社畜に恋は難しい   作:小林 陽

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8話 大脱出

 昨日と同じく俺は鬼怒田さんに呼び出され、開発室に来ていた。しかし昨日と違うのは開発室長室。つまり鬼怒田さんの部屋に呼び出されたことくらいだ。

 

「お前のトリガーを出せ、霧島。」

「なんででしょうか」

「メンテナンスだ。なにやらお前のトリガー緊急脱出が壊れているらしいじゃないか」

「そんなこと誰が言ってたんですか?」

「うわさだがワシの耳に届くくらいだ。規模は想像出来るだろう」

 

 どうやらボーダー内でも結構有名なうわさらしい。なぜ知られているのだろうか。

 たぶん、というかまぁ間違いなく迅だろう。

 

「まぁ……いいですけど、このトリガーは壊れてませんよ?」

「それでも、だ。お前はまとまった時間取れないだろう。だからワシが直々に見ておいてやる」

「それはどうも。いやでもその間の防衛任務はどうするんですか?」

「休んでくれていい。忍田本部長にも許可を取ってある」

「ホントですか!?」

 俺は喜びのあまり飛び上がって喜んだ。

 やったねたえちゃん死事がないよ!

 

「しばらく新トリガー開発のモニターとして借り受けることを条件にな」

「おぅふ……」

 

 着地の衝撃に耐えられずゆるやかにへたりこむ。

 結局死事量的には変わらないというか増えてる。全然増えてますよこれぇ!

 どうせ足掻いても無駄なんだろうなぁ……。訓練された社畜は知っているのだ。足掻いたところで死事がなくなることはないとな。でもため息はでちゃう。だって量が多いんだもん。

 見てくださいよこの机いっぱいの書類を!とばかりに机を叩いてみるが鬼怒田さんは思いっきり見てみぬふりを決め込みやがった。

 こんのクソタヌキ……。

 

「じゃあ、早速やりましょうか。どんなトリガーですか?」

「ああ、今じゃなくていいぞ。お前の書類が一通り片付いたらワシの部屋にこい」

「……分かりました」

 

 やだ!なんか鬼怒田さんが俺にやさしい!いつもなら俺の死事とか関係無しに連れ出すのに!ちょっとしたチョロインならあっさり堕ちちゃってますよ!

 でも俺の死事は手伝ってくれないってことなんだよな……。やっぱ優しくねぇわ……。

 そういう現実には気が付かなくていいんだよ。俺のバカ野郎。

 とぼとぼと自分のデスクに戻りひとつため息を落とす。

 今日も一日頑張るぞい。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

  本部開発室長、鬼怒田本吉は霧島柊のトリガーを懐に入れて充分すぎるほどに蓄えられた脂肪を揺らしながらずんずんと歩いていた。

  霧島のこのトリガーを城戸に預けてしまえば誰にも触れることができなくなる。

  あとは五分の……いや、作戦を立てる時間がある分遠征組の方が有利な状況で戦えるかもしれない。

  そんなことを考えていると書類を抱えた開発室の職員が話しかけてきた。

 

「室長、この書類なんですけど……」

「あー、書類ならとりあえず霧島に渡しておけ」

「ですが、室長宛てのものは?」

「それはワシの机に上げておけ。そんなことも分からんのかバカもん!」

「はっ、はい!すいません!」

 

  勢いよく頭を下げて職員は去っていった。

  確かあいつは雷蔵のところに最近転属してきた若者だったはずだ。

  まったく、雷蔵の奴め。部下の指導くらいちゃんとしておかんか。あとで一言言っておかねばならんな。

  そう決めて、鬼怒田は司令室に向かった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「お届けものでーす」

 

  その一言とともに俺の机にダンボールがどかっと置かれた。

  それを運んできた最近開発室に転属してきた少年をギロリと睨み付けた。

 

「田辺くん。君は鬼か何かの末裔かな?」

「なにがですか?」

「何故わざわざ俺が死事をしていたところに置いているのかな?」

「あ、あぁぁぁぁ!!!すすすいません!!!」

 

  田辺くん叫びながら勢いよく頭を下げた。

 

「謝るのはいいけど、出来れば手の上からダンボールどかしてからにしてほしいな」

「すっ、すいません!ってあ……」

 

  田辺くんはそんな情けない声を上げた。

  なんだよ、もう。と顔を上げると書類の波が眼前に迫っていた。

  この子誰かに似てると思ってたがやっと分かった。

  太一くんに似てるんだ。

  この無自覚のクラッシャーぶりといい、悪意のない悪っぷりといい。

 

「すすすすいません!!!!」

「待て!頼むから動くな!」

 

  田辺くんは書類をどかそうと手を伸ばしてきたが恐らくこれ以上触らせると間違いなく状況は悪くなる。

  じっちゃんの名にかけてもいい。

 

「いいか?手を上げてゆーっくり後ろを向け」

「え?いや、でも」

「デモもテロも国民運動もない!!!頼むからゆっくり出ていけ。頼むから、な?」

「……はい……そこまで言われたら仕方ないっす……」

 

  おぉ、よかった。太一くんより聞き分けがある。これでもう俺は胃を痛めずに済む……。

 

 

 

 

  と、思うじゃん?

 

 

 

 

 

 

  振り向いた田辺くんは足元にあった書類を踏みつけてスッテンコロリン。俺のデスクに後頭部を打ち付けその衝撃で無事だった書類が宙を舞う。

 

「ギャーーーーーー!!!!!」

 

  このままでは俺の寿命がストレスでマッハなんだが……。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「あーあー、ほんっとに。バラバラじゃんか」

 

  ひとりごちながら床に落ちた書類を拾い集める。その中の1枚に明らかに異彩を放つものがあった。

 

「なんだこれ?」

 

  無造作に並べられた数字と文字。紙も書類用の紙じゃないし誰かがなんかのゲームしたのが混ざってしまっただけだろう。

  俺はその紙を握り潰し、ゴミ箱にシュートした。それが見事に入ったのを確認してまた書類を片付け始めた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

  これと言って特に何も起こらないまま一日が終わりついに遠征部隊が帰って来た。

  ――最悪だ。

 太刀川隊が帰ってくるということは最近開放されていた報告書地獄が戻ってくるということであり、さらに彼の死事量が増えるということである。

 さっき最悪と言ったが間違いだ。

 本当に最悪なのは自分がここを抜け出せていないこと。

 完全に抜け出すタイミングを逸してしまった。

 彼は内心冷や汗をダラダラとかきながらトリオン体を駆る。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 深夜、それが太刀川慶率いる遠征部隊が選んだ時間だった。

 夜闇に紛れ誰もがいない街を駆ける彼らはどこか架空のものじみていて。しかし明確な敵意を持っていた。

 そんな彼らにかけられたのは飄々とした声。

 

「こんな時間にジョギングですか?」

「ぜひおれも一緒したいなぁ」

 

  遠征部隊の前に立ち塞がったはふたりの青年。

  彼らもまた、明確な意思を持ってそこに在る。

 

 

 




ちなみに田辺くんは一発キャラだと思われます。
しかし加古、太一、田辺くんで柊を絶対に殺すチームを結成する可能性が微レ存。
あと柊が脱出したカラクリは争奪戦後に明かされる予定です。そう考えるほど難しくないですが積みゲーを崩してる合間くらいに考えてみて下さい。
ご意見、感想、評価、お待ちしてます。
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