世界平和と己の幸せが俺の夢 作: 黒兎
今話はだいぶ短め。何故って? ネタが無いから
「朝か……」
場所は防衛都市神奈川。その中に存在する寮の一部屋だ。
眠気による重い瞼を開き、カーテンの隙間から射す日の陽が見えた。
正体不明のはぐれ《アンノウン》討伐任務から1週間近く経った。
管理局は今も解析を続けているそうだが––––まぁ、どの様な結果が出ようとも驚く訳が無いから、期待はしてない。
「––––で、今日で《アンノウン》の最終発生日から1週間、か」
身体を起こした黒乃は冷蔵庫の中から、アイスコーヒーのボトルを出して来て、そこら辺に散らばっていたグラスに注ぐ。
寝起きでカラカラに渇いた喉を潤す為にググッと呷る。
口の中で広がる苦々しい香りは意識を活性化させるには十分。
一気に飲み干した黒乃はグラスを机に置く。
「《アンノウン》が出てくれないと暇なんだよなぁ……。だからと言って、学校に行こうとも思わないし」
基本、防衛都市に属している者は学院に入れられる。
それに従い、黒乃も一応は元千葉校の現神奈川校の生徒である。
だが、今までの黒乃が学校に行ったのはほんの僅かだ。
理由としては、大して学ぶ事が無かったや、コミュニケーションが面倒とかの利己的な物が大半だ。……それでも、最低限は行っていて、一応の単位は取っている。
だから、わざわざ行く必要も無く、テキトーに遊び呆けてた。そして、今日もそのつもりだったのだが––––
「おはよー、クロノん‼︎ 朝だよ‼︎」
木っ端微塵。
まさにその通りの様子で、しっかりと備え付けられていた扉を貫通して入ってきたのは神奈川首席の舞姫。
「お前なぁ……せめて、ノックとか呼鈴鳴らせよ。ドア壊すな」
「だって、前そうしたら、クロノん起きてたのに居留守使ったもん」
「対応したらお前は『学校行こ』って言いながら、無理矢理俺を引きずってった前科があるからな」
「でも、そうでもしないとクロノん学校来ないじゃん‼︎ まず、ちゃんと家で寝てる時の方が少ないでしょ?」
「何故知ってるし」
「ほたるちゃんから聞いた‼︎」
あいつ、ホント何者だよ……
そう思う黒乃は、要件を知っていながらに目線を舞姫に移す。
「––––で、お前は今日も懲りずに俺を学校に連れてこうと」
「うん、勿論‼︎」
表裏無い笑みは万人を惹きつけ、離さないが––––黒乃はそれでも、
「じゃ、捕まえれたらな」
と言い、部屋の窓から身を投げ出す。
ハナから扉付近は舞姫で封鎖されている。ならば、逃げるには窓から飛び降りるしかないという算段。
そう、算段。
だったのだが–––––––––––
「貴様、ヒメの言う事を無視するとは良い度胸だな」
飛び降りた先の着地点にいたほたるに首根っこを取られ、呆気なく捕獲された。
それに黒乃は半眼で、
「うっわー……待ち伏せ連携プレイとか面倒の極みだろ。無いわー、有り得ないわー」
「戯れるな。……すぐヒメも合流するだろうし、早く行くぞ」
「だからって、引っ張んなぁ‼︎ 制服伸びるだろ‼︎」
―――*―――*―――
結局、ほたるに引っ張られ連れてこられた黒乃は渋々学校に行く事にした。
部屋に侵入してきた舞姫が授業道具諸々を入れた黒乃の鞄を持ってきて、現地で渡されるという優遇っぷり。なお、その状況を見た舞姫盲信者の半分は倒れ、半分は怒り狂ったという。朝から元気な事だ。
そして、気怠そうな雰囲気を纏った黒乃は自分に割り当てられた教室に入る。
すると––––
「黒乃様ぁッ‼︎」
「お久しぶりです‼︎」
––––また、例に漏れずに女子が群がる。正直なところ、黒乃が学校に行きたくない理由の一つがこれだ。
どう反応しても止まらないから、無視しまくるのが一番なのだが––––
「黒乃様に無視されたわ‼︎」
「何てクールなお方なんでしょう‼︎」
––––それでも、止まる気配が無いのは実証済みだから、また厄介だ。
実距離にして、約数メートル。教室の入り口と自席までのその間を黒乃が移動し終わるまでに10分近く掛かった。
「はぁ……だから、学校に来たくないんだ」
深い溜息と共に黒乃は愚痴を吐くと、前の席に座っている生徒が振り向き、話し掛けてくる。
「そりゃ、災難だったなぁ。でも、朝っぱらから女子に囲まれるとか男子としては願い叶ったりなんじゃねぇの?」
「七宮……あのなぁ、そういう事には限度ってものがあるんだ。あの量は可笑しい。笑えない」
その生徒の名は、
「やっぱ、黒坊の人気はスゲェな。この神奈川でお前に敵う人気なんて、姫様しかいないんじゃねぇの?」
「……まぁ、そうかもな。ただ––––この人気も結局は舞姫のお陰だからな……ホント、荒唐無稽な話だよ。千葉からの亡命で気不味いだろうからって、わざと俺の事を宣伝して回るなんて」
そう……今の神奈川における黒乃の人気度の高さは舞姫によるものだったりする。
ひたすらに、手当たり次第に「カッコイイんだよ!」とか「強いんだ!」と吹聴されたりした過去がある……まぁ、亡命直後に舞姫と一対一での模擬戦をした際は、良い線まで行ってた。あそこまで善戦出来たのは、ほたる以来だったらしいし。……結局、負けたけども。
そんな事があり、今の黒乃の境遇がある訳だ。
「––––にしても、姫様があそこまで一人に入れ込むなんて珍しいモンだぜ。男であのレベルの入れ込み具合だったのなんて、紫乃宮以来だろうな」
「紫乃宮?」
「黒乃は知らないのか………今は凛堂 ほたるって名乗ってる四天王だよ。あいつも編入生だが、当初は男として入ってきたからなぁ」
「………ああ、あいつの事か」
ほたるが物品管理四課にいた頃は確か、多忙だった時期だ。
確か、あの時は偽物のほたるが何かを仕組んで、本物のほたるに舞姫を暗殺させようとしたとか、そんな様な………まぁ、詳しくは覚えていない。覚える価値も無いのだから。
その時に潜伏する時にほたるは男で通したのだろう。故に名前も違っていた。そりゃ、気付く訳が無い。
「正体が姫様が今まで探してた『愛しのほたるちゃん』だったから、正体気付く前から雰囲気で入れ込むのは分かるけど………お前は特に関係性が無いのに入れ込まれてる。防衛都市神奈川での初めてな現象な訳だ」
「だからって、ここまで面倒な事態になると思うか、普通」
「お前の面倒くさがり屋加減がもうちょっと収まれば、もっとモテるだろうに」
「はぁ………馬鹿らしい」
そして、黒乃は頬杖を付き、溜息だけを漏らした。
―――*―――*―――
午前中の授業が全て終わった昼過ぎ。
ふと、携帯端末に視線を落とすと丁度、メールで連絡が入った。差出人はほたるから。
何か良からぬ不安に駆られ、一応開封し、斜め読みすると––––
「–––遂に来ちゃったか………」
「あ? どうした?」
火凛が黒乃の言葉に反応し、振り向く。が、
「悪いな、火凛。先生に早退届け出しといてくれ。ちょいと呼び出された」
―――*―――*―――
「––––で、緊急事態、か………」
「そうだ」
メールに記されていた待ち合わせ場所から、歩く黒乃とほたるは真剣な声音で話を重ねる。
「東京湾に今日未明現れた超大型《アンノウン》。東京校が巡回に当たっていた時に遭遇したらしくてな………歯が立たない位に強いらしい」
「ふーん………で、これがそいつの模式図って訳か」
メールに添付された画像………それは例の超大型《アンノウン》の姿だった。
海上に突如現れたらしく、他の物体との比で大きさを求め様にも、写真には他の物が何も無く、推測すら出来ないが、きっとデカいのだろう。
形状としては………形容し難いが、植物と言えば良いのか………種子を宿し、一部分が丸く肥えた様な物だ。
「そこで、だ。黒乃、お前にはヒメからの勅命が下っている」
「あー………多分、それ––––」
「「その超大型《アンノウン》の討伐任務に参加しろ」」
寸分狂わずに言葉が被る二人。
「やっぱりな」
「任務の召集が掛かるのは、明日の明朝だ。準備しておけ。良いな」
「了解」
短く返し、二人は別れ行く。
この時は………まだ、気付いてなかったのだろう。
この任務が………防衛都市全体に大きな影響を与える事に………