社畜に恋は難しい   作:小林 陽

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霧島柊
破滅的な美的感覚を持つため、きっと大丈夫と背中を押されて食べた加古さんの炒飯で死んだ。その後自分を死の淵に追いやった太刀川隊の仕事をボイコットしたら太刀川さんが忍田さんに殺された。結局太刀川は死ぬ。

辻新之助
イケメンながら女子と一切話せないことからよからぬ疑いをかけられ、ある一部の層の女子から熱い視線を受けている。

加古望
人間界の無害な食材を使って人を虐殺するナニカを作る錬金術師。自然摂理の法則を完全に無視してるあたり確実に賢者の石を持っていると思われる。

黒江双葉
『柊さんこれおいしいですよ、一口どうぞ』
この魔法の言葉で柊を殺してきた将来有望な若き暗殺者。



5話 生きろ社畜

 珍しく防衛任務がない(死事がないとは言ってない)俺はマッカンを補充すべく自販機まで足を伸ばしていた。

 自販機を眺め一際異彩を放つそれをポチり。選ばれたのは綾鷹ではなくマッカンである。やはり疲れた時にはこの甘さがきく。甘くてしかもカフェイン入ってるとか受験生の味方すぎる。

 マッカンを啜りながらベンチで一休みしているとコツコツと床を叩く音が聞こえた。

 

「お、辻きゅんじゃないか」

「その呼び方はやめてくださいよ、柊さん」

「そう言われても俺にとっては辻きゅんだしな」

 

 俺にそう言われて苦笑いするイケメンはB級1位二宮隊攻撃手、辻新之助である。ちなみに那須ちゃん、熊谷ちゃんの兄弟子だ。

 

「またそれ飲んでるんですか?」

「あったりまえだろ。死事なんて苦いことばっかりなのに苦いコーヒーなんて飲んでられるか」

「相変わらずですね……」

「そういう辻きゅんだって変わってないでしょ。あ、加古さんだ」

「ッッ!?」

 

 辻きゅんはトリオン体なのではないかと疑ってしまうほどの早さで自販機の陰にかくれた。

 辻きゅんはボーダーの中でもイケメンの部類に入るがいかんせん自分の隊のオペレーター以外の女子とまともに話せないという極度の女の子嫌いで最近では全力で逃げるようになってしまった。

 

「ごめん、嘘だ」

「はぁ……ホント勘弁してくださいよ」

「いやぁ、ごめんごめん。わざとじゃないんだぜ?」

「嘘ですよね?」

「まぁいいじゃない。マッカンおごってあげるから」

 

 俺はマッカンを買って辻きゅんに放り投げた。辻きゅんがそれをパシッと受け取って一口煽った。

 

「やっぱこれは甘すぎですよ」

「それがいいんだよ」

「でも、ありがとうございます」

 

 いただいていきますね、と軽く手を上げてその場をその場を去っていった。

 俺は一息にマッカンを飲み干し空になった缶をゴミ箱に放った。乾いた空気にカランカランと缶が着地する音が響いた。

 俺は颯爽と立ち上がり風を切るように歩き出した。

 そしてしゃがみ、缶を拾ってゴミ箱に入れた。

 ……やっぱカッコつけずにちゃんと入れよう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 マッカンをいちいち買いに行くのもめんどくさくなってきたな。買い置きとかも一時期考えたのだが残念ながら三門市には売ってないのである。

 やはり聖地(千葉)まで行かないといけないか……。

 考え事をしていて注意力が散漫になっていたらしい、腹にトンと軽い衝撃を感じた。

 ――あ、まずい。

 本能で察した俺は反射的に手を伸ばし腕をつかむ。

 

「痛い……って柊さん?」

「……よぉ、黒江ちゃん元気?」

「こんなに斜めになっていることを除けば元気です」

「あぁ、ごめんね。今起こすよ」

 

 言いながら一息で黒江ちゃんを引っ張りあげる。

 黒江ちゃんはA級6位加古隊のボーダー最年少攻撃手である。その実力は若いながらに大層高く俺なんかではとても敵わない。この前ランク戦した時は9:1とかだったかな。年上としての威厳も欠片もないスコアに涙を禁じ得ない。

 

「ごめんね、ちょっと考え事してて……」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりちょうどよかったです」

「ちょうどよかったってなにが?」

 

 これを聞かなければよかった、と俺はすぐに後悔することになる。

 黒江ちゃんは子ども特有の無邪気で純粋な笑顔で俺に死刑宣告をした。

 

「加古さんが新しい炒飯作ったらしいので一緒にどうですか?」

 

 嗚呼、短い人生だった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 黒江ちゃんを転ばしてしまった手前断りきれず結局俺は加古隊の作戦室に来てしまっていた。

 

「柊さんすごい汗ですよ?大丈夫ですか?」

「ももも、もちろんDieじょうぶだよ?気に死ないで?」

「……なんか動揺してます?」

「死てないよ?なにを逝ってるんDie?」

「それならいいですけど...楽しみですね今回の新作も」

「うん、そうだね!」

 

 あぁぁぁ!恨めしい!子どもを悲しませちゃいけないと思って勝手に動くこの口が恨めしい!

 

「あら、うれしいこと言ってくれるじゃない霧島くん。もう少しでできるから待っててね」

「……はい楽しみにシテマス……」

 

 なんとも漠然とした死刑までのリミットを切られたがそれに反比例するように確実な恐怖が俺の体を蝕んでいく。

 ふと俺の脳裏に楽しかった思い出が浮かんでは消え浮かんでは消えていく。ってそれ走馬灯じゃねぇか!

 キッチンの方から加古さんの間延びした声が聞こえた。

 

「双葉ー、ちょっと運ぶの手伝ってくれるー?」

「はーい」

 

 小さくてかわいらしい黒江ちゃんの動きも今では魔王が使役する使い魔にしか見えない。

 そんな使い魔がキッチンから出てくる。両手で持った皿の上にはきれいな焼きめのついたご飯に乗った納豆。ご飯を囲むようにさいの目切りにされた豆腐が飾り付けられたナニカがそこにあった。

「狂気ってなに?」と子どもに聞かれたら俺は間違いなくこれを指差すだろう。

 正座して遺言を考えていた俺の目の前に狂気の塊がコトリと置かれた。次いで卵が入った小皿が置かれる。

 

「……?」

「お好みで卵落としてね」

 

 とりあえず言いたいことがひとつ。

 ……いや、卵と炒めろよ。

 

 俺のそんな声は届くはずもなく加古さんは俺の目の前に座り、ニコニコしながら見つめていた。

 要するに「食べて感想をちょうだい☆」ということである。

  俺は覚悟を決めて手を合わせた。

 

「逝ただきます!」

「いただきます」

 

 スプーンですくいあげ口に突っ込んだ。

 いい感じにぱらぱらとしたご飯に絡み付く納豆のネチョネチョとした食感。豆腐の風味と納豆の臭みが合わさって、噛めば噛むほど口の中に形容しがたい感覚が広がる。言うまでもなくクソ不味い。

 しかし漫画で見るような食った瞬間気絶。なんてことはなくむしろ気絶できるだけ幸せだよな、と思わせるリアルな不味さだった。

 

「どう?おいしい?」

「……トテモオイシイデス」

「あぁ、よかったわ、ドンドン食べてね」

「ハイ、イタダキマス」

 

 俺の意思に反して全自動で動いてしまう口のせいで退路がなくなってしまった。俺はそこから無心で炒飯に似たナニカをひたすら口に運び続けた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 炒飯を完食して満腹になったのか泥のように眠ってしまった先輩を眺めながら黒江双葉は霧島柊との出会いを思い出していた。

 

 自分の隊長である加古望がしつこくチームに勧誘している男。

 それが霧島柊を知った原因だった。

 いつもヘラヘラしていて、そのくせ弱い。試しにランク戦をしてみたら8:2で双葉の勝ちだった。

 なぜこんなに弱い人をしつこく勧誘しているのか加古に聞いたことがある。そしたら

 

「確かに霧島くんが弱いけれど、私たちにはない……いえボーダーの中でもオンリーワンの強さを持っているわ」

 

 なおも首を傾げる双葉に加古は「今に分かるわ」と笑っていた。

 そして奇しくもそれを分かる時はすぐにきた。

 加古隊と柊との合同防衛任務の時だった。

 

 ―――圧倒された。

 

 その動きの無駄のなさに、技術の高さに。

 そして憧れた。自分は加古に合わせてもらうことはあっても加古に自分が合わせることはできなかったから。

 その日から双葉は柊を尊敬するようになりご飯に誘うようになった。

 もちろんそのせいで柊の死亡率が高まったのは言うまでもない。

  ふと柊が苦しそうに顔を歪めた。

 

「ぐ……あぁ……ころさ……」

 

 双葉はどうしようかと、しばしおろおろしていたが加古も今は飲み物を買いに行ってしまってここにはいない。

 少し悩んだ末、双葉は柊の手をそっと握った。昔熱を出したとき母にこうされると安心したのを思い出したのだ。

 柊も少し安心できたのかいつもの穏やかな顔に戻った。そして初めて聞いたような声でポソリと呟いた。

 

「……咲良……」

「……え?」

 

 双葉が問いかけるも答える人間は今ここにはいない。

 だがきっとこれは柊にとっての傷なんだろうと思った。

 だから柊が起きてからも双葉はそれを聞くことができなかった。柊を傷つけずにそれを訊く術を幼い双葉はまだ知らなかった。それが酷くもどかしくて、疎ましかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 知らない天井だ。そう言おうとしたがやめておいた。この光景を何度見たことか、ここは間違いなく加古隊の作戦室だ。

 起き上がり辺りを見回す。

 

「おはようございます」

「おはよ、黒江ちゃん……どれくらい寝てた?」

「二時間くらいですよ」

 

 やっべぇ……寝過ぎたな……いや、むしろ加古さんの兵器から二時間で回復できるとか俺すごくね?

 ちなみにボーダーの作戦室の天井はみんな同じに統一されている。

 

「あら、やっと起きたのね」

 

 加古さんが向こうの部屋からひょいと首だけ出して加古さんはそう言った。

 ひょいとかわいらしい擬音をつけてみても拭いきれない死神感。見えないだけで絶対鎌とか隠してるぜ。

 

「もう、霧島くんったらお腹いっぱいになるなり寝ちゃうから感想聞けなかったじゃない」

「……えーとですね、なんというか……斬新な味で新鮮な気持ちが味わえました」

「そう、それはよかったわ。太刀川くんとか堤くんは感想言わずにどこかに行っちゃうから、困っちゃうわ」

 

 加古さんは手を頬に当て心底困ったと言わんばかりにため息をついた。

 

「でも霧島くんはちゃんと感想くれるからうれしいわ。また次もよろしくね?」

 

 俺の目の前には選択肢が2つあります。

 

 A もちろんですよ!

 B Yes ma'am

 

「……コチラコソオネガイシマス」

 

 俺の死が決定した瞬間だった。

 

 




そして彼は死事に追われて死にかけたとさ。社畜は2度死ぬ。

あと今回2話連続投稿です。
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