主(マスター)は絡繰仕掛けの魔術師 作:理想の人形師
「…この紅茶、お前が入れたのか?旨い。」
「それはどうも。」
つい先程の後。
彼は紅茶を入れてもてなしてくれた。
あのゴタゴタがあったと言うのに、随分と対応がいいものだ。…この紅茶、随分と味がいいが…素人じゃないな?
「普通よりも良い味だが、何処かで教わったのか?」
「いや、あれがいるから…」
そう言って真紅の方に目を向けた。
見ていた双子姉妹はあぁ…となっていた。
紅茶が好きで余程味にうるさいのだろう。
その本人は優雅に紅茶を飲んでいる。
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺は葉桜リント…改めて言うが、蒼星石のマスターだ。」
「えーと、桜田ジュン。真紅と間接的に雛苺のマスターをしてる。一応宜しく。」
言葉を交わす。
一応、という単語を使うのは…まぁ、仕方が無いだろう。仮にも敵同士であるのだから。
「それにしても、さっきの発言は危なかったんじゃないのか?真紅たちの取り様によっては…」
「そうだな…それを承知の上でああ言ったんだ。あの言葉に嘘偽りはないから、本気でやるつもりだ」
あの言葉は今や俺の常套句のような物だ。
誰かが壊れて掴む物など、それには何の価値もない、何の意味もない。それが俺の考え方だ。
でも、それは俺の考え方に過ぎない。
彼女達からしたら、それでも手に入れなければならないものなのだから、ああ言われても仕方が無い。
「蒼星石はこれに賛同してくれた。翠星石はどうかはまだ分からない。……だから俺は、誰の味方にもならないし、誰の敵にもならない。逆に言えば誰の味方にもなり、誰の敵にもなる。」
「完全中立…ってことかぁ…」
「そういう事だな」
出してくれた紅茶を啜りながら静かに呟く。
それにしても、随分と物わかりのいい者だ。
まぁ、この思考に共感するかどうかは別なのだが。
そしてそれ以前に問題があった。
1つは翠星石のマスターの問題だ。
今は俺が保護しているにしても、マスターを見つけなければ危ないことには変わりない。だからといって俺と契約させるのも、という事だ。
だが、気になる点が1つあった。
この少年、”
基本的には1人のマスターが1人のドールと契約しているものだと思ったのだが、そうでもないようだ。
なら、やめておこうと思ったことも出来るのだが…
こればかしは本人の同意が無ければ流石に出来ない。
「…翠星石。」
「なんです?」
「マスターの目処は付いてるか?」
「んーと、まだそこまで付いてないですぅ。」
マスターの目処は付いていない、か。
ただ彼女としてもマスターは欲しい筈だ。
いつまで経っても契約しないままでは危なすぎる。
彼女と無理に契約しても本気は出せないだろうし、ということを含めてどうするかと考えていた。まぁ、本気を出してもらっては困るが、最低限の力は欲しいところだ。
「そうか……だが、契約は早めにしておけ。そうじゃないとそろそろ流石に危なくなってくる。」
「言われなくても、分かってるですぅ!」
「でも確かに、そろそろ選んでる暇は無くなりそうだよ」
「翠星石、まだ契約してないの?」
「うるさいですぅ!」
このやり取りを見ていると彼らは敵ではなさそうだ。
いや、正確に言うなら『敵にはならなそうだ』と言うべきか。敵ではある。だが、気持ち的には敵ではないとするならばこう言うべきだな。
…普通にしていれば、ここまで微笑ましいものだが……やはり、宿命というのは皮肉なものだ。
虫唾が走る。
概念に文句を言ったところでそれが変わる訳では無い。文句を言っていても仕方が無いと割り切り、その怒りを抑えた。
「……まぁ、契約してないのは事実だ。だから今はこっちで面倒見てるわけだ」
「翠星石が負けてしまうことを防ぐためにね。」
1人でも欠ければ、俺の行動の意味は一瞬にして水の泡になってしまう。何のために動くか。それを含めた上で俺は彼女を庇っていたのだ。
「まぁ、翠星石も蒼星石も無事なようで何よりだわ」
「雛たちはジュンがいたから大丈夫だったの!」
「へぇ、何だ、お前も戦ってたのか?」
「僕に戦うなんて出来るわけないだろ…僕はただ、真紅や雛苺がやられないようにしただけだ」
……こいつ、素直じゃないな。
中身はドール思いの良いマスターなんじゃないかと思い、自然と俺の表情が緩む。俺は…きっとそこまでではないから、少し羨ましいと思った。少し感情が混ざって分からなくなってきた。どちらにせよ、ドール思いというのはわかった。
「……話を戻すか。無理を承知で俺は頼みたい。」
真紅と雛苺は黙り込み、静かに言葉を聞き取ろうとする。その意図を読み取ったのか蒼星石も翠星石も、同じように黙り込む。ドールたちにとっては、重要な事だからだ。
「……ジュン、真紅、雛苺。俺達に…協力してくれないか。自分勝手な願いだとは百も承知している。お前達にとってはそれが存在する意義だと言うほどにまで重要な事だと分かっている……」
「……」
「それでも俺は、争って勝ち取るそれは、本物じゃないと思う……これこそ、お前達への冒涜とも取れるかもしれない。でも俺は…今の様に平和に話してるお前達が、段々壊れ、居なくなって行くのなんて見たくない…」
「マスター……」
「だから俺は、俺の意思で動く。…賛同出来ないなら、拒否してくれても構わない。これはあくまでも、自己満足のようなものだから」
『だから俺は、誰も勝たせず、誰も負けさせない』
俺の幻想。
現実を見ていない、臆病者の放つ言葉だ。
所詮、第三者の客観的な視点から見ての言葉だ。だから、本人達の賛同なんて得られないも同然だ。
それでも、言わなければならなかった。
俺の心が、叫んだんだ。
その訴えを。
弱い心の惰弱な本心を。
「……真紅、僕はこの考えに賛同するよ。アリスになれないのは、確かにそうだ…でも、僕には何となく、マスターの更に考えていることがわかる気がするんだ」
「……私は、もとよりアリスになんて興味は無かったです。姉妹で一緒に居られれば、それで良かったです。でも、私はどうすればいいかなんて分からなくて…でも、やっとそれは見つかったです。だから…この人間に従うのは癪ですが、やってやる事にしたですぅ。」
「……考えて。このゲームの先にある結末を。」
双子のその言葉は、俺にとっては背中を押されるような気分になった。説得の言葉なのだろうが、きっとこの言葉が一番効いているのは俺なのかもしれないな…
少し、内心で自分を笑う。
「…僕は何とも言えない。この判断を下すべきなのは僕じゃなく、真紅と雛苺だから」
ジュン…本当に俺より小さいとは思えないな。自分は当事者ではない。だから第三者がその決断を下すべきでは無いと考えたのだろう。…俺とは違った、正しい考え方だ。
「……雛は、いわばもう負けてしまったも同然なの。今は真紅の家来としているの。だから、これは真紅の決めることなの。」
負けている…?
つまり、もう一度は戦ったが…まだ生きている。おそらく相手は真紅…彼女が、雛苺を生かしておいたということか?彼女は…何を考えているんだ?
「……私は、アリスゲームを制する事は放棄しない。あくまで、私の方法で制するのが私の目的。…でも、その根底にあるものは同じかもしれないのだわ」
「………つうことは」
「良いでしょう、私は相手を倒してもローザミスティカを奪い取るなんて事はしない。貴方の理想に手を貸すわ。だけれど、ゲームを放棄した訳では無いことは勘違いしないで。」
勝つ事を放棄したわけではない。
それはきっと蒼星石だってそうだ。
翠星石はもとよりこのゲームに興味などない。
……俺は彼女達にとって、取り様によっては
だからこそ…成し遂げてみせる。
更新が相当遅れてしまいすいませんでした!
原作を読んでいたものでして、これからそれに近い形にしていければなと思っています。
『その根底にあるものは同じかもしれないのだわ』