世界平和と己の幸せが俺の夢 作: 黒兎
新規EDのムービーの所為で、三都市の首次席のIF学パロが書きたくなってきた『 黒兎』です……あれは卑怯よ
カナリアも舞姫もほたるも明日葉も可愛すぎます……正直、夕浪さん可愛かったし。霞はイケメンだし(勿論朱雀も
………………
ここは管理局直系の病院。
耳が痛くなる程の静寂の中、建て付けられた二つの長椅子で対面に座る三つの影が居た。
一つは東京陣営の首席、朱雀 壱弥。
頭を垂れ、少し長い茶色の長髪が表情を隠すが、きっと絶望に直面した様な顔をしているのだろう。
二つは千葉陣営の次席、千種 霞。
朱雀が座る長椅子の体面に座りながらも壁に凭れ掛かり、天井を仰ぐ姿はある種の怠さを感じさせる。聞いた話によると、リヴァイアサン級討伐作戦の陣形や作戦の構築に徹夜していたらしいから、当然と言えば当然だ。ただ––––その怠さには他にも理由がある様に思えた。
そして、三つ目が神奈川陣営、九重 黒乃。
霞の横に座っていて、腕組みしながら、眼を瞑っていた。眼も口も一度も開かず、ジッとする姿からは、霞と同じ気怠さを感じさせる。ただ、こちらは本当に疲弊しているのだろう。まぁ、夜通し、リヴァイアサン級と戦っていたのだから、仕方無い。
その三人を遠くから尻目に捉えながら、公衆電話で通話している者がいた。神奈川陣営の次席、凛堂 ほたるだ。
「………ああ、ヒメも私も
あの事務的な口調から察するに通話相手は青生だろう。
「ただな………東京の人達が少し傷を負っていてな。大半が
ほたるは視線を三人––––の奥にある病室を見つめ、言葉を紡ぐ。
「同じく命に問題無いが、重傷だ。数日、安静は必須だろうし、戦線復帰は更に時間が掛かるだろう」
その後、数言交わし合った後、ほたるは公衆電話を切り、通話口を定位置に戻す。
そして、一度、三人の方に視線を移すと––––どうやら、霞が朱雀に話しかけていた。
「無様だな」
初っ端からの皮肉。霞なりのコミュニケーションの取り方だが、朱雀が嫌っているパターンで普段ならば確実に突っ掛かる案件。だが––––
「あぁ、俺は無様だ………」
––––頭を上げず、気の沈んだ声で素直に返した。
不審に思うのは勿論、吹っかけた霞で、正直な所、黒乃も内心、気持ち悪くなってた。
すると、霞は皮肉を重ねてみる事にする。
「トンチキ野郎」
「トンチキ野郎でもある」
「4位さん」
「そうだ、俺は4位だ。心も身体も未熟で………」
「クズ雑魚」
「強くなりたかった………」
「そこまで認められると逆に気持ち悪ぃよ………」
と、霞は朱雀とのコミュニケーションを諦めた。これ以上、皮肉っても、結局会話にならない。片想いとは大変である。
その事を察した黒乃は初めて、眼を開き、開口する。
「………朱雀。返事は要らないからよく聞け」
一度、溜息を吐き、気怠気な眼を真剣に摩り替え、言葉を掛ける。
「お前は………馬鹿だ。クズだ。命令違反をした挙句、カナリアを失いかけたんだろ。………ホント何がしたかったんだか」
「………」
「でも、お前らの愚行のおかげでリヴァイアサン級の情報が得られたんだし………お疲れ様」
………まぁ、
カナリアは………お世辞にも強い訳では無い。寧ろ、弱い。雑魚だ。
身体能力も低いし、
正直、居ても居なくても、戦力換算的には不必要な存在だ。
だが––––、と黒乃は続ける。
「だが、朱雀。お前にとって、カナリアは大切な存在なんだろ。なら、責任を持て。事実から眼を背けるな」
と言いながら、黒乃は敢えて消音状態にしていた端末を差し出す。
「朝凪からだ。一回、管制室に来いだとよ」
―――*―――*―――
「あのー………何でこうなっているのかしら?」
いつも通りの柔和な笑みとは対称的な声音で言うは夕浪。
何故、そうなったかは、管制室に呼び出された朱雀が立つ背後。そこには五つの影が居た事が原因だ。
「朱雀を連れてきたのは俺だ。しかも、俺が居ても特に問題無いだろ」
黒乃に–––
「報告書を出したのは私だよ! 見届ける義務があると思うな!」
「私にはヒメを見守る権利がある」
神奈川首次席の舞姫とほたる。
「通りかかっただけ。悪い?」
「いや、悪いでしょ」
千葉首次席の霞と明日葉。
五者が各々の言い訳––––もとい、理由で一箇所に集い、朱雀の背中を見つめている。
そこには冷やかしも嘲笑も何も無く、ただその行く末を見たいだけという単純な想いが込められていた。
そんな中、厳格な表情でいた朝凪は固く閉ざした口を開いた。
「壱弥、俺は部隊を編成して、明朝三都市で同時に出撃。そう言ったよな?」
「はい………」
「俺の言葉も命令も意志も全て理解した上で、何故勝手な行動をした?」
「全責任は俺にある。どんな処罰でも………」
ある種、弱音に等しい泣き言を吐く朱雀に朝凪は言葉を緩めない。
「そんな事はどうでも良い。自分一人で何とか出来ると思っていたか?」
「俺が無能だったから………できな–––––––」
朱雀の言葉が紡ぎ終える前に室内に響く甲高い音。それは朝凪が朱雀の頬を平手打ちしたが故に響いた音だった。
そして、朝凪がようやく怒りに近い表情を露わにし、最大絶頂の声で言う。
「力があれば許されると思ったかッ⁉︎ 自惚れるな‼︎」
正直な所、平手打ちよりもその言葉の方が朱雀の胸に深く突き刺さっただろう。
自分は強い。護りたい物を護れるだけの力がある。
実際には、そう思っていなくとも、無意識下では思っていたに違いない。でなければ、リヴァイアサン級なんて言う、強大過ぎる相手に単身挑むなんて愚行を犯すはずないのだから。
そして、それが招いたのが、何よりも護るべき存在であったカナリアの負傷。
その事実を突き付けられ、朱雀にとっては痛烈他無い。
だが………いや、だからこそ。
彼は–––––朱雀は思い至れたのかも知れない。
「カナリアを傷付けた敵はまだ………海ほたるを占拠している………。せめて………せめて、その後始末だけでもさせてくれ………」
「そうしてまた誰かを犠牲にするつもりか?」
「違う、そうじゃない! ここにいる奴らの助けを借りる! 本当の意味で………協力する!」
––––仲間を頼る大切さを。
朱雀のその一言に背後で聞いていた全員が驚きを隠せなかった。
今の今まで、自分一人で何とか出来ると思い込んでいた気高き朱雀が––––初めて、自分から進んで協力を求めた。
その原因といえば、確実にカナリアだ。
全てはカナリアの為に。
朱雀には、それしか残っていないのだから。
「だから頼む……俺にみんなと一緒に戦わせてくれ!」
明確な意志の焔を宿した瞳。
言葉に込められたそれは、覚悟の顕れ。
そう………そうだ。
「(それでこそ………東京首席、朱雀 壱弥、だよなぁ………)」
ようやく、元に戻り––––そして、新たな道を見出した朱雀に黒乃は内心にそう思った。
と、その時、朝凪は若干困った様な表情––––いや、微笑を浮かべながらに言葉を紡いだ。
「壱弥………それは俺に言うセリフか?」
その言葉に朱雀は背後を向く。そして––––眼前に広がった光景に息を詰まらせた。
少し照れ臭そうにする霞。
仕方なさそうにしながらも口端を持ち上げる明日葉。
普段と大して変わらない涼しさで、見詰めるほたる。
いつも通りの屈託の無い笑みと共に頷く舞姫。
そして、面倒くさそうにしつつも、状況から来る武者震いが故か、凄絶な笑みを浮かべる黒乃。
言葉無くとも、全員が朱雀の想いに応えていた。
その姿に朝凪は嘆息吐きながら、嬉しそうに言う。
「俺がそいつらの立場だったら、絶対にそんな顔はしなかったんだがな………連中に感謝しとけよ。けじめを付けて来い! 説教はその後だ」
続く様に夕浪が微笑みと一緒に朗報を伝える。
「さっき、カナリアの容態が持ち直したという報告があったわ。もしかしたら、力を高める彼女自身の《世界》のおかげかもしれないわね」
その言葉に全員は安堵の表情。
これでもう後ろを気にする必要は無い。そう、––––
「行って来い、お前らッ!」
––––
―――*―――*―――
その後、リヴァイアサン級《アンノウン》との決戦に向けて、準備が進められた。
神奈川は自前にして、オンリーワンの空母に何やら色々と積載していた。馬鹿みたいに積んでいて、もう動けるのかすら定かでは無い。………まぁ、作戦上、仕方無い。
千葉も自慢の砲台列車に大量の火薬や重火器を積んでいく。その姿はまさしく決戦モード。つまり、本気だ。………ただ、気になるのは霞と工科生が何やら細工している事だが………まぁ、安心して任せよう。きっと、マトモな考えでの作戦じゃないに違いない。
そして、東京は今作戦の総司令部が置かれており、そこで全陣営での戦闘データを織り込んだシミュレーションを何度も重ねた。余談だが、黒乃は今回、シミュレーションの手伝いをしていたりする。単に力仕事をしたくない事の表れだ。
そんな風に普段は競い合う三陣営が過去に例を見ないレベルで噛み合い、尋常ならざる速度で準備が終わっていく。
––––決戦の刻は………もう直ぐだ。
―――*―――*―――
明朝。
昔の《アンノウン》の侵略によって、原来の地形線を崩壊させられ、甚大な被害を想起させる瓦礫の山がある東京湾湾岸に東京陣営の全員が集結していた。
今日、今時こそが作戦開始時間。
全員が全員、真剣な面持ちで杖状の出力兵装を握りしめていた。
そんな中の先頭に立つ朱雀は––––言葉を紡ぐ。
「––––今度の敵は強い。俺の自分勝手な行動の所為でカナリアやコウスケたち……大切な仲間を失うところだった」
しかし、そこにいる朱雀は明らかな別人だった。
何時も一人で抱え込み、独断専行しようとしていた人とは思えない位に角が無くなっていた。
「後日、然るべき責任を取る。だが……あと一度だけで良い。俺に力を貸してほしい」
加え、人を頼る事を覚えた様な気もする。……少し辿々しい気もするが、今時においては瑣末な問題でしか無い。
ただ、朱雀と付き合いの長い各陣営の首次席たちは驚きと一緒に通信を介して言葉を発する。
『––––誰だよ、これ』
『あはははは! ウケるw』
『すざくんちょっと変わった?』
『カナリアの翻訳が無いとよく分からんな』
……言いたい放題過ぎて、ちょっと朱雀に同情を覚えかけたりする黒乃。
まぁ……
「(確かに……豹変っぷりは凄いよな)」
と思い至る中、気にせずにいた朱雀は最後の確認をする。
「神奈川、天河、準備は良いか?」
『おっけー!』
「千葉」
『あいよ』
「黒乃」
『ばっちこーい』
神奈川と黒乃が別口な訳は、作戦上、黒乃は神奈川と行動を共にしないからだろう。
そして、朱雀は高らかに叫ぶ。
「目標は防衛拠点、海ほたるを占領している超大型《アンノウン》! 東京の……いや、三都市の意地を見せてやる!」
その言葉と一緒に日は姿を現し、三都市生徒を照らす。
さぁ……
「総員、出撃!」
……最大規模の攻略作戦が始まる。