。対《アンノウン》用の武器––––出力兵装の製造を請け負う都市で、ここを叩かれれば、確実に詰むだろう。
三つ目が千葉陣営。東京、神奈川、千葉の三都市の食料関係を補うプラントを保有している縁の下の力持ち。ここが壊滅状態になる=持久戦で《アンノウン》に負けるという面倒極まりない方程式が成り立ってしまう。
四つ目がその三勢力を一纏めする埼玉だ。ここが存在するからこそ、東京、神奈川、千葉は綺麗な共同関係を保てていると言っても過言では無い。
そして、その統括部である埼玉と、主に戦闘に参加する三都市を総称して、南関東三都市防衛機構と呼ばれるのだ。
そんな事を考えながらも、視界に映る気配が––––感覚が変化を帯びる。
当たる風が僅かに潮を帯び始め––––つまりは、湾岸部に近づいて来た証拠。
この湾岸部––––戦前は東京湾と呼ばれていたという所が今回の戦場。
そして、湾岸部こそが正体不明の敵、《アンノウン》の発生する場所だ。発生する時は毎回、ゲートと呼ばれる物が開き、そこから大中小問わずに《アンノウン》が流れ出てくる。その光景と言ったら………まぁ、見ていて気持ち良い物ではない。確実に。
「はぁ………《世界》解除」
首筋に触れ、再度《世界》を解除。
すると、ガクンと身体に不可視の力––––重力が掛かり、垂直に落ちた。
持ち前の黒髪をたなびかせ、自由落下した黒乃はブレードライフルの切っ先を地面に向けて、盛大な轟音と共に着陸。着地点のコンクリートが僅かに削れ、砂塵と舞う中、黒乃は見る。
「おーおー、やってるやってる。みんな、良い感じに狂い始めてんなー」
––––視界に映ったのは、黒基調に金線の入った制服の奴らと白地に黒線の制服の奴ら、黒地に白線の入った制服の奴らが共闘して、《アンノウン》と戦う姿–––––––––––––––––では無く、乱戦状態の完全な
「クソったれが。《アンノウン》ももうちょっと殺り甲斐のある奴らを出して来いっつーの」
さてと、何故、東京、神奈川、千葉陣営が敵たる《アンノウン》を前にして、混沌としているか。
きっと、原因は戦力差だろう。
ぱっと見でも分かる位に《アンノウン》側は本気では無い。比べ、人間側は完全本気。故に、敵をスコアだと思い、戦場がスコアの稼ぎ場と化す現象––––通称、フレンドリーファイアが起こる。
………まぁ、その答えに至るには、またちょっと解説を挟まねばならない。
この三勢力には共有のランキングという物が存在する。
これは南関東湾岸防衛機構が付けた制度で、主な狙いは『各勢力及び一個人での争いによる戦力向上』の様なものだ。
そして、何よりも厄介なのが、ランキングが上位の方が良待遇になるという点になる。
内地––––戦前のお偉いさん方が《アンノウン》にビビって逃げた––––ゴホン。いえ、何でも無いのですよ………まぁ、ランキングが上位だと、比較的安全なその内地に最良待遇で編入されるのだ。………もっとも、最近は最良待遇で内地入りを迎えた人は居ないのだが。
何故ならば、ランキング首位をとある勢力の主席––––一番強い奴がずっと居座っているからだ。しかも、それでも内地入りを断り続けているという世の中から見れば、異端な奴が。
まぁ、でも………
「………それが姫の良い所だよな。おかげで俺が働く分も少なくなるし」
と言っても––––
「この状況を置いとく訳には行かないか………じゃ、始めますかね」
––––敵を前にフレンドリーファイアは見過ごせない。面倒だが、少しは《アンノウン》を減らすとしよう。
ガチャンと音を立て、黒乃はブレードライフルを構える。そして––––跳んだ。普通では考えられない距離を。
異能と称される事もある《世界》を発言した者は大抵、自分の見える《世界》のイメージと現実を限りなく合わせる為に
例えば、今の様に普通では届かない距離を跳んだり、鉄筋十本を片手で持ち上げたりなど。
「んじゃ………アレからかな」
視線で舐めた先にいた歪な化け物––––《アンノウン》。それも数体。
一個体の規模、形状から察するに大した相手では無い。
とはいえ、それが数体だ。一時の油断が命取り。
だが、非常に気抜けた感じで見据える黒乃は––––一切の躊躇い無くに引鉄を引き、ブレードライフルに内蔵されている機関銃を炸裂。大量の弾薬を発射し、《アンノウン》の図体に風穴を開け捲る。
発射後に出てきた蒼色の結晶––––命気クリスタルは重力に引かれ、水面に落つる中、黒乃は動きを止めない。
命気クリスタルと言うのは、《世界》を発現した者の為の叡智の結晶だ。
これを用いるだけで、《世界》の伝達が可能となり、飛躍的に戦闘がし易くなるのだ。
撃ち抜いた《アンノウン》の身体を一度、足場とし、再び大きく跳ぶ。
下を取った別個体の《アンノウン》に向かって、黒乃はブレードライフルの刃で突き刺し、引鉄を引く。
––––ガタタタタンッ‼︎
甲高い銃声と共に《アンノウン》の身体は打ち上げられ、空中で爆ぜる。
「………ったく、まだ居るのかよ」
そう呟くと同時に溜息を吐きながら––––死角から襲い掛かっていた《アンノウン》の一撃を平然と避けてみせた。しかも、一度も、襲い来る方向に視線を向けずに。
そして、化け物の眉間に銃口を当て––––容赦無くに撃つ。………もっとも、眉間と称して良いのかは甚だ疑問だが。
死体と化した《アンノウン》を掴み、空中で回転。グワングワンと回転しながら、ハンマー投げの要領で放り投げると–––––
「あ、マズ…………」
––––その方向に人がいた。
黒基調に金線の入った制服–––––東京陣営に組する一人。物凄い速度で空駆ける茶髪の男子。制服に似たカラーリングの
「–––––ぬぉあッ‼︎」
––––驚きの余り、随分と情けない悲鳴が聞こえたが、あいつが––––アレが東京陣営の首席。
保有している《世界》は重力操作で、その能力に『フリー・グラビティ』とやらの痛い名を付けている重症厨二病患者。
「ああ、
「どういうつもりだッ‼︎ –––––––––––クソッ‼︎ コッチからも………」
いきなり《アンノウン》を投げ付けてきた黒乃にキレる前に壱弥は自前の出力兵装であるガントレットで重力球を操作し、空を華麗に舞いながらに回避行動を取る。
すると、湾岸部から飛翔する弾丸。視界に入った時間は刹那よりも短かったが、何と無く、誰が撃ったのかは分かる気がした。
「壱弥は本当に嫌われ者だな………霞だろ、今撃ってるの」
「あの千葉カス君以外に、ここまで執拗に狙ってくる奴は居ないッ‼︎」
霞––––本名を
兎に角、壱弥とは仲が悪く、戦場とかいう場所でもいざ知らずに邪魔し合う。本人同士は本気で嫌い合っているのだろうが、側から見れば『喧嘩する程仲が良い』っぽく見えていたりするのは内緒だ。
「そうだよな………もうちっと仲良く出来ないのか?」
「出来たら、苦労はしないッ‼︎ というか………」
「………まず、俺とあいつに価値観が交わる事が無い。だからこそ、奴を許容出来ない」
………何処か思い詰めた風な言葉に黒乃は、
「ま、そう言うんなら別に強要はしないよ。だが––––少しは違う考えも認めろよ。じゃなきゃ––––
「………勝手に言ってろ」
「じゃ、勝手に言わせてもらう。最初からお前の許可なんて必要としてないし–––––––って、あ」
壱弥との会話中、耳に嵌めていたイヤホンから一斉通信が来る。
大方、黒乃の所属する神奈川陣営の通信だろうが––––戦闘中に通信とは、余程急ぎの用事なのだろう。
『––––––今からヒメが本気の数%で《アンノウン》を全て掃討する。海上に居る全生徒は退避した方が賢明だぞ』
響く様な凛とした声。………まぁ、この際は声主が誰かとか察する必要は無い。そう、必要なのは––––
「姫の本気………––––って、殺しに来る気かッ⁉︎」
「何? あのアホ娘が本気を出すだと⁉︎」
どうやら、黒乃の言葉だけで意味を理解した様子の壱弥も同様に慌て始める。
それもそうだ。
姫––––神奈川陣営の首席と言えば、人外魔境の膂力持ち。そして、この南関東において、群を抜いての最大戦力。
例え、本気の数%とは言え、彼女の物では笑って済む冗談では無い。回避し切れなかったら––––うん、簡単に死ねる。
「–––––ッ‼︎ 行くぞ、黒乃ッ‼︎」
「は––––って、おいッ‼︎ 襟首掴んだまま飛ぶんじゃねぇッ‼︎」
「つべこべ言うな! 死ぬぞ、このままだとッ‼︎」
………なんだかんだ言いながら、壱弥は黒乃を連れて避難しようとする。
普段は単に素直じゃないだけで、根は良い子なのは知っていた。………まぁ、だからと言って、制服の襟首を掴むのはどうかと思うが。伸びるでしょ、制服が。
壱弥は重力球を操作。黒乃を掴んだまま、物凄い速度で空を駆ける。
湾岸部にはアクアラインがあり、そこには線路が敷いてある。
千葉陣営がその線路を装甲列車で利用し、戦場に駆け付けるのだが、今はその影すら無い。
つまりは、もう避難が終わっているのだろう。流石は、やる時はやる千葉陣営。
だが––––そのガラッガラの線路を猛ダッシュで走る影が一つあった。
ボサボサの黒髪が上空からでもよく見え、手にしている
「アレは………霞か。多分、置いてかれたな」
「フンッ………別に助けないぞ。千葉カス君など」
「素直じゃないな………まぁ、良い。降ろせよ。俺は………姫の尻拭いをしなきゃならないしな」
「そうか。………なら、俺はカナリアとその他の人員を回収しながら避難するか」
そう言いながら、壱弥は上空から黒乃を投げ落とす。
自由落下に苛まれながら、首筋を撫で、《世界》を起動。
地に脚が着く寸前で、微かに浮き、その後にゆっくりと着地した。
すると––––遥か水平線の彼方から、紫の
全てを破壊し、一刀の元に全てを斬り伏せる。確かに今でも無尽蔵に増え続ける《アンノウン》の群れは掃討出来るだろう。
だが、掃討するべくに振るえば、人類のライフラインであるアクアラインごと一刀両断するのは自明の理。
そうしたら、ペナルティで神奈川陣営の総合ポイントが減少とか有り得る。それはマズい。
「––––じゃあ、始めますか」
絶対的な“死”の気配を感じ、黒乃は再度、《世界》を起動。が、今までとは少し違う。
ブレードライフルの刀身に不可視の何かを纏い、そこから
腰を低くし、ブレードライフルを脇構えで握り、ジッと見据える。
彼の《世界》ならば、どの様な力でも、力である限りは対応可能なのである。
故の尻拭い。やらねばならない時もある。
「ふぅ………––––ッ‼︎」
そして、払われる紫の煌刃。
ズバババババンッと無数の《アンノウン》を斬り伏せ、消滅させながら、迫り来る。
「おぉ………コレはやっぱり怖いなぁ」
想像通りの高火力に畏敬の念を示す黒乃だが、口角は無性に上がっていた。………まぁ、強大な力と相対するのに武者震いでもしているのだろう。
だが––––
「––––ただの火力は俺の前じゃあ、無意味、だぜッ‼︎」
––––黒乃もブレードライフルを振るい、対抗する。
足場にしているアクアラインに煌刃が届く寸前で迎え撃った黒乃。
………こういう場合ならば、大抵は拮抗し合ってから、決着付くのがよくあるオチだ。が、黒乃の《世界》はそれを許さない。
伸びた紫の刃がブレードライフルの刀身と交錯するや否や、グワンと紫の刃の軌跡が捻じ曲がり、物凄い轟音と共に斜め上へと滑っていく。
膨大な力の軌道を無理矢理変更させれる。それが–––––
「––––俺の《世界》。斥力発生だ」
………何だろう。壱弥の事を大きく言えない様な雰囲気でキリッと決めゼリフっぽく言って、若干恥ずい。
–––––––––と思えたのも、ほんの一瞬だった。
ドゴォォォォオオオオンッッッ‼︎
爆音の破壊系列のサウンドボイスが響くと同時にアクアライン–––––の近くに聳え立っていたビル––––通称、海ほたるに真横一線で筋が入り、崩壊を開始していた。
黒乃の《世界》の斥力で神奈川首席の本気の片鱗を跳ね除けたのは有効な手段だった。これ以上の策は見込めないだろう。
だが、弾く方向を間違えた。
真っ向から、あの死の刃と向かい合えば、幾ら斥力発生でも削り切られるのは必定の事実。
だから、下から斬り上げる形で対抗したのだが、結果、逸らす角度が妙に深過ぎた為にズバッと海ほたるを斬り払ってしまった訳だ。
「––––め、メンドくせぇ………」
コレは………御叱り確定ですね。
―――*―――*―――
「–––––《アンノウン》戦の拠点である海ほたるを倒壊させろ。俺、そんな命令してないよなぁ」
時は夕暮れ。
ほぼ壊れ切ったビル近くのアクアラインに正座––––というにはラフ過ぎる形態で座る七人と怒りに皺を浮かべる男一人がいた。そして、この言葉は男の物。
「何でか分かるか? ………––––壊されちゃ、困るからだよッ‼︎ 何でこうなったッ⁉︎」
その悲しみを帯びた怒声に全員が悄げ––––た訳でも無かった。
確かに小柄で色素の薄い髪の少女––––南関東圏最強にして、神奈川陣営首席である
気の抜けた座り方をしながら、手にしているケータイをポチポチしている赤色素の強い茶髪の美少女。千葉陣営の首席にして、名を
戦闘でちょいと鉢合わせた壱弥といい、舞姫といい、明日葉といい………実力には事欠かないのだが、何処と無く常識を知らない気がするのは気の所為だろうか………
そんな事を思いつつ、黒乃は無言で挙手。海ほたるを破壊する原因になったのは間違いなく、黒乃の原因なのだから、当然の帰結だ。
「俺だ、朝凪。俺の《世界》が原因で海ほたるを一刀両断しちまった」
「お前か、黒乃ッ‼︎ ………って、お前の《世界》はそこまでの火力を出せないだろ」
………流石にあの言い訳じゃあダメか………………真実なんだけど、仕方ない。
確かに黒乃の《世界》は、あらゆる力の方向性を捻じ曲げれる斥力を生じさせる。が、単体の力ではさしたる影響を産めないし、まず、断面綺麗に両断する事自体が不可能だから、納得出来ない言い訳なのは当然だ。
「仮にお前だとしても、他の要因が合っただろ⁉︎ 誰だ⁉︎」
「ぐ、求得さん………」
ショボーンとした表情で挙手しようとする舞姫。だが、隣に座る壮麗な美人さんがその手を止めさせ、舞姫の視界を手で覆った。すると舞姫は––––
「––––ぬぉわッ‼︎ 世界が闇に………」
––––と声を挙げる。
咄嗟の反応でそう言った言葉が出るのはどうかと思うが………可愛いから関係無い。
そして、視界を覆った壮麗美人–––神奈川陣営の次席の
「あいつがやりました」
ある方向とは、東京首席の壱弥のいる方向だ。
それに対し、勿論だが––––壱弥は反論する。
「––––なっ………何を言う⁉︎」
「あー、そうそう。素直に撃たれなかったイッちゃんさんが悪い」
ほたるの言動に同意するのは黒髪ボサボサの少年。壱弥とはお世辞にも仲良く無い、千種 霞だ。
「何だと………お前ら、
「そっち一人でこっち二人なんですが………何? クズザコさんは足し算出来ないの? 算数苦手なの?」
味方がいる事を良い事に煽りに煽る霞だが、次の瞬間には手の平クルーしていた。原因は––––
「–––私はヒメを慰めるので忙しい。二人で勝手にしていろ」
––––と、ほたるが霞側から離れたからだ。すると––––
「えっ………な、仲間同志で争うのは良く無いと僕思います………………」
––––戦略的撤退を選んでいた。本当に場の読み方が上手い。
そんな中でも、ケータイポチポチ明日葉は、
「つーか、あたし関係無いから帰って良い? シャワー浴びたいんすけど」
と無遠慮な爆薬投下。
お前ら、説教中だぜ? 少しは反省しろよ、おい。
そんな状況を危惧したのは黒乃だけではなく、金髪の少女も同じだった。
あわわ、あわわと慌てているのは東京陣営の次席、
そして、今まで史上に最高の炎上爆弾を投下してくる。………無自覚の内に。
「え、えっと………こ、困った時は笑顔。笑顔、です♪」
と、ここに来て、求得の堪忍袋の尾がプッツンを切れ––––思いっ切りと怒鳴り声を挙げた。
「お前ら連帯責任だッ‼︎ しばらくは休みは無いと思えッ‼︎」
「「「「「「「え、」」」」」」」
こうして、しばらくの休暇が取れないのが決まった。というか、凄い今更なのだが………
………別に首席とか次席じゃない黒乃が、この場に居るんでしょうね?