社畜に恋は難しい   作:小林 陽

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9話 開幕

  A級7位三輪隊隊長。三輪秀次は絞り出すように言葉を吐いた。

 

「どういうことだ霧島……なんであんたがここにいる……」

「どうしてもこうしてもないよ。俺は迅に呼ばれたから来ただけだ」

「ふざけ――」

「まぁまぁ、落ち着けよ三輪。それじゃ霧島の思う壺だぞ」

「……はい」

 

  あら、残念。柊は内心そう呟いた。

  この人数差だ。出来るだけいつもの冷静さを失わせておきたかったのだが。その辺は流石と言う他ないだろう。太刀川に遮られてしまった。

 

「この際お前がどうやって抜け出してきたかはどうでもいい。」

 

  それはよかった。そんなことを聞かれたところで柊は「普通に歩いて出てきた」としか答えられないからだ。

 

「それより問題なのはお前が黒トリガーのために戦う理由だろ。聞けばお前は黒トリガーと知り合ったのは最近らしいじゃないか。そのためにお前が戦う理由が分からん」

 

  あぁ、なんだ。そんなことか。だとしてもなおも自分の答えは変わらない。

 

「俺は(仲間)に助けてくれと。そう言われたから来ただけです」

 

  本当にただそれだけ。

  ただ、迅が助けようとしているから。

  ただ、親友が守ろうとしているから。

  ただ、仲間が。滅多に助けを求めない仲間が俺に助けを求めてきたから。

  だが、たったそれだけの理由で柊は組織にも反旗を翻せる。

  そう答えた柊を見て太刀川はクックッと笑った。

 

「そうだそうだ。しばらく見てなかったから忘れていたが、お前はそういう奴だったよ。霧島」

「まぁそんなことはどうでもいいでしょ。それよりあんたらは退く気はないんですか?」

 

  柊は一番まともに交渉ができそうな風間の方を向いた。

 

「悪いな。これは任務だ。それにお前たちも戦えばただじゃ済まないのは分かっているだろう?」

「模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く固く禁ずる……ね。」

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ。風間さん」

「なん――」

 

  噛みつこうとした三輪を太刀川が遮った。その顔には迅によく似た笑みを浮かんでいた。

 

「いや、それは違うな、玉狛での入隊手続きが済んでても正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員として認めてない。俺たちにとっては1月8日まではただの野良ネイバーだ。――仕留めるのになんの問題もない」

 

  はぁ……と柊はひとつため息を吐いた。

  なんでこんなことは覚えてるのにいつも成績は残念なんだよ……。

 

「あちゃ〜。それは忘れてたなぁ。でもまぁ、それでもいいよ。おれたちが戦うことに変わりはない。」

「あくまで抵抗を選ぶか。」

 

  だが、と風間は続けた。

 

「お前も分かってるだろうが遠征部隊に選ばれるのは黒トリガーに対抗できると判断できる部隊だけだ。いくら霧島がいるとはいえ、たったふたりで俺たちに勝てるつもりか?」

「いやいや、過大評価ですよ。俺がいたところで精々遠征部隊を止められるくらいでしょ」

 

  こういうところでも煽るのを忘れない自分の相棒の性格の悪さは筋金入りだと思う。相変わらず敵に回したくない男だ。

  こんなことを思うのも久しぶりだな。そんなことを考えながら迅は口を開いた。

 

「だから、援軍は呼んである」

 

  それが合図だったかのように屋根に男たちが着地した。

  目を引く真っ赤なジャージに胸元には五つの星。

 

「嵐山隊、現着した」

 

  A級5位嵐山隊。隊長嵐山準が高らかにそう宣言した。

 

 

 ***

 

 

 

「忍田本部長派と手を組んだのか……」

 

  不味いな。風間は小さく呟いた。

  迅悠一をはじめとする玉狛支部。

  嵐山隊を筆頭とする忍田本部長派。

  この二つが手を組んだ時点で、黒トリガー二つと本部隊員の3分の1。戦力の上で完全に城戸派を上回っている。

  その上無派閥の霧島柊。

  無派閥に属する人間は、御し難くどちらかといえばアウトローな人間が属している。

  だが、得てしてこの霧島柊という男はそんなアウトローに好かれやすい人間である。

  彼がその気になれば無派閥派の人間をまとめあげることだって可能なのだ。

  さらに厄介なことに無派閥派の人間は能力が高いのだ。

  A級6位加古隊、元A級6位影浦隊、そして霧島の弟子の那須玲が率いる那須隊。

  これらを先ほどの部隊にプラスすれば正しく圧倒的な戦力差。おそらく、誰かが黒トリガーにならなければ覆らないほどの差になってしまう。

 

「太刀川、分かってるな」

「もちろん、こりゃ意地でも取りに行かなきゃだな」

「そんなにやる気なとこ悪いけど嵐山たちに柊がいればはっきり言ってこっちが勝つよ」

 

  迅はなおもニヤケ面を崩さずに言う。しかしそれを崩さないのは迅だけではない。

 

「お前のサイドエフェクトがそう言っているって?」

「そういうこと」

 

  それを聞き太刀川はクックと笑った。

 

「ここまで本気のお前は久々に見るな。面白い」

 

  腰に下げた刀によく似たトリガー、弧月を抜き、太刀川は獲物を前にした獣のような目で彼らを見据えた。

 

「お前の予知を覆したくなった」

 

  迅もまた鈍く光るそれを抜いた。いつの間にか薄ら笑いは消えていた。

  そこに浮かぶのは太刀川と似通った獰猛な笑み。

 

「やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ」

 

 

  ――後輩を守るため。

 

  ――恩人を救うため。

 

  ――欲を満たすため。

 

  ――矜持を貫くため。

 

  ――任務を果たすため。

 

  ――約束を守るため。

 

 

 

 

 

『戦う理由』は人の数だけ。

 

 




正確には「まとめあげる」ではなく「土下座して回る」だと思う。
こんなことも見抜けないなんて風間さんもまだまだね。

新たに11人の方に評価を頂きました。ありがとうございます。
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