主(マスター)は絡繰仕掛けの魔術師 作:理想の人形師
「そんじゃあ、邪魔したな」
「ああ……今日は助かった。」
あの交渉の後、また少し他愛もない話や、ドール達の平和な時間を見ていたらもう日が落ちてきていた。流石にそろそろ帰らなくてはまずいのでこれから帰るところ。
今日は様々なことがなかったとはいえ、重要な事があった日ではあった。
ジュンを媒介、及びマスターとした二人のドールとの接触、そして情報はあれど未だに出てこない隠れたドール…そして、未だに姉妹たちでも正体のわからない第7ドール…
まだ時間はかかりそうだ。ただ…真紅のあの言葉は、俺に深く刺さった。
『……私は、アリスゲームを制する事は放棄しない。あくまで、私の方法で制するのが私の目的。』
……この言葉が何度も、俺の頭の中で再生される。…やはり、俺も思うところがあるようだ。
「…マスター?行かないのかい?」
「ぼさっとしてると置いてくですよ!」
「ああはいはい、そんじゃあまたな?」
「ああ…」
「今度は遊びに来るといいの!雛たちは歓迎してるの!」
「今回は巻き込むような形だったから、今度は普通にくるといいのだわ」
「何勝手に決めてるんだよ真紅!ここは僕の家だぞ!」
2人はぎゃんぎゃん騒いでいる。雛苺は真紅側について言い合っている…こういうのがいつまでも、なんて言うのが俺の理想だったり…なんてな。自然と頬が緩んでしまう。
隣で見ている蒼星石も、俺の方に顔を向けて微笑んでいた。翠星石もうるさいと言っているが、その表情はどこか優しかった。
願い。その感情を持つ事は、きっと悪いことではない。だが…どうしても。どうしても俺は何かが引っかかって…心苦しいと言うのだろうか?どうしても、何かが晴れない。
「…マスター?本当に大丈夫なのかい?」
「……大丈夫。」
また心配をかけてしまった。
本人はなんて思っているか…随分と心配をかけさせてしまうだなんて、情けない。それに、嘘をついてしまっている…そこの部分を含めて…申し訳ないと思う。
「ほら、行くぞ。」
綺麗に染まった夕空の道へと足を踏み出した。
「……リント、何か隠してたですね」
「……」
コイツという奴は…隠してるってことをわざと言いやがった。俺が隠し事をするって事は、理由があってのことだとは思ってくれないのだろうか…?そう思ってしまった。
隠してる相手が目の前にいるところで…いや。でもこの疑問をぶつけるには、丁度いいタイミングを作ってくれたのかもしれない。
「………俺は………」
「……」
「俺は、自らの願いでお前達を縛り付けていないか…そう思ったんだ。」
あの言葉で、ようやく気付けた。
本来であれば、彼女達が選ぶ選択肢の一つにしかならない…いや、なってはいけないこの願いが、彼女達を縛り付けているのではないか…そう思っていたんだ。
彼女達は、選ぶ側。俺は、その選択肢を増やすことしか…だが、それが枷になっている…そう考えてしまった。
俺の考える事は、俺自身では間違っていないと思っている。だが…それを強制させてしまっているのではないか。俺の無意識のうちに…。だから俺はこう聞いた。
「…何を言っているんだい」
「何言ってるですぅ?」
「だから…!」
双子からのダブルパンチだ。
流石にこれは堪えるものが有るな…
でも、俺はふざけたことを言っているだろうか?
「…さっきも言ったよね。僕自身が、マスターの考えに賛同しているって。だから、僕は大丈夫。」
「…お前の考えは、全く持って私と同じです。だから私もこうして協力してやるって言ったですぅ。」
……そうじゃ、無いんだ…
俺は……
「俺のこの答えで、本当のお前達の願いを、潰しているんじゃないかって…そう思った…」
顔を伏せて。
暗い声でそれを呟いた。
時に人が正しいと言う言葉は、無意識のうちに他人が持つ願いをかき消す。俺自身は、自分勝手な答えだと思っている。でも、そうしなければ…そう思った。彼女達はそれを正しいと言った。今の俺は、誰も勝たせない、誰も負けさせない。それが俺の願いだ…
でも、ドールたちからしてみたらどうだ?
アリスになること…それだけが願いのようなものだ。俺の願いとは背反する。誰も殺させない…つまり、誰もアリスにはなることができない。
それを、彼女達から見て枷という他ないんじゃないのか?
「……ばっかですねぇ、お前は」
「…うん、僕も…そう思ったよ、翠星石。」
「…馬鹿……?」
馬鹿と言われた。
…あの時と同じ感情がこみ上げてくるが、必死に耐える。何なんだ、俺の心を、蔑ろにして…
「私は、私の意思で動くんです!それこそ、お前ごときに私の思想の邪魔をされたらたまったもんじゃねぇーです!これが私の中で一番の方法だと思ったから、お前について行くことにしてるんですぅ!」
「……僕は君に嘘はつかない。…あの時言ったよね、対等だって。だから、僕は僕の考えを君に話す事だって出来るんだ。主従という上下でなく、契約者という平行な立場なんだから。だからこれは、僕の紛れもない本心なんだ」
……帰ってきたのは、真っ直ぐな本心。
彼女達も…確かな『心』を持っている。
俺は…いつも強気でも、本当は臆病だったんだ。自分の事を言うだけ強く言っておいて、後から他人の顔色を伺うなんて…馬鹿らしい。双子の言ったとおりじゃないか。
「……本心、か。……人形たちの方が、余程しっかりしてんじゃないか…馬鹿らしい。俺としたことが…本当、馬鹿らしいな」
「…でも、その理想を生み出したのは君自身…だから、僕達が気付けたのは君のお陰だよ…」
「だから、こうして協力してやれる事になったじゃないですか」
…慰めのつもりなんだろうな。
本当、粋な真似をしてくれるよ。
……やるんだ。ここまでの後押しがあったなら、もう止まる事は許されない。
「蒼星石。翠星石。……俺の幻想…俺達の理想のために、その力を貸してくれるな?」
「勿論。僕の力は、マスターの為に。」
「仕方が無いですねぇ……まだ契約はしてないですけど、やってやろーじゃないですか!」
「………ありがとう。」
情けないマスターだが……
よろしく頼む、蒼星石、翠星石……
この心の答えを、改めて現にする為に。
遠い道のりをまた往こうじゃないか。
今回は短くなってしまいました。
そして、遅れながら評価がつきました!
★1と★9と両極端ですが、まだ自分の文は抜けているところが非常に多いと思っています。この評価を参考にしてこれからも頑張ろうと思います!
『私達は、私達の意思で動くんです』