社畜に恋は難しい   作:小林 陽

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この前投稿した話が『厨二なボーダー隊員』にそっくりだという指摘を受けたので書き直しました。
混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。


13話 勧誘

  忍田さんが気を遣ってくれたのか今日は珍しく死事が少なかったので、サクッと終わらせて太刀川隊の作戦室に来ていた。

 

「そんなわけでさー。これからどうすればいいと思う?」

「さーねー。とりあえず思い浮かぶまでゲームするー?」

「うーん、今やってるけど全然思い浮かばないねー」

 

 なんかこの子と話してると俺までのんびりしてしまう。

 

「なんでこんな速いの……このふたり」

「キラー使っても全然差が埋まんないんだけど」

 

 結局俺のヨッシーとハナ差で国近ちゃんのピーチがゴールして、今回のレースが終わった。

 

「久々にやったけどやっぱ楽しいなー、これ」

「そりゃあ、あんだけ俺らにスター突撃かませば楽しいだろうよ」

「いや、最後はちゃんとやったじゃないですか。まぁ国近ちゃんには負けたけど」

 

 てかなんでそんなに強いの?本人がスター使ってるの?

 

「さてと、俺は戻ろっかね」

「えー、なんで?まだやるでしょ?」

「それに付き合ってこの前徹ゲーしたでしょ。あの後死ぬかと思ったんだから」

 

  まさかの防衛任務二連チャン。頭はガンガンするし、トリオンカラカラだしとにかく眠たい。

  寝たら死ぬぞ。寝たら死ぬぞ。寝たら死ぬぞ。

  と、とあるシンジくんのように自分に自分に言い聞かせながら戦っていた。

  もうあんなのはこりごりだ。

 

「そんなこと言いつつ、手は次のステージへと動いてますよ」

「まぁ……もう一戦くらい……さ」

 

  いいじゃん!ゆっくりゲームするのなんて久々なんよ!

 

「じゃあキリさんステージ選んでいいよー」

「ありがと、じゃあ俺はここかな」

 

  俺が選んだのは虹の道。使うキャラはクッパ様だ。

 

「落とす気マンマンだ!」

 

  この後めちゃくちゃ落とした。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「そんで、お前ホントはなにしに来たんだよ」

「なにって……ゲームですけど」

「それ以外にもあるんだろ?俺は分かってるぜ?」

 

  俺の動きはまったく分かってないみたいですけどねー。覇王翔吼拳に正面からぶち当たってる太刀川さんがなんか出来る上司みたいな感じで言った。

  いや、あなた戦闘特化でしょ。ぶっちゃけ実務能力は茶野くんとかの方が高いよ。

 

「いや、ホントにゲームしにきただけですって」

「バレたからって照れなくてもいいんだぜ?おれには分かってる」

 

  ピンと立てた指をチッチッチと舌を鳴らして振る。

  なにこれ、折っていいの?ものっそいウザいんだが。

  指にくらいつきそうな手を必死で抑えてるにも関わらず太刀川さんはさらにドヤ顔で的外れな言葉を吐いた。

 

「霧島、お前ウチに入りたいんだろ?」

「いんや、全然」

 

  若干くい気味に返事をする。

  そのあまりの早さに太刀川さんは口をポカーンと開けてアホ面を晒していた。

 

「じゃ、じゃあなんで来たんだよ!」

「だからゲームするためですよ」

「キリさん暇そうにしてたからわたしが誘っただけだよ?」

「どうしたんすか、太刀川さん?」

「え、なにこれ俺がおかしいの?それともお前らがおかしいの?」

「どっちでもいいでしょ。さ、国近ちゃん勝負しようぜ」

「オッケー、次は負けないよ」

 

  半ば放心状態の太刀川さんを放って俺は国近ちゃんとKOFを始めた。

  まぁ、太刀川さんには悪いけど仕方がないことなんだ。

  これからどうなるか分からないのに特別手当てがでる太刀川隊の死事を手放すわけにはいかない。

  てか、太刀川の死事を無料でやるなんて考えられない。

  そんなわけだからすいません、太刀川さん。

  心の中で小さく謝ったが国近ちゃんのユリと激戦を繰り広げている内に忘れてしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

  さて、次は諏訪さんのところで麻雀でもしようかな。そんなことを考えながら、ぼんやり歩いていると、ふと腕に小さな抵抗を感じた。

  振り向けばそこには加古隊のジャージを着た黒江ちゃん。

 

「こんにちは、どうしたの?生憎今お腹いっぱいだから炒飯は無理だよゴメンね」

「なんでそんなに必死なんですか?今日はそれじゃないですよ」

「じゃあなんで?」

「それはね、霧島くんをウチに入れるためよ」

 

 耳元でささやかれ、ぞわりと背中が粟立つ。

 勘弁してくれ、こういう不意打ちには弱いんだ。

 だがそんなことは些細な問題だと言うことを文字通り身を持って、知ることになる。

 

「……加古さん?」

「どうしたの?」

「純情な未成年をこういう風に勧誘するのは褒められた行為じゃないと思いますけど」

「あら、てっきり霧島くんはこういうのが好きだと思ったのだけれど」

「黒江ちゃんもいるんですからやめてください。黒江ちゃんが変なこと覚えたらどうするんですか」

「大丈夫よ、双葉だっていつもやっているもの」

 

 驚きで言葉がでない。黒江ちゃんみたいな子どもが一体いつこんなことをするんだよ。最近の世の中ホント怖いわ。

 いや……ホントに。

 首もとに当てられたスコーピオンを眺めながらしみじみ思った。

 ちなみにトリガーで斬られても首は飛ばないが意識は飛ぶ。そりゃぁもう余裕で飛ぶ。一度斬られたことがあるが、あれはヤバい。三途の川に片足突っ込んでたね。

 てかこれ恐喝罪じゃないの。というかそれ以前に人間としてなにか欠如してると思うのですがあのその。

 割とガチな恐怖に震えていると加古さんはスコーピオンを首もとに当てたまま囁いた。

 

「霧島くん、ウチの部隊に入りなさい」

「加古隊はガールズチームじゃなかったんですか?」

「そんなことないわ、ただ才能のある子を集めていったら女の子ばっかりになってただけよ」

 

 その女の子にはあなたは含まれてるんでしょうかねぇ。

  嫌みのひとつでも言ってやろうかと思ったがさすがにスコーピオンがあるので無理、下手こくと死ぬ。

 

「そうですか、俺には才能はないのであんまりオススメしませんよ」

「謙遜のしすぎは時に暴力よ?素直に認めなさい」

「いえーい、俺てんさーいあっ!すいません斬らないで」

「ちゃんと……答えて?」

 

 笑顔でいうあたり怖い、すごく、とても、非常に怖い。

 助けて!黒江ちゃん!と目を向ければ黒江ちゃんは俺がなにかを企んでいると思ったらしく背中に背負った弧月に手をかけた。

 悲しい。すごく悲しい。ホントに悲しい。

 まさか可愛がってた後輩と目を合わせただけで刀に抜かれそうになるとは誰が思っただろう。

 さて、このままふざけ続けるのも加古さんに悪いな。

 

「少し、考えさせてください」

「他の部隊にも誘われたの?」

「まぁ、はい」

 

  歩いてる途中にカゲくんに言われた。

 

『ウチんとこ来るんだろ?』

『え、やだよ』

『ちっ(マンティス首ちょんぱ)』

『…………(絶句)』

『来るんだよな?』

 

  なに?スコーピオン使う人ってみんな人を脅して思い通りにさせるの?

  まぁ、実際に手を出してない分加古さんの方が百倍マシなんだけど。

 

「だからって言うわけじゃまないですけど、少し考える時間をください」

「……まぁいいわ」

 

  やっと俺の首からスコーピオンが離れ、加古さんは俺を解放した。

  そしてトリガーをオフにすると黒江ちゃんと並んで作戦室のほうに歩きだした。

  はぁ、加古さんがトリオン体でよかった。

  生身だったらまた、見たくないもんをみてしまうところだったから。

  胸をほっと撫で下ろしていると加古さんがクルリと踵を返し、撫で下ろした胸をドキリと跳ねさせるような笑顔を見せた。

 

「いい返事期待してるわね」

「……善処します」

 

  俺が言ったのを楽しげに聞きながら加古さんは再び歩きだした。

  全部お見通しだったわけね……。

  きっとあの人には分かっている。

  俺が隠した本当の理由も、俺が抱いているトラウマじみたものも。

 

「勝てねぇなぁ……」

 

  その言葉は気がつけばするりと零れていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  死事部屋に帰って来て俺は酷く驚いた。それはもう変な声がでてしまうほどに。

 

  ――死事が増えてない……だと……。

 

  いつもならあべのハルカスくらいあったやつをアパホテル&リゾート<東京ベイ幕張>くらいにしてもまたあべのハルカスに戻っているというのに!

  なにこれ、ちょっと俺にやさしすぎるんじゃないの。ドッキリか、それともこの後に恐ろしい揺り戻しが待っているのか。

  とりあえずドッキリの線から探そうか。

  机の裏を覗きこんで探すが、ない。

 じゃあ次は……

 俺が棚と棚の間にライトを当てて覗きこんでいるところに来客を示す音がなる。

 俺はそのまま「どうぞー」と声を出した。

 チラリと見えたそこには我が愛弟子那須ちゃんがいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 なにをしてるんだろう……。

 

 那須玲は素直にそう思った。

 尊敬する師匠が本棚と本棚の間に顔を突っ込んでなにかを見ていた。

 基本的にはカッコいい人なのだが局所的に残念さが爆発しているのが柊なのだ。

 ふぅとため息を吐き那須は柊に話しかけた。

 

「……どうしたんですか?」

「ん?ドッキリカメラ探し」

「なんでそんなこと……」

「いや、今日は死事が増えてなかったんだよ。これは絶対誰かの陰謀だよ」

「忍田本部長の厚意だと思いますけど……」

「いや!俺は信じない!絶対迅とか諏訪さんあたりの嫌がらせだね」

 

 うわぁ……幸せ慣れしてないなぁ、この人……。

 まぁ、だからこそ自分の親友は苦戦しているのだろうが。

 度を超えた柊のめんどくささに辟易していると柊が顔をこちらに向けた。

 

「そういや那須ちゃんどうしたの?」

「えっとですね……あの、勧誘に来ました」

「新聞ならお断りだよ」

「分かってるくせに」

 

  那須がクスリと笑いながら言えば柊もまた違う笑みを浮かべた。

 

「……那須ちゃんも?」

「はい、そうです。……やっぱり私たち以外にも誘われてるんですね」

「ありがたいことにね……」

 

  ありがたい。なぜ柊がそう言いながらも苦しそうな表情になっているのか那須には分からなかった。

  聞けなかった。そこには自分ごときが踏み込んでいい場所じゃなかったから。

  受け入れ、傷つく覚悟がなければ踏み込むことのできない場所。

  そこを踏み込むのは自分の親友であればいいと願いながら那須は頭をさげた。

 

「改めてお願いします。私たちのチームに入ってください」

「……ごめん。少し、考えさせてほしい。まだ俺のなかでも整理がついてないんだ」

 

  柊は無理矢理に作った笑顔のようなものを浮かべた。それは酷く痛々しげで少し気が引けた。

  なんだか……こう自分が柊に対してなにか酷いことをしているような。そんな気持ち。

  那須はそのもやもやした気持ちに蓋をして、柊に「分かりました」と笑って言った。

 

 

 

 ***

 

 

 

  那須ちゃんが帰ってからかれこれ二時間が経っていた。

  死事もないのになんでこんなところにいるんだと言われそうだが、なんてことはない。ただボーッと考え事をしていたのだ。

  中身はもちろんチーム所属のことだ。

  俺は今加古隊、二宮隊、影浦隊、柿崎隊、那須隊、茶野隊の六つのチームに勧誘されている。太刀川隊なんてなかったんや。

  勧誘されているんだが……どうしてだろうな。

  なんだかまったく頭が回らない。

  メリットもデメリットも明らかなのに答えがでない。

  いや、そんなことは別に問題ではないのかもしれない。

  問題はきっと俺のなかにあるもの(・・)だ。どうしようもなく絡み付いてほどけないこれをどうにかしない限りはきっと俺は進めない。

  背もたれに体を預ける。見慣れた天井。スプリングがぎしっと悲鳴をあげる。

 

「許してくれるかな……」

 

  まろびでたその言葉はなんの意味も持たず、宙に溶けた

 

 




9月です。お前はもっと秋らしくしなさい。具体的には早く涼しくなれ。

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