社畜に恋は難しい   作:小林 陽

11 / 22
太刀川慶
偶然柊のテストを拾った時、難しい顔をして「あめ……む……しま……き……ふゆ……」と呟いていたという。

風間蒼也
自分の成長が止まった時期にグンと背が伸びた柊を見て「奴が俺の身長を……」と呟いていたのを目撃されている。

歌川遼
A級三位チームの隊員だし初期ポイントも結構高かったから実力者だと思われるがいかんせん影が薄い気がする。ただ風間隊は結構好きなのでいつか活躍させてやりたい。

菊地原士郎
首ちょんぱしたタイミングが狙撃手四人同時だったため原作より影が薄れた。
重ねて言うが作者は風間隊のことが好きである。

三輪秀次
今回嵐山に壁ドンされる。


11話 ジョーカー

 黒トリガー『風刃』

 目の届く範囲どこにでも斬撃を伝播させることができる。また先ほど彼らがやったように細かい位置情報さえ分かっていれば対象の位置が見えなくても斬れる。

 そんな強力な性能に隠れがちだがもちろん弱点も存在する。

 

 例えば、防御力。

 本部で開発されたトリガーではないため、所謂『シールド』や『エスクード』などに代表される防御用トリガーは使えない。迅のように未来予知の能力でもなければ遠距離専用の武器に成り下がってしまうだろう。

 

 例えば、ギミック。

 前述の通り、他のトリガーをセットできない以上、攻撃に関しては本人の剣の腕に大きく左右されてしまう。

 

 しかし、それは霧島柊がいることで解消される。

  一言にサポートがうまいと言ってもひとりひとりに得意な形がある。

 

 相手の攻撃から味方を守り、攻撃に専念させることがうまい『時枝充』

 自らが追い詰めたところを味方に倒させることがうまい『出水公平』

 相手にやりたいことをさせないことで味方に敵を倒させることがうまい『辻新之助』

  彼らはボーダー屈指の名サポーターだ。

 

  しかし霧島柊はその全てにおいて彼らを上回るのである。

 

『風刃』の能力を100%引き出せる迅悠一とその迅悠一の能力を100%発揮させられる霧島柊。

 故にこうなることもまた必然なのかもしれない。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  太刀川が二本目の『弧月』を抜いた。

  それはつまり100%を出すということであり迅との接近戦に持ち込むということだ。

  太刀川が接近戦で迅の動きを止めて、そして風間と歌川が『カメレオン』を使い奇襲を仕掛ける。

  それは元々打ち合わせていた動きだ。しかし思った以上に苦戦している。単純に数の有利が減ったというのもあるが一番のファクターは霧島柊。

 

「太刀川、俺も加勢する。霧島のトリガーを制限するからお前が決めろ。歌川」

「了解!」

「了解です、風間さん」

 

 

 

 ***

 

 

 

  太刀川は迅と距離を詰めて右手に持った『弧月』を上段で振るう。

  迅はそれを『風刃』横から打ち付け、鍔迫り合いに持ち込んだ。

  そこを『カメレオン』で姿を消していた風間が迅の真横に現れ、腰から肩にかけて斬りつけた。

  刹那、風間の腕は跳ね上がり、体が泳いだ。だが『スコーピオン』はどこからでも攻撃できるのが強みだ。故に足から地面へと『スコーピオン』を潜らせて柊の足を狙った。

  眼前には半透明の壁。不規則なノッキング音が響く。反射で手をクロスさせて防御の構えをとった。衝撃。

 

  「ッッ!スラスターか……!」

 

  小柄な風間の体はゴムボールのように真後ろに飛んだ。

  そんな最中、風間は見てしまった。そして叫ぶ。

 

「待てっ!歌川!」

 

  柊の背後に歌川が姿を現す。

 

  ――それは釣りだ。

 

  『グラスホッパー』を持たない歌川は空中でそれをかわす術はない。

  風間がやられたのと同じように歌川の『スコーピオン』を振るう軌跡の中に『グラスホッパー』が設置された。腕が弾かれ体が泳ぐ。

  その隙を迅は見逃さず体を反転。風刃で地面を斬りつけた。

  その斬撃は電柱へと伝播し、歌川の首を飛ばした。

  迅の奇行ともいえる行動に太刀川は疑問を抱きながら剣を振るった。

  そこの間に入ったのはシールドモードとなった『レイガスト』を持った柊。

 

「まぁ、やっぱりそうだよなぁ」

 

  ぼやきながらもう一本の『弧月』で突きを放つ。

 

「旋空」

 

『弧月』が伸び、その勢いのまま『レイガスト』ごと押す。柊は足だけでは踏ん張れず引きずられてしまう。

  ばっと太刀川が剣を引き、バックステップで後ろに下がる。

  太刀川がいたところに斬撃が走る。

  あと一瞬遅ければ真っ二つになっていただろう。

 

「おーい、風間さん生きてる?」

「当たり前だ。」

「しっかしキッツいなぁ。霧島ってあんなに強かったっけ?」

「確かにあそこまで化け物じみた能力はなかった気がするがな」

 

  恐らく太刀川が街を破壊した時からだったはずだ。柊の動きのレベルが段違いに上がった。

  風間と歌川がかけられた罠が特におかしい。完全に動きを読んだ上で、しかもひとつだけピンポイントに『グラスホッパー』が設置してある。

 

「あれ迅の予知ですかね?」

「いや、それにしては正確すぎる」

「かといってあいつのサイドエフェクトでもないでしょ?」

「そうだな――いや待て……!」

 

  その瞬間風間の中で今までバラバラだった要素が一本に繋がった。

  恐らくボーダーの中でもかなり特殊な戦法を持つ風間隊を率いる風間だから気がついた仮説。

  だがそんなことが可能なのか……?

  内心悩みながら呟いた。

 

「サイドエフェクトの……共有……」

「……は?そんなバカな!」

「いや、ありえる。恐らく霧島に限って、だが」

 

 未来を見る迅悠一。

 過去を見る霧島柊。

 

 一見両極に位置するように見えるが実は彼らのサイドエフェクトはある一点において酷似している。

 それは『一瞬にして情報が頭に流れ込む』ということだ。

 その膨大な情報量を処理するために彼らの脳は常人のそれより進化している。

 しかも柊のサイドエフェクトは人に触れなければ発動しない。つまり今は大量の空き容量が存在している状況だ。

 そこに同じように人より大きな処理速度を必要とする迅のサイドエフェクトで見える映像を送っても柊は処理しきれるだろう。

 それは先ほどの攻防と狙撃手全員の攻撃を防ぎきったので明らかだ。

 ただひとつ一体どうやってそれを回線に乗せているのかそれだけが疑問だが、そんなことは今はいいだろう。

 

「だとしたら、それかなりやばくない?」

「いや、そうだとすれば弱点がある。そこをつけばあるいは、というところか」

「そういうことなら話は早い。風間さん作戦お願いします」

 

 風間はこくりと頷いて作戦を話し始めた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 まだ砂煙が舞う中それを閃光が斬りさいた。それは砂煙を斬るだけでなく柊へと向かってきた。

 オプショントリガー『旋空』である。

 ただこれは斬撃が飛ぶわけではなく伸びるのだ。

 故に刀の腹を思いっきりかちあげればコントロールを失う。

 シールドモードの『レイガスト』を斬撃の下に潜らせスラスターを起動。『弧月』を弾いた。

 迅が追撃をするべく『風刃』をふるった瞬間柊の頭の上に鋭い閃光。

 

 ――読み逃した!

 

 ぐりんと体を捻り直撃を避けた。しかし腕が体を離れ宙を舞う。

 柊は舌打ちをしながら後退する。

 

 ――不味いな……そろそろ時間が。

 

 ズキンと頭に激痛が走った。そろそろ決めないと持たない。

 トリオン体での通信機能を使いながら後退していると背後に鈍い衝撃が訪れた。

 背中を見ても、誰もいない。そう思った刹那。

 見たことのない景色が流れ込んできた。

 

 ――降りしきる雨。見渡す限りの黒。嗅ぎなれた線香の匂い。

 

 バツンと頭の中でなにかが切れる音がした。

 視界がぐらつく。いや、実際に倒れているのだ。

 そして柊の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 やはり風間の推測はあっていた。

『未来視』は常時発動型のサイドエフェクトだ。しかし柊の『過去視』はある引き金を引かないと発動しないタイプのサイドエフェクト。

 故に『未来視』の方が必要な容量は大きいのではないか。というのが風間の予想だった。

 そして風間の予想は当たりだった。柊の容量では迅の見ていた映像が全て受け取れなくなっていたのだ。

 元々狙撃手を減らしてから使う予定の短期決戦用の切り札だったのだろう。

 そして、見せたくはないが風間の過去を見せることですでにいっぱいいっぱいだった柊の頭をショートさせ、ふらついた柊の隙をつき風間が斬りさいた。

 先ほどまでは柊に策を通されたが今度はこっちの勝ちだ。

 

「迅、これで2対1だ。それに『風刃』の残弾は残り一発。いい加減諦めたらどうだ?」

「諦める……ね」

 

  迅はなおもニヤリと気味の悪い笑顔を浮かべた。

  そして口が弧を描いたまま呟く。

 

「2対1?違うよ。2対3だ」

 

  なに?風間が迅と間合いを詰めるために一歩踏み出す。

  だが風間がそれ以上進むことはなかった。

  足元にささやかな抵抗を感じた。それを確かめる間もなく当たりに爆炎が起きる。

  そして砂煙が舞って視界が狭まった。

  不味い。

  身を隠すため『カメレオン』を起動した。

  しかし少し遅かったらしい。その体を撃ち抜いたのは二筋の光。

 

「佐鳥……!」

 

  風間は吐き捨てるように今ここにはいない変態狙撃手に言葉を投げつけた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  さっすが、相棒。頼りになるねぇ。

  迅は内心そう呟いた。

  柊は自分へのサポートはもちろん、自分のささやかな願いも叶えてくれた。

 

  ――もう一度太刀川と本気の勝負がしたかった。

 

  だからだと思う。柊は太刀川と自分が剣を交えているときは風間たちの動きを止めて、一対一の戦いにしてくれた。

  柊にはこれからのことを話してない。だがきっと気づいてる。

  だからこそあいつは出来るだけ粘ってくれたのだ。自らが苦手とする狙撃手にも狙われながら迅が『風刃』を差し出さなくていいように必死に。

  ただ結局太刀川たちに乗せられた感はあるが、あれについては迅にも思うところがあった。

  それにあれで怒らなかったら柊ではない。

  自分たちが慕った(隊長)ではないのだ。

 

「悪いけど太刀川さん。俺はもう負けないよ。」

「こっちのセリフだ。バカ」

「バカとか太刀川さんにだけは言われたくなかったなぁ」

 

  こんな殺伐とした状況なのにふたりはまるで公園で遊ぶ子どものような笑顔だった。

 

  「「言ったな!!!」」

 

 

  夜闇に閃光が走った。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

  夜空に彗星の軌跡が描かれた。

  建物の陰に隠れながら嵐山は自分の隊のオペレーターである綾辻遥に連絡をとった。

 

「今のは誰だ?」

「風間さんです。あと『緊急脱出』はしてませんが柊さんも戦闘不能みたいです」

「柊さんが?」

 

  木虎が信じられないと言わんばかりに声を上げた。

 

「嵐山さーん見ました?俺のツイン狙撃?」

「悪いな、これが終わったら作戦室で見ておくよ」

「おい木虎見たか?これでおれを少しは尊敬――」

「嵐山さん、どうしますか?迅さんは一騎討ちするみたいですけど」

「じゃああいつが決めてくれるさ。おれたちは任された仕事をやりきろう。それに柊があれだけ頑張ったんだ。俺たちだけ『ダメでした』なんて言えないだろ?

 

  そう言って笑った嵐山はいつもの優しい兄のような目ではなく『男の子』の目をしていた。

 

「どうした?木虎?」

「あ、いえ!なんでもありません!それよりどうしますか?」

 

  先ほどまでの攻防で嵐山が『鉛弾』に被弾し足を潰され、時枝の腕が飛び、木虎は米屋との戦いであちこちからトリオンが漏れ出てしまっている。トリオン量が低い木虎にとってこれは痛い。

  だが、それだけの戦果は上げている。米屋を『緊急脱出』させたことにより相手の壁役が減った。それに米屋が落ちたことにより、数的同数だったのが数的有利に立てたことが今でも彼らを釘付けに出来ている最大の理由だ。

 

「迅と太刀川さんの一騎討ちが始まった以上、すぐにこの戦いは終わるだろうから、このまま射撃戦で釘付けにしよう」

「了解」

「了解。佐鳥先輩早く合流してください」

「なんだ?そんなに先輩に助けてほ――」

 

  木虎は通信を切り三輪の方へ向いた。

 

「踏ん張りどころですね。嵐山先輩、時枝先輩」

 

  こう見えて嵐山隊はうまく回っている。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  そうだ、俺はこれを求めていたんだ。

  この肌が焼き付くようなひりつくような感覚を、

  心が踊る斬り合いを。

  溶けてしまいそうなほど愉しい戦いを。

 

  ――嗚呼、愉しい。

 

  ずっとこうしていたい。

  終わらないでくれ。

 

  もっとやろう。

 

  少しだけ。

 

  あと、少し。

 

  あと――

 

 

 

 

  夜空に光が尾を引いた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  嵐山隊との戦闘中ながら三輪は背中を向けて背後の広がる光景に目を向けた。

  そして絶句。

 

  ――まさか、そんな訳が……。

 

  しかし得てして嫌な予感ほど当たってしまうものだ。

  三輪隊オペレーターの月見蓮から耳を疑うような言葉がかけられた。

 

『三輪くん、作戦終了よ』

「……!」

『太刀川くんが緊急脱出。残ったのは私たちだけよ』

「くぁあ〜、負けたか〜!つーか7対2で勝ったの!?太刀川さんたち相手に!?黒トリガー半端ねーな!キリさんもただ仕事できる人じゃなかったんだな〜」

 

  そんな出水の独り言も聞かず三輪はギリッと歯噛みした。

  柊の幼馴染はネイバーに殺されていたはずだ。

  だから少しだけ、信用していた。本部に所属こそしているものの志は自分と同じなのではないか、と。

  だが、違った。所詮裏切り者の玉狛支部出身。裏切り者の支部にいたのだから奴自身も裏切り者であることもまた当然。

 

「嵐山さん……いずれあんた達は後悔するぞ。あんた達は知らないんだ。家族や友人を失った人間でなければネイバーの本当の恐怖は理解できない」

 

  生涯忘れることはないだろう。目の前でネイバーに襲われた姉が自らの手の中で冷たくなっていく恐怖。

  それを知らないからネイバーと手を取り合うなんて世迷い言を吐けるのだ。

 

「迅も霧島も、ネイバーを甘く見すぎだ。いつか絶対に痛い目に合うぞ」

「甘く見てるってことはないだろう。迅だって母親を殺されてるし、柊のことはお前だって知ってるだろう?」

「な……!」

 

  三輪は動揺を隠せない。ボーダーに入ってそれなりに経つが、そんな話は一度もなかったはずだ。

 

「それに五年前には師匠の最上さんを亡くしてる。親しい人を失う辛さはよく分かってるはずだ」

「だが!それでも霧島は……!」

 

  嵐山はただ黙って三輪を見ていた。だからこんなことを言ってしまったのかもしれない。

 

「その幼馴染はボーダーだったんだろ!?だったらそれは自分のせいだ!霧島が気にするのはただの傲慢――」

 

  空気が凍りついた。

  嵐山の右手が三輪の襟首を掴み、壁へと叩きつけた。衝撃で空気が漏れ出る。

  嵐山の顔に浮かぶのは憤怒。その声音は聞いたことがないほど低かった。

 

「ふざけるな、三輪。それを言うことは絶対に許さない」

 

  嵐山が手を離すと三輪の体は崩れ落ちた。

  三輪に背を向け歩き出した嵐山が吐き捨てるように呟いた。

 

「あいつは今でも自分を責めてるんだ……だから止めてくれ」

 

  三輪にはその意味は分からなかったが、嵐山の言葉は鋭く、重く三輪にのしかかった。

 

「ッッ!」

 

  なんの意味もなく壁を殴り付けた。今はこの行き場のない怒りをなにかにぶつけたかった。

  そうしないと押し潰されてしまいそうだった。

  立ち上がり、本部に向けて歩きだす。出水は黙って三輪に並んだ。

  何も言わないのが今はありがたかった。

 

 

 




先日ついにお気に入り登録数が1000を越えました。本当にありがとうございます。
そこで区切りもいいことですし皆さんからアンケートをとって記念話なんかを書きたいと思います。
詳しくは活動報告で説明しますので覗いていってくだされば幸いです。

新たに15人の方に評価を頂きました。ありがとうございます。
ご意見、感想、評価、お待ちしてます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。