霧島柊
社畜。基本的に後輩にナメられてる。
影浦雅人
今回一言しか喋らない。強い。
北添尋
今回二言しか喋らない。デカい。
絵馬ユズル
今回一言しか喋らない。若い。
仁礼ヒカリ
今回5回しか喋らない。コワイ。
マッカン
うまい
三上歌穂
今回めっちゃ喋る。かわいい。
おっす、オラ社畜。間違えた霧島柊。
今日も元気に死事間違えた仕事です。
素晴らしい同僚にも恵まれていて折り鶴でも潰すようにネイバーを屠っていきます。
ただ問題はといえば……
「だー、くそッ! これ終わったら鬼怒田さんに催促しにいってやる。イレギュラーゲートなんてクソくらえだ!」
前方にモールモッド、左右にモールモッド、背後にモールモッド、そして奥には大量のバンダー。
正に四面楚歌の中俺はひとり攻撃の的になっていた。
全方位から降り下ろされる鎌をかわし、レイガストでいなし、バイパーで関節を破壊ししのぐ。距離をとればバンダーの砲撃が飛んでくる。
こんなんどないせいっちゅうねん。そりゃまぁ俺は防御とか得意ですけど倒せるとは言ってないからね?俺の戦闘力なんて精々B級中位と同じくらいだからね?
だから
「はよ来いやぁぁぁ!」
戦場に俺の悲痛な声が響いた。
***
もう動かないトリオンの固まりになったモールモッドの上に乗った野獣のような青年、影浦雅人は心底めんどくさそうにため息まじりの言葉を吐いた。
「ったく、こんなんでいちいち騒ぐな、うるせぇな」
「うるさいわ! モールモッド10体とバンダー15体は断じてこんなんで済ませていいことじゃない!」
「にしてもキリさん叫びすぎだよ、こっちまで聞こえたよ」
「キリさんあとでヒカリちゃんにどやされるんじゃない?」
「いや……それは勘弁してくれまた俺の死事が増える……」
「いや大丈夫アタシキリのことモニターしてなかったから」
「職務怠慢だ!」
「キリなら死なないでしょ、信頼信頼」
「都合いいこと言いやがって……」
ジロリと睨んでやろうとしたがヒカリちゃんはここにいないのでせめて本部のほうを睨むだけにしておいた。
「ちょっとキリ、睨むなよ」
あらやだ、ヒカリさんエスパー?なんで分かるの?普通に怖い。
本部のほうに釘付けだった視線をすっとカゲちゃんの方へ逸らした。
「さ、そろそろ交代の時間だな、引き上げましょ」
「思いっきり話逸らしたな」
「ゾエくん、次の部隊どこだっけ?」
「確か東隊ですよ」
「そうか、それなら大丈夫だ。よしユズルくん帰るよ」
「思いっきり話逸らしたな、目線と一緒に」
***
「だー、くそ。今日は早く帰れると思ったのに……」
今日の活動報告書をまとめながらひとり呟いた。
ホントはこの死事オペレーターであるヒカリちゃんがやるはずなんだがなぜか影浦隊と防衛任務をした時には俺がこれをやることになってしまっている。やんぬるかな。
あぁもうダメだ、眠たい。もう寝ちゃってもいいかな。でもこれやらないと沢村さんにどやされるんだよな。
コーヒー、買いに行くかな……。
影浦隊の部屋には給湯室がないため買いに行かなければいけないのだ。やんぬるかな。
自販機で愛飲している真っ黒な缶コーヒー。通称マッカンをポチるちなみに千葉の至宝M○Xコーヒーとはなんの関係もないから注意な。
カシュとプルトップを立ててマッカンを一口。
口にもったりした甘さと微かな苦味が広がった。なお千葉の至宝M○Xとは一切合財関係がないので注意な。
廊下を歩きながらちびちびとマッカンを啜っていると前方から小さな少女が歩いてきた。
「あ、三上ちゃん、こんばんは」
「こんばんは、キリさん」
軽く手を上げて三上ちゃんは笑った。
三上ちゃんはA級3位風間隊の敏腕オペレーターである。自分も死事が忙しいはずなのに俺の死事を手伝ってくれる優しい正に天使のような女の子だ。いとうつくし。
「どうしたの?こんな時間に」
「いまちょうど任務が終わって帰るところなんです」
「ほぉ、こんな時間にひとりで帰ってるの?」
「えーと、今日はわたしが残って仕事をしていたので遅くなっちゃったんです」
「三上ちゃんひとりにやらせるなんて風間さんたちも酷いなぁ」
しかもひとりで帰らせるとか心配じゃないのかこんな時間に。
菊地原くんはともかく風間さんと歌川くんはその辺ちゃんとした人だと思ってたんだけどなぁ、まったく。
「じゃあ三上ちゃん、一緒に帰ろうちょい待ってて」
そう言い残し俺は影浦隊の作戦室にむかい、バタバタとテキトーに片付けをして三上ちゃんの元へと向かった。まぁ汚いままだが問題ないだろう、カゲくんのとこだし。
「おまたせ、さ、帰ろっか」
「でも仕事中だったんじゃないんですか?」
「大丈夫だよ、すぐ終わるところだったからね」
「そうですか……すいません……」
「年下なんだからそういうこと気にしなくていいの、先輩の厚意に素直に甘えときなさい」
俺が先輩風を吹かせながら言ってみたが返事がない。やっぱりウザすぎたか、そんなことを考えながら三上ちゃんを見たが俯いてしまっているため表情は分からなかった。
「……はい……じゃあお願いします」
聞こえてきたのはそんな蚊の鳴くような小さな声。
やっぱりウザがられてるよなぁ、今度から言わないようにしよ。
そう決意して三上ちゃんと並び、歩き出した。
***
この霧島柊という男は心底不思議な人だと三上歌歩は思う。
ネイバーと戦っているときの鬼気迫る顔。ネイバーに強い憎しみを持っているから毎日のように防衛任務に出ていると、まことしやかに囁かれている。
しかし歌歩にはどうしてもそうは見えない。
こうやって自分と話しているときの無邪気な笑顔。誰にでも分け隔てなく向ける柔らかな目の光。これが偽物だとはどうしても思えない。……思いたくない。
「……どうした?そんなにじっと見て、俺の顔になんかついてる?」
しまった。考え事をしていたらつい見つめたままになってしまっていたらしい。歌歩は赤くなった顔を隠すようにして俯いた。
「いえ!な、なんでもないです……すいません」
「……?そうか、それならいいんだけどさ」
ちょっと不自然だったかな、と歌歩は柊の顔を伺うがどうやらそれほど不自然には思われてないらしい。内心ホッと胸を撫で下ろす。
「そういや最近会ってないんだけど菊地原くん元気?」
「はい、いつも通りですよ」
「そっか、ならよかった」
「……キリさんってよく菊地原くんのこと構ってますよね」
歌歩は少しだけふて腐れた様子を見せてそう言った。しかし柊はそれにまったく気づく様子もなく首を傾げた。
「そうかな?そうでもないと思うけど」
「そうですよ、いつも菊地原くんのところに行くじゃないですか」
「まぁいっつも邪険に扱われるけどね」
「フフ、そうですね」
でもあれは菊地原くんなりの愛情表現なんですよ。
その言葉は自分の心の中に留めておいた。それくらい柊なら知っているだろう。こう見えて人の機微に聡いこの人なら特に。ただし恋愛感情以外の、と頭につくのだが。
それのせいで歌歩に相談しに来た女子隊員が何人いたことか。そんなこと相談されても歌歩にはどうすることもできないのに。
こんなことを考えていたからだろうか、つい悪態が溢れた。
「はぁ……キリさんのばか……」
「うわ、ずいぶん唐突な罵倒だね先輩喜んじゃうよ?」
「はぁ……」
「せめてなにか言って!俺がヤバい人みたいだから!」
「はぁ……」
「え、俺なんかしたっけ?ゴメンなさい。してたら説明してください」
柊はパッと見小学生にも見える歌歩になんの躊躇もなく頭を下げた。
はぁ……なんでこの人がモテるんだろうなぁ……。
内心ため息を吐きつつ歌歩は「なんでもないです」と言った。
「そうかい……余計なお世話かもしれないけどなんかあったらちゃんと誰かに相談しなよ?」
「大丈夫ですよ。私、周りの人には恵まれてますから」
これは本音だ。これ以上望みようがないくらいにいい人ばかり。
「そうだけど君はひとりで背負っちゃう感じするからさ、先輩的にはちょーっと心配になっちゃったりするのよ」
柊がいたずらっぽく笑って言ったその言葉で歌歩はギクリと体を固めた。
―――こういうところなんだ、キリさんが人に好かれる理由は。
いっつもヘラヘラしてるし、ギャグは面白くないし、なに考えてるか分からないし、後輩にナメられてるし、優しくする時ふざけるし、時々すごく心配になるし。
でも、とても温い。優しさが、目が、言葉が本当に温くてつい甘えてしまう。
「キリさん……ズルいです……」
「え?ゴメン聞き取れなかった。もう一回いい?」
「あ!私の家すぐそこなのでここで大丈夫です!ありがとうございました」
歌歩はぺこりと勢いよく頭を下げると柊の返事も聞かずに早足で歩き出した。あのままいたらバレてしまいそうだった。こんなにも赤い顔を見られたら全て見透かされてしまいそうだった。
***
なんか怒らせるようなことしたっけな……。
三上ちゃんと別れた帰り道ずっとそれを考えているのだが思い当たることがない。
まぁあの手の冗談は嫌いな人もいるからその辺は気を遣ってはいる。三上ちゃんはちゃんと流してくれる子だと思っていたんだが案外ダメな子だったらしい。年上の俺に気を遣ってくれただけだったのかもしれない。
はぁ……社畜の一番嫌いなもの、パワハラを自らやってしまうなんて俺はなんて酷いやつなんだろう……。
明日にでも菓子折でも持って謝りに行こ。
そう考えて俺は川のど真ん中に建っているいくつかある支部の一角玉狛支部の扉を開いた。
詳しくは次回以降に明らかになると思いますが主人公は本部所属の社畜です。