社畜に恋は難しい   作:小林 陽

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17話 変わったこと、変わらないこと

  チームに所属して死事が減るとか思っていたのはどこのどいつだ〜い?

 

 

 あたしだよっ!

 

 もう何回もこの手をくらってもまだ信じちゃう純粋な心を持ったあたしだよっ!

 なんでや! なんでソロの時より睡眠時間が少ないんや!

  確かに言ったさ!

 

「ウチは年頃の女の子が多いので深夜のシフトは勘弁してくれませんか?」

 

  って聞いたさ。超低姿勢で。城戸さんに。直接。

  なんかあっさり頷いてくれたからおかしいと思ったよ。

  でも流石にソロの時と同じシフトで防衛任務入れてくるとは思わないでしょ!

  一般的にボーダーでは週に三回ほど防衛任務に入ることになっているが暇とかお金が欲しいという理由から即席チームが入るため、実際は週二回ほどである。

  しかし、俺はその即席チームの人数が足りないときに入ったり、チーム内での欠員が出た場合などに入れられるためまったく減ってない。それどころか増えている気がする。

  ここしばらく週七くらいで防衛任務に出てるんだけど。あれ、一週間って十日くらいあったっけ?

  正直、このままだとわりとマジでヤバいんだが。どのくらいヤバいかって言うと米屋くんの成績くらいヤバい。

  俺がそろそろ過労死をしてしまいそうなこともそうだが、チームで戦術練習をする時間がとれないのである。那須ちゃんたちも学校があるのでその時間に合わせて無理矢理時間を作っているがそれもそろそろ限界に近い。

  でも、那須隊の方のシフトを融通してもらってるから文句も言えねぇしな……。

  はぁ、ともう何度目かも分からないため息を吐いて止まっていた手を再び動かし始めた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

  無意識に「休みがほしい」とか「かゆ……うま……」とか書いていたことに気づいて気分転換にマッカンを買いに部屋を出た。

  130円入れて慣れた手付きでマッカンのボタンをポチる。もはや慣れすぎて目隠ししても出来るレベル。

  備え付けのソファーにドカッと腰掛け、マッカンを啜る。

  このどこまでもどこまでも変わらない安心安定の甘さ。鬼畜蠢くボーダーの中で唯一俺のことを甘やかしてくれる正に慈母のごとき存在である。これがなくなったら俺は自費で買って自販機に入れるまである。それ自販機に入れなくてよくね。

  そんな益体もないことを考えながら、マッカンをちびちびと啜る。

 そんな時、ふと背後からまだあどけなさの残る声が聞こえた。

 

「あ!柊さん!」

 

 それに引っ張られるようにして振り向けばそこには俺の弟子でありチームメイトである女の子熊谷ちゃんと茜ちゃんがそこにいた。

 

「ふたりともこんにちは。あれ、もう学校終ったの?」

「柊さん嫌だなー。今日休みじゃないですか」

「……創立記念日かなにかかな?」

「いや、普通に土曜日ですよ」

 

 ほら、と言いながら熊谷ちゃんが差し出したケータイの画面を凝視する。

 そこには紛れもなく、土曜日の文字。

 少しの間顎に手を当てて考える。

 ピンと指を立てて熊谷ちゃんたちに向けた。

 

「それでは問題です。俺は昨日何時から死事を始めたでしょうか」

「はい! 8時!」

「そうですね。普通ならそうなんじゃないですか?」

 

 元気に手を上げて答えてくれる茜ちゃんと落ち着いて答える熊谷ちゃん。これだけ見ると姉妹みたいだな。

 

「残念8時じゃなかったんだなぁ」

「じゃあ7時とか!」

「それも違う気がするなぁ」

「気がするって……もしかして自分でも覚えてないとか?」

「熊谷ちゃん鋭いね」

「分かるわけないじゃないですか……」

 

 ですよねー。知ってた。

 いや、ホント何時からだったかな。確か昨日は堤さんと諏訪さんと一緒に防衛任務に入って、そこからずっとデスクワークだったから……。

 もしかして、もしかしてなんだが。

 

 ――俺、徹夜してね?

 

 それも昨日の十二時からだったからもうそろそろ一日半だな……。

 そこまで考えたところではたと気づいた。

 

「……まさか、これから防衛任務だなんて言わないよね?」

「そうですよ。だから来たんですよ」

 

 その言葉が聞こえた瞬間俺の体が光速で動き出す。

 立ち上って踵を返し、二人に背中を向けて走り出した。この間約0.5秒。トリオン体なんて目じゃないぜ!

 一陣の風となり廊下を駆け抜けた俺は一番近かった風間隊の作戦室に転がりこんで叫んだ。

 

「助けて! 死事に殺される!」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「柊さん、ください」

「はいよ」

 

 言いながらバイパーを展開し、蠍のような化け物、モールモッドの関節を狙って打ち込む。

 単体ではそれほど威力は高くないバイパーも集中させればそれなりの威力を誇る。モールモッド自慢の鎌を根元からへし折り、バランスを崩したところに熊谷ちゃんの弧月一閃。

 ズン、と地面に沈んだモールモッドを眺めながら熊谷ちゃんは耳に手を当てた。

 

「小夜子、ネイバー反応は?」

『もう消えました、那須先輩達のほうも終わったみたいです』

「そんじゃ合流しよっか。中間地点までナビゲートしてくれる?」

『了解です』

 

 その言葉が聞こえたのとほぼ同時に頭の中のマップに赤いラインが引かれた。

 相も変わらず優秀である。

 

「あぁ〜、疲れたぁ。もう帰りましょうよ」

「ダメです、さっきみたいに風間さんに怒られますよ」

「だよねぇ。風間さん怖いからなぁ」

 

  先程風間隊の作戦室に押し入ったらあっさりと風間さんに締め出されて「お前はそれで給料をもらっているんだろう。それに特別手当てまで出てるんだ。文句を言うな」

  と叱られてしまった。

  ぐう正論でぐうの音もでない。ぐう。

  でもね、風間さん。特別手当もらってても使う時間がないのよ?

  と、思いはしたが言いません。社畜ですから。ええ。社畜って逆らわないから社畜って言うんですよ……。

  俺の放つ負のオーラが伝染したのかドンヨリ空気が重くなった。

  それを察した熊谷ちゃんは慌てて軌道修正にかかる。

 

「そっ、そうだ、柊さん。そういえば隊服新しくしたんですね」

「うん、小夜子ちゃんが作ってくれたんだ。似合う?」

「う〜ん、え〜っとはい。似合ってます」

「気を遣わなくていいからね。それ余計傷つくだけだからね」

「……すいません」

 

  熊谷ちゃんが目を逸らしてポソリと呟く。

  まぁそらそうなるわ。だってほら。俺の隊服GANTZスーツみたいなんだもん。

  ていうかGANTZ。どっからどう見てもGANTZ。これでもかってくらいGANTZ。使用料請求されそうなくらいGANTZなのである。

  まぁ、正直仕方ないところではあったのだ。

  那須隊の隊服というのはあくまで小夜子ちゃんが考案した機能性と女性らしさを両立させた最高の隊服であり、男の俺が着るには些か勇気がいるものであった。

  しかし、チームに入れてもらったのだから着ない訳にもいかない。だから小夜子ちゃんに元々の隊服に寄せた感じで俺用の隊服を作ってもらったのである。

  それがこのGANTZスーツだ。

  いや、これも実は妥協したほうで、モジモジくんスーツかサイヤ人プロテクターの中選ばれたのは綾鷹ではなくGANTZスーツだったというだけだ。

 

「まぁいいじゃない。これでやっとチームっぽくなってきたしさ」

「そうなんですけど……。あれ? そういえばチームで隊服がバラバラっていいんですかね?」

「う〜ん。たぶんいいと思うよ。玉狛だってバラバラだし冬島さんのとこもバラバラだしね」

「そういうものなんですか……」

「うん、そういうもんだ」

 

  そんな話をしながら俺達は合流地点へと向かった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  柊が那須隊に入って早くも一週間が経った。彼が入ってなにか劇的な変化があると思って少しだけ身構えていたのだがそんなことは一切なく柊は相変わらず社畜だし、悲しいことに自分は一歩も進展していないし、ほとんど変わらない。ただ、変わったことと言えばこうして防衛任務の後柊に送ってもらうことくらいだろう。

 

「そういやもうすぐ大晦日なんだね、熊谷ちゃんはなんか予定とかあるの?」

「……ないですね。たぶんいつも通り玲の家族と一緒に紅白見ながら年越すと思いますよ」

「へぇ、そっか」

「柊さんはどうするんですか?」

「俺は普通に死事だよ……はぁ、しんど」

 

 がっくりと肩を落としてはぁ、と深くため息をついた。

 それを見て熊谷は少しだけ悲しくなった。

 ボーダーという組織には休みは存在しない。もちろん隊員には与えられるがボーダー自体が活動をやめるときはネイバーからの侵攻が無くなったと完全に分かるまでで、それまで活動をやめることはない。

 故にお盆や三が日大晦日などと言った一般の企業では休みになるような日にも通常業務が存在する。

 出来れば避けたいその日に柊は毎年自ら志願して出るのだという。

 

  ――自分には帰る家なんてないから。

 

 優しい柊は決してそれを言葉にはしないが、それもまた優しいが故にそう思っているのだろう。

 押し黙った熊谷を心配してか柊が覗きこむようにして声をかけてきた。

 

「……もしかして那須隊で集まりとかあった?」

「いや、そういう訳じゃないんですけど……」

「………………」

 

 柊の目がほんの一瞬ではあるがすっと深くなった。宵闇のような深く、吸い込まれそうな黒に思わず目を逸らした。

 いつもは温い柊の目もこういう時ばかりは自分の全てを見られているような感覚に襲われて怖くなってしまう。

  そんな熊谷の怯えさえも見透かしているのかもしれない。柊はすぐにもとの柔らかい目に戻った。

 

「まぁでも俺は入隊式終わった後に玉狛で打ち上げ兼、新年会もやるからね。それだけを楽しみに正月を乗りきりますよ」

「それもう新年会じゃないじゃないですか」

「いいのいいの、あんなのお酒を飲むための口実なんだから」

「ダメな大人ですね」

 

  思わず小さく吹き出してしまう。

  呑んだくれて仕事の愚痴を誰かれ構わず吐き出す柊の姿がありありと想像できたからだ。

  しかしその直後僅かに違和感を覚えた。

 

「…………あれ?」

「ん、どうしたの?」

「柊さんって今何歳でしたっけ?」

「…………180くらいかな」

「身長のことなんて聞いてませんよ?」

「7――」

「体重も聞いてないです」

「…………ば、ばんざ〜い」

 

  なおもふざけ続ける柊の姿に思わず深いため息が零れた。

  それを子どものようにビクビクしながら柊の様子がかわいくてもうちょっとだけ続けてみようかと自分の中の悪魔が囁いたが、優しい天使は悪魔の手助けをすることを望んでいた。人生面白いほうに3000点である。

 

「もう知りません。沢村さんに相談することにします」

「それはダメ! それじゃ城戸さんとかにバレちゃうから! 俺クビになっちゃうから!」

「知りません」

 

  断固とした姿勢でNOと言い続け早足で歩く熊谷に柊は慌てて追いすがる。

  口八丁手八丁で熊谷を丸め込もうとする柊の姿を見ながら熊谷の内心はほくそ笑んでいた。

  普段一方的にドキドキさせられてるんだからこれくらいやり返しったってバチはあたらないはずだ。

  ほとんど八つ当たりのようになっている熊谷はそのままズンズンと歩みを進め、曲がり角を曲がろうとした。

  その時不意に腕をグイと強く引かれた。そして肩をガシッと掴まれ、身動きがとれなくなる。

  目の前には真剣な顔つきをした柊の顔。

  少しの間その真剣な表情に見とれていたがすぐに自分がスッピンだということに気がついて慌てて顔を手で覆い隠した。

 

「熊谷ちゃん!」

 

  しかしそれをまったく気にするようすもなく柊は真剣な顔で熊谷の顔にドンドン近付いてくる。

  ややもすればお互いの吐息が掛かるほどの距離。そこで柊は近所の人に丸聞こえなのではないかというほどの声を上げた。

 

「何でもひとつ言うこと聞くから秘密にしておいてください!」

「し……知りませんっっ!!!」

 

  茹で上がった熊谷の叫び声とともに柊の頬に季節外れの紅葉が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

  今日は厄日なんだろうか。熊谷ちゃんには呑んでいることがバレるわ、ビンタされるわ。結局その後走って逃げちゃったし。

  別にいいじゃないですか! 一年に一回くらいお酒呑んで、普段の不満を爆発させたっていいじゃないですか!

  だって正月だってのに五日までフルタイムフル出勤ですよ? しかもいつの間にか入れられてたし。誰が好き好んで正月なんかに働くんだよ。普段こんなに働いてるから正月くらいゆっくり休んだって許されるとおもうんだ。

  とりあえず俺はこのやり場のない怒りと書類のを太刀川さんに突き返すべく太刀川隊の作戦室へと向かった。

  なんで俺があんたのレポート書かにゃならんのだボケぇ!。

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さん。お久しブリーフ(精一杯の冗談)
こんなに更新が遅くなってしまったのには色々理由があったのですが言い訳になってしまうので言わないでおきます。
楽しみに待っていてくださっていた皆様本当に申し訳ありませんでした。
これからは以前と同じペースで更新、と言いたいところなのですがしばらくは二週間に1話更新を目指していきたいと思います。
こんなに遅くても待っていてくださった方。これからも彼らの物語を生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。

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